【1/14 ぷちし~むす!】No.DRinK 短編集その5【サンプル】

コピー本 A5サイズ 300円
約8000字×2作品を収録

1月14日(日)こみっくトレジャー43内プチオンリーイベント「ぷちし~むす!」にて頒布します。
4号館 B56a「のんびりまったりなだらかに」

後日、Boothにてダウンロード販売を行います。

【収録内容】
一 天才博士とイチミちゃん
二 イチミちゃんの復讐

【サンプル】
一 天才博士とイチミちゃん

 朝七時。いつものように朝の清掃を終えた後、研究室へ向かう。大きなモニターとコンピュータが並ぶ机の前で、大きな椅子が静かに揺れていた。
 大きな背もたれに体を預けて、彼女は目を閉じて規則正しい呼吸を繰り返している。長い黒髪は縺れてくしゃくしゃで、白い上着も黒いズボンも皺が走っている。見慣れた光景にひとつ呼吸をしてから足を持ち上げて、大きな椅子を後ろから思いっきり蹴った。
「っ! な、ななな、なんだっ、なに、なにっ!?」
 椅子は大きく揺れて、ぎしぎしと軋む。閉じていた目は途端に開いて、彼女は慌てたように頭を持ち上げた。くしゃくしゃの髪をかき上げながら周りを見回した後、私の姿を見つけると、大きく見開いていた目を途端に細めた。
「なんだ、君か。おはよう、イチミちゃん」
「おはようございます、博士」
「素敵な起こし方だね。どこから学んだのかなクソロボット」
「勿論、あなた様でございますね、クソご主人様」
 彼女は大きく息を吐くと、両手を上げて体を伸ばす。それから椅子へと体を預けた。

「人はベッドで眠ると私の知識にはあります」
「それは『基本的には』だね。例外もたくさんある。例外のない法則は無いんだよ、イチミ。これで一つ賢くなったね」
「毎日行うことは『基本』と定義されます。今座っておられるのは椅子に見えますが、もしかして新式のベッドでしょうか。いつ開発したのか全く気付きませんでした」
「その減らない口は一体誰に似たのかな、イチミちゃん」
「ここには私とあなた以外おりません、ご主人」
 濡れタオルを差し出すと、彼女はそれで顔を拭う。その間に、入口に運んできていた朝食を傍のテーブルへ並べた。

「本日、特別な予定は無いと把握しております。食事はいつもの時間でよろしいでしょうか」
 彼女は「ああ」と返事をしながらモニターへ目を向ける。それから「ああ!」と更に大きな声を上げた。
「そうだ! そうだった!」
「突然大声を上げると驚きます」
「悪い悪い。いや、そうだった。昨夜、基本部分が完成したんだった! となると、次は実際に動かさないといけない。朝食なんて後だ、早速実践に入るぞ、イチミ! 付き合ってくれ!」
 早口に捲し立てながら、その手は朝食ではなくキーボードに伸びて、何やら打ち込み始める。終わり次第、研究室の外へ飛び出していきそうな雰囲気を感じて、彼女の前にフォークを差し出した。
「食べてからにしてください、ご主人」
「いやいや、今は食事なんて取ってる場合じゃない! はやく動かさなければ!」
「出来上がった発明は逃げません。ですが、焼いたベーコンは固くなります」
 パンとスクランブルエッグ、ベーコン、それからサラダ。ひとつの皿に纏めた朝食を博士は一瞥すると、不満げな顔でフォークを手に取った。
「これを食べたらすぐに実践に入るからな、イチミ!」
「食事の後は歯磨きです。それから、昨日は入浴をされていないようですので、入浴と着替えもお願いします」
「……少し待っていなさい。『融通』という言葉をお前の頭へ流し込んでやろう」
「既に知っていますので、結構です」
「知識として持っていても実際に使えなければ無意味だよ、口が減らない可愛子ちゃん」
「知識は使う場面が大切だと教わりました、屁理屈を重ねる天才博士様」
 博士は黙ると、朝食を次から次へと口へ運んでいく。そうしてあっという間に皿を空にして、フォークを置いた。
「お代わりはいかがですか」
「もう満腹だ。いつもながら美味しかった。ありがとう、可愛いイチミちゃん」
「どういたしまして、素敵な天才博士様」
「では、早速実践へ……」
「お皿を片付けている間に、歯磨き、入浴、着替えを済ませてください」
「……後で覚えておけよ、イチミ」
「記憶容量には余裕がありますのでご安心ください、ご主人」
 博士は椅子を大きく揺らして立ち上がると、大股で歩いていく。その姿を見送ってから、空になった食器類を下げた。
 本当ならば散らかり切った机や椅子周りも片付けたいところだが、落書きに見えても大切なメモだったり、ガラクタに見えても大切な部品だったりするので、下手に手を出せない。今度しっかりと時間を取って、綺麗にしてやろうと考えた。

二 イチミちゃんの復讐

 早朝。静かに研究室へと入る。相変わらず室内は乱雑で、本や書類、よくわからない機材や部品が机にも床にも散らばっている。踏んでしまわないように気を付けて、モニター前の椅子へと近付いた。
 彼女は定位置である椅子に座った状態で動かない。瞼は伏せられていて、静かな息が聞こえる。深い眠りについているようだった。
 こうして眠り込んでしまえば、彼女が多少のことでは起きないのは私が一番よく知っている。それでも物音を立てないように注意しながら、静かに行動に移した。

 まず、足。力なく椅子から下ろされた足へ、持ってきたロープを近付ける。彼女の足と椅子の脚を一緒に、丁寧に縛った。黒いズボンの上からロープを巻いたので、傷にはならないだろう。
 次に、手。椅子の肘置きが良い位置にあったので、左右の腕をそれぞれ縛り付けた。こんなことをするのは初めてなので時間が掛かってしまったけれど、寝息は変わらず聞こえていた。
 縛り終えて時計を見ると、彼女の起床時間までは少し余裕があった。今、起こしても良いけれど、人の体に睡眠は大切だ。昨日も遅くまで起きていたようなので、ゆっくり眠ってもらった方が良いだろう。持ってきたものを纏めて、静かに研究室から出た。

 掃除や片付けをしていると、研究室から彼女の悲鳴が聞こえた。いつもの起床時間を三十分程過ぎたところだった。
「な、なんだこれっ! た、助けてくれ! イチミ! 近くにいるだろう、イチミ!」
 少し掠れた声で私を呼ぶのが聞こえたので、研究室へ向かう。室内に入る前から、椅子が軋む音が聞こえていた。
 私が姿を見せると、彼女は険しい顔で視線をこちらへ向けた。ロープを解こうと手足を動かしているが、椅子が激しく揺れるだけだった。
「おはようございます、ご主人」
「ああ、おはよう……って違う! そんなこと今はどうでも良い! 助けてくれ! 何故かわからないが、こんなことになっているんだ!」
 椅子はぎしぎしと嫌な音を立てて揺れるが、ロープが切れる様子は無い。勿論、結び目はしっかりと縛ったので、緩むこともなかった。

「なんなんだこれ、侵入者か!? 私の研究目当てか!? 何か盗まれていないか早急に調べないといけない! イチミは何もされていないか? 誰か人が来た様子は無いか!?」
 彼女は早口で捲し立てながら、体を捩る。とりあえず足元に落ちていた紙を拾い上げてみると、走り書きがあった。私には読めないので、これが大切な物なのかは判断が付かない。
「誰かが侵入した様子は無いので、ご安心ください。セキュリティシステムは問題なく稼働し続けています」
 そう伝えながら書類を拾う私の様子を見て、彼女は動きを止めた。十枚程紙を拾い上げたところで、膝を伸ばす。私を見る視線はどこか険しいものだった。

「……確認したいことがある、イチミちゃん」
「ええ、なんでしょうか」
「私を椅子に縛り付けた犯人を、君は知っているのかな」
「はい、存じております」
 拾った書類を机に置きたかったが、色々な物が積みあがっていて、僅かな置き場も無い。椅子の周りにも物が散乱していて、何かを踏みつけてしまいそうな状態だった。
「私も確認したいことがあるのですが、よろしいですか?」
「……なんだろう」
「このメモは必要なものですか?」
 拾い上げた紙を見せる。博士は訝しむように視線を向けて、それからもう一度私を見上げた。
「要らない」
「わかりました、処分します。では、こちらは?」
「それも不要だ。……あの、イチミ」
「この基盤のようなものは必要ですか?」
「それはいる。机の上にでも置いといてくれ」
「了解いたしました。では、次。こちらは必要ですか?」
「それは要らない。……いや、あの、イチミちゃん」
 彼女から要らないと確認できた物はひとまず部屋の隅に置いた。後で袋を持ってきて、まとめて処分することにする。必要だと言われたものは机の隅に置いたものの、これでは仕分ける前のものと混ざってしまう。床より先に机の上を片付けた方が良さそうだ。
「では、次は……」
「待て待て待て! 片付けより先にやることがあるだろう!」
「私には思い当たりません」
「君の記憶媒体にエラーでも起きているのかな!」
「生憎と正常でございます。ご主人のお手を煩わせることは何もございません」
 机上の物を適当に手に取る。まずは書類関係を減らした方が良いだろうと考えていると、彼女は椅子を大きく揺らしながら、静かに、それでいて低い声で言った。

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成人済の時々物書きです。 スカ、女攻め萌え。BLよりはNLやGLが好きです。
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