スライムさんとの珍道中 出会い&移動方法はおっぱい編

※スカ要素ありません

 前ばかり見て、足には何の注意も払っていないのが良くなかった。距離を取る為に後ろに下がろうとして、初めて足が動かないことに気が付く。驚いて視線を向けると、右の足首には太い蔦がぐるりと巻き付いていた。
 蔦は痛い程に強く締め付けていて、足を引き抜くことも出来ず、切ろうと剣を振り下ろしても太い蔦は刃を弾いてしまう。
 そうして今度は足元に気を取られて、前を見ていなかった。気付いたときには、敵は目前に迫っていた。

 鋭い爪が振り下ろされるのが見えて、防ぐために咄嗟に鞄を向ける。鞄は簡単に引き裂かれて、私はその勢いに後ろへ倒れ込んだ。食料や小物、ポーションなんかが鞄から飛び出して宙を舞うのが見えた。
 私が尻もちを着いたのと、荷物が近くの茂みへばらまかれたのはほぼ同時。がしゃんと瓶が割れる音が聞こえて、ああ、そのポーション高かったのに、とそちらに意識が向かったのは一瞬だった。

 上から黒い影が迫る。ぎらりと鈍く輝く鋭い目と、大きく鋭い爪。切れ味はさっきの鞄で証明済だ。
 まずい、これは、本当にまずい。剣の柄を両手で握って、なんとか次の一撃を防ごうとするけれど、それが単なる時間稼ぎにしかならないことはわかった。これを防いだって、次はこの剣が弾き飛ばされる。そうなったら身を防ぐものなんて何もない。薄い皮の鎧なんて、簡単に引き裂かれるだろう。

 手が震える。私、死ぬのかな。殺されるのかな。故郷を離れて旅に出た以上、死は覚悟していたつもりだった。でも、こんな突然だとは思わなかった。
 怖い、怖い。お願い、誰か助けてっ……。声に出して叫ぼうにも、歯がかちかちと鳴って、声が出なかった。
 爪が振り下ろされる。両手で強く剣を握ったけれど、その勢いは想像以上に強い。先程の想像通りに剣は弾き飛ばされる。
 手がじんじんと痺れていた。爪は再び振り上げられる。身を守る物は何もない。あ、ああああ、だめっ、殺される、誰か助けてっ……!

 咄嗟に目を瞑る。襲い来るだろう痛みに身構えていたけれど、それはなかなかやってこなかった。その代わりに、どんっと何かがぶつかる音と、ぎゃあっと獣の悲鳴が聞こえた。
 驚いて目を開けると、鋭い爪の獣は地に倒れていて、その傍では緑色の塊がぶよぶよと動いていた。

 スライムだ。大きさは人の頭くらい。どこから現れたのか、何故獣が倒れているのか、状況が把握できずに呆然としていると、緑の塊はびょんびょん跳ねて私の傍まで近付く。
 何をされるのか身構えていると、スライムは私の足を縛る太い蔓にべたりと引っ付いた。すると、じゅうじゅうと音がして、太い蔦が少しずつ溶けていく。

 どうやら、このスライムは私を助けてくれようとしているみたいだ。多分、さっきのぶつかる音は、このスライムが突撃した音なんだろう。そうやって獣を突き飛ばした後、私の足の拘束を外そうとしている。
 何故、そんなことを。考えていると、倒れていた獣が起き上がるのが見えた。獣は頭を振ると、再びこちらへ視線を向けた。

 獣は爪を振り上げた。蔦は半分ほど溶けてはいたけれど、まだ残っている。
 幸運にも、さっき落としてしまった剣は届く位置にあった。腕を伸ばして拾い上げて、両手でしっかりと握り直す。何とか立ち上がると、獣の爪がまさに振り下ろされようとしていた。
 先程の突撃が効いたのか、獣の標的は私ではなかった。爪は蔦に向かって、正確には蔦を溶かそうと頑張ってくれているスライムへ向いている。そのおかげで私は剣を構えなおす時間が出来ていた。

 剣を構えて、獣へ振り下ろす。一撃目は防がれる。追い打ちを掛けようと無意識に足を踏み出すと、溶け始めていた蔦がぶちぶちと音を立てて千切れた。自由になった両足で思いっきり踏み込んで、剣を振る。今度は獣の体を引き裂いていた。
 ぎゃああ、と獣の咆哮。鋭い目がこちらへ向く。激高した獣は爪をこちらへ向けるけれど、怪我のせいで動きが鈍い。冷静に避けてから、もう一撃。獣の体から血が迸る。
 血まみれになった獣は逃げようと踵を返したけれど、数歩進んだところで地に倒れた。その周囲に赤黒い血が広がっていく。最初はその体がびくびくと動いていたけれど、直に動かなくなった。

 ……倒した。良かった。助かった。荒くなった呼吸を落ち着けながら、剣の血を払って鞘に戻す。それから、べたりともう一度その場に座り込んだ。
 全身から汗が噴き出した。あのまま、死んじゃうかと思った。ほんとに、ほんとに怖かったっ……! 額の汗を拭い、息を吐く。それから、この危機を救ってくれた救世主の姿を探した。

 スライムは私が引き千切った蔦の残りに引っ付いていた。
 私が視線を向けると、ぴょんぴょん跳ねてこちらに近付き、それから私の足元へ。私の足に残っていた蔦に引っ付くと、それがじわじわと溶けていく。

「あの、ありがとう、ございます」
 言葉が通じるかはわからないけれど、お礼を言う。スライムはぶよぶよと形を変えると、その一部がにょきにょきと生えるように伸びていく。
 その先端は人の手のような形になって、親指を立てたグッドサインを作った。ちゃんと言葉が通じるようで、その上、案外フランクな返しについ笑ってしまった。

「ハイタッチしようか」
 フランクついでにそんなことを言って試しに手を広げてみると、グッドサインの手が開かれて、同じように広げた形になる。
「いえーい」
 返事はないけれど、代わりに広げた手が私の手に寄せられる。私も同じように寄せると、べち、と軽い音。ぶよぶよしてはいたけれど思ったより固めで、意外なことにべたべたはしていなかった。

 少しすると蔦は完全に溶けて、私の足から離れた。スライムは地面へ落ちると、ぶよぶよと膨らんだり縮んだりを繰り返している。
 助けてもらえた事には本当に感謝している。このスライムがいないと、本当に死んでいたと思うと、未だに身震いしてしまう。
 けれど、どうして私を助けてくれたかがわからなかった。先程のやり取りで言葉が通じることは分かったので、直接聞いてみることにした。

「スライムさん、さっきは本当にありがとうございます。でも、どうして助けてくれたんですか?」
 スライムはぴょんぴょん跳ねながら茂みの方へ進んでいく。重い体を動かして立ち上がり、その後を追いかける。
 茂みの向こうには、私の荷物が散乱していた。その真ん中でスライムは割れたガラス瓶を持ち上げていた。

「それ、ポーションだ」
 割れる音がしていたので、その状態には驚きはしなかった。スライムがそれをゆらゆら揺らしながらこちらへ見せていて、もしかして、とひとつの想像が浮かんだ。
「そのポーション、もしかして掛かった、とか?」
 スライムは正解だというかのようにその場でぴょんぴょん跳ねた。

「スライムさんが傷ついていたところにこのポーションが飛んできて、それで回復出来たから助けてくれた、とか?」
 スライムはガラス瓶を捨てると、こちらへ向かってびょんと飛びついた。咄嗟に両手を出すと、その上に着地してぶよぶよと動く。大正解のようだった。
 お高いポーションが割れたのは残念だけれど、結果としてそれが自分の命を救ったみたいだ。そう思うと、あの高い買い物も無駄ではなかったということだ。

 散らばった荷物を鞄へ戻そうとするけれど、切り裂かれた穴は大きいので手で押さえるにも無理があった。仕方ないので中身を入れると蓋をして、穴を上に向けて両手で抱える。
 近くの町に行ったら、修理するか新調しよう。気に入っていたので、修理できたら良いなあ、なんて考える程には気持ちも落ち着いていた。

 スライムは私の足元でぴょんぴょん跳ねていた。折角の出会い、しかも命の恩人(人じゃないけれど)とこのままお別れというのも、少し寂しく感じた。
 一人の旅は楽しいけれど、時折、誰か傍にいたら、と思うこともあった。今日みたいな事があると特にそう思う。今回は獣一匹だったから何とかなったけれど、もし複数匹いたらどうなっていたか。想像するだけで身震いした。
「あの、スライムさん。もし良かったら、私と一緒に行きませんか?」
 荷物を抱えたまま、しゃがみ込んで言う。スライムは膨らんだり縮んだりしながら、じっとこちらを見ていた。……どこが目なのかわからないので、見ている気がする、というのが正しいか。スライムに目ってあるのかな。

「私は世界を見たくて旅をしています。目的がある旅では無いので、気ままではありますが。もしスライムさんが良いなら、一緒に旅をしませんか?
 今日みたいなことになったら、また助けて欲しいです。勿論、スライムさんが危ない時には私が助けます。ポーションもちゃんと準備します。貧乏なのでそこまで良い物はあまり買えませんけど……」
 話している間、スライムさんは膨らんだり縮んだりしていた。駄目なら駄目で良いけれど、もし来てくれたらありがたい。心配事としてはスライムを連れている冒険者なんて見たことがないくらいか。
 正直、スライムが戦力になるかは全くわからない。でも仲間に大切なのは戦力じゃなくて、信頼関係だと思っている。今、私たちは互いに命を救い合った。それなりに信頼しあえると思うのだけれど、流石に考えが甘すぎるだろうか。

「どうですか?」
 スライムはぴょんと小さく跳ねると、その一部がまたにょきにょき生えて、人の手のようになった。手は大きく広げられていて、それはさっきのハイタッチのポーズだった。
「……良い、ってことですか? 一緒に来てくれるの?」
 念のためもう一度聞くと、広げていた指が動いて丸を作る。それはオッケーの形。
「ありがとう! よろしくね、スライムさん!」
 私も手を広げると、丸を作っていた手が広げられる。べち、と再びハイタッチ。こうして私は旅の仲間と出会ったのだった。

 +++

 兎も角、まずは町へ向かおうと歩き始める。スライムさんは私の足元をぴょんぴょん跳ねてついてきていた。ただ、あまり歩みは早くないようで、私が時折足を止めて待たないと離れてしまう。
「あの、スライムさん、良かったら乗りますか?」
 しゃがみ込んで、スライムさんの到着を待つ。

 お言葉に甘えますと言わんばかりに、スライムさんはぴょんと飛んで、私の抱えた荷物に乗った。ずっしりと重さは増したけれど、まあそれくらいはあるだろうなと想定していた範囲だった。
 そのままでも良かったのだけれど、スライムさんはそこから更に私の肩に飛び乗る。それを確認してから、ゆっくりと立ち上がった。

 スライムさんは私の肩や首の辺りに纏わりついていた。バランスをとるためなのか、時折ぐにゃぐにゃと動いて、肩や首へ引っ付いたり離れたり。
 その感触は何というか、正直気持ち悪かった。べたついてはいないけれど、そのぐにゃぐにゃぶよぶよとした感触には、背筋にぞくぞくした悪寒が走る。

 乗って良いと言った手前、やっぱり下りてくださいとは言いづらい。せめて他の場所を提案しようと考える。鞄は荷物でいっぱいで、そもそも穴が開いていて使い物にならない。穴を塞いでもらえないかとも思ったけれど、いきなりそんなことを頼むのも流石に失礼が過ぎる。
 スライムさんがあまり動かなくても安定する場所。考えて、ひとつ思いついて、でもそれは流石にと戸惑って。でも今の状態を考えると思いついた場所の方が良い気がする。……あと、ちょっとだけ興味があった。ちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ。
「スライムさん、あの、提案があるのですが」

 +++

 鞄を両手で持って、道を進む。遠くに町が見えるので、そこまで行けば鞄も修理できるだろう。今日はそこで一泊することになりそうだ。
 先程のぶよぶよぐちゃぐちゃからは解放されて、その代わりにぽよんぽよんと揺れるものが増えていた。足取りはとても軽やかだった。
「窮屈じゃないですか?」
 声を掛けると、胸元から緑色のぶよぶよした物が伸びてきて、手を作って丸を作る。スライムさんの体が肌を伝う感触には背筋がぞくぞくしたけれど、さっきよりは全然平気だった。

 歩くたびに、大きなものが胸でぽよんと揺れる。胸元が少し苦しい。それがちょっと嬉しかった。
 普段より一回り、いや二回りは大きい。これが憧れの巨乳。その大きさを確かめるために両手で包み込んでみたいけれど、今は両手が塞がっているので、町についてからやってみようとこっそり思った。
 胸の大きな人を見るたびに、羨ましいと思いながらも、いやでも剣を振るにはそれは邪魔なだけだからと言い訳をしていた。それがまさかこんな形で叶うとは思わなかった。
 ……自前じゃないとか言わない。それを言うと、悲しくなる。

 下着のおかげでスライムさんも安定しているようで、さっきまでのようにぶよぶよ動くこともなくなっていた。素肌にべたりとスライムさんが纏わりつく感触は最初こそ気持ち悪さがあったけれど、こうして収まってしまえば意外と何ともない。
「今日は町で鞄を修理して、荷物の補充をしたら、そのまま町で泊まろうと思います」
 胸元から伸びていたスライムさんの先端が再びオッケーサインを作る。それからするすると戻っていった。

 ひとりだとこうして話をすることもなかった。ひとりは好きだけれど、こうして会話(一方的だけど)をするのも悪くない。
 今後の旅は今までとは違った楽しみがたくさんあるのだと思うと、町へ戻る足取りは更に軽くなるのだった。

この作品はノクターンノベルズpixivにも掲載しております。

このサイト上にある画像・文章の複製・転載はご遠慮ください。
初出: 2021年8月15日(pixiv・サイト同時掲載) 掲載:2021年8月15日

0
成人済の時々物書きです。 スカ、女攻め萌え。BLよりはNLやGLが好きです。
18歳以上ですか? ここから先は、成人向けの特殊な趣向の小説(女の子、男の子のおもらし等)を掲載しています。