ある女性が行列に並んだ時の結末

 いつ誰か見ているかわからない。どんな時も綺麗に格好良く見えるように、立ち振る舞いには気を付ける。
 胸を張って背筋を伸ばす。視線は下げない。片足に体重をかけるなんて絶対に駄目、両足でしっかりと立つ。いつもの心掛けを頭の中で何度も何度も繰り返す。
 遠くへ向けた視線の先では多くの人がずらりと列になって並んでいた。

 自分も列の一部となりながら、溜め息が漏れる。これが何度目の溜め息なのか、数えるのも嫌になっていた。
 最後尾に加わってから結構な時間が経って、私の後ろには既に何人もが並んで、更に列を伸ばしていた。
 後どれだけ待たないといけないのだろう。考えるだけで気が遠くなるけれど、こうして並ぶ以外出来ることはない。

 お気に入りの青いスカート。それから新しく買ったブラウス。スカートもブラウスの袖も短めで肌の露出が多いせいか、春の気候でも少し寒く感じた。カーディガンを羽織ってきた方が良かったかもしれない。
 足元は久しぶりに履いた茶色いパンプス。折角だからと高めのヒールを選んだけれど、既に足が少し痛くなり始めていた。もう少し動きやすいものにした方が良かったかもしれない。
 手持無沙汰だからか、気にしてもどうしようもない事ばかり気になってしまう。肌寒さを誤魔化すために、何にも覆われない自分の腕をそっと撫でた。

 大行列は公園の隅に向かって伸びている。正確に言うと、そこにある小さな建物が列の先頭だった。

 +++

 本日は土曜日。春の陽気さに誘われた桜は満開で、まさにお花見日和だった。そんな陽気に誘われるように友人達と花見に来たのは良いけれど、同じことを考える人は多かったようで、公園には同じような花見客が大集合していた。
 公園はそれなりに広いけれど、流石に人が集まり過ぎてごった返していた。レジャーシートは隙間なく広げられていて、あちらこちらには屋台も出ている。普段の閑散とした様子が信じられない程に、賑やかな空気に満たされていた。

 レジャーシートの上に座って、会話を楽しみながら、飲んでは食べてを繰り返すのは皆同じ。そして生理現象から逃れることが出来ないのも同じ。
 満たされた食欲は時間と共に違う欲求へと変わっていく。楽しい会話の合間に喉を潤したのがアルコールだったのが余計に良くなかったのかもしれない。

 下腹部に重く溜まったものを感じたのは一時間くらい前。でも、楽しい空気を崩すのを避けたくて、意識しないようにしていた。
 意識せずにはいられなくなったのは三十分程前。お酒のせいか、一度広がり始めた欲求は想像以上の速度で増していく。それでも、盛り上がっている会話を遮りたくなかった。
 でも、大きく膨らんだ尿意を我慢するのに必死で、途中から会話の内容なんてほとんど頭に入っていなかった。いつ席を立とうかタイミングを窺いながら、適当な相槌を打つのが精一杯になっていた。

 もうじっとしていられないと席を立ったのは十五分程前。もうじっとしていることも辛くて、会話が途切れた瞬間、鞄を掴んで靴を履いて、そのまま振り向くこともなく一直線にその場を後にした。
 地面に座りっぱなしで強張った足を必死に動かす。混雑した人の間を抜けて、公園の隅に向かう。場所を知っていて良かったと心の底から思った。
 そうして辿り着いた場所には、記憶の通りに小さな灰色の建物があった。それに安心したのと、目を疑いたくなったのは同時。トイレの入り口からはずらりと列が伸びていて、思わず固まった。

 すぐにトイレに行けると思っていた。まさかそこまで混雑しているとは思わなかった。ぞわりと嫌な悪寒が広がって、肌が粟立つ。
 そこで立ち止まっていてもどうしようもない事はすぐにわかった。仕方なく、後ろ髪をひかれる思いで人の列を辿っていく。目的であるトイレからどんどん離れていくのがもどかしかった。
 そうやって、やっと最後尾に辿り着いた時には、求めている場所は遙か遠くになっていた。

 +++

 列は進んではいた。でもそれはとてもゆっくりで、じれったくて気持ちが苛立っていく。列の最後尾を求めた時の歩みの何分の一かの速度で、ゆっくりゆっくりと進んでいく。
 先頭へ近づいている気が全くしない。はあ、とまた溜め息が漏れる。視線が下へ落ちていた事に気付いて、意識して顔を上げる。そうするとまた少し前へと進んで、また立ち止まる。それの繰り返し。

(ああもう、どれだけ掛かるのよ。はやくしてよっ)
 気持ちが苛立つ。焦りが体の中で暴れまわる。イライラしても進む速度は変わらないとわかっているのに、気持ちが落ち着かない。
 ぞわりと内側で嫌な感覚が込み上げる。誤魔化すために、スカートの中で太腿を寄せた。我慢するしかない。気を紛らわそうと周りを見回すけれど、気分転換になる物は何もない。鞄からスマホを取り出したけれど、何をする気にもなれなくて、少し触って再び鞄に戻した。

 ゆっくり、ゆっくりと呼吸を繰り返して、落ち着く事を意識する。でも、体の内側で込み上げるものは落ち着かない。ぽこぽこと湧き上がって、腰の辺りに纏わりつく。
 列は進んでいるのだから、必ず辿り着く。わかってはいるけれど、いつになるか全然先が見えなくて気が遠くなる。時折、嫌な想像が頭の片隅に過るけれど、そんなことはありえないと首を振った。

(あー、もうやだ、はやく皆のところに戻りたいのに)
 進んで、止まって、進んで、止まって。並び始めた時よりは近付いたけれど、まだまだ目的の場所は遠い。
 ぞくぞくと悪寒が込み上げるのが止まらない。肌寒かったはずなのに、全身が熱くなっていた。額に汗が滲む。じっとりとインナーが肌に張り付く。はあ、と吐き出した息すらも熱かった。

 確実に近付いているはずなのに、遠ざかっているかのようにも感じてしまう。不安がどろりと頭の中を埋め尽くす。背中に嫌な汗が伝う。
 スカートの下で両足を擦り合わせる。その動きでスカートの生地が風もないのにゆらゆらと揺れる。ぐっと奥歯を噛みしめて、込み上げる衝動に抗う。全身に力が籠って、小さく震えていた。

(みんな待ってるんだから、少しは急ぎなさいよ!)
 行き場のない苛立ち。矛先は、まさに今個室で開放感に満たされているであろう誰かに向けるしかなかった。顔も知らないその誰かを睨むように、列の先頭らしき場所を見る。どれだけ睨んでも、進みはのんびりしたままだ。気持ちだけが焦れて前に進む。
 限界までの余裕も確実に減っていた。頭の片隅に浮かんでいた嫌な想像がどんどん膨らんで、頭の中を満たしていく。そんなことない、絶対あり得ない。子供じゃないんだ、トイレくらい我慢できる。怒りにも似た感情でそれを掻き消すけれど、千切れて散らばって、すぐに集まって元の大きさ以上に膨らんでしまう。

 ぞわりと体の内側が脈打つ。重い下腹部がきゅうと縮んで、全身に力が籠る。あ、あ、やだ、トイレっ……! 両足の付け根にじいんと嫌な感覚が響く。
 それは波のように押し寄せて、全てを押し流そうとしていた。ぎゅうと太腿を寄せて、必死にその感覚に抗う。

(あっ、あっ、だめ、おしっこしたいっ……!)
 息が上手く吸えない。伸ばしていた背筋が丸くなって、体が前屈みになっていた。両手が縋る物を求めて、鞄の紐を命綱のように強く握りしめる。
 パンプスの踵が地面を踏みしめて、音を立てる。ざわざわと賑やかな公園の中で、その音がやけに大きく聞こえた。

 そうやって必死に堪えて、耐えて、押さえ込んで。静かに波が引く感覚に、胸の底で溜まっていた息が安堵と共に漏れた。
 強張っていた体から少し力が抜ける。力が籠り過ぎて、開いた手の平に鞄の紐の後が残っていた。

 幾分余裕が戻ったとは言え、下腹部はずっしりと重いままで、ぞわぞわと嫌な感覚があることには変わりない。会話の合間に飲んだアルコールとお茶が全部お腹に溜まっている。スカートの内側でぽこりと膨らんだ下腹部が、じんじんと疼く。
 少し前に進んで、また立ち止まる。視線を上げた先では、灰色の建物が先程よりは近くに見えた。それでも、あと何度この亀の歩みを繰り返せば良いのか、数えるのも嫌になる程には離れていた。

 一度は取り戻した余裕は僅かなもので、無くなるのもあっという間だった。あれから数歩も進んでいないのに、どこからともなく波が押し寄せる。
(やだ、我慢、我慢しないとっ……)
 トイレはまだ先。そう思っても、ぞわぞわと衝動が押し寄せて、全身に悪寒が走る。
 我慢しないといけない。そんな思いは簡単に押し流されて、頭の中は一色に塗りつぶされる。トイレに行きたい、おしっこがしたい。そんな原始的な衝動。
 ぶるりと体が震えて、両足の付け根がじわりと震える。色々なものが押し流されて、ひゅ、と息を飲んだ。

(あ、あ、だめ、だめだめだめだめっ……!)
 ぞわぞわと肌の内側で嫌な感触が動き回る。片手は鞄の紐を、反対の手は自分の腕をぎゅうと掴む。柔らかな肌に指先が強く沈み込んで、小さく震えていた。固く強張った体の真ん中で、熱い雫がじわりと溢れ出す。
 駄目、我慢、我慢しないと。これ以上体を余計に刺激しないように、浅く呼吸を繰り返す。上手に息が吸えなくて、呼吸の回数が増えていく。

(やっ、ちょっと出ちゃったっ!? トイレ、トイレまだなの!? 何でこんなに進まないの!?)
 重くなったお腹のずっと下、両足の付け根、大きく膨らんだ膀胱の出口がじんじんと疼く。体がぶるりと震えて、お腹の中でたぷんと水の塊が揺れる。
 大きな水風船はこれ以上無い程に中身が詰め込まれていて、破裂寸前まで大きくなっている。内側からお腹をぽこりと持ち上げて、普段よりスカートの前が緩やかに膨らんでいた。

(トイレ、トイレトイレトイレ、はやくトイレっ……!)
 他のことが何も考えられない。ぴたりと寄せた両足を自然と擦り合わせる。薄い下着の内側で、固く締めた出口が疼いている。
 出したいと体が叫んでいる。限界だと体が悲鳴を上げている。手が震える。
「っ、あぁっ……!」
 苦しさから大きく息を吐くと、喉の奥から声が漏れ出た。それは喧噪に紛れてすぐに消えたけれど、体の内側で荒れ狂う衝動は膨らむばかり。

(っ、あ、あ、だめ、お、し、っこ……!)
 トイレ、おしっこ、それしか考えられない。頭から爪先まで悪寒が走り抜けて、全身が震える。両足が震える。じんじんと疼く出口がじわりと熱くなる。じっとりと下着が濡れているのがわかる。
 前の背中が少し動く。それを追いかけて足を動かす。一歩、二歩進んで、スカートの内側で両足を交差させた状態で立ち止まった。ぐいぐいと無理やり押さえつけて、塞いで、溢れ出しそうな中身を必死に押し留める。

(トイレ、トイレ、トイレっ)
 私の前にはまだたくさんの人が並んでいる。二十人までは意識して、それ以上は数えられなかった。ひとり三分としても、二十を掛けたら一時間。ぐちゃぐちゃの頭がそんな嫌な計算だけは素早く答えを出してしまう。
 背中に嫌な汗が伝う。交差させた両足を擦り合わせて、荒れ狂う尿意に必死に抗う。上手く息が出来ない。苦しさに、はあと息を吐く。額に汗が伝った。

 こんなに並んでるとかありえない。こんなの、もう。頭の中に嫌な想像が過る。
(違う、駄目、大丈夫だから。もう子供じゃない、ちゃんと我慢するっ……)
 折れそうな心を必死に奮い立たせる。大きく膨れたお腹が重い。抱えるように前屈みの体勢になっていた。
 もう背筋なんて伸ばせない。視線も上げられない。お尻を突き出して、地面を見つめて、必死に我慢を続ける。でも荒れ狂う衝動は全然落ち着かない。押し寄せた波は徐々に強くなっていき、全てを押し流そうとする。

 まだトイレは遠い。気が遠くなる。じわりと涙が滲む。こんなことならもっと早くトイレに向かえば良かった。もっと水分を控えればよかった。もっと温かい格好をしてこれば良かった。後悔が浮かんでは消えていく。
 ぞくりと悪寒が体の中に広がる。ひくひくと出口が疼く。
(ぁあ、あ、おしっこ、おしっこ、おしっこっ……! だ、め、でる、でちゃう、おしっこっ……!)
 息が止まる。体が震える。駄目、我慢、我慢する。そんな思いは空滑りして、ぶじゅ、と出口から熱いおしっこが溢れた。
 下着に熱いものが広がる。つう、と太腿に液体が伝うのを感じた。

(ぅ、あ、だめ、と、いれ、おしっこ、おしっこ、おしっこっ、あ、あぁぁっ……!)
 考えるより先に体が動いていた。震える手が鞄の紐から離れて、スカートの上からぎゅううっと出口を押さえた。二枚の薄い布地の向こう側で出口が震えている。今にも抉じ開けられそうな部分を、指で無理やり塞いだ。

 どんな時も綺麗に格好良く見えるように、立ち振る舞いには気を付ける。普段のそんな心掛けはもうどこにも無かった。
 前屈みになって、お尻を突き出して、大きく膨らんだお腹を抱えて。スカートの上からおしっこの出口をぎゅうぎゅう押さえて、子供みたいにおしっこを我慢する。
 みっともない、恥ずかしい。全身が熱くなる。でも、とにかく今はトイレに行きたくて、そこまでおしっこを我慢するにはそうするしか無かった。

(はやく進んでよ! トイレっ、我慢できなくなっちゃうからっ、はやく、はやくっ……!!)
 自分の呼吸の音がやけに大きく聞こえる。息を吸っても体の中に入っていかない。ぱんぱんのお腹が体の中に入ってくるものをすべて押し返しているかのよう。
 ごくりと唾液を飲み込んで、はあと息を吐いて。体の内側では大きな波が押し寄せて、渦巻いて、僅かに残った理性や余裕を奪い去ってしまおうとする。

(ぅ、あ、や、だっ、だめっ、トイレっ、おしっこ、おしっこっ……!!)
 前屈みになったまま、そろそろと顔を上げる。先頭はまだ先。僅かに進んでは立ち止まるこの動きをあと何度繰り返せば辿り着けるのか、もう計算することも出来ない。
 ぶじゅう、と指先を熱いおしっこが濡らす。もう下着はぐっしょりと濡れている。太腿に熱い液体が伝って、靴下へと落ちていく。

 頭の中はぐちゃぐちゃで、純粋な生理現象がどんどん大きく膨らんで、それ以外の物を全て押し出してしまう。出したい、おしっこしたい、はやくおしっこ、はやくぅっ……! 原始的な欲求で体が満たされていく。
 駄目だと、ちゃんとトイレまで我慢しないといけないとわかっているのに、それ以上に尿意が強くて、体が言うことを聞かない。
 ぞくぞくと刺すような悪寒が強まって、びくっと体が跳ねる。必死に塞いでいる出口の隙間から、じわり、じわり、と熱い雫が零れだすのが分かった。生温かく濡れた下着にまた熱さが広がる。指先が湿り気を感じる。

「ねえ、あの子……」「大丈夫かな」「かわいそう」
 ざわざわと周囲を取り巻く喧噪から、そんな声が聞こえる気がする。言葉の先が自分に向いていることは考えなくてもわかった。
(い、やだ、見ないでっ、大丈夫、我慢、我慢するの、我慢するんだから……!)

 スカートの上から押さえる手は離せない。ぎゅうぎゅうと、ぐりぐりと押さえつけて、衝動を誤魔化す。もうその部分は感覚が鈍くて、ちゃんと我慢出来ているのか自分でもよくわからない。
 指先が温かい気がする。足に何かが伝っている気がする。上手く息が出来なくて、頭がくらくらする。全身熱いのに、手足が冷たい。

(が、まんっ、我慢する、のっ、もうちょっと、もうちょっとだからっ……!)

 列の最後尾に着いた時、考えなかったわけではない。頭の中に常にあったけれど、見ないようにしていた光景が色付いていく。

(あっ、あ、あ、やだ、と、いれ、おしっこ、で、るっ、で、ちゃっ……、あ、あぁっ……!)

 じゅわあっと指先が熱く濡れる。強く塞いでいるのに、我慢しているのに、止まらない。これ以上水分を吸収できない下着が、更に熱く濡れていく。
 呼吸の度に、吸った息の分、おしっこが押し出されていく。ぶじゅ、じゅう、じゅ、じゅうう、おしっこが溢れる。我慢しているのに、まだ駄目なのに、後少しなのに。

「……ぁ、あ、あっ……!」
 吐き出す息と共に声が漏れた。ぶるりと体が震えた。お腹の中で、水風船が縮み始める。体の中に水音が響き渡る。

 一拍置いて、ばしゃばしゃと両足に温かい雫が降り注いだ。
 まるでそこだけ雨が降ったかのように、生温かい豪雨が手とスカートを濡らしていく。パンプスの中で靴下が濡れて重くなる。冷え切った足の爪先が、温かく濡れていく。

(や、だっ、いや、だめ、おしっこ、おしっこっ、お、しっ、こぉっ……!)
 足ががくがくと大きく震えていた。それでも、地面に根が生えたかのように動かなかった。動かせなかった。

 びちゃびちゃびちゃ! 水音が喧噪を割って響く。頭が真っ白に塗りつぶされて、自分の外側が遠ざかっていく。全身が生温い膜に覆われたように、色々な感覚が鈍くなっていく。
 ただ、体を満たしていく爽快感と快感だけがあった。何が何なのか、全てがわからない。でも、ただ気持ちよくて、体が震える。
 自分が両足で立てていることすら不思議だった。はあ、と息を吐くと、快感が声に溶けて、一緒に漏れ出た。

「えっ」「うわ、あの子」「間に合わなかったんだ」「うわあ」
 ぼんやりした意識の外から、そんな声が聞こえる。宙に浮いていた意識が現実に引きずり戻される。

(あ、ぁっ、や、だ……! いやだ、こんなの、違う、ありえない、子供じゃない、のにっ……!)
 見ないで、聞かないで。耳を塞ぎたいのに、手が動かない。どこかに隠れたくても、足が動かない。
 体はおしっこを出すことしか出来ない。我慢しすぎたのか、おしっこは全然止まらない。伏せた視線の先で、地面に水溜まりが広がっていくのが見えた。

 添えられていただけの手が離れる。スカートは重く濡れて、雫を零す。頬にも熱いものが伝った。
 頭が煮えたように熱かった。意識がぼんやりした。このまま何も感じ無くなれば良いのに、体は自分の周りの物を拾い上げていく。

(いや、だ、ちがう、ちがうの、違う、違うっ……!)
 どれだけ否定しても、自分自身が全てを認めていた。
 間に合わなかった、我慢できなかった。おもらし、した。子供みたいに、おしっこが、我慢できなかった。

 お腹が空っぽになって、おしっこはやっと止まる。ざわざわと喧騒が包む中、地面を見つめたまま立ち尽くしていた。
 荒れ狂う衝動は跡形もなく消えて、代わりにすっきりとした爽快感が体中を満たしている。焼けつくような熱さも消えて、全身が冷えていく。

(どう、しよう……)
 がくがく震える膝が折れ曲がって、その場にしゃがみ込む。濡れた太腿が同じように濡れたふくらはぎにぴたりと引っ付く。
(……どうしよう、どうしようっ……!)
 空っぽの頭にその言葉だけが渦巻く。答えはどこからも帰ってこない。喧噪の中、聞こえる言葉の中、ずらりと伸びた行列の中、俯いてしゃがみ込むことしか出来ない。
 いっそ子供みたいに大声を上げて泣きたかったけれど、それも出来なかった。

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初出: 2022年9月23日(pixiv・サイト同時掲載) 掲載:2022年9月23日

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成人済の時々物書きです。 スカ、女攻め萌え。BLよりはNLやGLが好きです。
18歳以上ですか? ここから先は、成人向けの特殊な趣向の小説(女の子、男の子のおもらし等)を掲載しています。