あなたはとても意地悪な人

 いつもと変わらない時間が、永遠のように長く感じた。はやく、はやくはやくはやく。胸の内側で心臓がどくどく鳴る。全身が熱い。机の下で靴の爪先が忙しなく動く。
 頭が火照ってぼんやりする。浮ついた意識がチャイムの音を捉えた瞬間、逃げるように教室を飛び出した。
 荷物を詰め込んだトートバックを肩に下げて、ひたすら足を動かす。気持ちだけが前に進んで、足が空回りしている気がする。それでも何とか前には進んでいた。

 向かう先は敷地の隅にある旧館。古い建物で、授業でもあまり使われないので人がいることは殆どない。
 旧館二階、突き当たりの教室。指定された場所を目指して、中へ飛び込む。正面の階段を上って、廊下を進む。どの教室も明かりはついておらず、薄暗くて気味が悪い。

 急いでいたのもあって、辿り着いた時には息が上がっていた。
 教室は思ったより狭い。机と椅子が並んでいて、雰囲気は大学というより高校の教室のようだった。

 求めていた人は探す間もなく見つかった。カーテンの揺れる窓際、前から三番目の机に彼は腰掛けていて、こちらを見ると柔らかく笑った。
「継真くんっ……」
「早かったね」
 机の間を抜けて、彼のすぐ傍へ寄る。地面を踏む足も、トートバックを握る手も震えていた。一つ後ろの机に見慣れた鞄があって、私のトートバッグもその横に置いた。

 指先が冷たい。でも全身が熱い。手は自然とスカートを握っていた。
 彼の視線がじっと向けられている。見ないでほしくて、俯いて逃げる。でも、見てほしくて、その場から動けない。
 正反対の思いが私の中で渦巻く。鼓動がどんどん早くなっていく。上手く息が出来ずに、はあ、と息を大きく吐いた。

「継真くん」
「うん」
 名前を呼ぶと、返事はしてくれる。けれど、それ以上は何も言わない。それがもどかしくて、胸の中で思いが焦れていく。
 じわじわと波が押し寄せてきて、体に力が籠る。あ、あ、だめ、だめ、だめっ。講義中に何度も襲われた感覚が体の中に広がる。ぎゅうとスカートを握って、両足の付け根に力を入れて、必死に堪える。
 さっきはこうやって耐えられた。でも、波は一度引いたら何倍も強くなって押し寄せる。先程よりもずっと強く大きな波に、私の思いは流されてしまいそうになる。

「っ、あ、ぁっ……」
 吐き出す息と共に声が漏れた。じんじんと響くような衝動。じくじくと傷口が疼くような感覚。今までよりずっとずっと強い衝動。
 だめ、だめ、だめ。胸の中で何度も繰り返すけれど、言う事は聞いてくれない。
 手が震える。足が震える。上手く息が出来ない。大きな波が押し寄せて、出口を内側から叩く。体は甘い誘惑へ流されてしまいそうになる。

 恥ずかしさを払い除けて、咄嗟に手が動いていた。スカートの上から出口を押さえて、まだ駄目だと塞ぐ。
 そうすると、ほんのちょっとだけ落ち着いた。浅く呼吸を繰り返すと、大きな波が引いていく。その瞬間に何とか手を離す。
 ぶるぶる震える手は、スカートの裾を握る。握りしめる指先で布地に皺が寄った。

「つぐま、く、んっ……!」
 声は手と同じくらい震えていた。だめ、本当にだめ。頭の中がぐちゃぐちゃで、助けを求めるように彼の名前を呼んだ。
 机がぎいと軋む。彼は座っていた机から降りると、私のすぐ傍に立った。男性の大きな手が、震える私の手を撫でる。その温度に、感触に、びくりと体が跳ねた。

「和穂、中、見せて?」
 そう言って、彼の指先が手の甲を下から上へと撫でた。
 その動きを追いかけるように自分の手が動いてしまう。震える指先がスカートの布地を摘まんで、ゆっくりゆっくりと持ち上げた。

 手をお腹の辺りまで持ち上げて、息を吐いた。彼の視線が隠されていた場所に向けられる。見ないでほしい、けれど見てほしい。二つの思いが内側で渦巻いて、体が震えた。
「可愛いね」
 その言葉に頭が焼けるように熱を増す。
「似合ってる」
 そんなはずない。それなのに、嬉しさが込み上げる。

 彼の手が伸ばされて、今までスカートの中に隠していたものに触れた。かさ、と柔らかな音と共に指が沈む。そこにあるのは柔らかな布ではなく、柔らかな紙。
「赤ちゃんみたいだね」
 その言葉に、全身の温度が更に上がるのがわかった。

 真っ白で、布より厚みがあって、とても柔らかい。記憶にもないくらい幼い頃には使っていたであろう、紙の下着。紙おむつ。
 生理現象を自分でコントロールできない幼子が使うもの。もう大人と言っても過言ではない私が身に着けるものではない。似合うはずもないし、可愛いはずもない。
 それなのに、そんな風に言われると抗えなくなる。否定する私を、喜んで受け入れる私が塗りつぶしていく。

「ちゃんと約束守ってる?」
 彼にじっと見つめられながら、頷いて返事をした。ぞわぞわと肌が泡立つ。
 足が震えて、頭がぼんやりして、自分がちゃんと立てているか不安になる。鼓動は苦しいほどに早くて、必死に呼吸を繰り返した。
「最後に済ませたの、何時?」
「ろ、六時」
「早起きだね。講義は一限と二限、両方あったの?」
 うん、と返事をすると同時に、体の内側で脈打っていた衝動が早く短くなっていく。足が震えて、まっすぐ立てずに腰が引けてしまう。
 おへその下が張り詰めていて、ずっしりと重い。足の付け根、ぎゅうと閉じている出口が内側から押し開けられそうになって、声が漏れた。

「ぁっ、や、あっ……」
 だ、め、だめだめだめ、だめっ……! 必死に堪えるけれど、高まった衝動は落ち着くどころかどんどん強くなっていく。
 両足をぎゅうと寄せて擦り合わせて、体を揺らして、暴れる衝動を必死に逃がすけれど、全然収まらない。
「あぁ、あっ、だめ、で、ちゃっ……」
「駄目だよ、我慢しないと」
 うん、うんと頷くけれど、体は全然言うことを聞いてくれない。静かな教室に、小さな足踏みの音が響く。

 だめ、だめなの、本当にだめ。必死に我慢するために、足を動かして、床を踏んで、太ももを擦り合わせる。
 でも、もう本当に限界で。はくはくと呼吸を繰り返すけれど、上手く息が吸えなくて、頭がくらくらする。じいんと頭が痺れて、涙が浮かぶ。緩く弧を描く彼の口元が滲んで見えた。

「っあ、あのっ……、手、スカートはなすの、駄目、ですかっ」
「どうして?」
「だ、だって、で、でちゃう……」
「スカート離して、どうするの?」
「お、押さえ、たい、のっ……、おねがいっ」
 そう口にした瞬間、ぞくぞくと大きな波が走り抜けて、体がびくりと震えた。
 あ、あ、あ、だめ、だめだめだめ、だめっ……! ぎゅううっと両足を寄せて、くねくね体を捩って、抉じ開けられそうな出口を必死に塞ぐ。
 頭の中がぐちゃぐちゃに混ぜられて、他のことは考えられない。我慢しないと。そう思いながら同時に、もう我慢したくないと心の底から叫ぶ声がする。

「あ、ああ、だめ、でちゃ、うっ、継真くん、おねが、いっ……!」
 じっとしていられなくて、お尻が揺れる。後ろに突き出して、くねくね身を捩る姿はすごく不格好だろう。でも、そうしていないと、本当にもう出ちゃいそうだった。
 まるで私の周りだけ空気が薄くなってしまったように息苦しくて、必死に呼吸を繰り返していた。

「仕方ないなあ」
 彼が少し近付く。その言葉に、もう良いんだと一瞬気が抜ける。
「スカート離しちゃだめ」
「ぁ、え、あ、で、でもっ……!」
「代わりに押さえてあげるから、ちゃんと我慢するんだよ」
 思わず、声が漏れた。

 彼の大きな手が、露わになったところへ伸びてくる。
 大きく膨らんだお腹。そこを覆う白い紙おむつ。そっと柔らかく撫でられて、びくりと体が震える。
 手はそのまま下へ。両足の間に入り込んで、そっと指先が押し付けられる。その感覚に、ぞわぞわと肌が泡立った。
「こんな感じ?」
 彼が触れる場所は微妙にずれていて、そこへ当たるように自分の体をもぞもぞと動かす。そうやってやっと出口に押し付けられた指の感触に、ほんの少し衝動が落ち着く。
 けれも、厚みのある紙おむつの向こうからでは、指の感覚はもどかしくてたまらない。きゅうきゅう疼く衝動は更に強まって、じっとしていられない。

「あ、ぁっ、だめっ、で、ちゃっ……!」
「押さえてあげてるのに我慢できない?」
「だ、だめなのっ……! も、もっとっ……」
 そこまで言って、思わず息を飲む。また、大きな波が押し寄せて、出口がじんじんと疼く。
 はっきりした形のない衝動に、体を捩って必死に抗う。だめ、我慢、我慢するの、だめなのっ……! 強く思うのに、出したくて出したくてたまらなくて、じわりと涙が滲む。頭が熱くて、ぼんやりする。

「『もっと……』、どうしたら良い? 和穂、教えて?」
 優しい声で言われると、更に涙が込み上げる。スカートを握る手は酷く震えていた。
「っ、も、もっと……」
 視界が滲む。震える唇を開くと、ぐちゃぐちゃな言葉がどんどん飛び出した。

「もっとぎゅうって、ぐりぐりってしてっ……! でちゃうのっ、おしっこでちゃうからっ……!」
 自分でも何を言っているかよくわからない。でも今はこの荒れ狂うおしっこをなんとかしたくて、目の前にいる人に縋っていた。
 彼の手はやや強く当てられて、そこに穴を開けるかのようにぐりぐりと動く。その動きにもどかしい衝動が少し誤魔化される。少しだけ我慢が楽になって大きく息を吐いた。

「これで良い?」
 待ち望んでいた感覚に何度も頷く。でも、楽になるのはほんの僅か。くねくねと身を捩って、お尻を揺らして必死に我慢しないと、今にもおしっこが出てしまいそう。
 両足が揺れる。きつく寄せ合わせると、彼の指の感触を更に良く感じてしまう。まるで自分から押し付けているような仕草。はしたないかもしれないけれど、そうしていないと我慢できない。

「ぁ、あっ、だめ、おしっこ……」
「我慢できない?」
「我慢、してるっ……で、もっ、朝からずっと行ってないからっ……!」
 出していないおしっこは全部お腹に溜まっていて、もう破裂しそうなほどに苦しい。必死に我慢するけれど、体はもう限界で、出したくて出したくてたまらない。
 でも、どれだけ我慢したって、限界はある。はち切れそうなお腹は、はやく中身を出そうと圧を掛ける。一気に波が押し寄せて、全身がぶるりと震えた。

 あっ、あっ、あっ、だめ、だめっ……! スカートを握る手が震える。やだ、だめ、でちゃうっ……! 膝が震える。しゃがみ込んでしまいそうになるのを、必死に堪える。
「あ、ぅあ、あっ……つ、ぐま、くんっ……!」
 縋るように名前を呼ぶ。彼は柔らかく笑うと、突然、手を離してしまった。

 押さえるものが無くなって、出口がひくひくと疼く。すぐそこまでおしっこが満たされているのがわかる。ああ、あ、だめ、でる、おしっこ、おしっこっ……!
 離れた手は私のお腹にそっと触れた。下から上へ、するすると撫でるように触れられて、びくりと体が跳ねる。
「や、ぁっ! だめっ、つぐまくんっ……!」
 やめてほしくても、私の手はスカートを持つのに必死で動かせない。自然と腰が引けて、彼の手から逃げるけれど、触れた手は滑らかに纏わりついて離れてくれない。

 膨らんだお腹を撫でて、その上へ。おむつのウエスト部分を指で引っ掛けると、中へと入り込んでしまった。
 熱く火照った素肌に彼の手が触れる感覚に、体が強張った。逃げようにも、逃げる方法はなかった。
「温かいね。ちょっと汗かいてる」
 そう言って、おむつの中で膨らんだお腹を撫でられる。はち切れそうなお腹はその刺激すら辛くて、全身に力が入る。
 余計に動くとその瞬間に我慢の糸が切れてしまいそうで、指一本動かせない。スカートを持ち上げたまま、震えていた。

 お腹を撫でた手は、下へ。先程おむつ越しに触れていたところに直接触れる。
 場所を探すように割れ目を何度か撫でられて、びくりと体が跳ねる。ぞわぞわした感覚に、息と共に声が漏れた。
「直接押さえてあげる。ぎゅうってして、ぐりぐりってしてあげたら、まだ我慢できる?」
「っあ、あ、だっ、め……!」
 ひくひく疼くおしっこの出口に彼の手が触れる。言葉のとおりにぎゅうぎゅう押さえられて、ぐりぐりと刺激されて、頭が真っ白になった。
 もう訳がわからなくて、でもおしっこがしたくてたまらないのは変わらない。ただ荒れ狂う尿意から逃げたくて、その指に自分から体を押し付けてしまう。

「ん、ぁ、だめ、だめっ、で、ちゃっ……!」
「まだだめ。……あれ、おむつ、ちょっと濡れてる?」
 私に触れたまま、彼の他の指がおむつの内側を広げるように動くのがわかった。ちょうど出口に触れていた辺りの生地に触れていることに気付いて、頭が更に熱を増した気がした。
「ここ濡れてる。良いって言ってないのに、しちゃった?」
「ち、違うっ、違うのっ……! ちゃんと我慢してるっ……!」
「じゃあどうして? 汗じゃないよね」
 短い呼吸を繰り返しながら、震える唇をそっと開く。
 彼は見守るようにこちらを見ていたけれど、それはどこにも行かせないように閉じ込めるようでもあった。滲む視界で視線を返す。目を逸らしたくても逸らせなかった。

「ちゃ、ちゃんと、我慢してたのっ、で、でもっ、途中で、すごくしたくなってっ、そ、それでっ……」
「そうなんだ。いつ?」
「二限の、とき……で、でもっ、すぐ、止めて、ずっと、ちゃんと我慢してるっ……!」
「うん、偉いね。どうやって我慢したの?」
 そう言って、彼は押し当てた指先を動かす。ぐりぐりと押し付けられて、その感触に体がびくりと震える。
「足を、ぎゅうって寄せて……」
「それだけ?」
「ちょっとだけ、動かした……」
「それで我慢できた?」
 体が震える。内側でおしっこが暴れる。ぞくぞく込み上げるものを、ごくりと飲み込む。喉がからからだった。

 じっと向けられる目は全部お見通しのよう。わかっているのに、それを私の口で説明させようとする。それに私は抗えない。
「て、手で、押さえた……」
「こうやって、ぐりぐりーってして?」
 押し付けられる指の感触に、声が漏れる。内側と外側の衝動に身を捩りながら頷くと、彼は笑った。
「授業中で、周りに人がいるのに、ぎゅーって押さえたんだ。ぐりぐりって指を動かして、我慢したんだ」
 返事はしたくなかったけれど、体が勝手に頷いていた。息がうまく出来ない。苦しくて、必死に呼吸を繰り返す。

「む、りっ、継真くんっ、もう、もうむりっ……!」
「おしっこしたい? じゃあ、またこうやって、ぐりぐりってして我慢しないとね」
「あっ、あっ、だめ、だめ、で、ちゃっ、おしっこ、でちゃうのっ、おしっこっ……!」
 びくびくと体が震える。だめ、だめだめだめ、本当にだめ、もうむり、おしっこ、おしっこでちゃうっ。
 彼の指先が出口を押さえる。でもそれだけじゃ足りなくて、足踏みをして、お尻を揺らして。それでもおしっこがでちゃいそうで、体を捩る。
 彼の指に自分から出口を押し付ける。刺激が増しても、それでも全然おしっこが治まらない。

「ぁ、や、ぁ、あっ……!」
 体が震えて、自分でどうすることもできない。とうとう手からスカートが落ちて、ぱさりと布地が彼の手に被さった。
「こら、スカート、持ってるように言ったのに」
「ご、ごめ、ん、なさっ、だめ、おしっこ、おしっこっ、つぐま、くん、おしっこ、おし、っ、こっ……!」
 手は空っぽになったのに、動かすことが出来ず、空を掴んだままがくがくと震える。
 我慢してるのに、もう、本当にだめ。体が限界を叫んでいて、言うことを聞かない。

 ぶじゅ、と湿った音がした。出口が熱く濡れる。あ、あ、あっ、だめ、おしっこ、おしっこっ……!
「あーあ、またおしっこでちゃった。ぐりぐりってして我慢しないと」
「だめっ、むり、でる、おしっこ、おしっこでるの、もうだめ、おしっこっ……!」
 体の中はおしっこでいっぱい。息を吸うだけで、おしっこが押し出されて、ぶじゅ、と噴き出す。
 上手く呼吸が出来ない。苦しくて、は、は、と短く浅く息を繰り返す。

「あ、あっ、ご、めんなさいっ、つぐまくん、わたし、おしっ、こっ……!」
 返事はなくて、代わりに彼の指がおしっこに濡れた出口をなぞった。ぞわりと快感に似た何かが体中に広がる。
 それから、ゆっくりとお腹を撫でられて、濡れた指先が膨らんだお腹につうっと線を引く。

 おむつから手が出てくる。最後に、彼の指先はウエスト部分をわざとらしく引っ掛けていた。
 目が合う。滲んだ視界で彼が笑うのがわかる。それから、彼の指先からおむつが離れる。ぱちんとお腹におむつが当たって、体が大きく震えた。

「あ、あ、あ、あっ……!」
 ぶじゅううう。スカートの中で、くぐもった水音が響いた。
 我慢の糸はぱちんと切れた。必死に塞いでいた出口は大きく開いて、おしっこが堰を切ったように噴き出している。
 頭が真っ白になった。上手く息ができない。は、は、と短い呼吸を繰り返す。

 あ、あ、おしっこっ、おしっこ、で、てるっ、で、ちゃっ、たっ……。強すぎる解放感は気持ち良すぎて、足ががくがくと震える。立っていられなくて、膝を折ってその場にしゃがみ込んでしまった。
 その体勢は和式トイレでおしっこをするときのもの。そうすると、もう我慢するなんて意思はどこにも無かった。

 体が喜んで排泄をしていた。じゅうじゅうと勢いよくおしっこが噴き出して、おむつの中で渦を巻く。
 あまりの勢いに、吸収し切れずにおしっこが溜まっていくのがわかった。おむつの内側で、ぴちゃぴちゃと雫が跳ねていた。

 全身の感覚が遠くなって、じゅいーっと鳴る水音が体の中に響き渡る。
「あぁ……は、あぁ……」
 自分がどこにいるのか、何をしていたのか、もう何もわからなくなる。ただ、気持ちよさしか感じなかった。頭の芯がじいんと痺れて、吐き出した息には溶けた声が混ざっていた。

 +++

 僅かな時間なのに、永遠のように長く感じた。無機質な床を見つめたまま、呼吸を繰り返していた。

 お腹は空っぽで、頭は真っ白だった。
 おしっこ、でちゃった。全部でちゃった。ゆっくりゆっくりと呼吸を繰り返していると、衣擦れの音がして、すぐそこに人がいることに気付く。
 その人がゆっくり膝を折るのが見えた。顔を上げようとすると、頭を撫でられた。
「和穂」
 名前を呼ばれて顔を上げる。涙が頬を濡らすのがわかった。何故泣いているのか自分でもわからない。頭を撫でられながら、ぐすぐすと泣いてしまった。

 足元には小さな水溜りができていた。拭かないといけない。タオルを求めて、ゆっくり立ち上がると、ずっしりと重くなったおむつが両足の間にぶらさがる。
 その気持ち悪さを感じながら、そろそろと動いてトートバックへ手を伸ばす。中から使い古したタオルを取り出すと、彼の手がそれを受け取った。
「俺がやるよ。貸して」
「あ、ありがとう……」
 床を拭いてもらって、汚れたタオルはビニールに入れて鞄にしまった。

「お腹すいたね。うちで何か食べようか」
「うん……」
 彼は何事も無かったかのようにそう言うと、私のトートバッグを自分の鞄と一緒に持った。そして教室から出ていこうとしたけれど、私はその場に立ち止まったままだった。
「どうしたの?」
 自然と手はスカートを握っていた。

 スカートの内側は大変な状態だった。柔らかかったおむつは濡れて固くなり、重さを増して足の間にずっしりと垂れ下がる。足を動かすとすごく気持ち悪くて、変な歩き方になってしまう。
「着替えちゃ、だめ?」
「だめ。誰か来るかもしれないよ」
「で、もっ……」
「ほら、うちはすぐそこだから、そこまで我慢しよう。おいで」
 そう言って手を伸ばされる。こわごわと自分の手を重ねると、ぎゅうと握られた。手は温かくて、心から少しだけ力が抜ける。

 手を引かれて、ゆっくりと歩く。足を動かすと、両足の間で重くなったおむつを嫌でも感じる。大きく膨らんで、じっとり濡れている。肌に触れる感触は気持ち悪くてぞわりと鳥肌が立つ。
 縋るように隣の彼を見上げると、見つめ返される。繋いだ手をぎゅうと握られると、少しだけ不安が和らいだ。

 構内は休憩時間なのもあって、人が多い。彼と手を繋いで、ゆっくり歩いていく。
 スカートは歩くのに合わせて揺れる。両足の間の違和感が纏わりついて離れない。中が見えるんじゃないかと不安で仕方ない。
「大丈夫だよ、見た感じわからないから」
「うん……」
「お昼、何食べたい? パスタならすぐ作れるけど、他が良いなら買い物行こうか」
 慌てて首を振ると、彼はにこにこ笑う。今すぐにでも着替えたいのに、買い物なんて絶対に無理だ。

 真っ直ぐ彼の家まで向かう。大した距離じゃないのに、足が震えているからか、すごく時間が掛かった。
 足を動かすたびに、じんじんとお腹の奥で湧き上がるものを感じる。どう、しよう。遠くに彼の住むマンションが見え始めたけれど、まだ距離がある。
 さっき一度落ち着いたのに、まだ残っていたのか、じわりと湧き水が込み上げるように体の中に染み渡っていく。

 ぶるりと体が震えて、体が跳ねる。繋いだ手からそれは伝わってしまったようで、彼がこちらをちらりと見た。
「また行きたくなった?」
 誤魔化すことはできなくて、仕方なく頷く。
「もうすぐだから頑張って」
 頷いたけれど、込み上げる感覚はどんどん強くなる。はやく、はやくと足を動かした。

 マンションに辿り着いた時、もうお腹の中はおしっこでいっぱいだった。足が小さく震える。ふうふうと呼吸を繰り返しながら、彼に手を引かれてエレベーターの前に辿り着く。
「大丈夫?」
 頷くけれど、全然大丈夫じゃない。トイレ、おしっこ、おしっこ。ぶるりと体が震える。
 両足の間でずしりと重くなったおむつは、先程これだけ出したという証。こんなにたくさん出したのに、もうお腹の中にはおしっこが溜まっている。

 震える足でエレベーターに乗り込む。じっとしているとどんどんおしっこがしたくなってくる。その場で足踏みを繰り返して、必死に我慢する。
「んっ、んん……」
 繋いだ手が震える。大丈夫だと自分に言い聞かせる。ふうふうと呼吸を繰り返して、落ち着こうとするけれど、全然収まらない。

 はやく、はやくはやくっ……。足踏みを繰り返して、必死に我慢する。もう少し、あとちょっと。
 息を吸って、吐いて。もうだめ、おしっこ、おしっこっ……! じわりと涙が浮かぶ。視界が滲んで揺れて、その瞬間に扉が開いた。
 今度は私が彼の手を引いて下りる。震える足を動かして、一歩ずつ進む。扉をひとつ越えて、ふたつ越えて。次が彼の部屋。
 縺れる足で彼の部屋の前に辿り着く。それがもう限界だった。

「あっ、あっ、あっ……」
 じわりと出口が熱くなる。だめ、だめなのに、さっきあんなに出したのに、おしっこが込み上げる。出口がじんじんして、熱くなる。
 足が震える。地面を見つめたまま、体が固まる。あ、あ、や、だっ、どう、しよう、おしっこっ……!
「和穂、大丈夫?」
 嘘でも大丈夫と言いたいのに、頷く事もできない。体が震える。じわ、じわと出口が熱くなる。や、だっ、だめなのに、だめ、だめだめだめっ……!

「もう良いよ。力、抜いて」
 繋いでいた手がぎゅうと握られる。呼吸を繰り返しながら、おずおずと顔を上げる。柔らかく見つめられて、じわりと視界が滲む。
「つ、つぐま、くんっ……」
「良いよ、よく頑張ったね。出して良いよ」
 そう言われると、体が勝手に従ってしまう。手が震える。力なく落ちた手も、彼の手が握る。両手をぎゅうと握られて、じんと頭の奥が響く。

 自然と、俯いていた。がくがく足が震える。それから体から力が抜けて、じゅーっとおしっこが噴き出した。もう冷たくなったおむつを熱いおしっこが濡らしていく。
「あっ、あっ……」
 静かな廊下にくぐもった水音が静かに鳴り響く。ぴちゃぴちゃと雫が跳ねて、肌が熱く濡れる。その温かさに頭がぼんやりとする。

 じっとりと太ももの内側に熱い雫が伝っていく。あ、あ、だめ。そう思っても体が動かない。おしっこが伝って、靴下が濡れて、足元に落ちていく。静かな水音に、体が小刻みに震える。
「あっ、どうしよっ……」
 おしっこは全然止まらない。じわじわおむつの内側が温かくなってきて、太ももにじわりと伝って。彼はそっと視線を落としてから、手をぎゅうと握る。
「大丈夫、大丈夫。後で洗ったら良いから」
 彼の部屋の前、立ち尽くしたまま、おしっこをしてる。その事実に頭がぼんやりする。色んな感覚が遠くなっていく。ただ、握ってくれた手の感触だけが私を繋ぎ止めていた。

 はあ、と息を吐く。お腹はやっと空っぽになって、その分更におむつが重さを増す。じっとりと濡れて、肌に張り付く感触は気持ち悪くて、身震いしてしまう。
「全部出た?」
 頷くと、繋いでいた手が離されて、頭を撫でられる。頭が熱くて、視界が滲む。
「偉かったね。お風呂入っておいで。落ち着いたらご飯にしよう」
 足が張り付いたように動かない。彼が鍵を開けて、扉が開く。立ち尽くす私の手を引いて、中に入れてくれた。

 シャワーを借りて、服を着る。トートバッグの中から着替えを取り出して、握ったまま脱衣所を出た。
「継真くん」
 声を掛けると、彼は振り向く。
「おかえり。パスタ、もうすぐできるよ」

「継真くん。どっちにしたら、良いですか」
 自分の鞄から取り出した着替えを手にして、見せる。右手には下着。左手には真っ白な紙おむつ。重さなんてほとんどないはずなのに、手が震えていた。
「……自分で持ってきたの?」
 頷く。彼はゆるりと笑う。その笑顔に胸がどきどきと高鳴る。スカートの内側は何も身に着けていない。お腹の奥がきゅうと疼くのがわかった。

 彼の柔らかな声が聞こえる。唇の動きひとつひとつから目が離せない。彼の紡ぐ言葉が頭の中心をじいんと揺らす。喉の奥に空気が詰まって、上手く声が出ない。上手く息が出来ない。
 頷いて返事をする。どきどきと心臓が破裂しそうに高鳴っている。彼が笑っている。多分、私も笑っていた。

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初出:2023年4月22日(pixiv・サイト同時掲載)
掲載:2023年4月22日

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成人済の時々物書きです。 スカ、女攻め萌え。BLよりはNLやGLが好きです。
18歳以上ですか? ここから先は、成人向けの特殊な趣向の小説(女の子、男の子のおもらし等)を掲載しています。