寝過ごした。五分だけのつもりが、気付いたら時計は三十分以上進んでいた。嫌な汗が背中を伝うのを感じながら、慌てて飛び起きた。
着替えるどころか、顔を洗う時間すら無い。掛け布団を蹴飛ばして机に飛びつく。パソコンを立ち上げる僅かな間も惜しくて、手元のスマホを操作しながら、椅子に掛けていたパーカーを寝巻の上から羽織った。
椅子に腰かけると同時に、スマホを適当な位置に立てかけた。パソコンの大きなディスプレイの前に、スマホの小さな画面。なんだか変な状態だけれど、今はそんなことどうでも良い。
慌てながらも間違わないように操作を続けると、オンライン講義の画面が無事に表示された。時刻はなんと開始一分前。本当にギリギリセーフだ。安堵の息を吐いたと同時に待機中の画面が切り替わって、先生とホワイトボードが映し出された。
『皆さん、おはようございます。では早速始めていきましょう。前回の続きからですが……』
安心したからか、眠気が再び込み上げる。口元を隠して欠伸を漏らしながら、パソコンの横からテキストを取り出した。ぱらぱらと捲ってみたものの、真面目に講義を受ける気は既にほとんど無かった。
この講義はテストの点も大切だが、何より出席日数が重視されている。そのくせに、出欠を取るタイミングは不規則だった。開始早々のこともあれば、半ばに差し掛かった頃に取ることもある。勿論、最後のこともある。
なのでこの講義だけは最初から最後まで出席しておかないとまずい。それはよく知っているはずなのに、二度寝してしまった。自宅から受けられるからと気を抜き過ぎていたみたいだ。オンライン講義で良かったと今日ほど感じた日はない。大学での対面形式だったら完全に遅刻だった。
とにかく間に合ってよかった。胸を撫で下ろしていると、喉の渇きが気になった。ちょうどよく机の上にはミネラルウォーターの入ったボトルがある。昨日から出しっぱなしだけれど、まあ大丈夫だろうと手を伸ばしてキャップを開ける。
寝起きで水分不足だったのもあり、するすると体に吸い込まれていく。水は八割ほど残っていたのに、あっという間に空になってしまった。
喉が満たされると、今度は空腹が気になり始める。周りを見回しても、流石に食べ物はない。講義が終わったら何か食べよう。頭の中はもう遅めの朝食のメニューに切り替わっていて、スマホから聞こえる先生の声は単なる環境音にしかなっていなかった。
スマホの充電がじわじわと減り始めたので、コードを引っ張ってきて差し込む。すると先程飲み干したミネラルウォーターのボトルが充電器のコードに当たって、軽い音を立てて机の上で転がった。床に落ちる前に慌てて掴む。後で捨てようと、机の端にそっと立て直した。
先生は変わらずテキストに沿って解説を進めているが、頭にはほぼ何も入っていなかった。ただただ、出欠確認はまだかとそればかり考えていた。
講義の間、生徒側は音声はミュートにするが、カメラは付けておくことになっていた。出欠確認が始まったら、自分の学籍番号を呼ばれたタイミングでミュートを切って返事をする。それがいつもの流れ。
カメラも講義中はオフで良いんじゃないかと思うけれど、一応先生は画面を確認して、きちんと参加している生徒を把握しているらしい。真面目な者には多少のプラス得点があるのだとか。
スマホ画面の中央には先生がホワイトボードの前で講義をする様子が、そして端には自分の顔が映っていた。
小さなスマホ画面を分割しているので、自分の姿はとても小さい。それでも自分の姿と言うのはやけに目に付いた。顔も洗っていなくて、寝起きのぼーっとした姿。髪が跳ねていることに気付いて、さり気なく手櫛で整えた。
ぼんやりしながら、何となく机の上を片付けたり、テキストをぱらぱら捲ってみたりする。画面隅の時刻表示に目を向けると、講義も半ばといったところだった。
まだ出欠確認を取る様子はなく、先生はテキストの頁を指定する。一応指定された部分を捲りながら、机の下で両足をさり気なく動かした。
どうしよう。背中に嫌な汗が伝う。トイレに行きたくなってきた。思えば、朝起きたらまずトイレに行くのがいつもの習慣なのに、今日は真っ直ぐ机に来てしまった。
体を揺すって、込み上げる感覚を誤魔化す。寝巻の柔らかなズボンの上から、そっとお腹を撫でる。一晩の間に下腹部にはたっぷりと水分が溜まっていて、空腹なのにへその下あたりは大きく膨らんでいた。
ああ、トイレ行きたい、おしっこしたいっ。自然と膝を擦り合わせてしまう。講義の内容も朝食のメニューも頭からは追い出されて、トイレに行きたいと、ただそれしか頭には無かった。
一瞬、席を外すくらいなら大丈夫だろうか。でもその間に出欠を確認されたら元も子もない。それまでは我慢しないと。
はあ、と息を吐いてから、椅子の上からお尻を浮かせて座り直した。体の動きに合わせて椅子が僅かに動く。椅子のキャスターがデスクマットの上できゅっと音を立てた。
両足を擦り合わせる。さり気なく身を揺する。ずっしりと重いお腹。ぞわぞわと嫌な感覚が込み上げて、体の内側から擽ってくる。ぞくりと悪寒が走って、全身がぶるりと震えた。
ああ、トイレトイレトイレっ……! 机の下では暴れる尿意を必死に堪えるために、両足が落ち着きなくばたばたと動き続けていた。カメラに映るのが胸から上だけで良かったと心底思った。
トイレ、行きたい、本当に行きたい。他の事なんて欠片も考えられない。
いっそスマホを持ってトイレに行こうかとそんな事まで考える。でも、スマホのバッテリーは充電中にも関わらず、一桁台のままだ。充電器から外したら、すぐに切れてしまいそうな状態。折角最初からちゃんと出席してるのに、電池切れのタイミングで出欠を取られたら元も子もない。
でも、トイレ、本当に、冗談じゃなく本当に行きたい。行きたくて行きたくてたまらない。自然と背筋が丸くなる。両足を擦り合わせて、くねくねと身体を捩って、内側でじんじんと響く衝動を必死に耐える。ああ、トイレ、おしっこしたいっ……!
パーカーの裾を握っていた手は、太腿を握って、時折擦る。はああ、と熱い息が漏れた。
もう良いだろう、いい加減に出欠を取ってよ! 心の底から叫びたい。けれど、画面の向こうで先生はまだのんびりした口調で解説を続けていた。もうその説明は何かの呪文のようにしか聞こえなかった。
机の下で両足が震える。上下にばたばたと動かして、次はぎゅうと寄せて、また動かして、それでも落ち着かなくて今度は交差させて。荒れ狂う尿意にありとあらゆる動きで必死に抗っていた。ああ、トイレトイレトイレ、おしっこしたい、おしっこ、おしっこっ……!
時間に目をやる。授業終了まであと二十分程。この様子なら出欠を取るのは最後だろうか。それなら今のうちに急いで済ませてしまおうか。そう思うのに、万が一を考えてしまう。ここまで頑張ったんだ、これで欠席扱いになったら最悪すぎる。
あと少しくらい我慢できる。そう思った矢先に、ぶるりと体が震えた。悪寒が頭のてっぺんから走り抜ける。ぱんぱんに膨らんだお腹がじいんと刺激されて、満水状体の膀胱がたぷんと揺れる。中身を押し出そうときゅうと縮む。
「っ、あ……!」
ぞくぞくと鈍く刺すような尿意が上り詰めてきて、声が漏れた。熱い液体が出口へ向かって満たされていく感覚に、咄嗟に手がズボンの上に伸びた。指でぎゅううっと押さえると、ほんの少しだけ尿意は落ち着く。でも、もう本当に限界だった。
お腹はずっしりと重い。中におしっこがたっぷりと溜まっている。
おしっこ、おしっこ、おしっこっ……! 時間はあれからまだ三分程しか経ってない。嘘だと思う気持ちすら激しい尿意が押し流して、頭の中はおしっこのことでいっぱいになってしまう。
おしっこ、おしっこしたい、だしたい、ほんともうむり、おしっこ、おしっこっ……! 体の中はもう僅かな余裕もない。吸い込んだ息すら邪魔で、上手く呼吸ができない。苦しくて、は、は、と短い呼吸を精一杯繰り返す。
自然と視線は落ちて、体を丸めて俯いていた。椅子の上で太腿を前後に、左右に、上下に擦り合わせる。片方の足が床を叩くように動き続ける。片手はもうズボンの前から離せず、太腿の間に挟まれて出口をぐにぐにと揉んでいた。
トイレトイレトイレ、もうむり、おしっこ、ほんとにおしっこっ……! 何でも良い、もう何でも良いからおしっこしたいっ……! 何かの救いを求めて、そろそろと視線を上げる。
スマホの画面では変わらず先生が何やら話を続けている。その声をどこか遠くに聞きながら、雑多な机の上に目をやる。その隅に空のペットボトルを見つけた瞬間、もう他のことは考えられなかった。
ミネラルウォーターは先ほど飲み干したので中身は空っぽだ。震える手を伸ばして掴んだボトルは驚くほどに軽かった。
ここに、出そう。机の下なら映らない。音も、今はミュートだから大丈夫。は、は、と短い呼吸は更に浅くなっていく。手は見てわかる程に大きく震えていた。
置きっぱなしだった空のボトルが今は救いの手にしか見えなかった。そんなこと駄目だ、ありえないと否定する言葉は一瞬浮かんだけれど、すぐにかき消された。
ごくりと唾を飲む。それから出口を押さえていた手を離して、両手でボトルに触れて、キャップを外す。
押さえを失った出口は今にもおしっこを噴き出さんと震える。出口がひくひく疼くのを、大きく体を揺すって必死に堪えた。
そろそろと出来るだけ静かに体を動かす。キャップは机に置いて、開いた手をズボンの前へ持っていく。震える指先がズボンの布地を掴んだ瞬間、ぶるりと体が震えた。
熱い液体が出口に向かって押し寄せる感覚に、咄嗟にズボンの上から出口を塞ぐ。押し潰した出口から、ぶじゅ、と熱いおしっこが噴き出して、下着を濡らしたのが分かった。
「……っ、あ、ぁっ……!」
あ、あ、あ、だめ、でる、おしっこ、もうむり、おしっこでるっ……! 短い呼吸を繰り返しながら、腰を持ち上げる。椅子に浅く座り直しながら、ズボンの前を下着と一緒にずり下ろして、何とか性器を引っ張り出した。
先端は既にじっとりと熱く濡れていた。ひくひく疼く出口のすぐそこまで熱いおしっこが押し寄せている。息を吸うと、その分を押し出すかのように、じわりとまた一滴、雫が零れた。
だめ、でる、でるでるでるでる、おしっこでる、でる、あ、あ、あっ……! 苦しい。息が上手く吸えない。荒く短い呼吸を必死に繰り返しながら、左手を机の下へ持っていく。手が震えて、ペットボトルが不安定にぐらぐらと揺れた。
右手の中で、性器がびくびくと疼く。もう少し浅く座った方が出しやすいと思って、もう一度椅子からお尻を持ち上げた。
お尻が椅子に触れて、そのまま体重を掛けようとした瞬間だった。浅く座りすぎたようで、力が後ろへと掛かった。
キャスター付きの椅子がずるりと後ろに滑る。両足に力が籠ったけれど、体重が後ろに掛かっていて踏み留まれない。どこかを掴もうにも、両手はいっぱいで、どうすることも出来なかった。
そのまま勢いに任せて、どすんと床に尻餅をついた。じいんと鈍い痛みがお尻から腰へと響いた。
「ぅあ、ぁっ……!」
その刺激で、ぶじゅううと出口から熱いものが噴き出した。咄嗟に手でぎゅうと握ったけれど、もう出口は大きく開いていて、溜まりに溜まったおしっこを噴き出していた。
「うあ、あ、やだ、っ……!」
じゅううう、と水音が体の中で響き渡る。噴き出したおしっこは噴水のようにお腹へと降り注ぐ。力が入らず、添えられただけの手の先で、熱い水流が噴き出しているのを感じた。
ぱんぱんに膨らんでいたお腹が少しずつ楽になっていく。お尻が熱い。下着が濡れて、肌に張り付く。ズボンの柔らかな生地が濡れてずっしりと重くなっていく。
昨日の夜からたっぷりと溜まったおしっこは物凄い勢いだ。止めようと思っても止まらない。何とかしようにも体は動かない。お尻を打った痛みも残っているけれど、それを塗りつぶすように解放感が広がっていく。
うそ、だ。おしっこ、で、ちゃった。何もできず、呆然と空を眺めていた。最悪だ。そう思うけれど、体は動かない。
ただ、我慢に我慢を重ねたおしっこは本当に気持ちがよくて、ぐちゃぐちゃの頭の中が排泄の爽快感に塗りつぶされていく。ぞくぞくとした快感に体が震える。
気持ちが良くて、色々なことがどうでもよくなっていく。デスクマットの上に尻餅をついた体勢のまま、その心地よさに酔いしれていた。
+++
全部出し切って、水音の代わりに自分の心臓の鼓動がよく聞こえた。
やって、しまった。全部、出た。すっきりした体の内側とは裏腹に、外側は不快感でいっぱいだった。
着替えないといけない。床も拭かないと。色々考えるけれど、体はずっしりと重くて指先ひとつも動かない。
何もできず、ぼんやりと空を見ていた。ふー、ふーと自分の呼吸の音が耳に着く。その後ろで、微かに話し声が聞こえることに気付いた。
そうだ、講義。そのままの体勢で、耳だけを話し声に傾ける。
『えー、では、最後に出席を確認しますので……』
その言葉に、心臓が跳ねた。遠かった体の感覚が一気に戻ってくる。
待望の出欠確認の時間だった。
ど、ど、どうしようっ!? どうする!? こんな状態でカメラに映れない。着替えないといけない、でもそんな余裕はない。頭の中がぐちゃぐちゃだ。
とにかく立ちあがろうと床に手を突くと、左手が何かに当たる。視線を向けると、空っぽのペットボトルが水溜まりの上で転がっていた。
順番に学籍番号が読み上げられていくのが聞こえる。手を突いて、重いお尻を持ち上げた。両足は余韻なのか、がくがくと震えていた。
何とか立ち上がって、机に手を付いて体を支える。そこで初めて下半身の状態に気付いて、慌てて濡れたズボンと下着を引っ張って、性器を閉まった。
番号が呼ばれて、返事が聞こえて、また先生が番号を読み上げる。心臓が飛び出そうなほどにばくばく鳴っていた。濡れた手を伸ばして、マイクのミュートを切る。触れた画面には僅かに水滴が残った。
『●●●』
「はい」
不安と混乱でぐちゃぐちゃの頭とは裏腹に、自分の返事の声は思ったより落ち着いて聞こえた。先生も何事もなかったかのように次の番号を呼んで、その番号の生徒が返事をする。
画面の隅には自分の姿が映っている。当たり前だけれど胸から上しか映っていなくて、机の下の惨状はどこにもない。その当たり前に心の底から安心を覚えた。
これで出席になったので、もう画面を切っても何も問題ないのに、何故かスマホ画面を見つめたまま立ち尽くしていた。
熱く濡れていた衣類は既に冷たくなり始めて、ぞくぞくと悪寒を感じた。重く濡れたズボンの裾から水滴が落ちて、足の甲を擽る。その感触をどこか遠いことのように感じていた。
暫しの後、先生の挨拶と共に講義は終わった。ホストが退出したので、強制的にこちらもログアウトされる。真っ暗になったスマホ画面を見つめていると、糸が切れたように体から力が抜ける。そのままずるずるとしゃがみ込んだ。
はああ、と胸の奥から息を吐いた。良かった、ばれなかった。体から力が抜けて、重さが増す。そのまま横になりたいくらいだったけれど、そうもいかなかった。
「……片付け、しないと」
デスクマットは撥水性で、その上には大きな水たまりが広がっていた。どれだけ出したのか、マットだけでは収まらず、フローリングの上にまでそれは広がっていた。
拭くものを取りに行こうとして、重く張り付いた下着とズボンが足に纏わりつく。ああ、もう、とりあえず脱ごう。どうせ自分一人しかいないんだ、裸でうろついたって誰も困らない。床を拭いたらそのままシャワーに行けば良い。
生理現象が一つ解消されたからか、今度は違う生理現象が込み上げる。空っぽになったお腹がぐうう、と低い音を立てた。
……お腹、空いた。何か食べたいけど、とにかく片付けが最初だ。もう一度溜息をついてから、濡れたズボンに手を伸ばした。
【ちゃんと上手にできた場合】
手が震える。荒れ狂う尿意が自分の内側をぐちゃぐちゃに掻き混ぜる。息が苦しい。体の中がいっぱいで、息を吸うことすら辛い。はやく、はやくはやくはやくっ……!
椅子に浅く座って、ズボンの前を下ろして、反対の手でペットボトルを近付けた。がくがくと手が震えるけれど、落とさないように必死に掴んでいた。
むり、もうむり、おしっこっ……! 右手で性器を握って、先端を左手のペットボトルに近付ける。じゅわ、と出口が熱く濡れるのを感じた瞬間、息が止まった。
あ、でる、おしっこ、でるっ……。ぞくりと体に悪寒が走る。そして、水音が体の中に響く。しんと静かな中、先生の声が遠くに聞こえる。一瞬の間を置いて、静かな水音が全ての音を掻き消した。
しゅー、と小さな音を伴って、出口からおしっこが溢れ出す。張り詰めていたお腹が楽になっていく。我慢しすぎたのか、おしっこは細く弱く、静かにペットボトルを満たしていく。
あ、あ、で、た、おしっこ、だせたっ……。安心と快感に熱い息が漏れる。それと同時に、おしっこの勢いは一気に強くなった。
ぶじゅううう、と野太い音と共に、左手は段々と重さを増していく。水音はじょぼぼぼ、と注ぎ込む音に変わっていた。
「あ……、は、ぁっ……」
解放感が体を満たしていく。気持ちよくて、ぽかんと口が開いていた。吐き出す息に甘い声が乗っていることにも気づいていなかった。
おしっこ、出てる、気持ち良いっ……。ぐちゃぐちゃの頭を快感が塗りつぶす。頭の芯がじいんと痺れていた。
一晩溜まったおしっこは思っていたより大量で、なかなか終わらない。段々と冷静さが戻ってきても、まだおしっこはじゅうじゅうと噴き出し続けている。
視線の先、スマホの画面では先生が変わらず講義を続けていて、その隅には自分の姿も映っていた。胸から上しか映らないので、今、机の上で行われていることは誰にも知られることはない。でも、だからと言って平常心でいられる程、肝が据わっている訳でもない。
はやく終わって。そう思うのに、お腹はまだすっきりしない。そっと視線を落とした先で、ペットボトルには薄く色づいた液体がたっぷりと溜まっていた。先程まで空っぽだったのに、もう既に八割以上も満たされている。
もしかして、足りない、とか……? 流石にそんな訳はないと思うけれど、ずっしりと重い左手とまだ鈍い感覚が残るお腹に不安が増していく。でも一度出し始めた以上、止めることも出来ず、そのままじっとしていることしか出来ない。
はやく、はやく終わってくれ。先程とは違う焦燥感に追い立てられていく。その不安を追い立てるように、遠くに聞こえていた講義の声が耳に入った。
『えー、では、最後に出席を確認しますので……』
背筋に嫌なものが伝った。いや、ちょっと待って、本当に待って。慌てる気持ちとは裏腹に、先生は少しの間の後、学籍番号を読み上げ始めてしまった。
ど、どうしよう、どうしようっ……!? 焦りで手が震える。慌てて視線を下に向けると、更に焦りが増した。
もうペットボトルは満タンだった。でもまだおしっこは止まらなくて、いっぱいいっぱいのボトルへと続きを注ごうとする。当たり前だが、それ以上は入らない。
おしっこはボトルの外へと溢れて、掴んだ左手を濡らした。あっ、あっ、やばい、ど、どうしようっ……!? ペットボトルを伝って、掴んだ手を伝って、生暖かい液体が床に落ちる。ぴちゃぴちゃと微かな水音が聞こえた。
頭の中がぐちゃぐちゃで、何をどうしたら良いかわからない。順番に聞こえてくる学籍番号。はやくミュートを切らないといけない。でも、こんな状態で、返事なんて。ああ、どうしよう、どうしようっ!?
ばくばくと心臓が激しく鳴る。慌てていると、やっとおしっこは勢いを弱めた。まだ出そうな感じはあるけれども、何とか無理やり止めて、慌てて手を離した。
すっきりしたお腹に惚ける余裕は無かった。右手をズボンで拭ってから、慌ててスマホ画面に触れる。
『●●●』
「は、はいっ」
ミュートを切った瞬間、自分の学籍番号が呼ばれて、慌てて返事をした。本当の本当にギリギリセーフ。危なかった。どきどきと心臓がうるさい程に鳴っていた。
画面に映るのは胸から上だけ。机の下は全く映らないけれど、気が気ではない。
左手にはおしっこがたっぷり入ったペットボトルをぶら下げたままだ。その手はおしっこでびっしょりと濡れていた。床のデスクマットも濡れて水溜りが広がっている。しかも、押し下げたズボンの前からは性器を出したままだ。
こんな状態、誰かに見られたら恥ずかしくて生きていけない。緊張と不安で心臓がばくばく高鳴って、口から飛び出るんじゃないかと本気で思った。
上擦った声に特に何か物言いが入ることもなく、先生は次の番号を呼ぶ。それに安心しながら、もう一度画面に触れた。ミュートの表示が出たのを確認して、大きく息を吐いた。
無事に出席を取ってもらえた安心に酔いながら、そっと視線を落とす。床には水溜りが広がっている。左手は生温かく濡れていて、掴んだボトルも温かい液体で満たされている。僅かに動かしただけで、満タンの中身が口から溢れて再び手を濡らした。
片付けないと。まず、ペットボトルをトイレに持って行って、それから床を拭いて。頭の中で片付けの段取りを考えていると、ぶるりと体が震えた。先程、出しきれていなかったみたいで、またおしっこがしたくなってしまった。
トイレに行こうかと思ったけれど、今の状況を見ると、もうどうでも良くなってしまった。出したままの性器をもう一度掴む。お腹に力を入れると、残っていたおしっこがじゅううと噴き出した。もう満水のペットボトルを当てても無意味なのはわかっていたので、左手はその場でぶらさげたまま。
噴き出したおしっこは床のデスクマットに直接落ちる。水溜りに落ちた水流はぴちゃぴちゃと雫を飛び散らせる。お腹が楽になっていくその気持ちよさに、はああ、と熱いため息が漏れた。
全部出し切ると、ぶるりと余韻で体が震える。やっと完全にすっきりできた。性器をしまって、ズボンの前を正してから、椅子に深く座り込む。ペットボトルは左手で掴んだままだ。机の上に置くのは流石に躊躇われた。
片付け、しよう。そう思っていると今度は違う生理現象が込み上げる。お腹が空いたと思うと同時に、低い音がぐううと鳴った。
何か食べたいけれど、とにかく片付けてからだ。はああ、ともう一度溜息を漏らしてから、重い体を動かした。
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初出: 2022年7月11日(pixiv・サイト同時掲載) 掲載:2022年7月11日