改札をくぐると、既に発車のベルは鳴り響いていて、足が縺れながらも何とか飛び乗った。背後で扉が閉まる音を聞きながら、息を整える。
何とか終電に間に合ったので、そこには安堵する。けれど、ぞわぞわと体の中で粟立つものを感じて、体が震えた。流れる景色は段々と速度を上げていく。終電の割には人は少ない。誰もいない長椅子の真ん中に座って、静かに息を吐いた。
それなりに飲んだので、先程までは良い気分だったけれど、段々と頭が冷えていく。ひとりになったのもあるけれど、それ以上に意識を現実に引き戻すものがあった。
ズボンの内側で膨らんだ下腹部が重い。静かに息を吐いて、自分の膝を撫でる。夜の空気はやや寒くて、自分の体の熱さがよくわかった。
楽しい雰囲気の中で、お酒はどんどん進んでいた。話が盛り上がっていたのでなかなか席を立つのも気が引けて、気付けばお開きの時間となっていた。終電までは僅かな時間しかなく、慌てて駅へと走った。地面を踏む度、飲んだ酒がお腹に溜まっているのがよくわかった。
そっと自分のお腹を撫でる。一度も出していない以上、飲んだ物は全部ここに溜まっている。幾ら飲んだかは数えていないけれど、相当な量だと思う。考えるだけでぞわりと悪寒が込み上げた。
じっとしていられない。行儀が悪いと思いながらも、片足を揺らして嫌な感覚を誤魔化す。意識すればするだけ辛くなる。違うことを考えようと思っても、込み上げる感触がじわじわと思考を飲み込んでいく。
ぶるりと体が震えて、思わず背筋が伸びた。鈍く刺すような嫌な感触。じわじわと確実に追い詰められていくようで、背中に汗が伝う。全身熱く火照っていて、息を吐きだして少しでも体温を下げようとした。
窓の向こうでは真っ暗な街並みが流れていく。そちらに目を向けながらも、頭には何も入っていなかった。
はやく、はやく、はやく。頭の中で繰り返し唱える。最寄り駅まで何駅だったか考えようとしたけれど、全然思考が纏まらない。ぞわぞわと形のない、それでいて重く鈍い感触が腰のあたりに纏わりつく。
両足を寄せて、擦り合わせる。その奥をぎゅっと押さえたくなったけれど、同じ車両には少ないながらも人がいるので、そんなことは出来ない。
少しすると駅に到着して、扉が開く。人が降りていくのを見ながら、その背中を追いかけたくて仕方なかった。でも、今降りたら帰る手段が無くなる。
シートからお尻が浮きそうになりながらも、閉まる扉を見つめる。流れ込んだ夜の空気が火照った体を悪戯に冷やして、身震いしてしまう。ぶるりと揺れる体の中、はち切れそうな程に大きな水の塊をしっかりと感じた。
楽しい気分を作り上げたアルコールの残骸。会話の合間に喉を潤した水分のなれのはて。水風船は中身をたっぷりと注ぎ込まれて破裂寸前まで膨らんでいる。息を吸うことすら辛く感じる程に、体の中はいっぱいいっぱいだ。
ぞわぞわと悪寒が込み上げる。大きな波が頭から足まで走り抜けて、びくっと体が跳ねた。あ、あ、あ。喉の奥で言葉が暴れる。全身に力が籠る。お腹の奥で、水風船が悲鳴を上げていた。これ以上は入らないと、中身を押し出そうとする。熱い液体が細い管を満たしていく。
だ、め、だめ、だめ、我慢しないと。そう思うのに、体の悲鳴はそれ以上に大きくて、ぞわぞわと形のない感触が広がっていく。あ、あ、だ、め、やばい、と、いれっ、トイレ、トイレ、トイレっ! 小さく震える体の真ん中、爆発しそうな程に膨らんだ膀胱が、限界だと収縮する。
中身が強く押し出されて、固く閉じた出口が抉じ開けられる。ぶじゅ、と熱さが広がる。咄嗟に片手がズボンの前に伸びて、布地の上からそこをぎゅうっと塞いだ。零れた熱い雫は下着へ吸収されて、肌にじっとりと纏わりついた。
ああ、トイレ、トイレ行きたい、おしっこしたいっ……! は、は、と短く浅い呼吸を繰り返しながら、荒れ狂う尿意に必死に抗う。足が震える。熱くて、汗が伝う。
少しでも気を抜けば、解放を求める体に負けてしまう。どれだけ外からぎゅうと塞いでいても、出口は一瞬で抉じ開けられてしまうだろう。その瞬間を想像するだけで怖気がした。
今はどの辺りだろうと顔を上げた時、ちょうど電車が止まった。扉が開いて、乗客が降りていく。
その背中を追いかけたくてたまらない。同じように電車を降りて、駅のどこかにあるトイレへ駆け込みたい。けれど、僅かに残った理性がここで降りたら帰れなくなると待ったを掛ける。
どう、しよう。トイレ、おしっこ、ああ、でも、ああ、あ、あ。ぞくりと突き刺すような尿意に、ズボンの上から押さえる手に力が籠もる。ああ、だめ、でる、おしっこ、おしっこ、もう、ほんとに、あああっ……!
悪寒に、びくっと体が跳ねた。熱いおしっこが一気になだれ込み、細い管が押し広げられる。だ、め、だめだめだめ、おしっこ、おしっこでる、あ、あ、だめ、ほんとにだめ、でる、でるっ。
出口を痛い程に塞ぐけれど、液体は隙間から飛び出してしまう。ぶじゅっとくぐもった水音がして、再び下着が熱く濡れる。その感触に全身の温度が一気に下がった。
あ、あ、だめ、でる、おしっこ、もうむり、で、るっ……! 無理、これ以上我慢できない。片手はズボンの前でぎゅうぎゅうと押さえたまま、反対の手を椅子に付いて、重いお尻を持ち上げた。そのまま、扉に向かって震える足を動かそうとしたけれど、それは少し遅かったようだった。
お尻が椅子から離れた瞬間、無情にも扉が動く。あ、と思わず漏れた声は扉の閉まる音にかき消された。さっと血の気が引く。窓の向こうで景色がゆっくりと流れ始める。その光景が目に映っていたけれど、何を見ているのか自分でもよくわからなかった。
電車は再び動き出した。次の駅に辿り着くまで、止まらない。
ああ、おしっこ、おしっこしたい、おしっこっ……! 中途半端に浮いていたお尻が再び椅子に落ちる。下腹部でこれ以上ない程に膨らんだ膀胱がずっしりとのしかかる。お腹が重くて、普通に座っているのも辛い。
椅子に浅く座って、お腹を抱えるように前かがみになった。片手はもうズボンの前から離せない。こうして塞いでいないと、おしっこが一気に溢れてしまいそうだった。
みっともない格好だと思う。けれどそれ以上の最悪を必死に避けようと、嵐のような生理現象に必死に抗う。幸か不幸か、先ほど乗客が降りたことで、この車両に乗っているのは自分ひとりだけのようだった。
辛い。苦しい。泣き出しそうになりながら、鼻を啜る。おしっこしたい、出したい。もう何でも良い。おしっこ、おしっこ、おしっこっ!
おしっこがしたすぎて、おかしくなりそうだ。荒れ狂う尿意が体の中で渦巻いて暴れている。で、る、でるでるでる、おしっこでる、もれるっ……! 体の衝動に任せてしまいたい。諦めて、楽になりたい。負けそうになる心を何とか奮い立たせるけれど、もう本当に限界だった。
お酒を飲むのだから、こまめにトイレに行くんだった。余裕を持って店を出るんだった。電車に乗る前にトイレに行くんだった。本来だったら何度かに分けて出されたはずのおしっこが今、全部このお腹に入っている。出したい、おしっこしたいっ……! 叫びだしたくなりながら、ただ必死に我慢した。
「っ、あ……!」
じわりじわりと熱い液体が零れて、出口を熱く濡らす。思わず喉の奥から細い声が漏れた。あ、あ、で、るっ、でる、おしっこ、おしっこっ……! 手で押さえて、中腰になって体を揺らして、両足をばたつかせて、幼い子どもよりもみっともない姿で必死におしっこを我慢する。
トイレトイレトイレ、おしっこ、おしっこしたい、もれる、もう、ほんとに無理、おしっこ、おしっこでる、でるから、はやく、はやくっ……!
ぎゅうぎゅうと出口を揉んで、おしっこを誤魔化す。もう呼吸すら上手く出来なくて、は、は、と犬のように荒い呼吸を繰り返す。酸素が足りないのか、頭がぼんやりした。涙に滲んだ視界の中、流れる景色が段々と速度を落としていく。
中途半端な体勢のまま、膝を伸ばす。前屈みになって、お尻を突き出して、震える足で扉の傍まで近付いた。前を押さえる手は離せない。両足は外へ出るのを待ちきれず、その場で慌ただしく床を踏む。
流れる景色がはっきりとしていく。味気ないコンクリート造りの駅を前に、電車が止まった。ここが何という駅なのか。ここで降りて帰りはどうするのか。考えるべきことを考える余裕は欠片もなかった。頭の中までおしっこで満たされているかのように、他のことは何も考えられなかった。
は、やく。はやく、はやく。なかなか開かない扉を急かす。おねがいはやく、おしっこ、おしっこでる、もうむり、ほんとにでる、おしっこ、おしっこっ……! お尻を突き出し、ぎゅうぎゅうとズボンの前を揉んで、地団太を踏んで、なりふり構わずおしっこを我慢する。
やっと、電車の扉が開いた。開き切る前に隙間へ体を捻じ込み、無理やり外へ出る。足がコンクリートの固い地面を踏む。夜の空気が、燃えそうに火照った体を冷やしていく。
トイレ、どこ。右を見て、左を見たところで、ぶるりと体が震えた。お腹がきゅうと収縮する。おしっこが押し出されて、ぶじゅう、と熱さが広がる。もう何度もおしっこを吸い込んだ下着が再び濡れる。強く強く押さえるけれど、止まらない。
じゅ、じゅう、と熱い雫が溢れる。震える指先が熱く濡れる。あ、ああ、あ、だめ、おしっこ、おしっこ、でる、でる、……で、るっ……! 頭が真っ白だった。もう何もわからなかった。ただ、おしっこが出したくて、それしかなかった。
震える足で前へ進みながら、反対の手でズボンの前を無理やり引っ張り下ろした。押さえていた手を中へ突っ込んで、縮こまったものを無理やり引っ張り出す。
「あ、あ、あ、あっ……」
か細い声が駅のホームへと消えていく。よたよたと数歩進むと、ホームの端に辿り着いた。一段低くなった場所にはもう一つの線路が左右へ延びている。
しょろしょろともう我慢しきれずにおしっこを零す先端を、線路へと向けた。今降りた電車の明かりが背後から照らしている。溢れたおしっこがきらきらと光を反射して、ホームから線路へと落ちていく。
「っ、あぁっ……!」
情けない声が漏れる。張り詰めたお腹が一気に縮んで、中身を勢いよく押し出した。破裂寸前まで膀胱を広げていたおしっこが細い管を広げ、小さな出口を押し広げて、途轍もない勢いで噴き出していく。その感触に、喉の奥から固まった声が零れ出した。
じゅうううう、と野太い水音が静かな夜に響き渡った。あ、あ、おしっこ、出、てる、すごい、出てる。手が震えて、そこから伸びる放物線もぶるぶると不安定な軌跡を描く。
腰にじいんと響くような快感に体が震えていた。ぽかんと口を開けて、空気をいっぱい吸い込み、吐き出す。ぐちゃぐちゃだった頭の中身はどこかへ流されて、真っ白だった。
ああ、すごい、おしっこ、おしっこ出てる、気持ち良い。薄く目を閉じて、体を満たしていく解放感と言う名の快感に酔いしれていた。アルコールでの酔いなんて比べ物にならない程、天にも昇る心地よさに包まれていた。
空気が抜けるような音が聞こえて、背後から照らす明かりが流れていく。先程まで乗っていた電車はホームを出発して、次の駅へと進んでいった。帰る手段がなくなってしまったけれど、今はそんなことはどうでも良かった。
ホームの照明は僅かで、辺りは薄暗い。限界を越えて我慢したおしっこはなかなか止まらず、反対の線路に向かってぼんやりと立っていることしか出来なかった。
水音は鳴り響き、おしっこはどんどん溢れていく。どれくらい時間を掛けたか、頭が冷静になってしばらくしてから、やっと重かったお腹は軽くなった。焼けそうな程に火照った体はすっかり冷え切っていて、出し切った余韻と合わせて体がぶるりと震えた。
最後に残った雫を出し切り、やっと長いおしっこを終える。自然と目を閉じて、はー、と長い息を吐いた。
おしっこ、で、た。間に合った。……気持ち、良かった。解放感と爽快感に満たされて、とてもすっきりしていた。体の芯がじいんと痺れて、頭がぼんやりしていた。
重い体を動かして、ズボンの前を整える。下着はぐっしょりと濡れていたが、我慢するしかなかった。着替えなんて持っているはずがない。
足元のコンクリートには黒い筋が縦に伸びていて、その先は一段低くなった線路に続いている。薄暗くてはっきりとは見えないが、砂利の上には水溜りが広がっているようだった。自分がした事を客観的に見せつけられているようで、冷えた頬が熱くなった。
余韻で体の芯がまだ痺れていた。手も足も少し震えていた。何とか動かして、その場から後ずさる。文字通り頭は冷えていて、今の状況を冷静に捉える。
終電は行ってしまった。タクシー代は無い。歩いて帰るしかないだろう
ここは一体どこなのか。見慣れない駅名を見ながら、改札を探してホームを歩く。吹き抜ける夜の空気に、ぶるりと体が震えた。
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ご機嫌な上司が一万円札を押し付けながら、一足先に降りていく。お礼を言いながら、座ったまま頭を下げてその姿を見送った。重そうな扉がばたりと閉まり、車は再び走り出した。
運転手と二人きりになり、車内にはよくわからないラジオが静かに響くだけだった。シートに体を預けて、外を見る。遅い時間にも関わらず、通行量はそれなりにある為、思ったよりゆっくりした速度で車は走っていた。
前方にある料金表示を一度だけ見て、窓の外へ目を向ける。大通りは明かりこそ消えているものの、人通りは多く、賑やかそうだった。
ぶるりと体が震える。背中に嫌な汗が伝うのを感じながら、貰ったお札をポケットにしまった。静かに息を吐いて、シートに深く腰掛ける。違うことを考えようとしたが、じわじわ込み上げる感覚は段々と大きくなり、形をはっきりさせていく。草臥れたズボンの膝を握った手が少し汗ばんていた。
タクシーに乗る前にトイレに行っておくべきだった。店を出てから駅で済まそうなんて考えなければ良かった。会話が途切れるのが嫌で、席を立つのを躊躇しなければ良かった。
後悔が次から次に湧き上がる。久しぶりの飲み会での楽しい時間は既に遠い彼方に消え去っていた。
あの上司とは普段関わりがなかったものの、意外と会話が弾んだ。タクシーに相乗りさせてもらうだけではなく、タクシー代まで頂いてしまって、本当にラッキーだと少し前までは感じていた。
上司とふたり、タクシーに乗り込んだ瞬間、後回しにしていた感覚が一気に蘇った。シートに預けた体の真ん中に、ずっしりと重い塊があるのがよくわかった。
やばい。冷や汗が伝う。上司の話に相槌を打っている間はまだ誤魔化されていたけれど、頭の中では全く違うことを考えていた。ぞわぞわと込み上げる悪寒は気の所為ではなくて、スーツのズボンをさり気なく擦り合わせて嫌な衝動を誤魔化す。
後悔がぐるぐると渦を巻く。鞄を膝に乗せて、ズボンの前をさり気なく隠す。太腿をぎゅうと寄せて、嫌な衝動に必死に抗った。
タクシーだと家までどれくらいだろうか。電車移動が多いので時間の予想が付かない。車の揺れに合わせて、お腹の中でたぷんと水の塊が疼く。
飲んだ物が全部ここに溜まっている。何杯くらい飲んだだろう。量で見てもかなり飲んだのに、ましてや口にしたのはアルコールだ。利尿作用という言葉が浮かんで、体に悪寒が走る。自分の膝を握りしめた手が震えていた。
途中でちゃんとトイレに立てば良かった。後回しにするんじゃなかった。嫌になる程に後悔していたが、今となってはどうする事もできない。我慢するしか、無かった。
口元に手を寄せて、荒くなる呼吸をなんとか隠していると、バックミラー越しに運転手の視線を感じた。怪訝そうな視線に、吐きそうだと思われていることに気付いて、慌てて手を離した。
我慢、我慢、我慢。頭の中で何度も繰り返す。車は確かに前に進んでいる。電車よりは早く帰れるはずだ。大通りを進むタクシーを、はやくはやくと心の中で急かす。
ズボンの内側で下腹部は大きく膨らんでいて、ぞわぞわと嫌な感触が纏わりついて離れない。そわそわと足を寄せては擦り合わせながら、窓の外を流れる景色を見ていた。
ああ、はやく、はやくトイレ、おしっこっ……! 考えられるのはトイレのことだけ。ふー、ふー、と呼吸を繰り返しながら、じんじんと響く尿意を必死に我慢する。
無情にもタクシーは信号で止まってしまう。ああ、はやくはやくはやくっ。足が震える。手はズボンの上から太腿を強く握り締めていた。
窓の外では、楽しげな雰囲気の男二人がよろよろと歩いていた。彼らは顔を見合わせると、そわそわと落ち着きない足取りで大通りから細い路地へと入っていく。
タクシーが走り出す直前、見えてしまった。街頭の明かりは微かにしか届いていなかったが、それが逆に良くなかった。僅かな明かりをきらきらと反射させた物が見えた。彼らは壁に向いて立っていて、その手は体の前に添えられている。
その光景は恨めしくて、羨ましくて、刺激が強かった。立ちション、だ。彼らもトイレに行きたかったようだ。一瞬見えた表情はとても気持ち良さそうで、羨ましくて堪らなかった。
走り出したタクシーの中で、体が震えた。あ、と小さく声が漏れたが、ラジオの音に紛れたようだった。大きな波が走り抜けて、悪寒が広がる。あ、あ、あ。ぴたりと両足を寄せる。手が震える。足に力が籠もる。靴の中で、爪先が何かを掴もうと曲がる。
だ、め、といれ、お、しっこっ……! ぱつんぱつんに張り詰めたお腹が苦しい。出したい。出したくてたまらない。今すぐ車を止めてほしい。もうトイレじゃなくても良い。さっき見たように、どこかその辺でおしっこしたい。そうしないと、もう、本当に、やばい。
膀胱が破裂しそうだ。ずきずきと痛みすら感じる。トイレトイレトイレ、おしっこっ……! 足が震える。息を吸うことすら辛い。
膀胱が爆発しそうで、わなわなと震える。限界だと中身を出口へ向かって押し出す。細い管が熱い液体に満たされていく。
あ、あ、あ、だ、めっ、でる、で、るっ……! 固く塞いだ出口からじわりと滲み出る。全身に力が籠もって、荒れ狂うおしっこを必死に堪える。全身燃えそうな程に熱い中、下着が一際熱く濡れたのがわかった。
う、あ、や、ばい。ちょっと、出た。どうしよう、トイレ、おしっこ、もう本当にやばい。手が震える。うまく息が吸えない。トイレトイレトイレ、おしっこ、おしっこしたい、出したい、あああ、おしっこ、おしっこっ……!
いつの間にか体は丸くなり、自分の膝を見つめていた。シートの上でお尻が揺れる。お腹が重い。苦しい。出したい。すぐそこに見える甘美な瞬間に飛びつきたくてたまらない。
重い頭を持ち上げる。窓の外は真っ暗だった。いつの間にか大通りから外れているようだった。ここはどこなのか全くわからない。頭がぐちゃぐちゃだ。後どれくらい掛かる? もう、我慢、なんて。トイレ、おしっこ、ああ、あああ。
「っ、あ、あっ」
喉の奥で声が潰れる。やばい、むり、で、る。といれ、おしっこ、お、しっこ、で、るっ。全身が震える。膀胱がずきずきと痛む。で、る、でるでるでる、おしっこ、おしっこ、でるっ……!
ぶじゅう、とくぐもった水音が確かに聞こえた。下着に熱さがぶわっと広がって、怖気が走った。あ、あ、あ、ああっ……! ズボンの上から疼く出口を思いっきり押さえた。
おしっこ、おしっこしたい、おしっこ、おしっこっ……! 押さえても尿意は全く収まらない。子供みたいにぎゅうぎゅう揉んで、椅子の上でお尻を揺らして、落ち着きなく全身でおしっこを我慢する。
出したくて出したくてたまらない。一瞬でも気を抜いたら、震える出口は体に任せて一気に開いてしまう。それだけは駄目だ。我慢、我慢しないと。は、は、と短く呼吸を繰り返しながら、窓の外を見る。薄暗い夜道が滲んで見えた。
「あー、すみません。この先のところであってますか?」
運転手が前を見ながらそう言う。意識の外にあった存在から声を掛けられて、びくりと体が跳ねた。その瞬間、膀胱が縮んで、じゅわあっとおしっこがまた広がる。あ、ああ、だめ、でる、でるでるでる、おしっこ、でる、でるっ。
「そ、そこで、良い、です。と、止めて、く、くださ……」
「良いですか? じゃあ車寄せますね」
声が震える。歯がかちかち鳴る。震えながら絞り出した言葉に、運転手は気にした様子もなく、タクシーの速度を落としていく。
あと、少し。少しだけ。我慢、我慢しないと。震える手で出口を強く揉んで、荒れ狂う尿意をとにかく誤魔化す。
おしっこ、おしっこ、おしっこ、あ、あああっ……! じゅわあっとまた熱いおしっこが広がる。下着がぐっしょり濡れて肌に張り付く。苦しい。息がうまく出来ない。おしっこ、おしっこしたい、おしっこ、おしっこっ……!
車がのろのろと道の端に止まる。運転手が振り向く前に、慌てて鞄を膝に乗せて、ズボンの前を隠した。押さえる手は離せない。離した瞬間、疼く出口は大きく開いてしまう。
すぐに降りたかったのに、扉は開かない。なんで、はやく、早く降ろしてくれ、おしっこっ、おしっこもうでる、ほんとにもうむりだから、はやく、はやくっ。
運転手はのんびりした口調で金額を口にする。言葉は聞こえているけれど、その意味が理解できずに固まる。一拍置いて、料金を払わないといけないことに気付いた。
上司から押し付けられたお札をポケットから取り出して、震える手で渡した。
「一万円ですね。えーっと、お釣りが……」
「良いっ、良いですっ、お釣り、いらない、ので」
運転手はそうですか? と言いながらもお札を閉まっていく。その動きはとても緩慢に見えて、早くしてくれと泣き出しそうになった。
で、る、でるでるでる、あ、ああ、おしっこっ、おしっこでる、でる、あ、ああ、あっ……! ズボンの前を押さえた手の中で、出口がぐわっと開く。ぶじゅうう、と熱いおしっこが噴き出して、服の中に広がる。
だ、め、おしっこ、おしっこっ……! 強く押さえると一瞬止まる。けれど、すぐに次のおしっこが押し寄せて、溢れる。じゅう、じゅ、じゅ、とくぐもった水音が体の中で響いている。
押さえる手が濡れている。頭の中はぐしゃぐしゃだった。おしっこがしたくて、それ以外は何も考えられない。苦しい、出したい、おしっこ、もう、もう本当に、あ、ああ、あ、っ……!
タクシーの重たい扉が開く。片手で鞄を持ち、反対の手はその裏側でズボンの前を揉みしだく。で、る、でるでるでる、おしっこ、おし、っ、こっ……! 震える足が、靴底が、アスファルトを確かに踏む。震える両足で地面に立つ。
手の中が熱く濡れる。出口が膨らんで、おしっこが噴き出す。太ももに熱い液体が伝う。じゅ、じゅう、じゅうう、と熱い水音が体聞こえる。世界が真っ白になっていく。周りから音が消えていく。
その場に立ち尽くしていた。滲む視界の中、明かりが遠ざかっていく。タクシーが走り出して、夜道にひとり取り残されていた。
「あ、あぁっ……」
情けない声と共に、じゅごおおお、とズボンの中で水音が渦巻いた。塞いでいる出口は大きく開いて、中から熱い液体が勢いよく噴き出した。我慢に我慢を重ねたおしっこは猛烈な勢いで溢れて、服を濡らしていく。
熱いおしっこが足を伝って流れていく。靴下が濡れて、靴の中が生温かくなっていく。少し間を置いて、ズボンの真ん中からびちゃびちゃ! と水流が真っ直ぐ落ちて、足元へ叩きつけられた。
あ、あ、おしっ、こ……! 体が震える。どこにも力が入らない。膝ががくがく震えていて、自分の足で立っていることすら不思議だった。
せめて立ちション、と思う事すらできなかった。頭は真っ白で、立ち尽くすことしかできない。体に任せて、ただおしっこが勢い良く溢れていく。濡れたズボンが肌にぴたりと張り付いていく。
我慢に我慢を重ねたおしっこは気持ち良くて、はあと溜息が漏れた。服が濡れる気持ち悪さも、間に合わなかったというみっともなさも、今は快感に押し出される。爽快感という名の快感に満たされて、全身溶けてしまいそうに気持ち良かった。
暗がりの中、ぼんやりと立ち尽くしていた。焼けるように熱かった体はすっかり冷えて、ぶるりと身震いした。
体は信じられないくらいすっきりしていた。はあ、と吐き出した息は夜に溶けていく。ぴちゃ、ぴちゃとズボンから雫が落ちる音が微かに聞こえた。
ああ、おしっこ、で、た……。白んでいた頭が段々とはっきりしてくる。下着はしとどに濡れて、肌に貼り付いている。ズボンも濡れて、ずっしり重くなっていた。靴と靴下も、地面に張り付くように重かった。
やってしまった。間に合わなかった。理解した瞬間、情けなさに涙がこみ上げる。間に合うと思っていた、のに。こんなことなら、ちゃんとトイレに行っておくんだった。後回しにするんじゃなかった。鼻を啜りながら、こみ上げる後悔に項垂れる。
呆然と立ち尽くしていたが、そうしていても何も状況が変わらない。
重い足を何とか持ち上げて、一歩踏み出す。靴の中で濡れた靴下がぐじゅっと水気を吐き出す。濡れたズボンが纏わりつく。
少し先に自宅が見えるのが、せめてもの救いだった。気持ち悪さに身震いしながらも、薄暗い道をゆっくりと歩いていった。
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初出:2023年11月18日(pixiv・サイト同時掲載)
掲載:2023年11月18日