物音に目が覚める。背後でごそごそと彼が寝返りを打っていて、その振動にだんだんと意識がはっきりしていく。
眠れないのかな。目を閉じたまま様子を伺うと、寝息には程遠い、荒い呼吸が聞こえた。必死に押し殺しているのだろうけれど、静かな部屋ではそれが逆に耳に付く。
その様子に、ひとつ気になることがあった。彼、寝る前にトイレに行ったのかな。それぞれ大浴場に行って、戻ってきたらお茶を飲みながら話をして、そのまま何となく眠りについた。私はお風呂上りにトイレを済ませてきたけれど、彼はどうしたのだろう。
この旅館は相場より安かったけれど、もちろんそれには理由があった。年季の入った古い建物、お風呂は一階の大浴場、トイレは階段横に共用のものが。部屋は和室で、風情があると言えばいいけれど、あちこち草臥れて、一言でいうならぼろぼろ。そういえば彼と初めて会ったのもこんな旅館だったなあと思った。
ごそごそと彼は寝返りを打つ。
トイレに行きたいんじゃないかな。苦しそうに呼吸を繰り返す様子は、初めて会った時と同じだ。
そう思っていると、ばさ、と布団が大きく動いた。寝たふりをしていると、彼がこちらに顔を寄せる。寝ているのか確認しているようだった。
少しすると、彼は立ち上がった。そして、ぎい、と扉が軋む音がした。
やっぱりトイレだった。大方、寝る前にトイレに行かなかったから、目が覚めたのだろう。出来るだけ我慢していたのだろうけれど、とうとう我慢できなくなった、そんなところだろう。
そういうところはほんと変わらないなあと、つい笑いが漏れる。さて、明日も早いし寝ようと思っていると、再び扉が開く音がした。
思ったより早い戻りに少し驚いた。共用トイレは階で男女が決まっていて、この階は女子トイレ、もう一つ上の階が男子トイレだ。上に行ってきたにしてはずいぶん早い気がする。走っていったのかな。また、そんなになるまで我慢しちゃって。そういうところも相変わらずだ。
けれど、すぐに違うことに気付いた。彼の息遣いは先程までと何も変わらず荒いままだ。
もしかして行けなかったのかな。彼は暗いところが苦手だ。ここの廊下もなかなかに暗くて不気味だ。
そっと目を開けて様子を窺うと、彼は扉の前にいた。布団に戻ってくる様子はない。体をくの字に曲げ、突き出したお尻がくねくねと揺れている。誰がどう見てもおしっこ我慢のポーズに、呆れと愛しさが込み上げる。まったくもう。そう思いながらも、可愛いなあと楽しくなる自分もいた。
どうしようかと少し見守る。彼は扉の前で落ち着きなく足踏みを繰り返す。時折、こちらを振り向くけれど、私が起きていることには気づいていないようだった。手が宙を掴むように動いたかと思うと、弾かれたように体の前に回る。こちらからはわからないけれど、ぎゅうぎゅうとそこを押さえているのだろう。
流石にそろそろ助けてあげたほうがよさそうだった。
わざとらしく、今目が覚めたかのように起き上がる。すぐに彼は気付いたようで、肩越しにこちらを振り向いた。曲がっていた体が一瞬伸びたれど、それはほんのわずかな間だけで、すぐにまた前屈みになっていく。
「そんなところでどうしたの?」
わざと、何も知らないようにそんなことを言ってみる。
「寒いでしょ? ほら、お布団においで?」
彼はしばらくこちらを見ると、そろそろとこちらに近付く。落ち着かない様子で私の隣に立ち、こちらを見下ろした。暗くてよく見えなかったけれど、その表情は強張っているようだった。
「どうしたの?」
もう一度聞くと、彼は、ぼそぼそと何かを言った。何を言ったか、想像はついたけれど、聞き取れなかったのは確かだったので聞き返す。
「と、といれ、いきたくてっ……」
見るからに彼は限界寸前なようだった。寝巻の浴衣の前をぎゅうぎゅうと押さえ、不規則に足踏みを繰り返す。
「トイレ、行かないの?」
「ろ、廊下、暗いからっ……」
震えた声は泣き出しそうで、これ以上の意地悪は申し訳なさが勝った。
温かい布団から出て、彼の隣に立ち、手を差し出す。
「ほら、着いていってあげるから、行こう?」
ぎゅうと彼は私の手を握る。大きな手は汗ばんで震えている。大丈夫だよと握り返し、私たちは部屋を出た。
廊下は確かに薄暗かった。廊下の奥に向かって歩く私たちの足音に交じり、彼の押し殺したような呼吸が聞こえる。
繋いでいない側の彼の手は、浴衣の上からその奥を握っていた。ぎゅうぎゅうと落ち着きなく、揉み解すような仕草は本当に限界近いのだとわかった。
「そんなになる前に起こして良かったんだよ」
「だ、だって、悪いし、」
「そのままおもらししちゃう方が悪いと思うけどな。ほら、もう少し。がんばれがんばれ」
「う、あ、あ、はやくっ……ああ、もう、でそう……」
ぺたぺた歩き、廊下の奥のトイレには辿り着く。けれどこの階は女子トイレで、男子トイレはもう一つ上の階だ。
彼の様子を見るに、もう余裕はないようだった。扉を少し開いて女子トイレの中を覗くと、幸運にも人はいない。そしてもうひとつ、良いものを見つける。彼にとっては不運なことに、私の悪戯心は更に刺激されてしまった。
「上の階まで間に合う?」
返事はなかった。代わりに彼はじっとこちらを見ている。落ち着きなく床を踏み、ぎゅうぎゅうと忙しなくそこを押さえる様子は、返事を待つ時間すら厳しいと感じさせた。
「仕方ないね。女子トイレだけど、こっち使おうか」
「で、でもっ、」
「それじゃあ、上の階まで行く? そんな状態で間に合うかな」
「う、あ、でも、それは、」
「大丈夫だよ。ほら、君でも使えるトイレがある」
扉を開けて、中に入る。彼は躊躇いを見せたけれど、それもほんの一瞬で、すぐに私に付いて女子トイレに入った。
「ほら見て」
私が指差したのは、手洗い場の横にあった男性用の便器だ。それは普通のサイズより随分小さく、低い位置にある。
「そ、それ、子供用じゃ、」
「ひとりでトイレに行けない男の子用かな。ほら、君にぴったりだと思わない?」
「そんな、僕、子どもじゃないですっ……」
「それなら上の階に行こうか。廊下でおもらししちゃわないかな」
本当に余裕が無いのだろう。足踏みは間隔が短くなったかと思うと、突然身動き一つせずに全身ぴたりと固まり、そしてまた片足ずつ床のタイルを踏む。浴衣の前を押さえる手だけは変わらずに、ぎゅうぎゅうとそこを握っていた。
「でもっ、でもっ……!」
手を繋いだまま、入り口で彼は立ち尽くす。けれどその目は子供用の小さなトイレに釘付けだった。
繋いだ手を振りほどいて奥の個室にでも飛び込めばいいのに、そうしないあたり、本当に素直だ。意地らしい姿に、意地悪したくなるのも仕方ないと思う。
「あ、ああ、あっ、あっ……!」
彼は私の手を振りほどいたかと思うと、体を丸めた。両手で浴衣の前をぎゅうぎゅうと握りながら、ぴたりと寄せた足が震えている。
私が動くより、彼の方が先だった。お尻を突き出し、太ももを寄せたままの不格好な体勢で、彼はぺたぺたと奥へ走っていく。
浴衣の前を寛げ、その下のグレーの下着が黒く色を変えているのが見えた。片手で濡れた下着をずり下げ、反対の手で中から性器を引っ張り出しながら、彼は子供用のトイレに近付く。彼の手元からはびちゃ、びちゃと水滴が床に落ちる。
「あ、あ、あっ、あ、あっ……!」
びちゃびちゃと水音は鳴り続けて、彼の足元は薄い色の液体で濡れている。声にならない声を漏らしながら、彼は子供用のトイレに飛びついた。
彼には小さすぎる便器。どうするのかと思っていると、彼は両足を開いて便器を跨ぐと、膝を曲げる。上半身は便器の上に被さるように曲げられていた。
水音がほんの一瞬止まる。そして、彼が息を飲み、次には激しい水音が響いた。
ぶじゅううと野太い水音と、びちゃびちゃと激しく雫を撒き散らす音。そして、はー、はー、と彼の長い呼吸の音。静かだったトイレは途端に様々な音に包まれる。
そこに私の足音も混じった。大きな体を丸め、膝を曲げて用を足す背中にそっと近寄り、後ろから彼の手元を覗き込む。彼の体の陰、震える指先で持たれた男性器の先からは、薄い色のおしっこが勢いよく噴き出している。
「あっ、あっ……あんまり見ないでくださいっ……」
引き下ろされた下着は濡れて真っ黒に色を変え、その下に水滴を落としていた。
「ぎりぎりセーフ、ではない、かな?」
「うう、だ、だって、いじわる、言う、からっ……」
そう言いながら、素直に従おうとするあたり、まんざらでもないのではとは思う。そして、そんな姿が余計に意地悪したくさせていることをわかっているのだろうか。
「全然止まらないね」
「あ、恥ずかしい、です、からっ……」
「ちゃんと見ててあげるから、いっぱいしなさい」
彼の手元からはまっすぐに噴き出したおしっこが小さな小便器を叩き続けている。しっかりと私に見られたまま、彼は最後まで用を足したのだった。
水流は途切れ、ぴちゃぴちゃと雫を零し、彼のおしっこは止まった。静かなトイレは再び静かになり、彼の荒い息遣いだけが聞こえる。
「ど、どうしよう、」
彼が途方に暮れるのもわかる。足元はびちゃびちゃ、下着はぐっしょりと濡れていて、おしっこが伝った足は濡れている。
「とりあえず、手を洗っておいで。部屋に戻ったら着替えようか」
彼が手を洗っている間に、置かれていたバケツで床のタイルを流す。拭くものはないけれど、タイルだしそのうち乾くだろう。心の中で謝りながら、バケツを元の位置に戻した。
彼は洗面台の前で居た堪れなさそうに立っていた。力なく下ろされた手を取る、拭くものが無いので洗った手は濡れている。
「ほら、戻ろう」
「あ、手、濡れてるから、」
「後で拭けば大丈夫。さ、行こう」
+++
部屋に戻り、部屋に備え付けられていたタオルを渡す。彼が足を拭いている間に、荷物から下着を出してあげた。
「浴衣は濡れていない?」
「多分、大丈夫、です」
「着替えたら大丈夫。ほら、ちゃんと間に合ったんだし。ね?」
着替えを終え、布団に座り込んだ彼は力なく頭を伏せていた。その頭を撫でると、ぎゅうっと飛びつくように抱き着かれる。
大丈夫大丈夫と、背中をゆっくりと撫でると、彼は甘えるように頭を押し付ける。
「ありがとう、ございました」
「どういたしまして」
「僕、ほんとに暗いの駄目で、こんなことばっかりで、ほんとに情けない……」
「誰だって苦手なものはあるよ。元気出して」
頷いた彼をしばらく抱きしめていると、固く強張っていた体からは少し力が抜けたようだった。
「落ち着いた? そろそろ寝ようか」
「あ、あの、えっと、その、」
顔を上げた彼はどこか歯切れ悪い。
「どうしたの?」
そう聞きながら、彼がもじもじと落ち着きない様子であることに気付いた。もしかしてと思っている間に、彼はもごもごと口を開く。
「ま、また、したくなっちゃった……」
予想通りの言葉だった。
もう一度トイレに行こうかと思ったけれど、彼の手は再び浴衣の上からそこを押さえていた。不安そうな顔は強張り、余裕があるようには見えなかった。
「な、なんで、こんなの、おかしい……」
「我慢しすぎてお腹がびっくりしてるのかな。大丈夫だよ」
どうしようかと思い、部屋を見回す。ひとつだけ解決策に気付いたけれど、流石にそれは、と思う自分もいる。
そうしている間にも彼はもぞもぞと居づらそうに体を揺らす。本当は良くないと思いながらも、気付いた手段を取らずにはいられなかった。
奥の障子を開け、その奥の曇った硝子戸を開ける。心ばかりのベランダは狭く、ひとりがやっとのスペースしかない。喫煙用か何かなのだろう、大きな錆びた灰皿が置かれていた。コンクリートの床の隅には溝が掘られ、排水溝らしき深い穴が開いている。
「こっちおいで」
「え、でも、そんなの、」
「じゃあ、上の階まで我慢する?」
それは厳しいのだろう。彼は返事こそなかったものの、おずおずと私の後ろに来た。
開けた戸のぎりぎりに立たせる。彼はそこに立ち尽くしたまま、不安そうにこちらを見ていた。ただ、その体は落ち着きなく震えて、手は時折浴衣の前をぎゅっと握っている。
後ろから抱き着き、浴衣の上から彼のお腹に触れる。ゆるゆると撫でると、薄いお腹がぽっこりと膨らんでいるのがよくわかる。
「あ、だ、だめです、でちゃうっ」
「しないの?」
「で、でも、でも、ここじゃ、」
もじもじする彼に、また悪戯心が膨らむ。先程のトイレと違って、ここは完全に二人だけの空間だ。それが更に悪戯心を煽るのかもしれない。
「そっか。君がしたくないなら、私が良いと言うまでしちゃだめだよ」
「え、あ、待って、待って、そこ触っちゃだめです、からっ」
浴衣の隙間から手を差し入れ、直接お腹に触れる。固く張ったお腹は、少し力を入れても全然へこまない。けれど無意味ではないようで、彼は身を捩って切ない声を上げる。
「あ、だ、だめです、そこ押したら、でちゃうっ」
「駄目だよ。したくないんでしょ?」
「あ、あ、ちが、し、したくないわけじゃなくてっ、あ、あっ……」
撫でて、時折押して、固いお腹を宥めるように撫でる。けれど、彼は宥められるどころか、どんどん呼吸を荒くしていく。体が丸められ、突き出されたお尻が私に当たる。彼に合わせるように体を添わせて、引かれたお腹を追いかけて触れる。
「ふふ、したくないなら、どうしてじっとしていられないのかな」
「あ、だめ、だめ、お願い、だめです、だめ、だめですからっ……」
「どうしたい?」
「あ、で、でちゃうっ、おしっこでちゃうっ、したいっ、させてくださいっ……!」
お腹を撫でていた手を下げていき、先ほど替えたばかりの下着の中に手を入れる。その中でふるふる震える性器に触れて、そっと取り出す。先端に触れると、さらさらした生暖かい液体が私の指を濡らした。
「まだ良いって言ってないのに出ちゃった?」
「ち、ちがうっ、あ、だめ、あ、あ、ああ、あぁっ」
「ほら、ちゃんと我慢しないと。またおもらししちゃうよ?」
「も、もらしてない、ですっ、あ、だめ、で、でる、でちゃうっ……」
ひくひく震えるそこは熱い液体が滲んでいる。ほんの少し広げてあげれば、一気に噴き出すんじゃないか、そんなぎりぎりの状態だった。
「したい?」
彼は涙目でこくこく頷く。両足はがくがくと震え、両手は自分の浴衣の裾を強く握っている。
「あ、あ、ああ、でる、でちゃう、でちゃうっ……」
「ちゃんと言ってごらん?」
「あ、あ、だめ、だめ、でる、でるから、だめ、ほんとにだめです、あ、あっ、ああぁっ」
「ほら、良い子だから言えるでしょ」
「お、おしっこ、おしっこ、でる、おしっこでちゃう、おねがい、おしっこ、おしっこさせてください、もうでちゃうっ……!」
絞り出したような声と同時に、じゅ、と熱い液体が私の手を濡らす。は、は、と短い呼吸を繰り返し、震える体は本当に限界寸前なのだとよくわかった。
「じゃあ、あと十秒我慢しようか」
「む、むり、でちゃう、もう、でちゃいますからっ」
「ほら、こうして押さえてあげるから、ちゃんと我慢するんだよ?」
濡れた性器の先端を包み込むように塞ぐ。既に私の手は彼の温かいおしっこでしっかり濡れていた。
「いーち、にー、さーん、しー」
ゆっくり、子どもがするように間延びした数え方をする。彼はふ、ふ、と短い呼吸を繰り返し、身を捩って堪えていた。
「ごー、ろーく、」
次を数えようとしたとき、彼の体が大きく震える。その瞬間、熱いおしっこが噴き出し、私の手を温かく濡らす。身を捩り、彼はその勢いを必死に押しとどめようとしているけれど、短い呼吸の合間に合わせて、ぶじゅ、じゅ、おしっこは噴き出し続ける。
「あ、あ、あ、あ、あっ、だめ、でる、でるでるでる、おしっこ、おしっこでる、でる、あ、ああっ、あっ」
「ほら、まだ駄目だよ。我慢我慢」
「あ、ああ、はやくっ、もうだめ、でちゃう、でちゃうからはやくっ……!」
「ふふ、ちゃんと我慢するんだよ。なーな、はーち」
ぶじゅ、また手の中でおしっこが噴き出す。びしょびしょに濡れた出口を指先で撫でると、彼は泣き声にも似た声を上げた。
「きゅーう」
びちゃ、と水音。私の手の中に溜まっていたおしっこが床に落ち、アスファルトに黒い染みを作る。あ、あ、と声にならない声。がくがく震える体は限界なんてとっくに超えているのだろう。
「じゅーう」
私の言葉より彼の限界の方が早かったかもしれない。塞いでいた手を弾き飛ばしそうなほどの勢いで、おしっこが噴き出す。数える私の声をかき消す程の音量で、激しい水音が響き渡った。
ぶじゅううう、と先ほどのトイレで聞いた鋭く太い水音。そして、びたびたとアスファルトを叩く水音と、雫を撒き散らす音。
「あ、あっ、は、あ、あああっ……!」
胸の奥底から吐き出したような深いため息は、聞いているだけでも気持ち良さが伝わった。肩が上下し、全速力で走ったあとのように全身で呼吸をしていた。
静かな夜に、びちゃびちゃと水音だけが響く。
「いっぱい出るね。気持ちいい?」
彼は頷く。目には涙が浮き、頬は火照って赤く染まっていた。ぽかりと口は開いたままで、熱に浮かされたような表情は快感に溶けていた。
「すごいね、隣の部屋に聞こえてたらどうしようか」
「そんな、いじわる、いわないでくださいっ……」
そう言いながらも、彼のおしっこは全然止まらない。さっきもすごい勢いだったけれど、今も負けず劣らずすごい勢いだ。
「ど、しよ、ぜんぜん、とまらない、です」
「良いよ、全部出しちゃおう。そうしないとおねしょしちゃうかも」
「そんなのしませんっ……」
びちゃびちゃびちゃ。知らない人が聞いたら、どこかの水道を締め忘れたんじゃないかと勘違いするほど、長く強く彼のおしっこは続いた。
おしっこはだんだんと勢いを無くし、ちょろちょろと細くなる。そうしてからも随分長い時間おしっこは続き、やっと止まった。
「全部出た?」
彼は頷く。雫を零す性器から手を離すと、彼はゆっくりと体を起こす。まだ落ち着かない呼吸を繰り返しながら、彼は涙の浮いた目でこちらを見た。
先ほど彼が使ったタオルで自分の手を拭く。彼は窓を閉めると、私の隣にぺたりと座る。
「タオル使う?」
そう言って差し出そうとすると、彼は勢いよく私に飛びついた。長身の彼を受け止めきれず、そのまま後ろに倒れ込む。布団があったので痛みはなかったけれど、それ以上に驚いた。
「こら、危ないでしょ!」
「嫌いに、ならないですか」
震えた声。顔は押し付けられていたので見えないけれど、何となく表情は読めた。
「なるわけないでしょ。むしろ、意地悪し過ぎてこっちこそ嫌われないかなと思ってるかな」
「僕は、大好きだから」
ああ、もう、こういうところが可愛くてたまらない。頭を撫でると、ゆっくりと頭が持ち上げられる。不安な目には涙がいっぱいに溜まっていた。
「ほら、泣かないの。大丈夫だよ」
彼は頷く。その拍子に涙がぼろぼろと落ちた。残った涙を指先で拭ってあげる。
「寝ようか。明日も出かけるんだったね」
先に布団に入り、掛け布団を持ち上げる。彼は隣に入ると、ぎゅうっと引っ付いてくる。
「おやすみ。また明日ね」
前髪を分けて、その額に軽く口づける。子ども扱いが過ぎるかと思ったけれど、彼の泣き顔がふにゃりと歪んだ笑顔に変わったので良しとした。
おやすみなさい。泣き声交じりの声に目を閉じる。寝息が聞こえたのは間もないことだった。
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初出: 2019年4月7日(pixiv・サイト同時掲載) 掲載:2019年4月7日
こんばんは。
ご用心シリーズ大好きです。
男の子のおもらし大好物ですがネットにもあまりなくてなだらかさんのほかのシリーズもよく読みます。
これからもステキな作品をよろしくお願いします!
お読みいただきありがとうございます!
素敵なお言葉を頂けてとても嬉しいです。
これからもゆっくりとですが書き続けていきますので、よろしければお付き合いくださいませ。