僕はとても緊張していた。今まで誰かの家に行く機会もあまり無かった上に、ここは彼女が日常を過ごしている部屋なのだと思うと、何をどうしていいのかわからない。きょろきょろ見回すのも失礼だし、ごそごそ動いて壊したり汚したりしたらもっと失礼だ。勧められた場所に言われるがままに座っていると、彼女はくすくす笑った。
「もっとリラックスしていいのに」
返事をしようとして、上手く言葉が出ずに変な声が出る。それが恥ずかしくて俯くと、彼女はまた笑った。
「ほら、鞄と上着を貸して。正座じゃなくて足を延ばして良いんだよ」
彼女は僕の荷物を部屋の隅に置くと、馴れた手つきでお茶を出してくれた。机の上に二つのコップと、茶色いお茶に満たされた大きなボトルが並ぶ。
「これでも飲んで落ち着いて」
「い、いただきます」
震える手でコップを持って口に付ける。冷たいお茶が吸い込まれるように、するすると喉を通っていった。一気に飲み干して、はあと息をつく。思っていた以上に喉がカラカラだったことに初めて気付いた。
「喉乾いてた? もう一杯どうぞ」
こぽこぽと心地良い音がして、コップが茶色に染まっていく。勧められるがままにそれを飲み干し、コップを机に置いた。喉が満たされると、緊張も幾何か緩んだ気がした。
「ありがとうございます」
お礼の言葉は詰まることなく言えた。いえいえ、と彼女は返事をしながら空のコップに麦茶を注ぐ。
「じゃあ、言ってたDVD見ようか。面白いんだよ」
彼女は四つん這いになってテレビに近づくと、その下の何かを触っている。その様子を目で追うと、スカートの下でふっくらとした丸みを伸びたお尻が目に入る。彼女の小さな動きに合わせてスカートが揺れ、その下のお尻もわずかに動く。見てはいけないものを見てしまった気がして、慌てて目を逸らした。折角緩んだ緊張が再び固く締めあげられたように感じた。
僕の動揺に気付いた様子もなく、彼女はリモコンを持って僕の隣に座りなおした。少しの間の後、映画の再生が始まる。彼女が自分のコップに口を付けた。僕も釣られてコップを口に運ぶ。一口のはずが一気に飲み干してしまう。空になったコップを静かに置くと、彼女は手馴れた手つきで麦茶を注いだ。
今、見ているのは現在絶賛上映中の映画の前作にあたるらしい。僕が前作を見たことがないと言うと彼女は心底驚いていた。彼女は大ファンで、むしろ最新作を一緒に見に行こうと僕を誘うつもりだったそうだ。
せっかくだし、前作を私の家で一緒に見ようと彼女からお誘いを頂いたときは、映画以上に彼女の家に行くことに緊張していた。けれど、映画は確かに冒頭から面白く、どんどんストーリーに引き込まれていった。はらはらする展開に息を飲み、登場人物と共に安堵の息を吐く。笑いのシーンでは彼女と一緒に声をあげて笑った。彼女がはまるのもわかるなと心の底から思った。
すっかり映画に夢中になっている内に緊張も解ける。正していた足を崩し、お茶を飲みながらのんびりと映画を鑑賞していると、突然下腹部のむず痒さを感じた。
馴染みのある感覚を意識しないように映画に集中しようとしたが、それは時間が経つにつれどんどんと強まっていく。無視しようとしてもそれは頭の中にどんと居座り、目の前で流れている映像から意識を逸らさせる。
折角力が抜けていた体に再び力が入り始める。自分の内側で高まっていく衝動に、不安と焦りを感じずにはいられなかった。
トイレに行きたい。じっとしていられない視線をテレビの下のデッキに移すと、まだ映画を見始めて1時間程だった。たった1時間でトイレに立つなんて流石に恥ずかしい。気付かれないように隣の彼女を見ると、彼女はまっすぐに画面を見つめ、時折手に持ったコップに口を付けていた。並べて置かれた僕のコップは半分程お茶が残っている。
たっぷりとお茶が入っていたボトルはいつの間にか残り僅かになっていた。どう見ても2リットルは入るボトルを、僕はたった1時間で空にしてしまったということだ。彼女と半分ずつだったとしても1リットルだが、おそらく僕の方がたくさん飲んでいることだろう。映画を見ながら、集中するあまりやたら水分を取っていたことは覚えていた。手持無沙汰な指先がコップを手に取り、ついつい口にコップを運ぶ。そしてコップが空になると、彼女は直ぐに次を注いでいた。
1リットル以上、下手したら2リットル近く飲んだと理解した瞬間、全身にぞくっと悪寒が走る。それと同時に耐え難い尿意が僕を襲った。何とか映画に集中しようとするが、頭には何も入ってこない。
視線は自分の内側に向けられ、水分で膨らんだその部分をただじっと見つめている。目を逸らしたくても逸らせない。限界いっぱいまで膨れたそこは、もうこれ以上入らないと悲鳴を上げている。それでも、全身を巡った水分が行きつく先はそこしかなくて、張り裂けんばかりに膨らんでいるにも関わらず、どんどんと水分が注ぎ込まれていく。
彼女に言ってトイレを借りよう。頭ではそう思うのに、言葉は喉元で引っかかる。その言葉は救いをもたらしてくれるのに、余計な考えが妨げる。
トイレに行きたいと伝えれば、彼女はきっと思うだろう。ああ、この人はトイレが我慢できないんだ、と。映画を見始めて1時間しか経っていないのに、この人はもうトイレに行かないと漏れちゃいそうな程我慢しているんだな、と。映画が終わるまで我慢できないほど切羽詰まっているんだな、と。
どれも事実なのに、それを指摘される羞恥が頭を縛り上げる。お腹の中はいっぱいいっぱいで、トイレに行きたくて仕方ない。でも、言葉が出てこない。映画のことなんて頭の片隅にもなく、トイレに行くことしか考えられないのに、それでも言えない。トイレ、トイレ、トイレトイレトイレ。どれだけ繰り返しても、今ここにトイレが現れるわけではないのに。
突然、彼女が席を立った。その気配に弾かれたように顔を上げると、彼女は照れ臭そうに笑った。
「ごめんね、ちょっとトイレ」
返事は出来なかった。リビングを出ていく背中をただ眺めることしか出来なかった。
彼女が部屋を出て、扉を閉める。部屋に1人になった瞬間、手が勝手に動いていた。下腹部を圧迫していたベルトを緩め、少しでもゆとりを持たせる。固いジーンズの下で、自分のお腹がぽっこりと膨らんでいた。荒くなる息を抑えながら、お腹を撫でる。きゅうと切ない衝動がお腹を、お腹のもっと下を切なくつついている。
彼女が帰ってきたら言おう。僕もトイレ、と。そう言って平気な顔をしてトイレに立てばいい。彼女もトイレに立ったんだから、僕がトイレに立つのもおかしくはない。
ごちゃごちゃの頭の中に差し伸べられた救いの手に、思わず安堵の息が漏れた。戻ってくるまで我慢、我慢、我慢。お腹を摩っていると、自然と体が上下に揺れていた。トイレに行ける。そう思っただけで一気に尿意が増した気がした。もう少し、もう少しだけ。きゅううと切ない衝動が強くなる。押さえたくなる気持ちをぐっと飲み込んだ。
がちゃ、とリビングの扉が開く。彼女は心なしか晴れやかな表情でリビングに戻ってきた。言わないと、僕もトイレ、と。言おう、言ってトイレに行こう。
「お待たせしてごめんね。じゃあ、続き見ようか」
彼女が僕の隣に、さっきまで座っていた位置に座る。それから自分のコップに口を付けると、リモコンに手を伸ばした。
言わないと。ちゃんと言って、同じように席を立つんだ。口を開くが、言葉が出てこない。言いたい言葉が、言わないといけない言葉があるのに、それらは羞恥で溶かされ固まって喉に詰まる。
言え、言え、言え、言え! 口を開く。あっ、と声が出た。それと同時に、固まっていた映像が動き始める。僕の声は主人公のセリフにかき消された。僕もトイレに。心の中で強く叫ぶが、それは彼女には届かない。
「ちょうど折り返しくらいだね。後半も面白いんだよ」
彼女はそう言って笑い、自分のコップにお茶を注ぐ。そして、半分だけ入っていた僕のコップにも注いだ。僕のお腹に直接注がれているような気がした。
映画が再開される。止まっていた時間が流れ出す。どうしよう。羞恥と尿意で荒れ狂う頭で考えられたことはそれだけだった。
もうストーリーなんてわからない。画面の中で何をしているのかもわからない。視線はただデッキの数字に釘付けだった。
映画が終わったら言おう。それまで我慢しよう。後半と彼女は言った。あと1時間くらいだと勝手に決めつけ、数字が進むのを追いかける。後で思えば馬鹿みたいな判断をして、僕はただじっと時間が過ぎるのを待っていた。
ベルトを緩めたので幾分楽にはなったが、それでもトイレに行きたいことには変わりない。ぱんぱんに膨れたお腹は時折きゅうと収縮し、その度にお腹の下の方が切ない衝動に襲われる。そこに手を伸ばしたい気持ちをぐっと押さえ、両手を強く握りしめて耐える。
+++
今日の待ち合わせのことがふと蘇る。
待ち合わせ場所は彼女の最寄り駅だった。緊張のあまり1時間も前に駅に到着した僕は、予定通り改札を出たところで時間を潰していた。と言っても手に持ったスマホはブラウザを開いたり閉じたりを繰り返しているだけで、どのページを見ても文字が全く頭に入ってこなかった。
そうこうしていると、突然尿意を催した。まだ彼女が来るまでには時間があった。念のためにトイレに行っておこうと案内図やら看板を見ると、トイレは改札の中にあるようだった。トイレだけのためにもう一度改札を通ることに抵抗があり、しばらくはその場で悩んだが、すぐに我慢できないほどの尿意になってしまった。待ち合わせ時間のことと激しい尿意とに急かされ、僕は再び改札を通らざるを得なかった。
案内図に従って、早歩きでトイレへ向かう。視線の先にトイレの入り口が見えた時、更に強烈な尿意が僕を襲った。咄嗟に足を止めてやり過ごす。家を出る前にちゃんと済ませてきたのにこんなに行きたくなるなんて。
波がほんの少し揺るんだ瞬間、僕は駆け足でトイレに飛び込んだ。
幸いなことにトイレには誰もいなかった。辿り着いた安心感からか、一気に体の力が抜けると、尿意は今まで以上に大きく激しくなる。だめ、だめ、だめ、だめ、とうわ言のように繰り返し、ズボンの前を寛げながら、みっともない格好で小便器に駆け寄った。
前に立つと同時に性器を引っ張り出す。ほんの一瞬だけ間をおいて、じょろろろ、と勢いよくおしっこが噴き出した。
間に合ったことに安堵の息を零し、気持ちよさに酔いしれる。危なかった。これから彼女の家に行くのに、ちびって下着を濡らしただなんて洒落にならない。
じょろじょろじょろ、とおしっこは呆れるほど長く続いた。一人だけの男子トイレに僕のおしっこの音だけが響き渡る。勢いに伴って音も大きくて、どれだけ我慢していたんだと少し恥ずかしくなった。ちゃんと済ませてきたし、そのあとはあまり水分を取らないようにしていたのに。
たっぷりしっかり用を足して、手を洗ってから急ぎ足で改札へ戻る。彼女が来ていないことに安心していると、遠くから彼女が手を振って歩み寄ってくるのが見えた。まさにぎりぎりセーフ、なんてよくわからないことを考えたような気がした。
+++
家を出る前にも、彼女と会う前にもちゃんとトイレを済ませたのに、どうして今こんなにトイレに行きたいんだろう。緊張のせいか、それとも飲みすぎたせいか。
トイレ、トイレトイレトイレ、なんでもいいからトイレ。隣に大好きな彼女がいるのに、目の前で彼女おすすめの映画が流れているのに、トイレのことしか考えられない自分が情けない。でも他のことは欠片も考えられなくて、ただ時間が過ぎるのを待つだけだ。映画が終わったらトイレに行ける。ただそれを信じるだけ。
数字はなかなか進まない。じっとしていられず、少し腰を上げて座り方を変える。じっと座っているとそれだけで辛かった。立ち上がって、トイレに駆け込みたい。待ち合わせ前に駅のトイレに駆け込んだ時の感覚が恋しい。
ふっくらとはち切れんばかりにお腹が膨らんでいる。膀胱という名の水風船はもういっぱいいっぱいに水分が貯めこまれている。水風船なら、ほんのわずかに押しただけで穴が開いていただろう。けれど膀胱は穴が開かない。その代わりにもともと穴が開いていて、出口が作られている。出口を知っている体は、そこに向けて水分を押し出そうとする。まだ駄目だとどれだけ制止を掛けても、言うことを聞いてくれない。
トイレ、トイレ、トイレ、トイレ。それしか考えられない。は、は、と短い呼吸を繰り返す。苦しくなってひゅっと浅く息を吸うと、空気の分が押しだされたように、じゅ、と出口が熱くなった。意識するより先に手が動き、ジーンズの前をぎゅっと握っていた。すぐに手を離すが、衝動は収まらない。少しだけ押さえて、すぐに離す。隣に彼女がいるから、押さえるわけにはいかない。でも、押さえていないと溢れてしまいそう。
下着がじんわりと熱く濡れて、すぐにひんやりと冷たくなる。数字はまだ進んでいない。だめ、トイレ、ああ、もうだめ、トイレ、トイレ、トイレ、おしっこっ……! また下着が熱く濡れる。力を入れているのに。手が勝手に動いて、押さえる。おしっこ、だめ、おしっこ、おしっこ、おしっこ。ぎゅ、ぎゅと押さえるけれど、尿意はちっともおさまらない。お腹の下が、足の付け根が、おしっこの出口がじんじんと切なく震える。
ああ、おしっこ、おしっこ、おしっこ、おしっこ……!
数字を見て、画面を見て、彼女の横顔を見る。お願い、トイレ、おしっこ、おしっこ、おしっこっ! 言葉が一気にこみ上げ、喉元で渋滞して、結局何も言えない。何を言えばいいのかわからない。
視線に気づいたのか、彼女がこちらを見た。だめ、手を離さないと。ジーンズの中央からぱっと手を離す。
「どうしたの?」
ごめん、僕もトイレ。そう言って、ちゃんと言って席を立たないと。
手が震える。じゅ、とまた熱い雫が零れる。下着が、出口が熱くなる。だめ。制止も聞かず、手が勝手にそこを押さえる。は、は、と短く息を吐く。体の中はおしっこでいっぱいで、上手く息が吸えない。
彼女が距離を詰める。こんな格好、駄目だとわかっているけれど、押さえないともう一気に溢れてしまいそうで、手が離せない。
「ふふ、トイレ?」
ひゅっと息を飲んだ。恥ずかしさで頭が真っ白になる。
「ち、違っ……!」
恥ずかしさのあまり、否定が口をつく。本当に違うのだと証明するために、咄嗟に手を離して、平静を保とうとした。けれどもうじっとしてなんていられなくて、体が勝手に動く。膝が、手が、出口が震えている。
「違うの?」
まっすぐに見つめる瞳。言いたいことも言わないといけないこともたくさんあるのに、何も言葉が出てこない。膀胱が震える。出口が震える。おしっこが激しく波打って、出口へ一気に押し寄せる。だめ、あ、あ、あ、だめ、だめ、だめっ! じゅわ、と熱いおしっこが溢れる。
「あ、あぁっ……!」
言葉が出ると同時に、もう押さえずにはいられなかった。彼女のまっすぐな視線の前で、おしっこの出口を押さえて、がたがたと体を揺すっている。
「トイレじゃないのにそんなところ押さえちゃうんだね」
「ちが、あの、あ、あ、僕、僕っ……!」
「でも違うのなら良かった」
彼女はそういうと、ゆっくりと立ち上がった。
「私、トイレに行きたいから、ちょっと行ってくるね」
「えっ、え、あ……! あ、あっ、まって、まってっ……!」
縺れる足で立ち上がって、慌てて彼女の背中を追う。ぱつぱつに張ったお腹のせいでまっすぐ立てず、お腹を抱えて、出口をぎゅっと握って、ふらふらと彼女を追いかける。
「まってっ、僕も、僕もトイレっ……!」
「あれ、そうなの? さっき違うって言ってたのに」
「トイレっ、おねがいっ、ぼくもトイレっ、おしっこ、おしっこでちゃうっ……!」
一度解けると、言葉はいくらでも飛び出した。トイレ、おしっこ。頭の中の言葉がそのまま口から溢れ出す。
じっと立っていられない。足は勝手に足踏みを繰り返し、手は勝手に出口をぎゅうぎゅうと握る。膨れたお腹は伸ばすことが出来なくて、庇うように背中を丸めてお尻を突き出す。みっともない格好だとか、彼女の前でとか、そんなことはもう考えられなかった。そうしていないと、溜まりに溜まったおしっこは一気に溢れ出してしまいそうだった。
「ふふ、やっぱりそうだったんだ」
彼女はそういうと、扉を開ける。待ち望んだものが目に入る。じゅ、と再びおしっこが溢れた。もうちょっと、もうちょっとでおしっこできる。でも、それは足を踏み出そうとすると、扉の向こうに隠れてしまう。
「じゃあ、ちゃんと順番に、ね?」
「え、あ、あ、あの、あっ……!」
彼女は僕を置いて、先にトイレに行ってしまう。
「私が先に言ったんだから先でしょう?」
「え、あ、あっ、まって、まってっ……!」
「ちゃんと我慢するんだよ?」
彼女は待ってくれず、無情にも扉を閉めてしまう。衣擦れの音、それから少しして、ちょろちょろという水音が聞こえた。
おしっこしてる、おしっこ、僕もおしっこしたい、はやく、はやくっ。
彼女のおしっこが呼び水のように、僕のおしっこを誘い出す。じゅわ、とまた熱いおしっこが零れる。押さえるが止まらない。じゅわ、じゅわと雫は断続的に零れる。押さえる手が熱く湿ってくる。
耐えきれず、ベルトを外し、ジーンズの前を寛げて、手を突っ込んだ。柔らかい下着の上から直接握って、揉んだ。ぐっしょりと濡れた下着は冷たく、さらにおしっこを煽る。
おしっこの音が止まる。がらがらとトイレットペーパーの音。おしっこ、おしっこ、おしっこ、おしっこでちゃう、もうだめ、でる、でちゃう。
じゅわ、じゅわとおしっこが溢れる。だめ、だめ、まだだめ、だめなのに。押さえているのに止まらない。ぎゅ、ぎゅと押さえるたびにおしっこが溢れる。じゅ、じゅわ、じゅ、と間隔が狭くなっていく。
おねがい、はやく、もうだめ、おしっこでる、もれる、おしっこでちゃう。
ざばー、っと水を流す音が聞こえた。じゅううっと一気におしっこが噴き出して、止めようとするが一瞬しか止まらない。じゅ、じゅう、じゅーっとおしっこが少しずつ噴き出す。
おしっこ、おしっこおしっこおしっこ。足踏みする足に熱いおしっこが伝っている。
だめ、もうだめ、おしっこでる、おしっこ、おしっこ、もうだめ、もれちゃう、でちゃうっ……!
ゆっくりと扉が開いた。お待たせ、と彼女の声。やっと、おしっこ、おしっこできる。おしっこ、おしっこでちゃう、はやく、もうだめ、おしっこ。
震える足を踏み出すと、びちゃと水音がした。おしっこ、もうちょっと、ああ、もうだめ、でる、あとちょっと、おしっこ、でる。うまく息が吸えず、はっはっと短く荒い呼吸を繰り返す。
片手で性器の先を握ったまま、反対の手でびちゃびちゃの下着をずりおろす。性器の先からはじゅう、じゅうう、とおしっこが噴き出して、押さえている手を濡らす。立てているのが不思議なほど足が震えている。
同じくらいがくがくと震える手で、性器の先を便器へ向けた。びちゃびちゃ、と水面を数度水滴が叩く。
そして。
溜まりに溜まったおしっこは堰を切って噴き出した。
水道を一気に捻ったときのようにじゅーっと太い音がする。飛び出したおしっこの太い水流は、じょぼぼぼ、と激しい音を立てて水面を叩く。
「あっ、は、ああぁっ……」
つっかえが取れたように、肺の底から息を吐き出した。大きく呼吸を繰り返されて、全身から力が抜けていく。崩れ落ちそうな快感に、両足が見てわかるほど震えていた。
ああ、あ、おしっこ、おしっこ出てる。いっぱい出てる。駅でトイレに駆け込んだ時の比じゃないくらいの勢いと量だった。
すごい、おしっこ、気持ちいい。快感で真っ白になる頭ではそれしか考えられなかった。
我慢に我慢を重ねたおしっこは止まらない。2リットル近く飲んだお茶がすべておしっことなって膀胱に詰め込まれていたのかもしれない。それなら2リットル出るのだろうか。
じょろろろ、と気持ちよくおしっこが出続けていると、背中から声が掛けられた。
「凄い量。どれだけ我慢していたの?」
おしっこをしながら肩越しに振り向くと、彼女が呆れた顔で立っていた。扉を閉める余裕もなかったので、背後に立つ彼女からは全てが丸見えだった。冷静な頭が羞恥を感じ始めるが、我慢に我慢を重ねたおしっこはなかなか止まらない。
「あ、あの、ごめんなさい、僕……」
「ふふ、見ててあげるから全部出しなさい?」
「あ、あんまり見ないでほしい、んですけど……」
恥ずかしさで居たたまれなくなる。身を隠したくなったが、おしっこが止まらないとここから動けない。
結局、彼女に後ろから見られたまま、最後の一滴までを出し終えることになった。空っぽになったお腹に、自然と安堵の息が漏れた。洋式便器の中は薄黄色のおしっこがたっぷり注ぎ込まれている。
おしっこを流し、身支度を整えようとしたが、どうすることも出来ずに僕は固まった。
下着は漏らしたのと大差がないほどにぐっしょりと濡れている。仕方なく濡れた下着を吐きなおしたものの、ジーンズも下着ほどではないが中央はぐっしょりと濡れていて、幾筋もの細い筋が足を伝っていた。もちろん靴下もぐっしょりと濡れ、それどころか足元には小さな水たまりすら出来ている。
「こっち見てごらん?」
呼ばれるがまま、今度は体ごと振り向く。彼女が指さすところ、トイレのちょうど前にはしっかりと水たまりが広がっていた。すっきりした体がぼっと熱くなるのを感じた。
「おもらししちゃったね」
「ご、ごめんなさい……」
いっそ溶けて、このように水たまりになりたいと思った。恥ずかしくて情けなくて死にたくなった。
「映画見ながらずっと我慢するからだよ?」
「き、づいてたんですか……!」
「あれだけもじもじしてたら気付きます。いつ言うのかなと思ってたら言わないから、つい意地悪しちゃった」
「う……、ごめんなさい、すぐ綺麗にします……」
「謝るところが違うでしょう」
彼女は自分が汚れるにも関わらず、僕の目の前まで近寄る。情けなさで顔を見ることが出来ずに項垂れていると、頭を撫でられた。
「トイレに行きたいときはちゃんと言うこと。言わないで我慢しておもらしした方が恥ずかしいでしょ?」
「はい、ごめんなさい……」
「ふふ、わかったならいいよ。綺麗にして、お風呂に入ろう」
ちょっと待っててね、と彼女は雑巾やらバケツを取りに行った。
+++
彼女から借りたジャージに着替えてから床を拭いていると、再び尿意を催した。せめて掃除を終えてからと思ったけれど、先ほど限界まで我慢したせいか、尿意はどんどん強くなっていく。
「その、トイレ、お借りしても良いですか」
羞恥に襲われながら、今度はちゃんと申告する。
「ちゃんと言えたね。よくできました」
「僕、子供じゃないんですけど……」
「さっき言えずにおもらししたでしょ」
それを言われると何も言えなくなる。
彼女は楽し気な笑みを浮かべていたが、あ、と何かに気付いたように声を上げた。
「トイレ、まだびちゃびちゃなの。先に掃除すればよかったね、ごめん」
「あ、じゃあ終わるまで、」
「そうだ。良いこと思いついた。ちょっと待ってね」
終わるまで我慢します、と言いかけたところで、彼女はどこかに行ってしまう。正直、割としたかったけれど、掃除を終えるくらいまでは我慢できると思えた。
彼女はすぐに戻ってきた。何を思いついたのかは、持っているものを見てすぐに分かった。
「はい、ここにしよう」
にこにこ笑いながら洗面器を持つ彼女に、呆れと居た堪れなさを感じた。
「掃除が終わるまで我慢します」
先ほど言いかけた言葉を今度はきちんと伝えると、彼女は口を尖らせる。
「そう言ってまたおもらししちゃったら大変でしょう」
「そう、ですけど……」
したいのはしたい。割としたい方ではある。けれど、また彼女の前で、しかも洗面器にするのには抵抗があった。というか抵抗しかなかった。いくら先ほど見られたからと言って、はいそうですねと見せる度胸は僕にはない。
「ほら、持っててあげるからしてご覧?」
「持たなくて良いですっ! その、せめて風呂場とかで1人でさせてくださいっ!」
「さっき私の前でおもらししたんだから、今さら一緒でしょ?」
「何度も何度もおもらしって言わないでください……!」
情けなさと恥ずかしさで泣きたくなってきた。その上、尿意はどんどん強くなってくる。このままだと彼女の言う通り、本当にまたおもらししてしまうんじゃないかとまで思い始めていた。
「わ、わかりましたっ! するから、しますからっ……!」
もうこうなればやけくそだ。膝立ちのまま、借りたジャージの前を下げて、性器を取り出す(流石に下着はなかったのでノーパンだった)。
彼女の持つ洗面器に先を向けようとすると、彼女は洗面器を僕の足元に置いた。そして、何を思ったか、その小さな手で僕の性器をそっと掴む。
「な、な、なにして……!」
「持っててあげるって言ったじゃない」
「も、持つって、そっち……!?」
「ふふ、ほら力抜いて? しー、しー」
恥ずかしくて情けなくて居た堪れない。あとおしっこしたい。
もう自分が何をしていてどうしたいのか何もわからない。彼女の声に誘われるまま力を抜くと、声に合わせてしょろしょろとおしっこが出た。勢いこそないものの、それでもじょろろろ、と小気味良い音がしている。
「ちゃんと出てるね、えらいえらい」
「だから、僕、子供じゃないです……!」
早く終わってほしいのに、おしっこはじょろじょろとなかなか終わらない。さっきあれだけ出したのに。今日の僕の体は変だ。普段はこんなにおしっこしないのに。
彼女の丸い瞳は楽し気に僕のそこを見ていた。痛いほど感じる視線に必死に気付かないふりをするが、感じずにはいられない。
「その、あんまり見ないでください……」
「駄目?」
「だめですっ。恥ずかしいし、その、あんまり見られると、おしっこ出しづらくなりますからっ……」
必死におしっこに集中する。彼女の手や視線を意識すると、それだけで変な気持ちになりそうだった。
お腹に力を入れてなんとか最後まで出し切る。すっきりすると同時に、途轍もない脱力感を覚えた。苦行を終えたような気分だった。
「ふふ、いっぱい出たね」
彼女の手が、僕の性器を包み込んだ。その感触に思わず固まる。
柔らかい手の感覚から目を逸らそうとしたが、一気に血液が集まっていく。駄目だと思っても体は正直で、ゆるりとそこが芯を持ち始めるのを感じた。
我に返り、慌てて背を向けて服装を正す。
「大丈夫?」
「そのうち治まるのでほっといてください……」
今日はどうしてこんなにも辱めを受けているんだろう。一緒に映画を見られること、楽しみにしていたのに。
泣き出したくなりそうな羞恥に、首を垂れる。
「ふふ、治めてあげようか?」
「え……、えっ?」
「トイレのお掃除が終わってから、ね」
振り向くと既に彼女は立ち上がっていた。ちゃぷちゃぷと僕のおしっこが揺れる洗面器を持つと、お風呂場の方へ消えてしまった。
取り残された僕は、窮屈なズボンの前が更に窮屈になるのに耐えることしか出来なかった。
+++
「そうだ、今度は映画館に行こう? 新作を一緒に見たいな」
「良いですよ」
「じゃあ、その時は君はおむつしていかないとね」
「な、な、なんでですか!」
「だって3時間くらいあるんだよ? 我慢できる?」
「あんまり水分を取らなければ、たぶん……」
「それに上映後のトイレって混むから、終わってもすぐにトイレに行けないよ?」
「それは、近くの喫茶店、とか……」
「喫茶店も割とみんな行くから、混むと思うな」
「じゃあ、途中でトイレに立つ、とか、」
「また、タイミングが無くて言えなくて、のパターンにならない?」
「う……」
「ふふ、ちゃんとおむつしてあげるから、一緒に行こうね」
「ほんとに意地悪だ……。僕、年下ですけど、子供じゃないんですよ……!」
「ちゃんとわかってるよ。子供じゃこんなことにはならないでしょ?」
「ちょっ、あの、どこ触ってるんですか……!」
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初出: 2017年8月7日(pixiv) 掲載:2019年3月12日