観覧車にて ペットボトル編

以前書いた「観覧車にて」のペットボトルにした場合を書きました。
ついでに全体的に加筆修正しています。

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 橙色の空に観覧車が大きくそびえ立っていた。賑やかだったこの場所も終わりの雰囲気を纏い始めた中、俺たちは行列の中にいた。並び始めた時を思えば少しは前に進んだとは思うけれど、先はまだ長そうだ。
 隣で、彼女は鞄からペットボトルを取り出した。中は透明な水で満たされていて、ぱきっと軽い音と共にキャップが外される。
 小さな口元に近付けられて、中身が静かに揺れる様子に目が引き寄せられていた。彼女は三分の一ほど飲んでから、ボトルをこちらへと差し出す。どうぞ、とその表情が言っていた。

 喉は渇いていた。それでも今、水分を取ることに躊躇いが無い訳がなかった。飲みたい、でも、飲んでしまえば、きっと。頭の中でぐるぐると考えを巡らせている間に、彼女は俺の手を取ってボトルを握らせた。
「飲まないと体壊すよ?」
「いや、でも……」
「大丈夫だよ。あと三十分くらいだから。ね?」
 正直に言えば、その三十分すら考えるだけで気が遠くなる時間だった。体の内側では嫌な衝動がむず痒く暴れていて、さっきからずっと落ち着かなかった。
 あの、と口をついた言葉は、彼女が俺の手の上からペットボトルを握り締めたので、続きは言えなかった。

 飲んだ方が良いとは思う。背中には嫌な汗が伝っていて、喉がカラカラだった。けれど、ぞわぞわと肌の下で疼く嫌な感触に、飲むべきじゃないと頭が警告を続けている。
「あ、進んだ。もう少しだね。楽しみ」
 彼女は鞄から取り出したパンフレットを見ながら楽しそうに笑っていた。横から覗き見ると、中央には観覧車が大きく描かれている。視線を上げると、同じものがそこにも存在していた。この遊園地の目玉なのだろう。彼女が乗りたがる気持ちもわかる。

 一時間程前だったと思う。ジェットコースターを乗り終えて、アイスコーヒーを飲みながら閉園時間の話をしている時、彼女は最後に観覧車に乗りたいと言い出した。
 別に、乗るだけなら幾らでも付き合う。高所恐怖症という訳でも無いし、どちらかというとこういうものは好きな方だ。
 アイスコーヒーはあっという間に飲み干していた。空になったカップを捨てて、じゃあ行こうかと足を動かすと、ぶるりと体が震える。一気に飲んだからか、体が少し冷えていた。その上、思い返せばトイレにしばらく行っていない。
 観覧車に乗る前にトイレに行こうと考えていると、彼女は俺の手をぎゅっと握って、にっこり笑った。そして、その笑顔のまま、言った。
『観覧車が終わるまで、トイレに行くのは禁止』
 言葉の代わりに息が漏れた。下がった体温が更に下がる。そんなの、と喉元まで出かかった言葉は飲み込むしかなかった。

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 口の中がべたつく。喉が痛む。握らされたペットボトルに視線が向く。中で揺れる透明な液体を見ただけで、喉が音を立てた。同時にぞくりとした悪寒も感じた。
 飲むべきじゃない。わかってはいたけれど、体が求めている。少しだけ震える指先でキャップを外し、恐る恐る口元に運ぶ。横目で見た彼女は微笑ましそうな視線をこちらに向けていた。
 時間が経って温くなっていたけれど、それが逆に飲みやすかった。美味しい、と頭の片隅で感じながら流し込んでいく。体に吸い込まれていくようで、気付いた時には中身は空っぽになっていた。息を付く俺を彼女が楽しそうに見ていた。
「足りない? もう一本買ってこようか?」
 言いながら、彼女は空になったボトルを俺の手から受け取り、鞄に片付ける。正直、まだ喉は乾いていたけれど、ぞわぞわした嫌な感触が静かに広がっていくのを感じる。
「……大丈夫、もう良い」
「そう? 遠慮しないで言ってね」
 一気に飲み干した水分がまっすぐ腹の下へ落ちていくような錯覚に陥る。ずしりと重くなったところに、更に注がれていく感触。飲むべきじゃなかったと心の底から思った。

 また列が進む。腰の辺りに纏わりつく嫌な感覚が強くなる。じっと立っている事が何より辛くて、片足に体重を掛けて、さり気なく体を揺らした。
 トイレに行きたい。頭はそのことでいっぱいだった。出来ることなら、今すぐこの列を飛び出したい。道中に見かけたトイレが目に焼き付いていた。
 あのトイレもここと同じように大人や子供が列を作っていたけれど、どうせ並ぶならあっちの方がずっと良い。隣の彼女を振り切ってトイレへ駆け込む光景を、もう何度も想像してしまっていた。

 じわじわと列は進んでいる。気付くと前にいるのは二、三組になっていた。その向こうにはスタッフらしき若い男性が見えた。
 あと少し。けれど、これで終わりじゃない。ゴンドラに乗り込んで、一周回るまで待たないといけない。一体どれくらい掛かるんだろうか。考えるだけで眩暈がする気がした。
 腹の下がずきずきする。ズボンの上からさり気なくその部分を摩ると、へその下を押し上げるように固く膨らんでいた。飲んだ水分が全部そこに溜まっていると思うと、寒気すら感じる。背中に嫌な汗が伝う。こうして汗で全部出てくれないかと意味の無い事まで考えてしまう。

 硬く張り詰めた水風船がずきずきと脈打つ。中身をいっぱいに詰め込まれていて、出したい、早く中身を出してくれと体が必死に訴えかける。
 ああ、トイレ、トイレ、トイレ! 体の内側で暴れまわる衝動に、感情が掻き乱される。はやく、トイレ、ああもう、トイレじゃなくても良い。どこか人目の無いところで立ちションでも良い。とにかく何でもいいから、今すぐに楽になりたかった。
 ぞわぞわした悪寒が押し寄せてくる。あ、あ、だめ、トイレ、行きたい、……お、しっこっ……。両足を寄せて、衝動に必死に抗う。切なく疼くその部分に、手が伸びそうになる。せめて人目がなければ、押さえられるのに。
 さり気なく足踏みをして、さり気なく体を揺すって、荒れ狂う波に必死に抗がった。はあ、はあ、と呼吸が荒くなる。まっすぐ立っていたいのに、張り詰めた腹を抱えるように腰が引けてしまう。ああ、トイレ、トイレ、トイレっ……!

 歩く、止まる、歩く、止まる。震える視界の中で、また一組が乗り込んでいくのが見えた。
「次の次だね。楽しみだー」
 彼女の気の抜けた声に返事をする余裕は無かった。俺たちの前にはあと一組。あと、少し。あとほんのもう少し。でも、もう少しだからと言って、何があるというのか。
 あのゴンドラの中に何かがある訳じゃない。でも、あの中に入れば、人目は無くなる。ズボンの内側、下着の中でひくひく疼く出口を思いっきり押さえることが出来る。そうしたら、もう少しくらい我慢できる、はず。

 ぶるっと体が震えて、悪寒が走る。その瞬間、熱い液体が出口に向かって一気に押し寄せた。思わず体が強張る。あ、あ、だめ、トイレ、お、しっこっ……! 両足を寄せて、必死に堪えるけれど、いっぱいに膨らんだ膀胱が中身を押し出そうとしている。咄嗟にポケットに手を突っ込んで、その手の先で出口をぎゅうと摘まんだ。
 あ、あ、だめ、おしっこしたい、おしっこ……! 叫び出したい程の衝動に、目頭が熱くなった。トイレ、おしっこ、おしっこっ。他の事なんて欠片も考えられない。もう、限界だ。ひくひく疼く出口は今にも中身を噴き出してしまいそうだった。

 はあ、と吐き出した息は熱い。足が震える。視界が歪む。トイレトイレトイレ、もうむり、おしっこ、おしっこしたい、おしっこっ…。! じっとしていられずにその場で足踏みをすると、ちょうど前の一組がゴンドラに乗り込んだところだった。
 次が俺たちの番。だけど、これに乗り込んだら、本当にトイレに行けなくなる。咄嗟に隣を見ると、彼女は何ともない顔をしていた。
「次だね。楽しみ」
 そんな、普通の感想を口にしている。俺の状況を誰よりわかっているはずなのに、どうしてそんな普通でいられるのか。

 は、は、と呼吸を繰り返す。固く大きく張り詰めた膀胱がたぷんと揺れて、きゅうと縮む。
 じんじんと響く衝動を、ポケットに入れた右手で出口を揉んで誤魔化す。足の震えが止まらない。うまく息が出来なくて、頭ががんがんした。ああ、もう、おしっこ、トイレ、ああ、おしっこ、おしっこ、おしっこっ……!
 我慢、我慢しないと。頭の中で何度も繰り返すけれど、尿意の波がそれを簡単に押し流す。ああ、おしっこ、したい、お、しっこ、っ……! 必死に耐えているけれど、体の中で暴れまわる衝動は収まらない。じわ、じわと先端に向かって熱いおしっこが満たされていく。

「……っ、ぁ、ぅ、あっ……!」
 思わず漏れた声は周りの喧騒に溶けて消えた。布越しに指で押さえる性器の先端が、じわりと熱く濡れたのがわかった。背筋が強張る。あ、ああ、やばい、おしっこ、ああもうむり、トイレトイレトイレっ、おしっこっ、いかないと、もうっ……!
「っ……! あ、あのっ……」
 渇いた口から零れた声は震えていた。隣の彼女は首を傾げて、固まっている俺の左手に触れた。指を絡めて、ぎゅっと握られる。自分の手が汗に濡れていることにそこで初めて気付いた。

「なぁに?」
 言わないと。もう無理だと、もう我慢できない、と。トイレに行かないといけない。本当にもう無理、このままだと、もう、もうっ……!
 一気に押し寄せた言葉が喉元に詰まる。震える手を、彼女は優しく握っていた。あ、あ、あぁっ……! 大きな波が押し寄せて、頭のてっぺんから足の先まで駆け抜ける。ぶるりと体が震えた。はち切れる寸前の膀胱にじいんと刺激が走る。熱いおしっこが押し寄せる。
 だめだめだめ、でる、だめ、でるな、だめ、トイレ、おしっこっ、あ、あ、あっ……! 体が震える。ズボンのポケットを力いっぱい内側へ引っ張って、その向こう側にある出口をぎゅうぎゅうと揉む。でる、でるでるでる、おしっこ、おしっこっ、ああ、どうしよう、トイレ、おしっこ、おしっこぉ……!

「ご、めん、あの、あの、…………ト、っ……」
「お待たせしましたー! お次の方、どうぞー!」
 突然聞こえた明るい声に驚いて、咄嗟にポケットから手を引っ張り出した。その瞬間、熱い雫が塞がれていた出口をこじ開けて、じゅわあっと下着を濡らすのを感じた。
 濡れた下着に慌てる俺と、何を考えているのかわからない彼女の前で、スタッフの若い男性がにこやかに手を差し伸べていた。見ると、ゴンドラが到着して、金属製の扉が開かれている。とうとう俺たちの番になったようで、ゴンドラの扉が開いていた。
「やっとだね。さ、行こう!」
 彼女は楽し気な声を上げて、中へ乗り込もうとする。繋がれた手が俺を引っ張るけれど、震える足は根が生えたようにその場から動かない。立ち尽くす俺をスタッフの男性が不思議そうに見ていた。

「どうしたの? ほら、おいで」
 彼女が繋いだままの俺を手を引く。浅い呼吸を繰り返しながら、その顔を見た。下腹部はずっしりと重く、ずきずきと痛む。これに乗ったら、本当にトイレに行けない。列を抜け出してトイレに走るという選択肢すら無くなってしまう。
 ト、イレ、トイレトイレトイレ、おしっこ、したい、おしっこっ……! 押さえを失った出口がひくひく疼く。熱いおしっこがまた押し寄せる。あ、あ、あ、だめ、で、るっ、おしっこ、だめっ……!
 押さえたいけれど、すぐそこにスタッフの男性がいる。せめて、人目が無ければ思いっきり押さえられるのに。考えながら、視線の先にその場所がある事に気付いた。完全な密室、外から切り離された個室。そこには何もないけれど、人目だけは避けられる。
 彼女が手を引く。目の前の微かな希望に引き寄せられるように、足が持ち上がった。一歩、二歩、三歩歩いて、ゴンドラの中に入る。少し錆びた床板が軋んだ。ぎこちない動きで椅子に座ると、スタッフの男性が笑顔で扉を閉めてくれた。

 がたん、とひと際大きく揺れた後、ゴンドラはゆっくりと動き出す。切り取られた空間が地面から離れていく。彼女以外誰もいないと思った瞬間、もう耐え切れなかった。
 体が震える。ぱんぱんに膨らんだ膀胱が震えて、熱いおしっこを押し出す。あ、あ、あっ……! 疼く出口から熱い雫がまた零れた瞬間、両手は弾かれたようにズボンの上からその部分に飛びついた。
 う、ぁ、だめ、おしっこ、おしっこしたい、おしっこ、おしっこっ……! 泣き出しそうになりながら、今にもおしっこが溢れそうな出口を必死に揉んで、荒れ狂う尿意を誤魔化した。じっとしていることも辛くて、座ったまま腰が前後に揺れてしまっていた。

「どうしたの? そんな恥ずかしい格好して」
「あ、っ、あ、だめ……、我慢、もう、できないっ……!」
「駄目だよ、頑張って」
 む、りっ、でる、でるでるでる、おしっこ出る、もう無理、ほんとに出るっ……! ばたばたと足を踏み鳴らし、体を揺らし、ぎゅうぎゅう両手で出口を揉んで、必死におしっこを我慢する。幼い子どもですらしないようなみっともない格好だけれど、そうでもしないと一気に噴き出してしまいそうだった。
 がんば、る。彼女の言葉を頭の中で繰り返したけれど、一分も経たずに考えは押し流された。ぞくぞくと突き刺すような衝動が腰の奥で疼いて、体がびくりと震えた。
 あ、あ、だ、め、おしっこ、でる、でるでるでる、あ、あっ……! 苦しくて、辛くて、視界が歪む。おしっこ、おしっこしたい、出したい、出したくてたまらない。おしっこしたい、おしっこ、おしっこ……!

「っ、ご、めんっ、もう、むりっ……」
 はくはくと短い呼吸の間に必死に言葉を紡ぐ。震えてか細い声だった。彼女は向かい側に綺麗に膝を揃えて座っていて、こちらを見て微笑ましそうに笑っていた。
 でる、でる、おしっこ、ほんとに無理、もう、我慢できないっ。一分一秒でも早く出したい。けれど、ここは観覧車のゴンドラの中。無機質な床と椅子があるだけ。降りることすら出来ない。
 絶望に、尿意の苦しさに涙が浮かぶ。い、やだ、もれる、おしっこ、やだ、でも、もう、もうっ……!
「ほら、一周するまで我慢しないと」
「……む、りっ……」
「本当に無理なの?」
「っ、むり、もうむりっ、だめ、おしっこ、漏れる、でちゃう、ほんとにむりっ……!」
 ぐちゃぐちゃの言葉が口から飛び出す。内側から押し広げられそうな出口を、ズボンの上から必死に塞ぐ。おしっこ、おしっこおしっこおしっこっ、何でも良いからおしっこしたい、出したい、もうむり、でる、でるっ……!

「んー、そうだなあ……」
 上手く息が出来なくて、呼吸が荒くなる。両足は落ち着きなく床を踏んで、前後に擦り合わせて、膝をぶつけ合って、腰の辺りに纏わりついた重い衝動に必死に抗う。内側からじんじんと鈍く響く刺激を誤魔化すために、ぐにぐにと股間を揉んでいた。
 あ、あ、だめ、でる、あ、あ、あっ……! 体が震える。満水を超えて膨らんだ膀胱が、中身を押し出そうときゅうと縮む。全身に力を込めたけれど、がくがく震える体はもう限界で、じゅわ、と熱いおしっこが潰された出口から漏れたのがわかった。
 ズボンの内側で下着がまた濡れる。ああ、やだ、おしっこ、おしっこしたい、お願い、何でも良いからおしっこ、おしっこっ……!
 膀胱ははち切れそうな程に張り詰めていて、ずきずきと痛みすら感じた。辛い、苦しい。そしておしっこが我慢できない自分が情けなくて、ぐす、と鼻を啜った。

 彼女は隣に置いた鞄を広げている。その光景をどこか遠いことのように見ていた。
 上手く息が吸えなくて、頭ががんがんする。おしっこ、おしっこしたい、もう、むり、本当にむり、……で、るっ……。ぶるりと体が震える。じゅわあっと手の中におしっこが広がる。必死に指先が熱く濡れている気がする。
 あ、あ、だめ、おしっこ、でるでるでる、あ、あ、あっ……! 頑張って我慢して、それ以上溢れないように堰き止める。けれど、もう本当に限界だと、自分が一番わかっていた。一番想像したくない光景が頭に浮かぶ。嫌だ、と抗おうとしたけれど、逃げる手段は無い。
 ここにトイレは無い。降りることも出来ない。でも、もう、我慢出来ない。

「……ご、めんっ、ごめんなさい、でる、おしっこ、で、る……」
「駄目だよ。こんなところでおしっこしたら、床びちゃびちゃになっちゃうよ?」
「で、もっ、もう、ほんとに……!」
「もしかしたら、隙間から漏れて、外に溢れちゃうかも。びちゃびちゃびちゃって、おしっこ、雨みたいに降っちゃうね。
 下で待ってる人、びっくりするかな。あれ、なんだろう? ってみんながこのゴンドラに注目しちゃうかも」
 彼女の耳障りの良い声が頭に響く。聞きたくないと思っても、耳を塞ぐことすら出来ない。

「そ、そんな、こと、言わないでっ……」
「だって本当のことだよ。戻った時、降りる私達をみんな見るだろうね。どうしようか? 床はびしょびしょで、君のズボンもぐっしょり濡れてるかな。
 あ、脱いで床にする? それならズボンは濡れないけど、それはそれで気付くかもね。ああ、あの人、我慢出来なくて床におしっこしたんだ、って」
 想像したくない光景が、彼女の言葉でより色鮮やかに形作られていく。いや、だ。そんなの、絶対嫌だ。でも、どうすれば良いのか。逃げ道なんて無い。いっそ、この窓が開けば、ここから飛び降りてでもトイレに行くのに。

 絶望でいっぱいになりながら、ぼんやりした視界を正面に向ける。彼女は広げた鞄の中から何かを取り出して、両手をそれぞれ掲げた。
「でも、こんなに頑張ったし、ご褒美を上げよう。どっちが良い?」
 その顔はにっこりと微笑んでいた。
 彼女の右手には先程ふたりで飲み干したペットボトルが、そして左手には白い塊を持っていた。小さく折り畳まれているものの、それが何か一瞬で理解してしまい、息を飲んだ。
「ペットボトルにおしっこするか、おむつに履き替えるか。どっちにしようか?」
「え、ちょ、ちょっと待ってっ、お、おむつって……!」
「だって、もう我慢できないでしょ?」
「そ、そうだけど、でも……!」
「私はおむつの方が良いと思うけどな。ペットボトルじゃ溢れちゃうかもしれないし。ああ、どっちも嫌だったら、使わなくても良いんだよ」
 橙色の空を背景に、彼女は穏やかに笑う。その光景は異様で、どこか神々しくも見えた。ただ、今の俺にとっては、唯一の救いの手だった。

 究極の二択。彼女がどうしておむつなんか持っているのか気になるけれど、考えている時間は無かった。悪寒に似た嫌な感覚は波打つごとに強くなっている。おしっこ、おしっこしたい、とにかく出して楽になりたくて仕方ない。
 子供みたいに股間を握り締めて、今にも溢れそうなおしっこを必死に我慢する。ああ、だめ、はやく、もうほんとうに、おしっこ、でる、もれる……! 悠長に考える余裕は欠片も無かった。もう一度唾を飲み込んで、俺は震える声で言った。

「っ、ペットボトル、貸して……」
「こっちで良いの? おむつの方が安心だよ」
「いい、良いからっ、はやくっ……!」
 言いながら、片方の手をズボンのボタンへと運ぶ。ぶるぶる震える指先で必死にボタンを外そうとするけれど、なかなか上手くいかない。両手を使いたいけれど、離すことは出来ない。離したら、その瞬間に出る。何度も揉んだせいか、先端の感覚は鈍くなっていた。
 はやくはやくはやくっ……! 片手でおしっこの出口を塞ぎながら、反対の手でズボンのボタンと格闘する。もじもじ体を揺らしながら、何とかボタンが外れて、そのまま勢いよくファスナーを下ろした。同時に、出口を塞ぐ手を一瞬だけ離して、ズボンの中に突っ込む。じっとりと濡れて張り付いた下着の上から、びくびく震える性器を、おしっこの出口を必死に押さえた。

 彼女はペットボトルを俺の方へ差し出している。空っぽの透明なボトルが今は神様のように見えた。震える手で受け取ろうとして、その先端に白いキャップが付いたままなことに気付く。
 受け取って、片手で何とかキャップを回す。はやくはやくはやく。心も体も急かしていて、手の震えが止まらない。あ、あ、あ、だめっ、おしっこ、おしっこおしっこおしっこっ……!
 下着の上からぎゅうぎゅうと塞ぐ先端が、じゅわあっと熱く濡れた。もう下着はびしょびしょで、手は温かく濡れている。それでも、まだお腹にははち切れそうな程におしっこが溜まっている。

 あとすこし、あとちょっと。もうすぐ出来る、おしっこ、出せる。頭の片隅でそう思ったからか、体が一足先に準備を終えてしまう。
 ぶるりと体が震えて、腹がきゅうと縮んで、ぶじゅう、と熱いおしっこが溢れ出す。でもまだ先端は下着の中で、強く塞ぐ手を押しのけるように出口が開いてしまう。
 ああ、あ、あ、だめ、まだだめ、おしっこっ、あ、あ、あっ……! まだ駄目だと止めようとしても、それは一瞬だけ。また溢れて、止まって、また溢れて。じゅ、じゅううと断続的におしっこが出て、下着を更に色濃く濡らしていく。

 ああ、あ、あ、で、る、でるでるでる、はやくはやくはやくっ、おしっこ、おしっこっ、ああ、あ、あ、あっ……! 何とかキャップが外れて、そのまま床に落ちていく。瞬間、ボトルを引き寄せて、同時に出口を揉む手を下着の中に突っ込み、しょろしょろとおしっこを零している性器を無理やり引っ張り出した。
 ぱたぱた、と床に雫が落ちる。ボトルを握る手は自分でも驚く程に震えていた。で、る、でる、でる、おしっこ、で、る。じゅう、と噴き出したおしっこがボトルの口にあたる。ぶるりと体が震える。あ、あ、あ。ぱくぱくと口が動いて、息を吸う。

 ぶじいいいぃぃ、と激しい水音が響き渡った。は、は、と肩で息をしながら、涙で歪んだ視界で自分の手元をぼんやりと見ていた。
 あ、ああ、あ、で、だ、おしっこ、おしっこでてる、やっと、できた。頭が真っ白になって、自分の外側が遠くなったように感じた。

 破裂しそうな程に膨らんでいた膀胱から、おしっこがものすごい勢いで噴き出していた。野太い水流はボトルの底を叩き、でもすぐに注ぎ込む音に変わる。体の中に響き渡る水音に、ぽかんと口が開いていた。全身がぶるぶると震えていて、ただ呼吸を繰り返すことしか出来なかった。
 あ、あぁ、す、ごい、でる、おしっこ、きもち、いい。お腹の奥がぞくぞくして、全身が強すぎる程の快感に包まれる。はあ、と吐き出した熱い息に快感が溶けて混じる。我慢に我慢を重ねた排泄は信じられないくらい気持ち良くて、頭の芯がじいんと痺れた。

 全身が火照っていて、色々な感覚が朧げになっていた。薄く開いていた目を一度閉じて開くと、歪んだ視界が明確になる。
 震える手の中でかたかたと揺れるボトルには薄く色付いた液体がどんどん注ぎ込まれていた。あっという間に半分を超え、どんどん水面が上昇していく。余白が減っていくにつれて、浮ついていた理性が戻ってきて、遠くなっていた感覚が形を帯びていく。
 あ、あっ、や、ばいっ、どうしようっ、……足りない、かもっ。手の中でボトルはどんどん重さを増していくが、おしっこはまだ止まらない。膨らみ切った膀胱はゆっくりと縮みながら、中身を押し出し続ける。空っぽだったボトルはほんの僅かな間に八割程満たされていたけれど、まだ腹の下にはずっしりと重さが残っていた。
 止めないと。我慢に我慢を重ねた出口に必死に力を入れるけれど、細くなった水流はじゅ。じゅう、と間髪を入れずに飛び出してしまう。そうこうしている間にも水面は満水を迎える。
 飲み口である細くなった部分まで上がって、そのまま外へと溢れ出した。掴んだ手に熱いおしっこが伝い、床へと落ちる。ぱた、ぱたと零れた雫と雫が繋がって、小さな水溜まりを作っていた。

「っ、あ、あ、っ、どうし、よっ……」
 必死に止めているけれど、ぶじゅ、じゅう、とおしっこは先端から噴き出す。それを受け止めるボトルは完全に満水で、もう雫の一滴すら受け止めてくれない。
 あ、あ、だめ、おしっこっ、まだ、でる、のにっ、おしっこしたい、だしたい、でも、どうしたらっ……! 救いを求めて顔を上げると、正面に座っていた彼女と目が合った。
「わ、すごい。いっぱい出たね。すっきりした?」
 橙色に照らされた顔は天使のように笑っていて、ゆっくり動く小さな唇は悪魔のような言葉を吐き出した。
 あ、あ、だめ、だ、したい、おしっこっ、おしっこおしっこおしっこっ……! 視界がぐにゃりと歪む。橙色の輝きがひときわ強くなる。

「……ご、めんっ、ま、まだ、おしっこ、っ……!」
「まだ出るの? そんなにいっぱいしたのに?」
 返事の声は喉の奥でつっかえた。中途半端に出したせいで、尿意はさっきよりずっと強く大きくなっていた。でる、でるでるでるっ、おしっこ、でる、もう、むりっ、おしっこ、おしっこっ……!
 下着から引っ張り出した性器を濡れた手でぎゅうぎゅう塞ぐ。おしっこしたい、何でも良いからおしっこ、おねがいだから、おしっこ、したい、おしっこっ……!
 周りを見回しても、何もない。はめ込みの窓の向こうには橙色の空。この窓が開いたなら、そこから思いっきり外に出来たのに。ぐちゃぐちゃの頭が僅かな可能性を探すけれど、救いは見つからない。

「おしっこ、したい?」
 彼女が柔らかな声で言う。何も考えず、ただただ頭を縦に振っていた。お願い、何でも良いからおしっこ、おしっこださせて、もうむり、苦しい、辛い、出したい、おしっこ、おしっこっ……!
「仕方ないなあ。特別サービスだよ。こっちもどうぞ」
 そう言って彼女は先ほど見せた白い塊を両手で持った。そして、手が動いて、折り畳まれたそれを広げていく。かさかさと紙の擦れる音が微かに聞こえる。広げられたそれは思ったより大きく見えた。

 紙おむつ。彼女がそれをこちらへ差し出す。握り締めた手の中では耐え切れず、じゅう、と熱いおしっこが飛び出して、床の小さな水溜まりを更に広げた。あ、あ、あ、だめ、でる、でる……、お、しっこ、で、るっ……!
 満水状態のペットボトルを床に置き、代わりに彼女の手から紙おむつを奪い取った。履きやすいように広げられているけれど、今から下着を脱いで身に着ける余裕なんてあるはずがなかった。

 おしっこ、おしっこ出せる、おしっこっ、あ、ああ、でる、あ、ああぁっ……!震える手で紙おむつを性器に被せるように近付けて、その中央、一番厚くてふかふかした場所へ、おしっこに濡れた出口を思いっきり押し当てた。
 じゅいいいい、とくぐもった水音が響き渡る。強張っていた体から力が抜けて、力の抜けた口から熱い溜息が零れた。
 あ、ああ、おしっこ、おしっこ、でてる、やっとできた。燻っていた先程の快感に再び火がついて、体の中で一気に燃え上がる。溶けそうなほどの快感が再び込み上げて、腹の奥がぞくぞくしていた。頭の芯がじいんと痺れて、気持ちよさ以外はわからなくなっていた。

 次々溢れるおしっこを余すことなく受け止めて、白い紙おむつは黄色く色付いていく。柔らかかった感触は固く、段々重くなっていた。
 大きく膨らんでいた下腹部は段々と萎んでいく。重く苦しく切なかった感覚から解放されて、胸の底から安堵の息が漏れた。
 薄く開いた目は、白いおむつに包み込まれた性器が見えていた。その向こうには無機質な金属製の床に出来た小さな水溜まり。そして、その隣にそっと置かれた満水のペットボトル。全部全部、俺のおしっこ。こんなに出したのに、おしっこはまだ止まらない。
 静かに呼吸を繰り返しながら、ただおしっこを出すことしか今は出来なかった。体の内側を満たしていく爽快感と解放感に、大きく息を吐き出した。

 たっぷり時間を掛けて、やっと膀胱は小さく萎む。水流が止まり、俺の荒い呼吸の音だけがゴンドラの中に響く。ああ、と息を吐くと、まだ残っていたのか、おしっこがまたしょろしょろと溢れて、それで本当に腹はからっぽになった。
 で、た。全部、出た。おしっこ。……すっきり、した……。嫌な衝動や感覚は全て消え去り、爽快感に満たされている。細く長く息を繰り返しながら、手元でずっしりと重くなったおむつに目を向ける。
 中央は黄色く色付き、最初よりも膨らんでいるように見えた。軽かったはずの紙の塊はずっしりと重い。こんなに出したのだと、実感させられているようで、羞恥が込み上げた。

 恐る恐る顔を上げると、正面に座った彼女は曇りのない目でまっすぐこちらを見ている。楽しそうに、うっとりしたように、満足げに笑っていた。
「全部、出た?」
 頷く。息がまだ整わない。は、と息が零れた。
「いっぱい我慢したね。すごい量」
 頷く。顔が熱く火照っていた。心臓がどくどくと煩い程鳴っていた。
「気持ち良かったね」
 頷く。口を開いたけれど声が出なくて、ごくりと唾を飲み込んだ。

 ゴンドラががたりと揺れて、我に返った。どれくらいここにいたのだろう。わからないけれど、下りられるように準備をしないといけない。
 重くなったおむつ、いっぱいに満たされたボトル、床に残った水溜まり。どうやって片付けようか考えながら、とりあえず自分の服装を整えようとする。
 無理やり引っ張った下着はぐっしょりと濡れて色を変えている。どこかで下着の替えを買わないといけない。ズボンはまだ大丈夫そうなのがせめてもの救いだった。

 彼女は自分の鞄を広げて、ビニール袋を出してくれた。かしゃかしゃ音を立てながらそれを広げて、そして言った。
「また、しようね」
 彼女は橙色に照らされながら笑っていた。それを見て、頷いた。

 

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初出:2024年8月22日(pixiv・サイト同時掲載)
掲載:2024年8月22日

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成人済の時々物書きです。 スカ、女攻め萌え。BLよりはNLやGLが好きです。
18歳以上ですか? ここから先は、成人向けの特殊な趣向の小説(女の子、男の子のおもらし等)を掲載しています。