【同人誌】No.DRinK 短編集その4

コピー本 A5サイズ 28ページ 300円

2023年8月13日(日)  コミックマーケット102にて頒布します。
東5ホール ハ-11a「のんびりまったりなだらかに」

イベント終了後、BOOTHにてDL販売を行う予定です。

【収録内容】
一 森と鎖
二 秘密の合言葉 その2

【サンプル】

一 森と鎖

 森の中で足元を照らすのは星の明かりだけ。誰もが足を踏み入れるのを躊躇うような不気味な森の中を、若き女性がひとり走っていました。彼女の動きに合わせて、長くふわりとした栗毛が背中で舞いました。
 苦しそうに肩で息をしながらも、それでも彼女は足を止めません。その表情は恐怖に歪んでいました。時折、何かを確認するように後ろを見ながら、森の奥へと足を進めていきます。
 ワンピースから伸びた白い足は何も纏っていません。裸足で草木を踏み締めて、その足には細かな傷が付いていました。よく見れば着ているワンピースも薄手で、外出するには心許ないものです。
 草木を踏み締める音に混じり、金属が擦れる音が響いていました。細い両腕はくすんだ銀色の鎖で縛られていました。鎖が何周も手首に巻き付いていて、両手の間は拳一つ分もありません。鎖が触れた肌は擦れて赤くなっています。
 自由に動かせない両手を胸元に寄せたまま、彼女はひたすら走っていました。

 どれくらい経ったか。彼女は荒い呼吸を繰り返しながら、足を止めました。人の気配は全くありません。険しい表情で後ろを振り向きますが、そこには不気味な森が広がっているだけでした。
 ゆっくり腕が下ろされると、鎖が鈍い音を立てます。細い鎖ではありますが、複雑に絡み付いていて、簡単には外せそうにはありません。
 はあ、はあ、と荒い呼吸を繰り返す音だけが聞こえました。彼女はもう一度後ろを見てから、近くの木へ近付いて、そっと寄り掛かりました。
 長く美しい栗毛は縺れて背中に張り付いていました。目を閉じて息を整える表情は先程より穏やかで、その整った顔立ちがよくわかります。よく見れば身に纏うワンピースも上質な生地のようでした。

 彼女はそれなりに名の通ったご令嬢でした。夜分、突然押し入った物取りに攫われたのです。悲鳴を上げるより先に口を塞がれて、手を鎖で縛られて、温かなベッドで眠っていた姿のまま、盗品と共に連れ去られてしまいました。
 幸運だったのは、物取り達が人攫いに慣れていなかったことです。物取り達は一仕事終えて屋敷を離れようとしたまさにその時、たまたま起きてきたご令嬢に出くわしてしまいました。
 見られてしまった以上、そのままにはしておけないと成り行きで攫ったは良いものの、人攫いは初めての経験です。
 乱暴にご令嬢の手を鎖で縛ったけれど、足は自由なまま。盗品を保管する倉庫へ閉じ込めたけれど、入口の鍵は掛けても高い位置の窓は開いたまま。
 物取り達の不慣れが故の隙によって、ご令嬢は何とか逃げ出すことができました。
 しかし不運だったのは、倉庫が街から離れた森の近くにあることでした。盗品を足場にして窓から脱出したところまでは良かったのですが、倉庫入口には見張りがいた為、逃げるには不気味な森へ入るしかありません。
 恐怖をぐっと飲み込み、震える足で普段ならば絶対に近寄らない森へ飛び込みました。薄暗く不気味な中をとにかく必死に走って、気付けば倉庫からは遠く離れていました。しかし、ここがどの辺りなのか、わからなくなっていました。

二 秘密の合言葉 その2

「さあ、そろそろお家へ帰る時間ですよ!」
 夕日が辺りを橙色に染める頃、シスターのよく通る声が教会の庭へと響き渡る。素直に返事をする子、まだ遊びたいと駄々をこねる子、何かを見せに来る子。十人十色な反応の子ども達をシスターは柔らかな笑顔で見つめていた。
「シスター!」
 そんな中、ひとりの女の子が慌てた様子で教会へと駆けてきた。他の子ども達が帰路につく中を逆行してくるので、自然と視線が集まっていく。

 女の子はひとりでは無かった。その傍には一人の女性がいた。彼女は女の子に手を引かれ、ゆっくりと教会へ向かってくる。
 子ども達よりは年上だが、まだ年若い女性だった。真面目で大人しそうな、どちらかというと木陰で本を読むことを好みそうな雰囲気に見えた。
 目が悪いのだろう、太い縁の眼鏡を掛けていて、その顔は真っ赤に上気していた。細身な体を隠す鳶色のワンピースは綻びも無く真新しいが、その前部分には大きな皺が広がっていた。
 そんな彼女の足取りは危なっかしく、子ども達が一斉に視線を向けたのも仕方ないだろう。体は前屈みになり、後ろに突き出されたお尻がくねくねと揺れる。長い袖から見える手は白く、そして見てわかるほどに震えていた。

 シスターは声を上げると、突然の来訪者へ駆け寄る。女の子は心配そうな表情で、シスターを見上げた。
「シスター、お姉さん、お腹が痛いみたいなの。助けてあげて」
 女の子の隣で、女性はお腹を抱えるように体を丸めて、苦しそうな呼吸を繰り返していた。膝丈の裾から覗く足はがくがくと震えて、今にも崩れ落ちそうだった。

 シスターの指先が震える背に触れた瞬間、彼女は勢いよく顔を上げた。まだ幼さが残る表情は険しく強張っていて、火照る顔には汗の粒が見える。レンズの向こう側の瞳は涙をいっぱいに溜めて震えていた。
「っぁ、あ、あっ、あのっ……!」
 震える唇から飛び出す声は途切れ途切れで、か細い。浅く荒い呼吸の隙間を縫うように、必死に言葉を紡いでいた。
「そ、相談、なんですっ……! あ、あのっ、そうっ、か、カラパ侯爵の、相談っ! お、おねがい、しますっ、お願いっ……!」
 端正な顔を歪めて、鬼気迫る様子で言葉を繰り返す。手を引いてきた女の子は彼女が何を言っているのかわからず、首を傾げた。反面、シスターは静かに頷くと、丸くなった背中へ手を添えた。
「かしこまりました。中へ行きましょう。歩けますか?」
 女性はこくこくと頷く。シスターはここまで連れてきてくれた女の子へと柔らかく微笑み、声を掛けた。
「ありがとう。後は任せて、あなたはお帰りなさい」
「……お姉さんは大丈夫?」
「ええ、大丈夫ですよ。さあ、遅くなってしまいますよ」
「はあい。シスター、お姉さん、さようなら。お腹痛いの、治りますように」
 女の子は心配そうな表情のまま、教会から遠ざかる。シスターは女性の背を支えながら、教会の扉へと近付いていった。

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成人済の時々物書きです。 スカ、女攻め萌え。BLよりはNLやGLが好きです。
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