外は強い風が吹き荒れ、只でさえ薄暗く不気味な森に不気味な音が響き渡る。お世辞にも良い造りとは言えないこの小屋も風に煽られ、ぎいぎいと嫌な音が室内を埋めていた。
眠りについてから、どれだけの時間が経ったのか。窓の外はまだ薄暗く、朝はまだまだ先だということはわかる。それなのに私の眠気は追いやられ、先程まで眠っていたとは思えないほど頭はすっきりしていた。
窓の外から目を逸らす為に布団に潜って目を閉じた。視界が暗くなった分、耳は音を細かく拾い上げる。か細い叫び声のような音が聞こえ、これは風だと言い聞かせて、今度は意識を音から引きはがす。
音からも景色からも意識を離すと、否応なく自分の内に向けられる。先ほどから目を背けていた欲求がふつふつと煮立ち始めている。ぽこぽこと湧き上がる欲求が吐息となって口から漏れた。
ぎしぎしと鳴る小屋の中、か細い自分の吐息がやけに大きく聞こえた。
体内で沸き立つ欲求から目を逸らしたいのに、見つめずにはいられない。早く欲求から解放されたいけれど、どうすることもできない。
食欲はご飯を食べれば良い。睡眠欲は眠れば良い。
では、私が今感じている欲求はどうすれば良いのか。答えは既にわかっているけれど。
+++
夕食を終え、アメリアは私を小屋の外に連れ出した。森は何時であっても薄暗く気味が悪い。彼女の背中にぴったりとついて、道なき道を歩いていく。
しばらくすると、森が少し開け、森を割くように川が流れている。見てわかるほど浅くて細い川だ。頑張れば飛び越せるかもしれない。
「汗、かいたでしょ。これは綺麗な川だから、体拭くと良いよ」
えっ?と、彼女の言葉を理解するのに戸惑う私の隣で、彼女は何の躊躇いもなく黒いワンピースを脱いでしまった。薄暗い森の中、彼女の白くしなやかな体が外気に晒される。
当たり前に脱いだアメリアに、つい彼女の裸体をまじまじと見てしまった。
綺麗な彫刻のようなきめ細やかな真っ白な肌。出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んていて、まさにナイスバディ。それに。下は履いていたのに、上は何もつけていなかった。ブラ、つけないのかな。……ではなくて。
我に返り、慌てて背中を向けた。そうこうしていると、後ろで衣擦れの音に続いて控めな水音が聞こえた。
「体、洗わないの?」
「だって、ここ外だよ!」
「森には他の人はいない」
「アメリアがいるでしょう!」
「何をいまさら。一緒にお風呂にも入ったし、着替えさせてあげたこともあるのに」
肩越しにそっと窺い見ると、アメリアは腰のあたりまで水につかり、持ってきていたタオルで体を拭いている。白い肌に黒い髪が流れる様子はとても神秘的で、魔女というより妖精のようだった。
アメリアは私を見ると、にこりと笑う。
「おいで、拭いてあげる」
「い、良いっ!」
「気持ち良いよ」
首を振ると、するりと体に妙な感覚が走った。驚いて自分の体を見ると、私の着ていたワンピースが足元に落ちている。信じられない光景に驚いている間に、衣類はどんどん私の体を離れ、足元に落ちていく。
悲鳴を上げながら腕で体を隠し、その場にしゃがみ込む。最後の一枚、下着までもがぬぐい取られると、衣類は羽でも生えたかのようにふわふわと浮き上がった。そして、アメリアのワンピースがかかっている枝の隣にふわりと掛けられた。
何故か、どうしてか、誰がやったのかなんてすぐに分かった。魔法を使う魔女はこの場に一人しかいない。
「アメリアっ!」
「ほらおいで。大丈夫、綺麗だから」
「そういう問題じゃない……」
仕方なく諦めて川に近寄り、そろそろと足の爪先を川に差し入れた。ひやりとした水は冷たく、一瞬驚いたけれど、すぐに馴染んだ。彼女と同じように腰までつかると、それだけで体が清められたような心地よさを感じる。
「気持ちいい?」
頷くと、アメリアは口元でふっと笑う。近くで見ると、彼女は本当に人形のように綺麗だ。隣にいると、自分の姿が恥ずかしく思えた。
「満足したらあっちに大きなタオルをかけてあるから」
「うん、ありがとう」
タオルを受け取り、体を拭く。確かに彼女の言う通り、体がさっぱりして、何となく心もすっきりした気がした。
何となく下流に目をやると、下流の一部が木で囲われている。自然になったというよりは人為的に作られたような感じだった。
「アメリア、あれは何?」
「ああ、あれはトイレ」
「と、といれ……」
「一応囲ってあるから、行きたかったら行っておいで」
「う、うん」
トイレは囲ってたのに、お風呂は囲わなかった彼女の拘りがわかるようなわからないような気がした。
「あっちまで行くのが面倒なら、このまましても良いけれど」
「ばかっ」
+++
あの後、トイレは一度使った。整備されていたわけでもなく、想像通り川の一部を囲っただけの場所だった。出来ることならあの場所は使いたくないけれど、こればかりは生理現象なので使わざるを得ない。
もし叶うことなら、今まさに使いたい。けれど、外は薄暗くて、木々は風で揺らされ、不気味な雰囲気を醸し出している。こんな中、一人であの場所まで行くなんて、考えただけで足が竦む。
早く朝になってと願うけれど、窓の外は一向に明るくならない。薄暗い中で不気味に木々が揺れていて、まるで嘲笑われているようだ。
“もう少し”を繰り返して、窓の外を見る。明るくなっていなかったら、また目を閉じて“もう少し”を繰り返す。ちゃぷちゃぷとお腹の中で揺れる水分は、早く出せと私を切なく苦しめる。
「ぁ、あっ……」
何度も何度も繰り返したとき、思わず声が漏れる。
漏れたのは声だけではなかった。意識する間もなく、指先はひとりでに出口へ伸ばされ、そこを強く押さえつけていた。
下着が熱く湿っているのはきっと気のせいだ。布団を被っているから、汗をかいただけだ。原因なんてわかっているのに、そこに言い訳を重ねて見ないふりをする。
私が見るのはただ一つ。朝が来れば、明るくなれば。そこまで我慢すれば良いだけだから。
頭がそう言い聞かせるが、でも体は言うことを聞かない。また、じわりと下着が熱く湿る。
トイレ行きたい。でも外は真っ暗で、一人で行くなんて出来ない。でもトイレ行きたい。
じゅ、とまた指先が熱くなる。駄目、我慢、だめ、だめ、だめ。熱く短い息を繰り返し、体を捻って衝動を少しでも外に逃がす。効果なんてほとんどない。でも、そうでもしていないと、お腹の中の水分は溢れてきそうなほどいっぱいで。
「ぁ、あっ、あっ、」
また熱くなる。ぎゅうと押さえるが、雫がじんわりと下着を濡らしていく。
だめ、トイレに行きたい。もうあの場所でいいから、おトイレに行きたい。早く、もうだめ、お願い、トイレ、トイレ、トイレ行きたい。
またじゅわ、と雫が零れる。指先で強く出口を抑えるが、じわ、じわと零れるのが止まらない。我慢しないとだめなのに、だめ、がまん、だめ、だめ、だめ、おといれ、だめだめだめ、だめ、もうだめ、もう、だめぇっ……!
じゅわっと手が熱く濡れた瞬間、布団を跳ね除けて飛び起きた。歪んだ木の扉に飛びついて押し開けた。扉が壁に当たり、大きな音が鳴る。
机に肘をついて目を閉じていたアメリアが飛び起きた。彼女には珍しく驚きの色を顔に滲ませながら、私の方を見る。眠たげに開かれた黒い瞳を見た瞬間、私はもうどうしようもなかった。
「アメリアっ、ぉ、おトイレっ、おしっこぉっ……!」
押さえている手が熱く濡れる。言葉を飾る余裕もなく、ただただ率直な言葉がそのまま飛び出した。
きょとんとしたアメリアの顔は大変珍しいことなのだろうが、今の私はそれどころではなかった。
お腹の中はおしっこでいっぱいで、両手で出口をぎゅうぎゅうと押さえていないと、一瞬のうちに溢れてそうだった。
寝ているアメリアを起こしてはいけないだとか、夜だから静かにしないとだとか、そんなことは考える余裕が無かった。頭の中にはただひとつの言葉しかない。
もうだめ、朝までなんて我慢できない。出ちゃう、おしっこ出ちゃう。お腹の中でおしっこが出せ出せと暴れまわっていて、ちっとも落ち着いてくれない。
「外、真っ暗で、一人じゃいけなくて、お願い、トイレ、おしっこ、お願い、連れて行って……!」
もう自分で何を言っているかわからない。トイレ、おしっこ、もう我慢できない。さっきはあんなに使いたくなかったおトイレに、今は行きたくて行きたくて仕方ない。
「連れていくって、外は風が強くて危ないよ」
「でも、でも、おトイレ、わたし……!」
「わかった、少し待って」
少しなんて待てない。お腹の中でおしっこが出せと暴れまわっている。
もうじっとしていられなくて、爪先ははしたなく足踏みを繰り返す。お腹を抱えるようにお尻を突き出して、バタバタと足踏みをする格好は本当なら恥ずかしいのだろうけれど、そんなこと言っていられなかった。
少しでも気を緩めたら、熱いおしっこが一気に溢れてしまいそう。もうどうしたら良いのかわからない。トイレ、おトイレに行きたい。ただそれだけ。
「サユリ」
アメリアが呼ぶ。顔を上げると同時に、かたん、と硬くて軽い音がした。
「これに済ませて。明日片づけてあげるから」
アメリアが示していたのは、少し凹んだブリキのバケツだった。私の足元にそれを置き、アメリアはそんなことをいう。
“これに済ませて”なんて、そんなこと。頭の中が真っ白で、訳が分からない。
「や、やだ、アメリア、おトイレっ……、」
「外は風が強いし、川まで歩くのは大変だから」
「でも、でも、や、こんな、お部屋の中でなんて、」
「大丈夫。ほら、してごらん」
大丈夫じゃない。大丈夫じゃない。こんなの大丈夫じゃないけど、このままじゃ大丈夫じゃない。
「サユリ、」
おしっこ、おしっこしたい。おトイレ行きたい。でも、これ、おトイレじゃない。でもトイレは外で、真っ暗で、風が強くて、でも、これじゃ。
「サユリ、」
「だめ、お願い、おしっこ、」
「辛いでしょう、ほら、ここでしていいから」
「やだ、おトイレ、それは嫌なの、お願い、ここじゃやだっ……!」
アメリアはため息を漏らすと、私に自分のコートを被せた。
「わかった。足元には気を付けて。暗いから離れちゃだめだよ」
「うん、はやく、はやくいこうっ……!」
あのバケツを意識するだけで辛かった。あそこでしていいんだよと、私の気を緩ませようと甘く誘い込む。ちゃんとおトイレまで我慢するんだから。あれはおトイレじゃないんだから。
ぎい、と鈍い音がして、扉が開く。その瞬間、強い風が家の中に舞い込み、積み重ねられた本のページを派手に捲った。
外に出ると、風のせいかひんやりとしていて、体が勝手に身震いする。瞬間、じゅわあっと出口が熱くなり、思わず両手でぎゅうっと押さえつける。指先を熱く濡らす雫を必死に押しとどめる。
道なき道をがさがさと歩き始めた。おトイレ、もう少し、もう少しだから。必死に言い聞かせながら足を進める。
出口はじんじんとしていて、足を進めるたびにじゅ、と熱い雫が漏れだす。外は寒くて、体が冷えれば冷えるほど、零れる雫の熱さを感じる。我慢、ちゃんと我慢しないと。両手で強く押さえつけ、熱い液体をお腹の中に抱える。指先に触れた下着はぐっしょりと冷たく濡れてしまっている。
熱い液体が体を火照らせる。熱いのか寒いのかよくわからない。頭は暑くて、でも外は寒くて。お腹から零れる雫は熱くて、でも濡れた下着は冷たくて。口から零れる吐息は熱いのに、寒さと緊張で歯がカチカチとなる。
おしっこ、おしっこ、おしっこ、もうだめ、おしっこ……! 泣き叫びたくなる衝動に、膝が震える。つつ、と足の内側を熱い雫が伝った。もう少しだから、もう少し、もう少し。
風の音が一瞬止む。その時、静かな水音が聞こえた。反射的に顔を上げると、目の前は開け、森を割くように川が流れている。
やっと着いた。トイレ、トイレ、おしっこ、おしっこできる。
「サユリっ、」
静止の声が聞こえたが、体は無意識に川に駆け寄る。夕方と同じように下流に向かおうとしたけど、私は足を止めざるを得なかった。
天気のせいか、川の水が増えている。流れも速くて、川沿いに沿って下流に向かうことが出来なさそうだ。先程はこの位置から見えた囲いが今は全く見えない。流されたり飛ばされたりした可能性もある。
なんで、どうして。やっとおトイレに来たのに。やっとおしっこできると思ったのに。おしっこしたいけどできない。でもおしっこしたい。でも、おしっこ、でも、もう。
「あんまり近づいちゃ駄目だよ。危ないから」
「でも、でも、おしっこ、おしっこ……!」
じゅわ、と押さえている手が熱くなる。内股を熱い液体が伝う。
川の流れが、水音が、まるで呼び水となってお腹のおしっこを荒立てる。我慢に我慢を重ねたおしっこは、早くここから出せと暴れまわる。
駄目、おしっこしたい、でもできない。でも、おしっこ。おしっこ、おしっこしたい、おしっこでちゃう、もうだめ、もれちゃう……!
「サユリ、ちょっとごめん」
「ぇ、あっ」
アメリアの声がしたかと思うと、私の体は後ろから持ち上げられていた。
背中は彼女の胸に押し当てられるように支えられ、脇の下からアメリアの細い腕が伸び、私の太ももをしっかりと掴んでいる。履いていたはずの下着はいつの間にかアメリアが持っていて、両足を大きく広げられたポーズで私の大切なところが大きく曝け出されていた。
「や、やだっ! やめて、あめりあ、おろして、やだ、やだっ、」
いやだ。こんなの子供がおしっこをさせてもらうときのポーズだ。
体をどれだけ捩っても、彼女は私の体を開放してくれない。細い腕のどこにそんな力があったのか、私の体をしっかりと支えている。
「支えていてあげるから、してご覧」
「やだ、や、いや、あめりあ、やだ、だめぇっ」
曝け出された出口はひくひくと動き、収縮の度に熱い雫を零す。やだ、でちゃう、おしっこでちゃう、こんな格好でなんて、子供みたいで、赤ちゃんみたいで、アメリアに全部見られちゃう。
「駄目じゃないよ。大丈夫だから力抜いて」
「や、いや、あめりあ、やだ、でちゃう、もれちゃうから、やだっ……!」
「大丈夫大丈夫。ほら、しー、しー」
「あ、あ、やぁ、あ、あっ、ああぁ……!」
アメリアの声に、体が勝手に反応する。ぞくぞくと背筋に何かが走り、体が熱くなって寒くなる。強張っていた体が勝手に力を抜き始める。
やだ、おしっこ、もうだめ、もれちゃう、でる、でちゃう、おしっこでちゃう……っ。
じわじわと零れていた雫が感覚を狭めて、それは水流となった。じゃああっと太く緩やかな水音は森の中に響き渡った後、じょぼじょぼと川の中に吸い込まれていく。
「ぁ、あ、あぁっ……!」
おしっこ出てる、やだ、止まらない。一気にじゅーって、いっぱい、熱くて、気持ち良くて、力が入らない。ぐったりする私の体を細い腕がしっかりと支えている。
アメリアの体は暖かくて心地良くて安心する。緩み切った心はただ解放感と快感だけを拾い上げて満たしていく。はあ、と熱い息が漏れた。
「気持ち良い?」
楽し気なアメリアの声。ただ頷くと笑い交じりの返事が聞こえた。
「わかる?」
「え?」
「湯気が立ってる。熱いおしっこをいっぱい我慢してた証拠」
ぼんやりした視界の中で白い湯気が確かに立ち上っていた。確かな存在を認めた瞬間、一気に我に返る。火照っていた頭が更に熱さを増した。柔らかな熱の中に熱い鉄の塊を放り込んだかのようだ。
「あ、あ、あ、やだ、やっ、」
「こら、暴れない」
「だって、だって、だってぇ……」
アメリアが見ている。全部見られている。赤ちゃんみたいに抱っこされて、足を広げられて、我慢できずにおしっこしているところ、隠すこともできずに全部見られている。
「今下ろしたら汚れるから、じっとしてて」
足の間から溢れ続けるおしっこはまだまだ止まらない。消えてしまいたくなるほどの恥ずかしさの中、私はアメリアに抱えられた状態のまま、ただただ熱いおしっこをし続けることしかできなかった。
永遠にも思える時間が終わる。水流は勢いを弱め、雫へと姿を戻す。数度雫を吐き出すと、やっと私のおしっこは終わった。
「終わった?」
頷いて返事をすると、アメリアはそのまま数歩下がってから私を地面におろしてくれた。そのまま倒れこんでしまいたい気持ちを飲み込み、何とか立ち上がる。
足ががくがくとして上手く力が入らない。でも、とにかくその場を離れたくて、震える足で歩こうとすると、そっと背中に手を添えられた。
「立てる? おんぶしてあげようか」
すっきりした体とは裏腹に、心はずっしりと重かった。すっきりすればするほど、自分の今までの行動の身勝手さと恥ずかしさが身に染みる。このまま溶けて川に流されてしまいたいと思った。
「落ち着いた?」
アメリアは私にかぶせていたローブや中のワンピースを引っ張り、形を直しながら言った。
「その、ごめんなさい」
帰ろうか、とアメリアが頭を撫でた。頷くと、アメリアが口元でそっと笑ったのを感じた。
真っ暗な中、木々が風に煽られて揺れている。先ほどまではあんなに不気味に思えていたのに、落ち着いてしまえばただの木にしか思えなかった。
むしろ今気になるのは、木々があれだけ煽られるほど風が吹いているのに、私もアメリアも普通に歩けていることだった。行きもそうだけれど、風は感じているけれど強いわけではない。
「アメリア、もしかして魔法で風を弱めているの?」
「私とサユリの周りだけだけどね」
「すごい、魔法ってそんなこともできるんだね」
「まあ、ね。ちなみにこんなことも出来る」
アメリアが私の背をぽんぽんぽん、と三回撫でる。その瞬間、足の間にじとっとした嫌な感触が現れた。思わす足が止まる。それが何かなんて、見なくても一瞬でわかる。
「さっき脱がせたまま預かっていたけれど、どうしようか」
「……い、意地悪っ」
歩くたびに纏わりつく濡れた下着の感触は気持ちが悪かった。縋るように視線を向けると、アメリアは口元で笑いながら再び背を三度撫でる。そうすると濡れた感触はなくなり、その代わりにすうすうと風が通り抜ける解放感を感じた。これはこれで落ち着かない。
「明日洗ってあげるから、乾くまでそのままでいなさい」
「それは、魔法では何とかならないの」
「さあ、どうだろうか。なるかもしれないし、ならないかもしれない」
彼女のことだ。本当ならそれを乾かして清潔な状態にすることなんて造作もないことなのだろう。
彼女は本当に意地悪な魔女だ。
軋む扉を引き開け、室内に入る。小さなランタンしか光源がない部屋だけれど、外よりは暖かくてなんだかとても落ち着いた。
扉をもう一枚開き、ベッドだけが押し入れられたような小部屋に入ると、アメリアも一緒についてきた。どうしたのかなと思っていると、彼女は私をベッドに促し、そのまま自分もベッドに潜り込んできた。私一人でも軋んでいたベッドがさらに激しくぎいぎいと鈍い音を立てる。
「アメリア?」
「……疲れた」
「ごめんね」
「天が荒れているときの魔法はとても疲れる」
「そうなの?」
「魔法は天の気の流れに乗って使うものだから」
私を抱きしめたまま、顔を摺り寄せて目を閉じるアメリアはいつものツンとした雰囲気が消え去り、とても可愛らしく見えた。そっと頭を撫でてみると、擦り寄るように体を丸めた。その姿が可愛くてつい笑みが漏れる。
「ごめんね」
「謝ることじゃない」
「じゃあ、ありがとう」
返事はなかった。疲れたというのは本当だったようで、すぐに寝息が聞こえてきた。
「おやすみ」
私も同じように目を閉じる。先ほどまでどこかに行っていた眠気はすぐに表れ、私を夢の世界へ連れて行ったのだった。
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初出: 2017年4月24日(pixiv) 掲載:2020年9月12日