湯船のお湯を抜いている間、洗い場の床をスポンジで擦っていると、しょろしょろと控えめな水音が聞こえた。振り向くと、結子が蛇口の下で何やらこそこそしている。静かに後ろから近づき、手元を覗き見ると、洗面器にお湯を注いでいるようだった。洗面器の中には水色の何かが沈んでいる。
「パンツ洗ってるの?」
「……っ! び、びっくりさせないでくださいっ!」
「ごめんごめん」
蛇口をきゅっと止め、結子は洗面器の中で水色のパンツを手に取った。昼間におもらししてしまったパンツだろう。これを洗いたかったから、彼女は母ではなく私と一緒にお風呂に入ったと言っていた。
「それにしても、今日はよくおもらしするね」
「今日はたまたまなんですっ。いつもはおもらししないんですからっ」
保健室でおもらしを目撃した身としては、その言葉はどうも信用できない。下着を余分に持ってきているところからして、割と良く失敗しているのではないか。聞こうかと思ったが、こちらを睨んでいたので辞めた。どんなに怖い顔をして睨んだところで、真っ赤な顔をしているので怖くはなかったが。
「先生、時々意地悪です。普段は優しいのに」
「意地悪したくなる時もあるのよ」
「ううう……。あんまり意地悪しないでください……」
「はいはい」
結子が洗面器から水色の下着を取り出し、ぎゅうと絞る。じゃーっと洗面器へ水が滴るとの同時に、湯船でごぼっと音がした。お湯が抜けきったらしい。
お風呂掃除を終え、冷えてしまった体をシャワーで温める。さて、上がろうかなと思い、隣の結子を見る。手にシャワーヘッドを持ち、肩のあたりからシャワーを浴びているが、そわそわと落ち着きがない。もしかして、と下腹部に目をやると、湯船に使っていた時のようにぽっこりと膨れていた。再び催したようだ。
排水溝でしちゃえと思ったが、せっかく掃除したところにおしっこをするのもどうなのだろうか。もう一度その部分だけでも洗えばいいのだろうが、そうだとしても気が引ける。
色々と考えている私の隣で、きゅっとシャワーを止めた結子はそわそわとしながら脱衣所に歩いていった。まあ、服を着て、トイレに向かえば良いだけのことか。流石にそれくらいなら我慢できるだろう。シャワーヘッドを壁に掛けて、結子の後を追って私も脱衣所へ出た。
脱衣所はお風呂場に比べてひんやりしていた。結子は体にタオルを巻いた状態で、もじもじとしながら髪を拭いていた。じっとしていられないのだろう、足はぺたぺたと不規則な足踏みを繰り返している。
隣で体にタオルを巻いて、同じように髪を拭きながらついつい結子の動きを目で追ってしまう。結子は髪を拭いていたタオルを乱暴に棚に置くと、持ってきた鞄の中をごそごそとかき回した。何かを探しているらしいが見つからないらしい。両足は落ち着きなく足踏みを繰り返していて、段々と体が前屈みになり、お尻がつき出された体勢になっていく。
大丈夫かな、と心配していると、彼女はびくっと大きく震えた。そして、鞄の中を漁っていた手が素早く両足の間に差し入れられた。体に巻いたタオルの上から股間をぎゅっと押さえながら、片手で探し物をするがやはり見つからないようだ。
私が下着を履き、寝間着のTシャツを着て、残すはズボンを履くだけとなっても、彼女はまだタオルを巻いたままでもじもじと足踏みを繰り返している。
「何か探してるの?」
「あの、パンツ、見つからなくてっ……」
「貸してごらん」
先にパジャマの上だけでも着れば良いものを。
彼女から鞄を受け取り、中を覗く。とりあえずパジャマを取り出し、棚に置くと、鞄は底を見せた。部屋に忘れてきたんじゃないかと思いつつ、中に縫い付けられているポケットに手を入れると何かに触れた。取り出すと、折りたたまれた黄緑色の下着だった。
「はい、あったよ」
隣を見ると結子の姿はない。下を見ると、私の隣でしゃがみ込んでいた。片膝を立て、反対側の足の踵がタオルの上からぐりぐりとおしっこの出口を押さえつけている。俯いて、ふーふーっと荒く長い呼吸を繰り返して、必死に耐えているようだ。
「結子、」
「せんせぇっ、もうだめ、おしっこっ……!」
「ほら、着替えて早くトイレ行っておいで。パンツあったから」
パンツを差し出すと、結子はぶるぶると立ち上がった。踵から離れた出口を片手でぎゅうぎゅうと揉みながら、反対の手を私に伸ばそうとして、その手はすぐに引っ込められた。タオルの上から両手で持ち上げるように股間を握り、お尻をふりふりと振りながら、足踏みを繰り返す。
「あぁっ、だめっ、せんせ、おしっこでちゃうっ……」
「ああもうっ、わかった、もうちょっとだけ我慢してっ」
何かないかと脱衣所を見渡すが、トイレの代わりになるものなんて簡単に見つかるはずがない。
「せんせぇ、はやくぅっ……」
「もうちょっと頑張ってっ」
「でちゃう、おしっこでちゃうぅっ……」
急かされると余計に見つからない。ああ、もう!とやけくそになった私の目に、お風呂場の入り口の横に置かれていた白い洗面器だ。先程、結子がおもらしパンツを洗っていたものだ、今更おしっこを注いでも問題ないだろう。
「ああぁっ、や、でちゃうっ……!」
じゅわっと音がして、ぽたぽたと彼女のお尻の下に水滴が落ちた。慌てて洗面器を掴んで、彼女のお尻の下に差し入れる。瞬間、じゅわーっとお尻のあたりのタオルが色を変え、ぼたぼたぼたと大粒の滴が降り注いだ。間一髪、滴は床に落ちることはなく、私の手に持った洗面器の中へ注がれた。
「あ、ああぁっ……」
滴はだんだんと量を多くして、最終的には太い水流となった。しゅーっと水音を鳴らしながら、おしっこは滴り落ちて、洗面器の中でびちゃびちゃと跳ねる。
片手で持った洗面器がだんだんと重みを増していく。白い洗面器には薄黄色の液体がなみなみと注がれ続けている。落としてしまわないように両手でしっかりと持つ。間近で注がれていく黄色いおしっこはなかなか途切れない。
「結子、結構重たくなってきた」
「ごめんなさい、まだ、おしっこ出そうですっ……」
「はいはい、好きなだけしなさい。溢れない程度にね」
「そんなには出ませんっ……」
いい加減にこの子は自分のおしっこの量の多さを認めればいいのに。頑なに認めないのは恥ずかしいからか、それとも本当に普段はここまでたくさんおしっこをしないのか。後者だったら驚きだ。
たっぷりおしっこの溜まった洗面器をお風呂場の排水溝へ運ぶ。洗面器の半分ほどは溜まっているだろうか。洗面器は何リットル入るのか後で調べようとこっそり思った。
ざばーっと一気に排水溝へ流し、シャワーで中を洗った。見た目ではわからないと思う。おばあちゃん、洗面器をおしっこする道具にしてごめんなさい。
洗面器を片付け、脱衣所へ行くと、着替えを済ませた裕子が恥ずかしそうに俯いていた。
「せんせ、ごめんなさい。ありがとうございます」
「どういたしまして。もうおしっこ出ない?」
「うん、お腹空っぽ……」
そりゃあ、あれだけ出せば空っぽにもなるだろう。
+++
二人並んで脱衣所を出て、廊下をきしきし軋ませながら、部屋まで戻る。
「ね、せんせ、ここにいちゃ駄目ですか?」
「別にいいけど、お母さんは?」
「広間でみんなとお話ししてるんです。一人で部屋にいても退屈で」
「わかった、こっちおいで。って言っても、何もないけど」
結子は自分の泊まっている部屋に荷物を置くと、嬉しそうにニコニコしながら私の部屋に来た。
二人で畳の上をごろごろしながら、他愛もないお喋りをする。連絡先を教えてほしいと言うので電話番号を教えると、きゃっきゃっと声をあげて喜んでいた。「毎日連絡しますっ」と言うので慌てて制しておいた。私は彼氏じゃないんだから。
気付くと外はすっかり暗くなっていた。店が少ない田舎だ。太陽が沈めば一気に暗くなる。
時計を見ると、まだまだ寝るには早い時間だったが、ついつい欠伸が漏れた。長時間の運転やら、親戚との話やら、結子のおしっこ事件やらで、思った以上に疲れているらしい。見ると、結子も欠伸を噛み殺していた。眠いのだろう、目がほとんど開いていない。
「早いけど寝ようか」
「はぁい……」
「部屋戻る? ここで寝る?」
「せんせぇと一緒に寝たいです……」
押し入れから布団を取り出して、とりあえず一組敷いた。結子、と声を掛けると、彼女はもぞもぞと布団に潜り込んだかと思うと、次の瞬間には寝息を立てていた。おしっこを我慢するのにも体力を使うだろうし、まあ仕方ないといえば仕方ないのだろう。
もう一組敷いて、私も寝ようと思ったところで、かすかな尿意を覚えた。そんなに行きたいわけではないが、とりあえずトイレに行っておこう。結子と知り合ってからは、どうも自分の尿意に敏感になっていた。極限までおしっこを我慢している姿を度々見せられているのだから、当たり前といえば当たり前か。
結子を部屋に残し、薄暗い廊下をぎしぎしと軋ませる。突き当りを曲がったところで、廊下の片側が開けて庭が見えた。縁側に並べられたサンダルを履いて庭をザクザクと横切り、家の裏手へ回ると、薄暗い一角に木造の小さな建物が現れた。
結子がトイレの場所がわからないといったのも無理はない。家の裏にこっそりと作られたトイレは縁側から庭に降り、庭を横切らないとたどり着けないのだ。祖母の家は嫌いではないが、このトイレだけは頂けない。
建物に入口の扉はなく、中に入ると左手に洗面台、正面には木で出来た扉が口を開けていた。扉の向こう側は一段高くなっており、その中央に白い和式便器がどんと鎮座している。トイレの中に入って扉を閉めると、中は薄暗かった。明かりが扉の外にあるなんて、欠陥以外の何でもないだろうに。
ぶつぶつと不満を胸の中で呟きながら、和式トイレを跨ぐ。ズボンと下着を下ろして、力を抜くと、ちょろちょろとおしっこが出た。しょわーっと微かな音を立て、おしっこは僅かな時間で終わる。
自分と比べると、結子のおしっこが如何に多いかがよくわかる。私が極限まで我慢しても、あの量は出ないだろう。トイレットペーパーでおしっこを拭い、レバーを引きながらそんなことを思った。
部屋へ戻ると、結子は完全に寝入っていた。起こさないようにそっと襖を閉める。明かりを消そうとして、念のために机の上に置かれた懐中電灯に手を伸ばした。夜中に何かあったときの為に枕元には懐中電灯を置いておきなさいと祖母がよく言っていたのを思い出したのだ。まあ、何もないと思うけれど、念のため。懐中電灯を枕元に置き、今度こそ明かりを消して、私も眠りについたのだった。
+++
「ん、ふぅっ……、うぁっ、あ、どうしよぉっ……」
衣擦れの音に交じり、声が聞こえた。浅い眠りから意識が引き戻される。
「せ、せんせぇっ……」
舌足らずな甘い声が聞こえる。名前を呼ばれたわけではないが、それが自分を呼んでいるのだと頭のどこかが判断している。
「せんせぇ、おねがい、おきてぇっ……」
泣き出しそうな声に引っ張られ、意識がはっきりしてきた。ゆっくり目を開けると、隣に誰かがいることに気付いた。何度も何度も聞いた声だ。今日だけで何度、その声でそう呼ばれたか。
「結子?」
「せんせっ……!」
起き上がると、結子が私の布団の隣で座っていた。正座を崩したような、ぺたりとお尻を付けた体勢。ぼけっとする私とは裏腹に、そわそわと落ち着きなく体を揺らしている。
「どうしたの?」
「せんせっ、わ、わたしっ、ぉ、おしっこっ……!」
「おしっこ……、トイレ行っておいで?」
「外暗くて、怖くてっ……せんせっ、おねがい、ついてきてっ……」
ぎゅうと腕を掴まれ、やっと頭が覚醒した。あの暗いトイレには、確かに一人で行くのは怖いかもしれない。
枕元の懐中電灯を手に取り、結子の手を引いて立ち上がった。襖を開けると、あたりは真っ暗で、しんと静まり返っている。結子は私の左腕にしがみ付き、ふるふると震えていた。
懐中電灯で足元を照らしながら廊下を進む。気分はホラーゲームだ。古い廊下は時折ぎしっと大きくなり、その度に結子は小さな悲鳴を漏らして飛び上がる。
「そんなに驚かなくても何もいないよ」
「だ、だってぇ……」
自分の右手を私の左腕に絡め、結子はもじもじと内股で少し後ろをひょこひょことついてくる。左手はパジャマのズボンの真ん中をぎゅうぎゅうと押さえている。
「寝る前にトイレ行かないから」
「だって、気付いたら寝てたんですっ……」
「はいはい。もうちょっと頑張ってね。漏らしちゃだめよ」
「漏らしませんっ……」
体をくの字にして、股間をぎゅうぎゅうと押さえている状態で言っても全く説得力のない言葉だった。その言葉がただの強がりにならなければいいが。
廊下を突き当りまで進み、サンダルを履いて庭へ降りる。庭は部屋や廊下よりひんやりしているように感じた。結子も同じように感じたようで、冷たいサンダルを履いた瞬間、ぶるっと大きく震えた。
「んうぅっ……」
唸りながら、右手で私の左腕を握り、左手でおしっこの出口をくにくにと揉む。
「んあぁぁっ……おしっこ、おしっこしたいっ……」
「もうちょっとだから。頑張って」
「せんせぇ、はやくっ」
「はいはい」
そうは言っても、内股でひょこひょこと歩かれては亀の歩みだ。それでもおしっこを堪えながら、必死に足を進めているのだろう。目は熱を持って、鋭く前を見据えている。
ぐるっと家の裏に回り込むと、ほのかな光を放つ例の建物が見えてきた。木造の古いトイレ。待ち望んだ場所が見えたことで余裕ができたのか、それともラストスパートなのか、結子は私の腕を離して、ばたばたとトイレへ駈け込んでいく。
「ああっ、出る、出ちゃうっ……」
股間を抑えながら建物へ駆け込み、ばたんと大きな音とともに扉が閉められた。何とか間に合ったようだ。
安堵の息を漏らしながら建物へ足を踏み入れると、再びばたんと大きな音がして扉が開いた。その勢いに、反射的にびくっと体が跳ねる。おしっこが終わったのだろうかと思ったが、それにしてはあまりに早すぎる。
「せんせぇ……!」
「ど、どうしたの?」
「トイレ、真っ暗でっ……!」
扉を掴んだまま、お尻を突き出して、結子は泣きそうになりながら言う。曲げられた右足が左足の付け根に押し付けられ、くねくねとお尻が揺れている。両手は足の間に差し入れられ、休むことなく股間を揉んでいた。
電球が手洗い場の方にあるので、扉を閉めてしまえば外の微かな明かりしか照らすものはない。
「懐中電灯貸そうか?」
返事はなかったが、彼女の両手はおしっこの出口を押さえるのでいっぱいいっぱいだ。懐中電灯を持つ余裕はないだろう。
「ん、あ、あ、でちゃう、せんせぇっ、も、我慢できないっ……」
「扉開けたまましちゃえば? 見張っててあげるから」
「んんっ、せんせ、そこにいてねっ、どこも行かないでねっ」
「はいはい」
「あああぁっ、でる、でちゃいますつ」
こちらにお尻を向けると、段差を一段上がり、和式トイレを跨ぐ。そして、お尻をくねくねと揺らしながら、お腹のあたりで手が動いている。ズボンの紐が解けないらしい。心配しながら見ていると、がばっと一気にパジャマのズボンと下着が下ろされた。
間髪を置かずに、勢いよくおしっこが前方に噴き出す。ぶしゅーっと気持ちの良い音に被せるように、はぁっと熱い吐息が聞こえた。
「はあぁっ……」
しゅおしゅおと鋭いおしっこが、じゃばじゃばと注ぎこまれていく。寝る前に自分がしたおしっこを思い出すが、比べ物にならないほどの勢いだ。
そういえば結子のおもらしや、外でおしっこをしているところは何度も見たが、トイレでおしっこしているところは初めてかもしれない。そもそも他人のおしっこを何度も見ていること自体がおかしいのだが。
手に持った懐中電灯で彼女の前方を照らしていたが、悪戯心で光を彼女のお尻を照らしてみる。暗闇の中、ぷりっと張ったお尻が白く光を反射する。そのまま光を下ろしていくと、お尻の下でじょろじょろと流れる黄金の水流が照らされ、きらきらと輝いていた。
「危なかったぁ……」
「そんなに我慢してたの?」
「その、変な夢見て……。目が覚めたら、すごくおしっこしたくて……」
「夢?」
「その、おトイレに並ぶ夢です。凄い行列で、我慢しながら頑張って並んで、やっと自分の番って時に目が覚めたんです……」
「それ、起きなかったらおねしょしてたんじゃない?」
「かもしれないです……」
お昼間に散々おもらしした上に、夜はおねしょしてしまったら、流石に慰めようがない。
たっぷりと時間をかけたおしっこはちょろちょろと勢いを無くし、やっと止まった。からからとトイレットペーパーを取り出す音がして、少し間をおいてから、ざばーっと水を流す音がした。結子のおしっこの音といい勝負をするんじゃないかと内心思った。
建物を出ると、続いて結子が外に出てきた。暗闇の中、頬がぽっと赤く染まっている。
「お待たせしました……」
「戻ろうか」
「はぁい。……せんせ、ありがと」
「どういたしまして」
歩き始めると、結子は慌てて私の手を握る。小さな手が縋るようにぎゅっと握ってくるので、握り返す。
庭から廊下へ上がり、ぎしぎしと軋ませながら部屋へ戻る。冷えた体を温めたくて、布団に滑り込む。暖かかった布団はすっかり冷えてしまっていた。
「せんせ、お布団くっつけてもいい?」
「良いよ」
結子は少し離れていた布団をずるずると隣へ引っ張ってくる。それから布団に入ると、こちらを見てえへへと笑った。
「せんせ、手繋いでください」
「はいはい」
左手を彼女の布団に突っ込むと、ぎゅうと握られた。
「おやすみなさい、せんせ」
「おやすみ」
「えへへ、せんせの手、温かい」
「……またおしっこしたくなったら起こしていいからね」
「っも、もう大丈夫だもんっ!」
+++
眩しさに目を開ける。真っ暗だった部屋は外の日差しで明るくなっていた。隣を見ると、結子がすうすうと寝息を立てている。繋いでいた手は離されていた。
起き上がり、体を伸ばす。一度起こされた割にはよく眠れたようで、頭がすっきりとしていた。
着替えようかと思ったが、その前に尿意を感じた。トイレに行って、それからついでに顔を洗ってこよう。結子を起こさないようにそっと襖を開けて、部屋の外に出た。
外はいい天気だ。庭をザクザクと横切り、昨日の夜訪れたトイレに入る。扉を閉め、ズボンを下した時、遠くから物音が聞こえてきた。
和式トイレに跨ったまま、つい物音の正体を探る。ばたばたばたと地面を踏み鳴らす音はだんだんとこちらに近づいてくるようだ。誰だろうと考えていると、足音は建物内に飛び込んできた。
「うあ、あっ、誰か使ってるっ……!」
聞き覚えのある声が扉越しに聞こえた。足音は扉の前で、ばたばた、ばたと不規則に激しく鳴り続けている。
「結子?」
「あっ、せんせぇっ……せんせ、はやくっ、おしっこっ……」
「ちょっと待ってね」
「はやくっ、はやくぅっ……」
急かされると出るものも出ない。少しお腹に力を入れると、しょろしょろとおしっこが出た。細い水流は勢いなく、ちょろちょろと便器に落ちていく。
「んんぅっ……、せんせぇだけおしっこ、ずるいっ……!」
「はいはい、もうちょっと」
「はやくぅ……」
どれだけ急かされても、おしっこはなかなか止まらない。気付かなかったが、眠っている間に溜まっていたようだ。
はあ、とため息と同時におしっこは止まる。ズボンを履いてからレバーを引くと、ざばーっと勢いよく水が流れた。水音にお腹のおしっこが煽られたのか、苦悶の吐息が扉の向こうから聞こえた。
「んああぁっ、だめ、せんせ、はやく、はやくっ」
「はいはい」
扉を開けて外に出ようとすると、私の横をすり抜けるように結子が飛び込んできた。片手でぎゅうぎゅうと股間を揉みながら、反対の手はズボンを今にも引き摺り下ろさんとウエストの部分を握っている。
「でちゃう、でちゃう、でちゃうぅ……!」
ばたんと勢いよく扉が閉められ、向こう側から悲痛な声が聞こえてくる。ばたばたばたと激しい足音が鳴り響く。
「あっ、あっ、や、なんでっ……!」
手を洗いながら、いつもの激しいおしっこの音が聞こえてこないことに首を傾げる。どうしたのだろうと思っていると、扉がばたんと開かれた。
結子は和式トイレを反対向きに跨いで、こちらに体の正面を向けていた。太ももはぴたりとつけられ、膝から下がばたばたと忙しなく足踏みを繰り返す。両手はズボンのウエスト部分を握っている。
「せ、せんせぇ、どうしよっ、紐、ほどけないっ……」
紐が解けないのでズボンが脱げなかったらしい。泣き出しそうになりながらこちらを見る結子に、ため息を漏らして近づいた。
「見せてごらん」
小刻みに震える手がウエストから離される。紐は蝶結びだった気がするが、眠っている間にこんがらがったのだろう、固結びになっていた。
解いてあげようと指先を動かす。結子は肘から上を体の横にぴたりとつけ、手をぎゅうと握って耐えている。何とかじっとしようとしているのだろう、足踏みはしていないが、お尻はくねくねと上下左右に不規則に揺れている。
「ほら、じっとして。解けないでしょ」
「うあぁっ……せんせぇ、はやくぅっ……」
何とか結び目を一つ解くが、まだ紐は固く結ばれている。よくもここまで絡んだものだ。
「うあぁ、だめ、でちゃう、おしっこでる、もうでちゃうっ……」
うわ言のように呟きながら、お尻がくねくねと揺れる。両手は太ももの横を爪を立てるようにぎゅうぎゅうと握っている。押さえたいのだろうが、私の手が邪魔でそうすることもできない。
「あっ、あっ、ああぁっ、もうだめぇ……」
「ちょっと待って……はい、解けたよ」
私の手が離れると、即座に両手が股間をぐいっと押さえる。ぱたたっ、と水滴が彼女のお尻から落ちた。
「あっ、あっ、あっ、ああぁっ、」
しゃがみ込みながら、勢いよくズボンと下着が一気に下ろされる。同時に、じゃばーっとおしっこが勢いよく飛び出した。
和式トイレを反対向きに跨ぎ、私の方へ体の正面を向けたまま、彼女は我慢しきれなかったおしっこを勢いよく排出する。見事なまでの勢いに、便器に溜まっている水がびちゃびしゃと滴を撥ねながら黄色く変わっていく。朝一だからか、今まで見たおしっこよりも色が濃い。
じょろじょろじょろとおしっこは流れ続ける。どんどん増していく便器の水かさを見て、そういえば昨日の夜、結子は一回しかおしっこをしていなかったと思い出した。極限まで我慢した後は大体すぐに催しているのに。
「結子、昨日の夜、あれからトイレ行った?」
結子は頬を赤くして、首を振った。じょろじょろとおしっこは変わらず流れ続けている。いつもならすぐに催すおしっこが、一晩かけて膀胱に流れ込んだのだろうか。
「おしっこ、止まらない……」
「いっぱい我慢してたねえ」
「ううう、夜いっぱいおしっこしたのに……」
唸りながら、彼女はおしっこを続ける。俯いた頭にぴょこっと跳ねている寝癖を撫でてやると、はあっと熱いため息を漏らした。
おしっこを終え、ぐすっと鼻を啜りながら、結子は体を反転させる。こちらにお尻を向けたまま股間を拭う。持ち上げられた薄緑色の下着は中央が色を濃く変えている。少し漏らしたようだ。
水を流して、ズボンを履く。パジャマのズボンはお尻の中央あたりに手の平ほどの丸い染みが出来ていた。
「お漏らし、」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ出ちゃっただけだもんっ……」
「はいはい」
ちょっとでもお漏らしには違いないと思うが、余計なことは言わないでおいた。
部屋に戻りながら、結子はずっと自分のお尻を気にしていた。前からではわからないが、お尻はしっかりと染みができている。
「着替えるんでしょ。大丈夫大丈夫」
「パンツが気持ち悪いです……」
「替えはあるの?」
「一応……」
一泊二日のお泊りに何枚下着の替えを持ってきているのだろうか。
「……せんせ、全然おしっこ出ないんですね」
「普通だと思うけど」
「だって、普段の私の半分も時間掛かってないです」
「多分、私が少ないんじゃなくて、結子が多いんだと思うよ」
「そんなことない、です……多分」
返事がたどたどしいということは、どこか心当たりはあるのだろう。
+++
結子は着替えるために自分の部屋へ戻っていった。
私も部屋で着替え、荷物をまとめる。今日のお昼にはここを出発する予定だ。混んでいなければ、三時間程で自宅にたどり着けるだろう。
荷物を詰めた鞄を入口の横に置くと、すっと襖が開いた。身だしなみを整えた結子が部屋の中を覗き込んでいる。
「せんせ、もう帰っちゃうの?」
「お昼には出る予定かな。結子はお母さんと一緒に帰るの?」
「うん。お父さんが仕事終わりに迎えに来てくれるんです。夕方になるって言ってました」
「そっか。じゃあ、また学校で、だね」
結子の顔がしゅんと暗くなる。私が帰ってから数時間とは言え、年上の親戚に囲まれて過ごすのは居心地が悪いだろう。かといって部屋でじっと待っているのも退屈だ。
「よかったら、一緒に帰る?」
「え?」
「家の場所教えてくれるなら、送って行ってあげるけど。多分近所でしょ?」
「い、良いの?」
「お母さんが良いって言うならね」
「確認してきますっ!」
暗かった顔が一転明るくなり、ぱたぱたと廊下を駆けていった。本当に私は彼女に甘い。
昼食を終え、挨拶をして車に乗り込む。シートベルトを締めると、結子が隣で嬉しそうににこにこ笑っていた。
「シートベルト締めた?」
「はい」
「忘れ物はない?」
「ないです」
「トイレ行った?」
「い、行きましたっ。大丈夫ですっ」
「よしよし」
アクセルを踏むと、ゆっくりと車が走り出す。懐かしの祖母の家を後ろに、私と結子はのんびりと帰路についたのだった。
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初出: 2016年4月10日(pixiv) 掲載:2019年2月27日