※女性が男性の出した液体を飲む描写があります
寝返りを打つと、床板が軋む音が雨音を割って響いた。
一昨日から降り出した雨は、時折止みながらも今日も降り続いていた。しとしとと心地良い音が世界を包む。普段より空気がじっとりと重い。水に包まれているようで心地良いけれど、少し困ることもあった。
もう一度寝返りを打つと、たぷんと腹の中で重い塊が揺れた。そのまま横になっていたけれど、込み上げる衝動に耐えきれず起き上がる。
反対側にある窓の下に置いた桶に近付いて、ズボンを下げた。中から性器を出すと、少しの間の後、しょろしょろとおしっこが噴き出した。
底を水流が叩いて、桶がかたかたと鳴る。それも最初だけで、すぐに注ぎ込む水音へと変わった。腹が軽くなって、はあと息を吐いた。
桶の中には無色透明の液体が段々と増えていく。水面が上がって、桶を八割ほど満たしてやっと腹は軽くなった。
服を正してから、桶を持ち上げる。ずっしりと重く、動かした振動で水面がたぷんと揺れる。歪んだ窓を無理やり開けて、中身を外へと捨てた。静かな雨音を、大きく派手な水音が一瞬掻き消す。しとしとと変わらず振り続ける雨音を聞きながら、固い窓を閉めた。
空になった桶は窓の下に置いて、もう一度床に寝転んだ。仰向けになって、見えるのは天井の木目だけ。目を閉じると、彼女の姿がぼんやりと浮かんだ。
雨の日は、常に水に包まれている状態に近い。水気に満たされている状態はとても心地良いけれど、体はいつも以上に水気を吸収して溜め込んでしまう。
俺は完全なウンディーネではないから、溜め込める水分には限度がある。だから、さっきから桶と寝床を何往復もしていた。何度出しても、すぐに水気が腹に溜まる。
いっそ川の中で過ごせば、我慢する必要もなく、いつでも出せる。けれど、この体は人だから、水中に長くいると疲れ果ててしまう。水から離れて身体を横たえる時間は必要だった。
雨は平等に降り注ぐ。彼女の幹も葉も、雨を存分に浴びていることだろう。
雨の日に水を運んでやる必要はない。だから会いに行かなくても良い。行く必要がない。それなのに、目を閉じると彼女のことばかり考えてしまう。
雨が続いているから、水は足りているだろう。むしろここ数日は晴れ間が無いので、それは大丈夫だろうかと気になった。
けれど、大丈夫ではないとしても、俺に何が出来る。水は運べても日差しは運べない。行ったところで邪魔になるだけだ。
わかってはいる。素直に会いたいと、様子が気になったと言えば良い。でも、それが気恥ずかしくて素直に言えない自分がいる。それなのに、暇を持て余して思い出すのは彼女のことばかり。
ぞくりと嫌な感覚がまた蘇ってきて、体に溜まり始めたものを感じる。さっき出したところなのに。寝返りを打って、その感触から目を逸らす。
寝てしまおうかと目を閉じたけれど、全く眠くはない。静かに振り続ける雨音を無意識に数える。数が増えていくに連れて、腹の重みも増していく。途中で数えるのをやめても、水気が体の中に増えていくのは変わらなかった。
耐えきれなくなって、重い体を動かして起き上がる。窓辺の桶に近付こうと思ったけれど、床に座ったままでいた。
自然と目が扉の方へ向かう。体の中で重い水の塊がたぷんと揺れる。腹はぽこりと膨らんでいて、中に何かが詰め込まれているとわかりやすく主張していた。
自分でそっと触れたのは、ぞわぞわ湧き上がる衝動を宥める為だ。彼女みたいに水を感じる為ではない。あの好奇心旺盛で悪戯な指先とは違う。
息を吐いて、吸って、吐いて。ぶるりと体が震える。水の塊は更に重さを増していく。
詰め込まれた水は更に押されて縮こまり、無理やり開けた空白に更に水が押し込まれる。水風船はそうやって大きさと重さを増していく。
自分で自分の腹を撫でながら、床にもう一度横になる。硬い床は彼女の手の平のように体を包み込んではくれない。
何をしても、彼女のことを思い出してしまう。変わりのない日々の中で、唯一変化する存在。きらきら輝く笑顔も、楽しげに俺の名前を呼ぶ声も、会う度に少しずつ違っている。
ああ、くそっ。吐いた言葉は雨音の隙間に消えていく。そのままの勢いで立ち上がって、扉を開けた。
後ろ手に扉を締めながら、躊躇うことなく雨の下へと飛び込む。服が濡れて張り付く。肌に雨粒が付く。髪が濡れて重くなる。全身濡れること自体は別にどうという事はない。心地良いくらいだ。
雨粒で視界は曇り、只でさえ見通しが悪い道が更にわかりづらくなる。それでも、迷うことなく足を動かしていた。まるで引き寄せられるかのように進むことが出来た。
森の中を進むごとに、ぞくぞくと悪寒が強くなる。肌が乾く間もなく、雨が濡らしていく。寒さは感じない。ただ、全身が周りの雨粒をどんどん吸い込んでいくのがよく分かった。
既にたっぷりと詰め込まれた腹の中に、更に水が押し込まれていく。もうこれ以上は入らないと体が叫びを上げる。腹は張り詰めていて、ずきずきと痛みすら感じる。
自然と手を伸ばして撫でていた。下腹部は自分でも驚くほどに大きく膨らんでいた。
撫でて、擦って、それから彼女の真似をして少し押してみたけれど、固く張っていて全くへこまない。代わりにぞくりと悪寒が走って、頭のてっぺんから足の先まで波が走り抜ける。思わず腹を抱えて、足を止めていた。
無理、きつい、苦しい。苦しいを通り越して痛い。腰に纏わりつく感覚は強さをどんどん増していく。立ち止まっていても体が自然と揺れる。両足が落ち着きなく地を踏む。
出したい、出したくてたまらない。甘美な誘惑が目の前で揺れていて、手を伸ばしそうになる。別に我慢する必要はない。その辺で一度出せば良い。そもそも、彼女だって今日は水を求めていないはずだ。わかっている、けれど。
ぞくぞくと嫌な感触が体の中で響き渡る。ぶるりと体が震えて、腹にある重い塊がじいんと揺れる。振動が、固く閉じた出口を解そうとする。内側から抉じ開けられそうになって、震える手が服の上から出口をぎゅうと握った。
あ、あ、もう、むり、だしたい、おしっこっ……! 心も体も叫んでいる。ぎゅうぎゅうと出口を塞いで、押し寄せる水流を必死に堰き止める。
で、る、でる、でる、おしっこっ……! 片手で強く塞いだまま、反対の手がズボンに触れる。そのまま引きずりおろそうとしたけれど、自分のどこかが待ったを掛ける。その隙に手は逆戻り。両手で出口をぎゅうぎゅうと塞ぐ。
そうやって押さえて、必死の思いで我慢をしたって、必ず限界は迎える。どこかで出さないと人の体はおかしくなってしまう。
ズボンの前を両手で押さえたまま、よたよたと足を動かした。真っすぐ立つことすらできなくて、お尻を突き出して、大きく張った腹を抱えるような体勢になっていた。
気持ちが急くのとは裏腹に、歩みはいつもよりずっと遅い。それでも、引き寄せられるように足が動いた。
何度もくじけそうになって、それでも歩いて、辿り着いた時にはもうそれ以上動けなかった。
傍に寄ると、天に向かって伸びた枝葉が雨を遮っていて、体は濡れなくなった。幹に手を突いて、それ以上は何もできなくて、彼女の根元でずるずるとしゃがみ込んだ。
身を寄せた幹が柔らかな肌へと変わっていく。温かさを感じるのは気のせいか、それとも本当に暖かいのか。
「スアーミ! 今日も来てくれた!」
顔を上げることすらできない。ズボンの前を押さえたまま、小さく丸まって動かない俺を彼女の両手が掬い上げる。その僅かな振動すら今は辛くて、体が震える。じわ、じわと追い詰められて、逃げられなくなる。
苦しさに息を吸うと、その分押し出される。出口に熱い感覚。息を止めて必死に堪えるけれど、衝動はずっとずっと強くて、もう無理だった。
「スアーミ?」
返事くらいしてやりたいのに、出来なかった。ぶじゅ、と手の中で何かが破裂したように、温かさが広がった。
「っ、あ、ぁっ……!」
手の中が熱く濡れていく。押さえているのに、塞いでいるのに、抉じ開けられて熱い液体が噴き出す。じゅうう、と水音が体の中に響く。腰のあたりに、ぞくぞくと快感が走り抜ける。体も心も、その快感を求めて手を伸ばしてしまう。
体が動かない。ズボンの前を下ろすことすら出来ない。彼女の手の平にしゃがみ込んだまま、手の中で熱い液体が噴き出すのを感じているだけ。
駄目だと一時堪えても、次の瞬間には溢れている。雨に濡れた服が、内側から溢れる液体に温かく濡らされていく。
「わ、るいっ、おろしてくれっ……!」
彼女の手を汚してしまう。何とか絞り出して、せめて地面に出してしまおうとしたけれど、彼女は何も返事をくれなかった。
じゅおおお、とくぐもった水音が大きく響く。もう我慢しようにも出来なかった。がくがく震える体から力が抜けていく。必死に塞いでいた出口は大きく開かれて、野太い水流が勢いよく噴き出していく。
あ、ああ、出てる、おしっこ、出てる。頭の芯がぼんやりと鈍くなる。意識がふわふわと宙に浮いて、解放感に包まれていく。
固く重く張り詰めていた腹が少しずつ軽くなっていく。吐き出した息に快感が解けて、熱い声が漏れた。
足元が濡れていく。土ならば溢れ出した液体を吸収してくれるけれど、今、俺の地面となっているのは彼女の手の平。柔らかく温かな場所は俺を支えるために丸く包み込んでいて、そこに生温い液体が溜まっていく。
付いた膝が、足が、液体へと沈む。水溜まりとなる程に溜まっても、彼女の手の平はそれを抱え続ける。ぴたりと寄せた指はその隙間を無くして、俺の中から溢れ続けるものをその手へ収めていく。
「ベレアルテっ……」
息も絶え絶えに、呼吸の合間に名前を呼ぶが、返事はない。そろそろと顔を上げると、青い目は確かにこちらを見ていた。慈しむような、全てを包み込むような自然に、胸の奥が跳ねる。
ちゃぷちゃぷと俺の足元で揺れるほどに液体が溜まっても、彼女は何も言わない。こんなに出したのに、まだ腹は重いままで、出口からはじゅうじゅうとおしっこが噴き出し続ける。
彼女はぴたりと合わせた両手をそのまま引き寄せた。その振動で水面が揺れて、彼女の手の外へと雫が跳ねる。
近付いたのはいつもより高い位置。それから彼女の鼻先へと近付いて、そこで彼女が何をしようとしているかわかった。
「ば、ばかっ、やめろっ」
きつい言葉を投げて、彼女は動きを止めなかった。
手の平に溜まった液体を零さないように、そっと口元へと近付けていく。柔らかな唇が手首のあたりに寄せられて、少し開いた口へと液体が流れていく。白い喉がごくりと上下したのを見て、全身が大きく震えた。
止めろと言っても、彼女は止めない。そう言いながらも、我慢を続けた体はもう言うことを聞いてくれなくて、出し続けるのを止められない。
出した液体は彼女の手を濡らして、柔らかな唇の間へと流れていく。俺を乗せているから上手く飲めないのか、口の端に雫が伝って、首筋を濡らしていく。
結局、やや傾いた彼女の手の上で、俺は腹が空になるまで出し切ってしまった。彼女は最後までそれを飲み干して、そろそろと手を顔から離した。
「……何、やってるんだ、馬鹿」
全身ぐったりと重くて、声を張る気力もなかった。彼女の手の上に座り込んだまま、それでも言うべきことは言ってやる。
彼女はいつものように目を細めて笑った。
「スアーミのお水だから」
「それなら、いつもみたいに浴びるとかあるだろ」
「だって、体は濡れちゃってる。こうしたら、私の一番奥に取り込めるから」
何を言ってるんだと思ったが、彼女の表情に毒気を抜かれた。代わりに口からは溜め息が漏れて、そのままごろりと彼女の手の上に寝転んだ。
さわさわと木の葉が擦れる音がする。緑色の髪が伸びて、空を覆っていく。雨粒は遮られ、鬱蒼とした空がやや遠くなった。
「会いに来てくれてありがとう、スアーミ。お水も、すごく嬉しかった」
「雨が降ってたら、水は要らないだろ」
「スアーミのお水は違うの。雨水とは全然違う。混ざっちゃうのは勿体無いわ。
口に何かを入れたのは初めてだけど、これが美味しいってことなのかな。すごく、美味しかった」
そう言って彼女は笑う。それ以上言葉は返せなかった。
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緑の髪が雨を遮るその下で、ぼんやりと時間の流れを感じる。ベレアルテは変わらず楽しそうで、落ちる雨粒を眺めている。唇は緩く弧を描いて、時折何かに驚いたように大きく開かれる。
彼女の口から流れ込んだ水はどこへ行くのだろうと頭の片隅で考えた。
ベレアルテの本体は木だ。ならば、取り込まれた水は太い幹の中央へと流れて、溜め込まれるのだろうか。
彼女の一番深いところ。年輪が重なったその中央。溜め込まれた水はゆっくりゆっくりと染み込んでいく。
いつか人の体が限界を迎えて、俺の外側が無くなった時。残った部分は水となるのだろうか。形のない、ただ流れるだけの水になるならば。
その時はあの唇の隙間から、彼女の中へ入りたいと思った。彼女を喜ばせる水となって、彼女の渇きを満たす。いずれ自分と彼女の境目は無くなる。水は吸収され、彼女の一部となる。
それはきっと幸せだろうと、ぼんやり考えた。
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初出: 2022年10月9日(pixiv・サイト同時掲載) 掲載:2022年10月9日