食事を終えると、なぎささんは言った。
「ユウくん、今日は遅くなっても大丈夫?」
「あ、はい、大丈夫ですけど」
「よかったら、ホテルに戻ってゆっくり飲むのはどうかなと思って」
良いですよと二つ返事をする。内心、まだ一緒にいられるのが嬉しかった。
なぎささんはホテルに戻る途中、コンビニに入った。籠を持つと、何の恥じらいもなく男性物の下着をそこに入れる。それからビールを何本かにおつまみを少し。何が好き?と聞かれたので、時々飲む発泡酒を伝えると、それも籠に入れてレジに向かった。
流石に荷物は俺が持った。食事代と言い、先ほどのコンビニと言い、全部なぎささんが出してくれた。全て払わせていることが申し訳ない。着の身着のまま出てくるにしても、流石に財布くらいは持って出るようにしようと思った。
コンビニを出てホテルに戻るのかと思うと、なぎささんは次にドラッグストアに入った。化粧品とか買うのかなと思い、後ろをついていく。
彼女は店の奥まで進むと、カラフルな袋の並んだ棚を見ていた。傍に寄って、棚に並んでいるものに目を向けて、思わずぎょっとした。
なぎささんは俺をちらっと見ると、もう一度棚を見て、よし、と言いながら袋を一つ手に取った。
え、それ、買うんですか? なんで? 混乱している俺に気付いたのか、なぎささんはにこにこと笑う。
「これ、なんだと思う?」
「何って、それ、あの、」
言葉は出なかったけれど、それが何かはよくわかっていた。
紙おむつだ。しかも子供用ではなく大人用。なんで、なんでそんなもの。
なぎささんは紙おむつの大きな袋だけを持ってレジに行き、会計を済ませた。ドラッグストアの色付きの袋に入れられたそれを片手に、とても機嫌良さそうな顔をしている。
聞くべきなのか、聞いても良いのか。
「すごい顔してる」
「だ、だって、それ、」
「普通に買えば何も思われないよ。お家で介護用に買う人もいるだろうし」
彼女の言うことはもっともだけど、俺が気にしているのはそこじゃない。
「さてさて、帰ろうか」
結局なぎささんは何も言わなかった。その意味は、言わなくてもわかるでしょなのか、言わずに内緒にしておこうなのか。
理由に何となく検討はついた。けれど、もしかしたら違うかもしれないとも思う。想像がひとりでに膨らみ、心臓がばくばくとうるさく鳴る。違っていてほしい。そう思いながらも、どこか期待してしまう自分もいた。
ホテルに戻って、二人並んでソファに座る。出来るだけ意識しないようにしながら、コンビニの袋の中身を出していると、なぎささんは横で先程買ったドラッグストアの袋を開けていた。
「それ、どうするんですか」
出来るだけ平静を装って、さも興味が無いように言った。でも頭の中ではすでに想像が膨らんでいて、彼女の言葉を待っている自分もいた。
「そうだね、どうしようか」
なぎささんは楽しそうにそんなことを言う。この人には全部お見通しなんじゃないかと思えた。
「ユウくん、明日のご予定は?」
「今のところは何も」
「じゃあ泊まっていけるね」
それは少しだけ考えていた。もう結構遅い時間だから、泊まらせてもらって朝に帰れたら楽だし、それに、もっと長く一緒にいたいと思ったから、なぎささんからそう言ってもらえるのはとても嬉しかった。
「折角のお泊りだから、おねしょしてもらおうかなと思って」
「お、おねしょっ!?」
想像の斜め上の言葉に、つい声がひっくり返った。
「流石にシーツを汚すと後が大変だから、おむつ履いて寝たら大丈夫かなって」
「そ、そういう意味で、それ、買ったんですか!?」
「ん? どういう意味だと思ったの?」
「そ、それは、」
なぎささんはおむつを一枚取り出すと、それを広げて見せる。何か言いたげな視線を感じ、目を逸らした。くすくすと笑う声が聞こえた。ほんとに、この人には全部お見通しだ。
「ユウくん、いっぱいおしっこするから、溢れないか寝る前に一度実験しておこう。
ということで、はい、これ」
広げていたおむつを差し出され、躊躇いながらも受け取った。思ったより大きい。もっとゴワゴワしているかと思っていたけれど予想以上に柔らかくて、肌に優しそうな感じだった。
「こ、これっ、俺が、履く、ん、ですか」
「いや?」
「い、いやじゃ、ない、です、けど、」
続きは言えずに口籠る。嫌じゃないなら、答えなんて一つしかない。
「ふふ、ほんと可愛いなあ。
パジャマは無いから、バスローブ着ておいで。あっちのお風呂場にあると思うよ」
風呂場に行くと、確かにバスローブが2枚置かれていた。
まずバスローブに着替えて、それから恐る恐るおむつに足を通す。柔らかそうだったけれど、やっぱり普通の下着とは違うがさがさした感触がした。
履くのを少しだけ躊躇ってしまう。ただ、嫌悪感はまったくなかった。この先を想像すると、それだけで恥ずかしかったけれど、同時に気持ちがうわずる。
思い切って、下着の要領で履いた。足の間からお尻に掛けての部分が厚くなって少しごわごわしていた。このごわごわがおしっこを吸収すると思うと少し安心した。そして、そんなことに安心している自分がとても恥ずかしくなった。
部屋に戻ると、なぎささんは電話中だった。静かにソファに座ると、良くできましたとばかりに電話をしながら撫でられる。
なぎささんはよく頭を撫でる。俺のこと、子どもだと思っているんじゃないかと思う反面、その扱い嫌ではなかった。
電話はすぐに終わり、二人並んでビールを持つ。
「ごめんね、おまたせしました」
「いえ、」
「では、飲みましょうか」
少しだけ温くなってしまったビールを開けて、乾杯する。以前飲ませてもらった高級なものよりは薄かったけれど、それでもいつもより美味しく感じた。
+++
飲みながら話をして、時々つまみを食べて。何となく話題は俺のことになっていた。
「忘れられないおもらしってある?」
なぎささんのそんな質問を突っぱねなかったのはお酒が入っていたからだと思う。
忘れていればいいのに、しっかりと記憶している出来事が一つだけあった。それを話し始めてしまったのも、きっとお酒のせいだろう。
「この辺に引っ越してきて間もないころのことですけど」
「うん」
なぎささんの相槌を聞きながら、ぽつり、ぽつりと記憶を話す。
あれは何年か前の話。就職活動が上手くいかずにフリーターになり、バイト生活を始めて間もないころだった。
「バイト中にトイレに行きたくなったんですけど、終わるまで我慢してて。
上がる時間になって、帰る前に行こうと思ったら、ちょうど掃除を始めたところだったんです」
「それは大変。それで?」
「我慢したまま店を出たんですけど、いつもの道が工事中だったんです。回り道したけどよくわからなくて、しかもその時は夜だったから、暗くて余計にわからなくなって。
そんな時にたまたま公園を見つけて、トイレもあったから、そこで済ませようと思ったんです」
なぎささんと出会わなければ、あの帰り道は人生で一番我慢したんじゃないかと思う。
公園を見つけて、そこにトイレがあったときは、もうそこのトイレを使う以外考えられなかった。
「結構我慢してて、急ぎ目にトイレに向かったんです。けど、」
「間に合わなかった?」
「間に合いましたよっ! ただ、先に入られたんです。トイレは個室が一つだけだったから、俺は出てくるまで待たないと行けなかった」
後ろから足音が聞こえて、咄嗟に立ち止まったのが駄目だった。でも、我慢している姿を見られたらまずいと思って、俺は立ち止まって平静を装った。
そしたら、隣を男子生徒が駆け抜けていった。俺以上に切羽詰まった様子で、もう股間を鷲掴みにして飛び込んでいった。
追いかけるようにトイレに入ったら、その学生が先に個室に入ってしまった。
「俺、かなり我慢してて、」
「うん、うん」
「中から、おしっこする音、聞こえて、すごい気持ちよさそうで。それを聞いたら我慢できなくなって、それで、その、」
続きを言うのが恥ずかしくて、とても顔を見れなかった。なぎささんに寄りかかって顔を伏せ、小さな声で続きを口にする。
「我慢できなくて、手洗い場でしたんです」
あの時の光景を、間近で見られている気持ちだった。
「ふふ、可愛い。いっぱい出た?」
いっぱいなんて言葉じゃ足りないくらいいっぱい出た。勢いなんて、水道を思いっきりひねった時に負けないくらいで。
ほんとに漏らす寸前だった。あのまま個室が開くのを待っていたら、きっと間に合わなかったと今でも思う。
思い出しながら話していると、いつの間にか頭がふわふわしていた。酔っているのだろうか。まだそんなに飲んでいないのに。
「ちゃんと我慢出来てえらかったね」
「ん、」
そんな話をしていたからか、ぞくぞくとあの感覚を覚える。
「なぎささん、」
「なあに?」
なんで言おうと思ったのかわからない。でも、言いたかった。
「なぎささん、トイレ」
「あらら」
なぎささんは困ったように言う。でもその声は笑っていた。
「トイレは今使えないから、我慢しようね」
「使えないんですか?」
「うん。誰かが使っているみたい」
それなら我慢するしかない。顔を上げると目が合う。なぎささんが笑ったので、俺も何となく笑った。
気付くとビールは全部空になっていた。思い出すと、喋りながらどんどん口を付けていた気がする。もしかしたら、大半を俺が飲んだのかもしれない。
「お代わり買ってこようか?」
「いや、良いです。もう飲めないです」
「じゃあ、酔い覚ましに熱いお茶でも入れよう」
そう言って食器棚の電気ケトルでお湯を沸かし、緑茶を入れてくれた。その様子をぼんやり見ながら、一気に尿意が込み上げるのを感じた。
トイレ、行きたい。でも、さっき使用中だと言っていた。思えば単なる言葉遊びみたいなものなのに、何故か本当にそうなのだと思い込んでいる自分がいた。
「なぎささん、」
「なあに?」
「トイレ、まだ使えないんですか?」
なぎささんは一瞬きょとんとして、それから笑った。
「そうだね。まだ駄目みたい。トイレ行きたい?」
「ん、結構、行きたいです」
それは本音。たくさん飲んだからか、尿意が増すのが早い気がする。急ピッチで作られたおしっこが膀胱に注ぎ込まれている。
トイレ行ったら、多分いっぱい出る。緩い尿意に体を捩り、そんなことを考えた。
緑茶を啜る。暖かさに、ほっと熱い息が漏れた。
込み上げる尿意に酔いはどんどん覚めて、酔い覚ましなど不要な程には頭がはっきりしていた。ただ、別の意味で平常を保てなくなり始めていた。
「ユウくんが最後におもらししたのはいつ?」
なぎささんはまだ酔っているのか、ほんのり頬を染めてそんなことを聞く。
そんなの、この間なぎささんに会った時だと言いかけて、違う記憶が蘇る。
「あ、でも、私とこの間会った時が最後になるか」
適当に合わせておけば良いのに、つい黙ってしまう。なぎささんと会った時とは違う、もっと最近のあの時が勝手に思い出されていた。
黙る俺に、なぎささんは何かを感じたのか、首を捻る。
「あ、またバイト中に行きたくなって、今度は失敗しちゃったとか?」
「ち、違うっ! あれは家でっ……!」
自分が墓穴を掘ったことにはすぐ気付いた。
なぎささんは俺の発言を聞いて、少しの間の後、笑顔を浮かべた。
「先週の木曜日、とか?」
図星も図星。何も言わなかったが、顔がかあっと赤くなるのを感じた。
先週の木曜日、なぎささんは仕事が忙しくて俺を呼べなかった日。俺が一人で電話を待ち続けた日。
あれはあまりに恥ずかしすぎるから、あの事だけは絶対に内緒にしようと思っていたのに。
「そっか、そっか。我慢してくれていたんだ?」
何も言わなかったが、それが何よりの返事になっていた。言うつもりなかったのに、この人には全部知られてしまう。
先週の木曜日も呼んでもらえると思って、頑張って我慢していた。電話はなかなか掛かってこなくて、それでも、もしかしたら今日は遅めの時間なのかもと思って必死に頑張った。
でも結局電話は掛かってこなかった。それで、我慢できなかった。
電話を待って、待って、待って、もう少しだけと思った瞬間、張り詰めた膀胱からおしっこが一気に溢れた。やばいと思って止めようとしても止まらなくて、ぎゅうっとそこを押さえてもおしっこは出てきて。
漏らしながら慌ててトイレに走った。でも、がくがくと震える足では全然前に進まず、とうとう間に合わなかった。
結局、トイレの扉の前で力尽きて、全部、ほんとに全部出てしまった。
おもらしの瞬間は物凄く気持ちよかったけれど、その後のことは思い出したくない。後片付けをしながら、なんでこんなことをしているんだろうと我に返って、本当に死にたくなった。
なぎささんが恋しかった。よく頑張ったねと褒めてほしかった。大丈夫だよと慰めてほしかった。でもそこには誰もいなくて、ひとりで惨めに自分の粗相を片づけるしかなかった。
「だ、だって、なぎささんが、連絡くれないからっ……!」
「そうだね、ごめんね」
なぎささんはそういうけれど、笑っているので全然謝っている感じがしなかった。ぐりぐりと彼女に頭を擦りつけると、その頭を撫でられる。
ほんとにずるい。俺の恥ずかしいことは全部ばれてしまう。きっと、今、俺が考えていることもばれている。
「なぎささん、」
「なあに」
「トイレ、まだ?」
顔も上げずに言うと、彼女は楽しそうに言った。
「まだかなあ。もうちょっとだけ我慢できる?」
ちょっとだけ、なら。本当はちょっとも厳しいくらい、トイレに行きたかった。でも、もうちょっとだけだとなぎささんが言うなら、頑張って我慢する。
会話も少なくなり、ソファで体を寄せてのんびりと時間を過ごす。でもそれは建前で、のんびりなんてとてもじゃないけれど出来ない。
膀胱は既にぱんぱんに膨らんでいる。それなのにおしっこはどんどん注がれていて、尿意は激しさを増していく。ほんとに、少し気を抜いたら出てしまいそうなほどにいっぱいいっぱいだった。
トイレ行きたい、おしっこしたい。先程からそれ以外のことが考えられない。じっとしていると辛くて、ばれないように足を組んだり、下ろしたり、すり合わせてみたりする。
その度にかさかさと擦れる音がして、自分がおむつを履いていることを実感させられる。
高まる尿意は全然治まらない。いっそ、このおむつに出してしまおうかとすら思う。でも、吸収しなかったら。これ、ほんとに大丈夫なのかな、吸収するのかな。いつからかトイレで済ませることより、おむつに済ませるときを想定した考えになっていた。
誰もが使っていたものとはいえ、おむつを使っていた頃の記憶なんて無いし、そもそも赤ん坊と今の自分とじゃ出す量も違う。大人用とは言え、ほんとに吸収してくれるのか。
「なぎささん、」
「ん、なあに?」
なぎささんは二杯目の緑茶を啜っていた。
「まだ、駄目、ですか」
絞り出したような声になった。本当におしっこがしたくてたまらない。ちょっと気を抜いたら、一気に出てしまいそうだ。
「我慢できない?」
そんな風に聞かれたら何も言えない。もういっぱいいっぱいで、泣きそうだった。
「がんばる、けど、ほんとやばい、もうほんとにもれそう……」
「えらいえらい。もう少しだけ我慢しようね」
それから少しは我慢した。ほんとに少しだったけれど、頑張って我慢した。
もじもじ体をゆすって、時々出口をおむつの上からぎゅうっと押さえてしまう。でも、そうしないとおしっこが出てしまいそうな瞬間が何度もあった。
そして次第に押さえずにはいられなくなる。おしっこ、おしっこ、おしっこしたい。膀胱はもうこれ以上ないほどおしっこが入っている。出さないと破裂するんじゃないか。本当に破裂しそうな尿意にじっとしていられない。おしっこ、おしっこ。それしか考えられない。
「なぎささん、と、といれ、」
「まだ使えないかもしれないよ」
「そんな、むり、も、むりですっ、ほんとむりっ……、」
「大丈夫、大丈夫」
ソファの上に両足を乗せ、しゃがみ込んだ体勢でぎゅうぎゅうと股間を押さえる。なぎささんは暴れる俺の背中を抱いて、子供をあやすようにとんとんと背を叩く。
甘えるように体を預けながら、もう全身がちがちで、どこも力を抜けなかった。おしっこ、おしっこしたい、それ以外考えられない。
「ああ、ほんとにむり、といれ、といれっ……! なぎささん、といれ、もうおしっこでそうっ……」
「もう少しだけがまん、がまん」
「むり、むりっ……もうほんとむりっ、おしっこっ、おしっこもれるっ……」
考えているのか喋っているのか、自分でもよくわからなかった。
突然、弾かれたように尿意が一気に高まる。只でさえ破裂しそうな尿意が更に膨らむ。体がぞくっと跳ねて、一気におしっこが押し寄せた。
「あ、あ、あ、やばいっ、ほんとむりっ、おしっこ、おしっこでるっ……、」
「よしよし、もう少しだよ」
「あ、あ、なぎささん、なぎささんっ、もうだめ、ほんとだめっ、むり、おしっこ、でるっ……」
握りしめたおしっこの出口から、じゅ、とおしっこが溢れた。だめだめだめ、だめ、まだだめ。そう思うのに、もう無理だと全身が主張する。
「あ、あ、あ、だめ、やばい、でる、おしっこ、おしっこでる、」
「もう少し、もう少し」
「むり、むり、も、むりっ、でる、でるでるでるっ、おしっこ、おしっこでるっ、」
「でちゃう?」
「や、あ、ほんとむり、あ、あ、でる、おしっこ、おしっこでる、でる、あ、あ、あ、あ、ああぁっ……!」
しゅー、じゅー、音を立てて、おしっこが出る。押さえて、我慢して、我慢して、でも、止まらない。
「あ、あ、だめ、なぎささん、おしっこ、おしっこ、でて、あ、あ、」
じゅう、じゅ、じゅ。熱いおしっこが出て、止まって、また出て。
「よしよし、よく我慢したね」
片手で彼女の背にしがみ付き、もう片手でおしっこの出口を押さえる。まだちゃんと押さえているのに、我慢しているのに、おしっこは止まらない。
じゅう、じゅ、じゅ、おしっこ、出て。ああ、もうだめ、止まらない、おしっこ、おしっこ、でる、あ、あ、あ、もう、おしっこ、おしっこ。
「手、放してごらん。大丈夫だよ」
なぎささんの手が俺の手に触れて、そっとそこから離される。
押さえがなくなって、じゅううっとおしっこが迸る。じゅう、じゅ、じゅうう、じゅう、呼吸のたびにおしっこが出て、止まって、また出て。その間隔がだんだん短くなっていく。
縋るように両手をなぎささんの背に回した。
「あ、あ、でる、なぎささん、おしっこ、でる、でちゃう、」
「うん、良いよ。よく頑張ったね。おしっこしてごらん?」
「あ、おしっこ、おしっこ、でて、あ、あ、ああ、あぁ、ああぁ」
良いよ。その声に合わせて、じゅうう、と一気におしっこが出た。
もういい、もう大丈夫。頭が理解する前に、体が理解して、全身から力が抜けた。
「すごい音。いっぱい我慢したね」
ぶじゅーっと物凄い音がする。我慢した分、ものすごい勢いだった。他のことなんて何も考えられないくらい、心の底から気持ちよかった。
勢いは緩まったけれど、おしっこはひたひたと出続けていて、まだ全然止まらない。
おむつはおしっこを吸い込んではいるものの、勢いに追いついていないようで、ぐっしょりと濡れた感覚が下半身に纏わりつく。これ、本当に大丈夫なのかな。ちゃんと全部吸収するのかな。不安になるけれど、おしっこは止まらない。
動くとおむつに溜まったおしっこが溢れそうで、どうしていいかわからず、そのままの体勢から動けない。
「これ、溢れたりとか、」
「どうだろう。大容量って書いてたから大丈夫だと思うんだけれど。まだ出そう?」
出そうというか、現在進行形。まだ出てるし、もう結構出したのに、まだ出そう。
頷くと、なぎささんは苦笑いした。
「溢れたら綺麗にしてあげる。だから、全部出しちゃって大丈夫だよ」
今駄目だと言われても、止めるのはなかなか難しかった。
そのままの体勢で最後の一滴まで出し切り、息をつく。お腹は空っぽで心の底からすっきりした。
お尻の下、おむつに吸収していないおしっこがまだ溜まっている。液体の感覚が心地悪かったが、少しすると吸収されて感覚が消えた。
しっかりとおしっこを吸い込んだおむつは大きく膨らんでいて、特に足の間は重くずっしりとしていて、足を閉じることを躊躇する。
「全部出た?」
頷くと、やはり頭を撫でられた。
「いっぱい出たね。えらいえらい」
そう言って、今度はバスローブの裾を捲って、俺の足の間を見る。おむつを付けた下半身をまじまじと見られるのはとても恥ずかしかった。
「すごい、ちゃんと吸収したね。これなら大丈夫かな」
そうだった。なぎささんの当初の目的を思い出し、高揚していた気分が更に不安定になっていく。
おねしょ、ほんとにするんだろうか。最近漏らしたことはあっても、流石におねしょをした記憶はない。
幼いころに怖くてトイレに行かずに寝て、その結果、みたいなことはあったけれど、まさに今済ませたところで行きたくなるんだろうか。
「着替えないとね。手伝おうか?」
「じ、自分でしますっ」
立ち上がると、ずっしりと重くなったおむつが足の間にぶら下がる。足が閉じづらくて、恥ずかしかったけれど不格好な状態で、トイレに向かった。
便座に座り、おむつを脱ぐ。使用前とは比べられないほどずっしりと重かった。どれだけ出したんだろう。自分のことながら呆れてしまう。お酒を大量に飲んだからか匂いはあまりせず、色も薄かった。
どれくらい出るのか、今度、計ってみても良いかもしれない。なぎささんに計ってもらおうかな、なんて血迷ったことを考えてしまったのは、さっきの余韻で心が緩んでいるせいだ。きっとそうだ。[newpage]
新しいおむつを履いて戻ると、机の上が片づけられていた。テレビの前にいたなぎささんは俺を手招きする。近づくと、そのままぎゅううっと抱きしめられた。
「もう、ほんとユウくんは可愛いっ」
感極まった声だった。何か、彼女の琴線に触れたらしい。
「か、可愛くないですよ」
「可愛いよー。ずっと隣にいてほしいくらい可愛い」
一応、褒められているのだろう。
体をいっぱいいっぱいに使って抱きしめられると、なんだか力が抜けて楽しくなった。俺もなぎささんの背中に手を回し、肩に頭を預ける。
「なぎささん、」
「なあに」
「なぎささん、なぎささん、」
「はあい」
ぐりぐり、頭を押し付けると、くすぐったいよーなんて言いながらも楽しそうだった。
他愛のない戯れを終えて、ベッドに行くと、なぎささんにお茶を差し出された。
「いっぱい出したから水分補給しておこうね」
暖かい緑茶を飲み、ベッドに入る。なぎささんは俺の頭を撫でると、そのままベッドから遠ざかる。
「どこ行くんですか?」
「寝る前のトイレだよ」
「なぎささんもおむつすればいいのに」
「ふふ、おねしょしたらユウくんがお世話してくれる?」
そんなことを言いながら、なぎささんは返事も待たずにトイレに入ってしまった。
なぎささんのおしっこ。想像すると、どきどきした。今度、見せてもらおうかな、なんて考えてしまう。
先に横になって、目を閉じる。なぎささんが戻ってくるまで眠る気はなかったけれど、目を閉じていたいほどには疲れていた。
自分でもおかしいと思ったが、おねしょに対する抵抗よりも、そもそもおねしょすることが出来るかどうかが不安になった。後は、仮にしてしまったとして、癖にならないだろうかということ。なぎささんといるときだけおねしょできたらいいのにな、なんて。
そんなことを考えているとなぎささんが戻ってきた。隣に入って、明かりが消される。真っ暗な中、そっと体を寄せると、優しく背中を抱きしめられた。
「おやすみ、ユウくん」
ぽん、ぽん、と背中を柔らかく叩かれる。母親が子供を寝かしつけるときのそれに、子ども扱いされているなと思いながらも、疲れ切った体は簡単に流されていた。おやすみなさいを言う前に、俺は簡単に寝入ってしまったのだった。
突然、目が覚めた。猛烈な尿意に身を捩って、思わず起き上がる。寝起きのぼやけた頭を尿意が激しく責め立てる。自分がおかしくなったのかというほどの尿意。おしっこ、おしっこ、おしっこっ、ものすごくおしっこしたいっ。
部屋は真っ暗で、枕元の時計だけがぼんやり光っている。眠ってからまだ3時間ほどだった。
「な、なぎささんっ、」
咄嗟に隣のなぎささんに声を掛けた。黙ってトイレに行けば良いのに、なぜ声を掛けたのか。その時には右も左もわからないぼやけた頭で、助けを求める以外思いつかなかった。
「んん……ユウくん?」
眠そうな声が聞こえた。
「どうしたの?」
そう言って背を撫でられる。
「なぎささんっ、ぉ、おしっこっ……」
上半身を起こして座ったまま、気付いた時には手が出口をぐいぐいと押さえていた。
おしっこおしっこおしっこ、ほんとにやばい、おしっこしたい。なんでこんなにしたいのか訳が分からない。でも、したくてしたくてたまらない。
「大丈夫だよ、ほら、おいで」
なぎささんは寝ころんだまま、手を広げた。寝ぼけているのかもしれない。
尿意に、あ、あ、と声が漏れる。おしっこ、おしっこ、おしっこしたい、どうしよう、おしっこ、おしっこっ。
どうしよう、どうしよう。激しい尿意に混乱しながら必死に我慢していると、なぎささんに腕を引かれた。なぎささんにそのまま引き寄せられ、ぎゅうっと抱きしめられる。
「な、なぎささんっ、まって、」
聞こえているのかいないのか、起きているのかいないのか。なぎささんは俺を抱きしめたまま、ぽんぽんと背中を優しく叩かれる。寝かしつけられる子供の様な状態だった。
「なぎささん、まって、おれ、ほんとにトイレ、ほんとにおしっこもれる、」
猛烈な尿意はちっとも治まらない。は、は、と短い呼吸の合間に名前を呼ぶけれど、抱きしめられたまま離してくれない。
なぎささん、おしっこ、ほんとにおしっこ、もうやばい、ほんとにもれるからっ。
いっそ振りほどけばいいとわかってはいるものの、それが出来ない自分がいた。彼女の腕の中、呼吸を荒くして、必死に悪あがきを続けるけれど、尿意は全然治まらない
ぱつぱつに張った膀胱が痛い。おしっこ、おしっこしたい。いっそ眠ってしまえたらと目を閉じるけれど、当たり前のように眠れない。ただ尿意が、おしっこが俺の中で暴れまわっている。
あ、あ、あ。ぎゅうっと握りしめた手の中で、おしっこの出口がひくひくした。あ、あ、あ、やばい、でる、でる、でる。
「あ、あ、でる、なぎささん、ごめ、おしっこ、おしっこでる、でるっ……」
手の平の中で、じゅわっと、おしっこの出口が温かくなった。あ、あ、あ。上手く息が出来ず、ぱくぱくと口が動く。ああ、だめ、でる、おしっこ、も、むり、あ、あ、あ、あ。
少しの間だけは我慢できたけれど、それはほんの少しの間だった。
駄目だとまだだと制止する気持ちを振り切り、じゅいーっと、おしっこが勢いよく噴き出した。激しい勢いで叩きつけられたおしっこがおむつの中にどんどん広がり、温かくなっていく。
あ、あ、おしっこ、でてる。ぎゅうとなぎささんに引っ付くと、背を撫でられる。おしっこ、止まらない、止めようとも思えず、ただただおしっこすることが気持ちよかった。
「あ、あ、で、た、なぎささん、おしっこ、でちゃった、」
真っ暗な中、自分の呼吸とくぐもった水音が聞こえる。足の間が、お尻がどんどん温かくなっていく。
たっぷりと時間を掛けて、やっとおしっこが止まる。すっきりしたと同時に、一気に倦怠感と睡魔が襲ってきた。なぎささん、おしっこ、でちゃった。返事はない。俺も気付いた時には再び眠っていた。
目が覚めると、部屋は明るくなっていた。ぼんやり目を開けると、なぎささんが楽し気に俺の頭を撫でていた。
「なぎささん、」
「おはよう、ユウくん。よく眠れた?」
よくわからない。寝すぎたのか、眠り足りないのか、とにかく頭がぼんやりした。起き上がろうとして、お尻の下がぐじゅっと嫌に濡れているのに気づき、そのままの体勢で固まった。
「ふふ、おねしょしちゃったね」
嘘だと思ったけれど、おむつはしっかりと濡れて重くなっている。本当におねしょするなんて、と思ったところで、昨夜のことを思い出した。違う、これはおねしょじゃなくて。夢のようにぼんやりしていたけれど、あれは夢じゃなかった。
「大丈夫?」
返事をしながら、なぎささんの様子から察するに彼女は何も覚えていないようだった。寝ぼけていたのなら、良かった。自分でもはっきりとは覚えていないけれど、なんだか恥ずかしいことをたくさん口走った気がするから。
俺が口籠る様子に、なぎささんは何かを察したようだったけれど、何かまではわからないようだった。
「折角だしおむつ替えてあげる」
「えっ、いやそれは自分で、」
「良いじゃない。一緒にお風呂入った時にもう見てるんだし。ね?」
制止するのも聞かず、なぎささんは楽しそうに掛け布団を引きはがす。それからいそいそと楽しそうにおむつに手を掛けると、横の部分をびりびりと破った。履くタイプのおむつってそうやって破って開けられるんだな、と恥ずかしさの中で思った。
「すごい、いっぱい出たね」
「あんまり見ないでください……」
されるがままの状態に、腕で目を隠して天を仰ぐしか出来ない。早く終わってくれと思っていると、温かいものが太ももに触れる。
見ると、いつの間にか洗面器と濡れタオルがベッドサイドに用意されていて、それで足を拭かれている状態だった。多分、彼女は先に起きていたんだろうなと思った。俺の状態を見て、そういう用意をして、それでいて起きるのを待っていてくれたのだと、何となく思った。
恥ずかしかったけれど、正直気持ちよかった。そのまま横になって体を任せていると、そのまま足の間のその部分にまで手が掛かりそうになり、慌てて起き上がってタオルを取り上げた。
「いや、それは流石にっ!」
「そう? じゃあ新しいおむつ履かせてあげるね」
「え、いや、普通の下着、買ってくれましたよね」
「まだおしっこしたいんじゃないかなと思って。お腹ぽっこりしてるし。違う?」
違う、と言いたかったけれど違わない。いつも、朝起きたらトイレに行くせいか、先ほどから強めの尿意を感じていた。
「普通にトイレでするという選択肢はないんですか」
「それだとユウくん寂しいかなと思って。はい、お尻上げてね」
言いながら、彼女は新しいおむつを履かせてしまう。寂しい、なんて。言い返したかったけれど、寂しくてここに突撃してきた俺がそれを言えるはずがない。それに、きっと帰ったらまた寂しくなるのだろうと思う。
+++
バスローブにおむつの姿で、ベッドの上で胡坐をかいて座ると、膝立ちになったなぎささんが俺の頭を抱えるように抱きしめる。
「今日は木曜日だけど、流石に今日はお休みね。来週は絶対呼ぶから、ちゃんと我慢してくるんだよ」
「わかりました、」
「ね、ユウくん」
「なんですか」
「ちゅー、しようか」
顔を上げると、なぎささんの顔が近づいて、優しく口づけられた。柔らかい唇が離れていって、それを追いかけるように今度は俺から口づける。
「ふふ、お姉さんのファーストキスあげちゃった」
「ほんとに初めてなんですか」
「さあ、どうだろう」
「なぎささん、だんだん意地悪になってきましたよね」
「そうかな。そうだとしたらユウくんがきっかけだね。ユウくん専用イジワルお姉さん」
「お姉さん……」
「ん、年齢的におばさんだって?」
「そんなこと言ってないじゃないですかっ!」
くすくす笑いながら、またぎゅうっと抱きしめ合う。ああ、なんかいいなあと思った。うまくは言えないけれど、この人といると楽しくて、胸が温かくなる。
「なぎささん、」
「なあに?」
「おしっこ、したい」
「もう。良い雰囲気だったのに」
「だって、まだ起きてから行ってないから」
「我慢できない?」
「できる、けど、もう結構したい」
「もう、仕方ないなあ」
そう言って、背を撫でられて。力を抜くと、おむつの中が温かくなった。
「じゅーっていってるね。気持ちいい?」
「ん、すごく、きもちい、」
「ふふ、可愛い。おしっこ出来てえらいね」
「俺、子供じゃないんですよ」
「そうだったね。おむつにおしっこしてるから、赤ちゃんかな」
はあ、と息をつくと、体がぶるっと震えて、残っていたおしっこがちょろちょろと出た。
「なぎささん、ぜんぶ、でた」
「えらいえらい」
「おむつ、ぐしょぐしょ」
「いっぱい出たね。すごいすごい」
「なぎささん、」
「なあに」
「おむつ、替えて」
仕方ないなあ、なんて言いながらなぎささんは楽しそうで。顔を上げると、目が合って、どちらからともなく顔を寄せて、もう一度口付けた。
びしっとスーツを着たなぎささんは、やはり仕事が出来そうな雰囲気を醸し出していた。片手に鞄と何故か膨らんだビニール袋を持っていた。
「ほんとにタクシー呼ばなくていいの? チケットあるからお金は大丈夫だよ?」
「そんなに距離ないですから、歩いて帰ります。来た時も歩きましたから」
ホテルの入り口を出て、なぎささんは呼んでいたタクシーに乗り込もうとして、こちらに戻ってきた。
「忘れるところだった。はい、これ」
何かと思うと、持っていたビニール袋を俺に手渡す。仕事用の黒い鞄には不釣り合いだとは思っていたけれど、何が入っているかまでは聞かなかった。
「言ったでしょ、ご褒美」
「え、あ、あの、」
「あんまり遊びすぎちゃだめだよ。じゃあ、また来週ね」
ばいばい、と手を振りながら、なぎささんはタクシーに乗り込む。挨拶を返す間もなく、タクシーは走り出してしまい、俺はただぽかんと眺めるだけだった。
ご褒美なんて、そんなものいいのに。もう一度会えるならそれだけで。そう思いながら、ビニール袋を開いて、すぐに口を閉じた。
何考えてるんだあの人! ホテルの前の道だというのに、顔がかあっと赤くなる。そこに居づらくて、速足にその場を離れた。
ビニール袋に入っていたのはドラッグストアで買った紙おむつだった。何枚か使ったとは言え、まだたくさん残っているのは当たり前で。遊びすぎるなと彼女が言った意味も理解してしまう。
使うわけないだろ! そう思いながら、使うわけないなら帰りに適当に処分してしまえばいいのに、結局俺はそれを大切に持ち帰って、押入れの中、洋服の中に隠した。
違う、使うわけじゃない。これで遊ぶんじゃなくて、念のため。何かの役に立つかもしれないし、折角買ってくれたものを捨てるのも忍びないし。必死に言い訳をするけれど、自分の本心には気づいていた。
多分、あの人も気づいているんだろう。それならそれで責任を取ってほしい。こんな風にしたのはあの人なのだから。
だから、だから。
壁にかけっぱなしのカレンダーはまだ前月のままだった。一枚捲って今月の日付を見える状態にして、一週間後のその日を指でなぞる。
胸の内で、別れたばかりのあの人に声を掛ける。別に来週じゃなくてもいい、明日だって、明後日だって、呼ばれたら俺はいつでも行くから。
だからなぎささん、早く俺を呼んで。当たり前だけど返事はない。でも、何となく声が聞こえた気がした。きっと気のせいだろうけれど。
このサイト上にある画像・文章の複製・転載はご遠慮ください。
初出: 2018年8月29日(pixiv) 掲載:2019年3月13日