別に後片付けをすることに文句はない。昼食は一から作ってくれて、手伝いひとつしなかったのだから、後片付けくらいはこちらから申し出るつもりだった。
皿を持つ手が震える。泡立てたスポンジで皿を撫でて、置いて、また次の皿を撫でて。本当ならもっと丁寧に、ひとつひとつに気を配るべきなのだろうけれど、そんな余裕は既にない。
膝が震える。右足、左足、ゆっくりと足踏みを繰り返す。じっとしてみようと試みるけれど、すぐにぞわぞわと嫌な悪寒が体を震わせる。足踏みは気を紛らわせるには効果があるが、それもほんの僅かで、根本にある原因を取り除かないと意味が無いことは痛いほどわかっていた。
ぞくっと、大きな波が走り、全身が震える。余計な身動きをすることは出来ず、皿とスポンジを持ったまま、その場に固まる。激しく足踏みをしたけれど、それも焼け石に水程度で、じわじわ込み上げる波は確実に強さを増している。
真っすぐ立つことが出来ない。体を倒して、ぎゅうと両足を交差させて、飛び出しそうな激しい波を堪える。体の中はもう余分なスペースがないというように、上手く息が吸えない。息が上がって、は、は、とまるで犬のような呼吸を繰り返す。
ああ、もう、ほんと、やばい。ぎゅうぎゅうと両足でそこを押さえつけた状態で、肩越しに振り向く。先程からこちらに向けられていた生暖かい視線の主は、それはもう楽しそうな表情を浮かべていた。腹立たしいほどのその様子に、一言物申したいけれど、口であの人に叶うはずがないことはよくわかっている。言いたいことを飲み込み、再び目の前の皿と向き合う。
ほんの少しだけ波が落ち着いたのを見極め、皿洗いを続行する。残った皿を手早くスポンジで撫でていると、再び波が強まっていくのを感じる。はやく、はやくはやくはやくっ。気持ちと体が焦り、手の震えが止まらない。足踏みを繰り返すけれど、腹の中で暴れる波は全然治まらない。割らないように皿を置いて、そのまま水道のレバーを上げた。
勢いよく溢れる水流に手を突っ込む。はやく、はやく、はやく。スポンジを置き、泡を洗い流そうとしたけれど、ぞくぞくと込み上げる悪寒がひときわ強くなった。目の前でまっすぐに落ちる水流は、しゃらしゃらと、びちゃびちゃと、それはそれは心地よさそうな水音を響かせている。
あ、あっ、あああっ、やばい、やばいやばいやばいっ……! 耳から飛び込む水音が、体の内側で暴れ回る。咄嗟に水を止めたけれど、呼び水はとっくに効果を表していて、暴れる波はこれ以上ない程に激しさを増している。前屈みになって、足踏みを繰り返して、それでも駄目で、ぎゅうと足を交差させて、それでも駄目で。
くそ、やばい、ああ、あ、あああ、ああああっ、もう、もうっ……! 震える手が二、三度空を掴む。膝が震える。じっと立っていることすら出来ない。やばい、あ、やばいっ、あ、ああ、あっ、ああっ、あああっ! じわり、先端に熱い雫が滲む。考えるより先に手が動いていた。泡を落としただけの濡れた手で、ズボンの上からそこを握る。乾いたルームパンツが外側からじんわりと濡れて、わずかに色を変えた。
は、は、と短い呼吸を繰り返し、右手でぎゅうぎゅうとそこを握って、飛び出しそうな熱い雫を押し留める。腹の中いっぱいいっぱいに溜まった熱い液体が、先端すぐそこまで満たされている。やばいやばいやばいっ、ほんとにやばいっ、もうほんとにやばいっ……! 手で塞いでいないと、もうほんの僅かな刺激でも零れてしまう。コップの縁ぎりぎり、表面張力で耐えている水面より余裕がない。
右手で先端を握ったまま、左手を水道のレバーに手を掛ける。ほんの僅か、細い糸のように水を出して、置いた皿をそこに晒す。両手ですれば早く終わるとはわかるけれど、ぎりぎりまで満たされた熱い雫は今にも出口を抉じ開けてしまいそうだ。それを必死に手で押しとどめながら、ちまちまと洗い物を続行する。
ああ、くそ、ほんとにやばい、はやく、やばいやばいやばいっ……。頭の中が焦りでぐちゃぐちゃで、体はぎりぎりで我慢出来ているのが不思議なくらいだ。余裕なんて欠片もない状況で、ちまちまと洗い物を進める。
「そんな風に片手で横着して。いつまで経っても終わらないよ?」
「う、るさいっ……!」
後ろから投げかけられた言葉に、反射的に言葉を返す。そんなこと言われなくても自分が一番わかっている。それでも、こうする以外の方法なんて取れない。
手の中がじんわりと濡れている気がする。握りしめすぎて感覚が鈍い気がする。頭がぐちゃぐちゃで、もう自分がどういう状況が分からない。ただただ、腹の奥で激しく暴れまわる衝動に耐える。目の前に迫った限界から目を逸らす。もう少し、あと少し。必死にそう考えようとするけれど、それも一瞬で激しい波に押し流されて、頭の中は一色に塗りつぶされる。
ああ、あ、あああっ、やばい、やばいやばいやばい、もう、ほんとにやばいっ……! 考えたくないのに、考えてしまう。頭に浮かぶのはただ一つだけ。ああ、ほんとにやばい、もう、もう、もうほんとに、もうやばいっ……、おしっこっ……!
ぎゅううっと握った手の中で、じわりと熱い雫が滲む。やばい、でる、でるでるでる、おしっこ、やばい、もうほんとにやばい、でるっ……! 我慢しないといけないと、まだ駄目だと、考えることすらもう出来ない。腹の中の水風船は膨らみ切っていて、限界なんてとっくに超えていた。ほんの少し、指先でそっと突いただけで破裂してしまいそうだ。
必死に引き絞った出口は内側から強烈な水圧で抉じ開けられそうで、手でぎゅうっと外から押さえているのに、その僅かな隙間に熱い液体が流れ込むのがわかる。
「全然進んでないじゃない。大丈夫?」
「う、るさい、って……!」
声はすぐ後ろで聞こえた。そんなこと言われなくたってわかってる。もう余計なことを考えることは出来ず、口先で返事をするのがやっとだった。そんな不躾な言葉に、ふふふと後ろで笑い声が聞こえたかと思うと、その声が更に近くなる。
「仕方ない、手伝ってあげよう」
「な、に、してっ……!」
「続きはやってあげるから、そこでちゃんと見てなさい」
少しだけ顔を上げると、両腕が俺を挟み込むように伸びてきた。片方は置いていた皿を持ち、反対の手が水道のレバーに触れる。
「ま、まてっ、それ、はっ……!」
レバーを上げる手の動きが、スローモーションで見えた。まっすぐに流れる水流。しゃらしゃらと、ぴちゃぴちゃと、心地よさそうな水音が耳に飛び込んでくる。
「う、あ、あっ、まって、それやめろっ……!」
「何を言ってるの。水を止めたら洗い物出来ないでしょ」
持ち上げられた皿が水流に晒される。ぴちゃぴちゃ、ばちゃばちゃ。水音が腹の底に響く。膨らみ切った水風船が共鳴するかのように震えて、中身を吐き出さんと収縮する。あ、ああ、あ、あああっ……! 気が狂いそうなほどの衝動、強く強く押し寄せる荒波に全身が大きく震える。
あ、あ、ああ、でる、でるでるでるっ……! 咄嗟に両手でズボンの上から出口を押さえる。ぎゅうぎゅうと痛いほどそこを押さえつけ、噴き出しそうな熱い液体を押さえつける。でも、波の勢いはそんなことで留められる程弱くはなく、抉じ開けられた先端から、ぶじゅ、と破裂したかのように熱いおしっこが噴き出す。
手の中でルームパンツが内側から濡れる。あ、ああ、あ、やばい、でる、だめだ、でも、ほんとに、もう、あああ、くそっ……! 我慢しているつもりなのに、熱いおしっこがじゅ、ぶじゅ、と噴き出している。
「う、あっ、でる、でる、でる、から、もうっ……!」
「はいはい、もう少しだから我慢」
「ふざ、けんなっ、ほんとに、もっ、でる、でるって言ってんだろっ……!」
「そんなこと言えるのならまだ大丈夫だね」
一枚、二枚と鼻歌交じりに泡を流していく様子に、腹立たしさを覚えたけれど、それ以上の尿意にすぐに顔を伏せる。はー、はー、と息を吐き出し、地団太を踏んで、必死に我慢を続ける。
両手の中はもうぐちゃぐちゃだったが、まだ出てない。腹の中で膀胱は難く張り詰めていて、中身を今にも吐き出さんとしている。
「あーあー、ズボンびちょびちょ。おもらししちゃったね」
「し、てねえっ……!」
「床まで濡らして良く言うよ」
洗い物はいつの間にか終わっていたようで、水道は止められていた。それなのに、じゅ、じゅう、とどこからかくぐもった水音が聞こえる。手の中が、じわ、じわと熱く濡れていく。張り付いた下着、重くなるルームパンツ。頭に白く靄が掛かり、自分の体の感覚なのに遠くに感じる。
あ、あ、あ、あ、で、る、おしっこ、もう、もうほんとに、でる、おしっこ、おしっこ、がっ……! ぱちんと何かが弾ける感覚。膝が震え、手が震える。あ、あ、あああ、あああっ……! 頭が真っ白になって、次の瞬間には今まで感じたことのない快感に塗りつぶされた。
じゅわあ、と先端から熱いおしっこが噴き出している。手の中で、ルームパンツが内側から濡れていく。重く濡れた裾が足に張り付く。乾いたフローリングが濡れていく。
膨らみ切った膀胱が、中身を一気に吐き出している。腹の中がどんどん軽くなっていくのが気持ちよくて、全身から一気に力が抜けた。
「出ちゃったね。気持ちいい?」
快感に塗りつぶされた頭で頷いて返事をすると、すぐ後ろで楽しそうな笑い声が聞こえた。先程まで皿を持っていた手がTシャツの上から俺の腹を撫でる。労わるような手つきは心地よく、はあ、と熱いため息が漏れた。
そのままどれくらい立ち尽くしていたか。荒い呼吸を繰り返していると、腹を撫でていた手がそのまま下に降りていく。
「ぐしょぐしょ。いっぱい我慢したね」
「うるさいって……」
「はいはい。着替えないといけないし、ここで脱いじゃおうね」
そう言って、その手はズボンと下着を一気にずり下ろす。露わになった足に触れた指先は洗い物をしたせいか、冷え切っていて、全身がびくりと震える。それを見過ごすほどこの人が優しくないことは知っていた。振り向く元気はなかったけれど、後ろで笑っているのは何となくわかった。
膝下までズボンと下着を下ろされたかと思うと、冷たい指先はわざわざ俺の足を撫でながら上がっていく。ぞくぞくと嫌な悪寒に身を捩って耐えていると、冷えた手は俺の腹にぴたりと添えられた。暖を取るように付けられた手は、俺の腹から体温を奪っていく。ぞくぞくと突き刺さるような悪寒に、全身がぶるっと震えた。その奥で、先ほどまで張り詰めていた膀胱が刺激できゅうと縮む。
「う、あぁ、っ……!」
堪える余裕もなく、じゅう、と再びおしっこが噴き出した。今度は遮るものがない状態で、先端から飛び出したおしっこはひたひたと足元を濡らしていく。勢いこそないけれど、熱いおしっこは足元の水たまりをどんどん広げていく。
「まだまだ出そうだね」
「く、そ、見るなっ……!」
抵抗の声は上げたけれど、体は全く抵抗できない。どこにも力が入らず、その場に立てていることが不思議なくらいだった。嫌だと思っても、ひたひたと溢れ続けるおしっこは止まらない。せめてもの抵抗に顔を背けると、耳元で楽しそうな笑い声が聞こえた。
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初出:2019年6月23日(pixiv) 掲載:2022年7月30日