裏通り某ビル1Fコンビニにて(その1)

 授業終了のチャイムが鳴り響く。待ち望んだ音に慌てて席を立とうとしたけれど、それより先にがらりと教室の入り口の扉が開いた。
 入ってきたのは担任で、生徒達を再び座らせた。賑やかになりかけた教室はふたたび静けさを取り戻す。

 数学の教師と入れ替わりで教卓に立った担任は、落ち着いた声で話し始めた。近隣の水道が故障し、現在、学校全体の水道が使えないということ。それに伴い、次の六限目の授業は行わず、全員がこのまま下校するように、とのことだった。こうなっては部活動等も行えないので、強制的に生徒全員が下校することとなった。
 その知らせに、教室が再び騒めく。退屈な授業が無くなり、早く帰れることになったことに歓喜する声がほとんどだ。担任は寄り道せずに真っすぐ帰宅することを促していたが、それはほとんど誰の耳にも届いていないことだろう。

 教室内が喜びに騒めく中、背中に冷や汗が伝うのを感じた。嘘、だろ。信じたくなかった言葉だけれど、周りが帰る準備を始めている以上、聞き間違いでは無いようだった。促されるように自分も荷物を纏めるけれど、頭の中はパニックだった。
 一足先に準備を終えた友人が傍に来る。折角だしどこか遊びに行かないかと言われたけれど、今日は用事があるからと断った。何の用事だと追及されそうな雰囲気を感じて、手早くリュックを背負って、足早に教室を出た。

 一斉下校の為、他のクラスの生徒も同時間に廊下に出ていた。人の流れに沿って歩きながら階段に向かう。
 階段横のトイレには人が入れないように張り紙付きの三角コーンが置かれていた。その文字を見ながら、階段を降りる。どうしよう、どうしようと頭の中はそれでいっぱいだった。

 授業が終わったらトイレに行こうと思っていたのに、まさかこんな事態になるなんて誰が想像できただろう。授業開始時には既にそれなりの大きさだった尿意は、今は何倍にも膨らんでいて、体の内側からぞわぞわと俺を追い立てる。
 黒板に書かれていく数式も、その解説も、途中からちっとも頭に入っていなかった。ただ早く終わってほしいと、ゆっくりゆっくりと動く時計の針を見ては視線を落とす、それを繰り返していた。

 四限は体育だった。天気の良い中で動き続けて、終わるころには汗びっしょりだった。汗で重くなった体操着から制服に着替えて、そのまま昼休みに入る。
 とにかく喉が乾いていて、教室に戻る途中でウォーターサーバーからよく冷えた水をたくさん飲んだ。それでも足りなくて、お弁当を食べながら、ほぼ満タンだった水筒の中身を空にしてしまった。
 それだけ飲めば、喉の渇きはやっと満たされていた。残りの休み時間は友人たちとくだらない話が盛り上がって、予鈴の音で慌てて自分の席に戻った。

 弁当箱を片付けて、数学の教科書とノートを出す。固い椅子に座って、授業へと気持ちを切り替えようとして、その思いを邪魔するものに気付いた。
 じんわりと重さを増した下腹部。喉の渇きは落ち着いていたけれど、流石に飲みすぎたみたいで、ぞわぞわと込み上げる尿意を感じた。
 トイレ、行っておいた方が良かったかな。今からでも行こうか。そう思ったけれど、丁度その時入り口の扉が開いて、数学の教師が入ってきた。
 教師が教卓に付くと同時に本鈴がなる。授業開始の合図。日直の号令で起立すると、じいんと腰のあたりに嫌な感覚が響く。出来るだけ意識しないようにしながら礼をして、着席する。固い椅子にお尻が付くと、余計にお腹に意識が向いてしまった。
 授業が始まってしまったので、今更トイレに行くわけにはいかない。やや不安がこみ上げたけれど、これくらい大丈夫だと意識を教科書に向けた。授業が終わったら行けば良い。教師の指示に合わせて、教科書を捲る。シャーペンを握る手に力が籠った。

 授業開始から十分程で、既に意識は授業内容とは違うところに向いていた。飲みすぎた。絶対飲みすぎた。先程までじわりと感じていた尿意は驚くくらいの速度でどんどん膨らんでいた。下腹部に重く溜まっているものがあるのがわかる。
 教師の声は聞こえてはいたけれど、内容は全く頭に入っていなかった。どうしよう、トイレに行きたい。それしか頭にはない。ぞわぞわと嫌な感覚が体の内側を満たしていて、頭も体も落ち着かない。
 喉を満たすには多すぎた水分が、どんどん膀胱に送られているようだ。制服のズボン、そのチェック柄の線をなぞるように左手が動く。右手で握りしめたシャーペンは先程から全く動いていなかった。

 もう子どもじゃないんだから、トイレくらい我慢できる。そう思うけれど、尿意は時間と共にどんどん強くなっていく。頭の中に、比例のグラフが浮かぶ。緩やかな傾きだったグラフが、突然ぐんと傾きを大きくしたような気がした。
 トイレ、トイレに行きたい。時計を見ると、まだ時間は半分ほどある。その下で、黒板の半分が消されていく。また書き写せていなかったけれど、申し出ることは出来なかった。
 シャーペンを握る手が震える。途中まで書いたノートは、途中から字がぐにゃぐにゃだ。その続きを書こうとしたけれど、その瞬間、ぶるりと体が震えた。
 あ、あ、だめ、おしっこっ……! ノートの端を押さえた左手がぎゅうと握りしめられて、震える。机の下で両足をぎゅうと寄せる。静かに呼吸を繰り返して、じんじんと疼く衝動に必死に耐える。
 下腹部はずっしりと重くて、おしっこがたっぷりと溜まっているのがわかった。

 こんなに我慢したのはいつぶりだろう。ぼんやりと遠のく意識の中、幼い頃のことを思い出した。
 旅行の帰りに道が渋滞していて、幼い僕はトイレに行きたくなってしまった。あの時もすごく我慢した。我慢して、我慢して、それでも車は動かない。もう本当に限界で、我慢していたけれど、とうとう我慢も限界で、じわりじわりと下着を濡らし始めてしまう。
『ママっ、おしっこでる、でちゃう、もうむり……!』
 泣きながら叫ぶように言うと、前の座席で父と母が慌てた。助手席から母が下りてきて、僕の隣の扉を開ける。

 ズボンの前をぎゅうぎゅう押さえている僕を下ろすと、道路の端に引っ張って連れてこられた。もうその時にはじわじわとおしっこが出てしまっていて、手の中が熱くなっていた。
『もうここでしちゃいなさい!』
 母の声に、濡れた手でズボンのボタンを外して、下着と一緒に思いっきり下ろした。膝下まで下ろした下着とズボンは真ん中が濡れて色を変えていた。
『あっ、あっ、あっ……!』
 我慢しすぎて縮こまっていたおちんちんの先から、勢いよくおしっこが噴き出した。手はTシャツの裾を持ち上げるのに使っていて、泣きそうになりながら、腰をぐいいっと前に突き出した。
 おしっこはじゅうじゅうと音を立てて噴き出し、びちゃびちゃと渇いたアスファルトに落ちていく。は、は、と短く呼吸を繰り返しながら、目に涙が浮かんだ。

 我慢に我慢を重ねたおしっこは天にも昇る気持ちで、本当に気持ちよかった。膨らんだお腹が少しずつ萎んでいって、その代わりに僕の前方には水溜まりが広がっていく。
 あの日も天気が良くて、爽やかな日差しが降り注いでいた。ホースで水を撒くように勢いよく噴き出した僕のおしっこは日差しを反射してきらきらと輝いていた。

 一分以上は出ていたと思う。あんなに長くおしっこが出たのは生まれて初めてだった。全部出た時には水溜まりは僕の足元どころかすぐ後ろにいた母の足元まで広がっていて、黒いアスファルトを更に黒く染めていた。
『全部出た?』
 母に聞かれて頷く。それから、自分がお尻を丸出しでおしっこをしていた事に気付いた。恥ずかしくなって、慌てて下着とズボンを履こうとしたけれど、中央がぐっしょりと濡れている。
 このまま履いて良いのか、不安になって後ろを見ると、母は苦笑いしていた。後で着替えを買ってあげるから、とりあえずそのまま履いておきなさいと言われて、濡れた下着とズボンをもう一度履いた。外から見る分にはわからなかったけれど、内側はぐっしょりと濡れていて、冷たくなっていた。
 車に戻ると、父は笑っていた。よくあれだけ我慢したなあ、なんて言われて、恥ずかしくなって何も言えなかった。

 恐る恐る窓の外を見ると、びっくりするくらい大きな水たまりが道路の端に広がっているのがよく見えた。ここから見える以上、他の車からも見えている。それどころか、お尻を丸出しておしっこをしているところをたくさんの人に見られたということだ。それがわかるともう恥ずかしくて、後部座席で窓に背を向けて、顔を伏せた。
 少しすると、車はゆっくりと動き出した。その振動に揺られながら、体はすっきりと爽快だった。
 おしっこ、気持ちよかった。ものすごく気持ちよかった。そして、おもらししなくて良かったと心の底から安心していた。下着とズボンは濡らしてしまっていたけれど、ちゃんと間に合った。そうして安心するとなんだか眠くなってきて、次のサービスエリアに着くまでぐっすりと眠ってしまっていた。

 遠い記憶。まだ小学生に入学して間もない頃の話だ。今は違う。あんなことは許されない。我慢、しないと。
 そう思うけれど、お腹は更に重みを増していく。たぷんと溜まったおしっこがお腹を膨らませている。おしっこ、おしっこしたい、はやく、トイレ、おしっこっ……!
 ぶるりと体が震える。膀胱がきゅうっと縮む感覚に、体が強張る。背筋が伸びて体に力が籠る。机の下で、左手が太腿を握って震えていた。

 トイレトイレトイレ、おしっこ、トイレっ……! じんじんと腰のあたりで響く感覚。お腹だけでなく、胸のあたりまでいっぱいになっているかのように、上手く息が出来ない。しんと静かな教室の中、聞こえるのは教師の説明する声。
 空けられた窓から風が吹き込む。汗が浮いた額を風が撫でて、火照った体が冷やされる。ぶるりと体が震えて、おしっこがじいんと込み上げる。
 あ、あ、あ、だめ、だめだめだめっ……! 咄嗟に机の下で、ズボンの前をぎゅうと押さえていた。左手の指先でおちんちんの先端をぎゅうと摘まむ。込み上げそうなおしっこを必死に堪える。
 出したくて出したくてたまらない。おしっこが体の中で暴れまわっている。だめ、がまん、がまんっ……! 指先でぎゅうぎゅうと揉むように押さえて、必死に我慢を続ける。

 はやくはやくはやく、トイレ、おしっこ、何でも良いからはやくぅっ……! は、は、と呼吸を繰り返しながら、とにかく我慢することに集中する。他のことなんて欠片も考えられない。教師の言葉はただの雑音でしかなくて、黒板の内容は魔法の言葉のようで全く理解できない。
 でも、本当におしっこは限界だ。いっそ幼い頃のように、おしっこもれちゃう! と叫びたい。車から飛び降りたみたいに、教室から飛び出したい。道路の隅でしたみたいに、トイレで思いっきりおしっこしたい。ぞわぞわと嫌な感覚が膨らんで、内側から皮膚を引っ掻くように刺激する。トイレ、おしっこ、おしっこしたい、はやくはやくはやくっ……!

 あと何分? あとどれだけ我慢すれば良い? 机の下で、ズボンの前をぎゅうぎゅうと押さえながら視線を上げる。時計が視界に入った瞬間、チャイムの音が聞こえた。響きわたる救いの音に、ぼやけていた視界が一気に明るく開けた。
 お、終わったっ、授業、終わったっ! トイレトイレトイレっ、おしっこ、おしっこ、おしっこっ……! 号令に合わせて、席を立つ。やや前屈みの体勢で、声に合わせて頭を下げる。その僅かな間もじっとしていられなくて、そわそわと体を揺すって尿意を誤魔化していた。
 周りが席に座りなおす中、僕は教室の入口へ足を向けようとしたけれど、それは叶わなかった。再び固い椅子に腰を下ろすことになって、もう頭の中はぐちゃぐちゃだった。

 +++

 スニーカーに履き替えて、自転車置き場へ足を進める。自分の自転車へ駆け寄って、震える手で鍵を開けて、サドルに跨る。跨いだ状態でぐりぐりと股間を押し付けると、少しだけ尿意は楽になったけれど、下腹部でたっぷりと溜まったおしっこは変わらず重く圧し掛かったままだ。震える手でハンドルを握って、校門を出た。
 いつもの道を走りながら、つい視線があちらこちらに向く。どうしよう、トイレ、どうしようっ……! どこかで借りようにも、道沿いにあるのはシャッターの閉まったお店やビルやマンションばかり。気軽にトイレを借りられるスーパーやコンビニは見つからないし、そんなものが無いことは毎日通っている自分が一番知っていた。

 信号が赤に変わる。仕方なく足を止めると、走っている間は振動で誤魔化せていた尿意が、じんじんと強まる。ああ、あ、だめ、おしっこ、どうしようおしっこっ……! 右手でハンドルを握ったまま、左手でズボンの前をぎゅうと握ってしまう。
 おしっこ、だめ、おしっこしたい、トイレ、トイレトイレぇっ……! ぎゅうぎゅうと前を押さえながら、辺りを見回してどこか無いかと探してみる。でも、トイレが借りられそうなところは見つからない。

 いっそどこか、道路の端ででもしてしまいたい。体がぶるりと震える。膀胱がきゅううっと震えて、頭のてっぺんから足の先まで波が走り抜ける。おしっこが押し寄せる感覚に、自転車に跨ったまま、足踏みをする。おしっこが押し寄せて、おちんちんの先端まで満たされる感覚に、小さく声が漏れた。
 あ、あ、あ、だめ、おしっこ、おしっこおしっこおしっこっ……! ズボンの上から、おちんちんの先端をぎゅうぎゅうと揉む。でもおしっこは全然落ち着かなくて、じゅう、と熱い雫が滲み出た。
 下着が濡れる感覚に、鳥肌が立つ。あ、あ、あ、どうしよう、おしっこ、おしっこでる、どうしよう、おしっこっ……! 顔が熱い。視界が滲む。ぎゅうぎゅう握りしめたまま、顔を上げると信号は青に変わっていて、慌ててハンドルを握りなおしてペダルを漕いだ。

 おしっこ、おしっこ、おしっこ! 何でも良いから、おしっこ、どこかお願い、おしっこ……! もう限界をとっくに超えていて、じわり、じわりと下着が濡れる。ハンドルを握る手が震える。全身熱くて、胸が苦しくて、視界が滲む。
 お願い、おしっこ、おしっこでちゃう、おしっこっ……! 足を動かしながら、周りを見回す。でも、知った景色ばかりで、トイレが借りられそうなお店や、公園や、公衆トイレなんてものは見つからない。
 前方に見える信号が点滅する。だめ、今立ち止まったら、絶対にだめ、おしっこ我慢できなくなるっ……! そう思って足を動かすけれど、辿り着いた瞬間、信号は点滅を止めて赤色が灯っていた。
 足が止まる。途端におしっこが押し寄せる。先端に向かって熱いものが押し寄せる感覚。左手でぎゅううっと握って、無理やり堰き止める。握って、揉んで、ぎゅうぎゅう押さえて、でもおしっこがしたいのは治まらない。
 ああ、だめ、おしっこ、おしっこ、おしっこっ……! 信号無視をしようにも、通行量が多くて出来ない。でもじっとしていられなくて、とにかく動きたくて、訳も分からずその角を曲がった。

 ペダルを漕いで進むと、また信号があった。赤色だったので、とにかく曲がれる方に曲がる。そうやっている内に、よく知らない道に入り込んでいた。裏通りのようで、小さなビルが窮屈そうに並んでいて、不安になるくらいに人の気配はなかった。
 もういい、もう我慢できない。この辺でしてしまおう。どこか、陰になっているところなら見えないはず。もう我慢はとっくに限界で、下着は何度も何度もおしっこを吸い込み、ぐっしょりと濡れて張り付いている。ズボンが濡れていないのが不思議なくらいだった。そんなに何度もちびってしまっているのに、お腹にはまだおしっこがたっぷりと溜まっている。

 きょろきょろ見回しながら自転車を走らせる。あの陰ならと思っても、すぐ横に非常階段があって上から誰か来たら見えてしまう。あそこのビルとビルの合間ならと思っても、道の寸前までゴミや荷物が置かれていて、体を隠すスペースがない。
 もう、どこでも良い、何でも良いからおしっこしたい、出したい。ぶるりと体が震える。あ、あ、あ、だめ、おしっこ、おしっこっ……! じわあ、と熱いおしっこが溢れる。サドルにぐりぐりと股間を押し付けるけれど、全然治まらない。

 おしっこ、おしっこおしっこおしっこっ……! もう、もう良い、隠れられなくても良い、そこの隅でしてしまおう。そう思って、足を止める。自転車から降りて、人がいないことを確認しようと、周りを見回す。そして、少し向こうに見覚えのある建物を見つけた。
 色褪せて地味な他の建物と違って、そこだけはカラフルに輝いていた。何度も見たことがあるお店。ビルの一階にひっそりと佇んでいるのはコンビニだった。
 見つけると同時に、自転車を押して駆け出していた。もう跨るのも時間が惜しかった。泣き出しそうになりながら、必死に走る。腰が引けて、不格好になったけれどもうどうでも良かった。

 入り口横に乱暴に自転車を止める。タイヤ止めを立てて、そのまま店の入り口に向かう。鍵を掛けていなかったけれど、そんなことはどうでも良かった。
 ゆっくり開く自動ドアすら待てなかった。僅かに空いた隙間から店内に飛び込む。冷房のよく聞いた店内の空気が、汗ばんだ体を冷やして、ぶるりと体が震えた。全身に力が籠って、背筋が伸びる。
 ト店内を見回すと、レジにいた男性店員と目が合った。どこか怠そうな雰囲気でぼんやりと立っていた人に、慌てて駆け寄る。
「あ、あのっ、トイレ貸してくださいっ!」
「はあ、どうぞ」
 その僅かな時間すらじっとしていられなくて、足踏みを繰り返す。許可をもらって、でも肝心のトイレがどこかわからなくて見回していると、店員さんは奥を指差す。
 お礼も言わずに、そちらの方へ小走りに向かう。奥にトイレと掛かれた扉が見えた瞬間、気が緩んだのか、またおしっこが押し寄せる。

「あっ、あっ、だめ、まってっ……!」
 声が出ていることすら気付かなかった。もう我慢できずにズボンの前を片手でぎゅうぎゅうと握りながら、扉に飛びついた。
 中には手洗い場があって、正面にはもう一枚扉があった。足踏みを繰り返しながら、二枚目の扉を開ける。そこには、待ち望んだ洋式トイレがぽかんと口を開けてそこにあった。
「あっ、あっ、あっ……!」
 片手でぎゅうぎゅうと押さえて、足踏みをして、後ろ手に鍵を掛ける。それから両手でがちゃがちゃとベルトを外す。その間にもじわじわとおしっこが溢れ出す。ぎゅううっと両足を寄せて、体を上下に揺すって、必死に我慢するけれど、もう体は限界を超えていて、先端に向かって熱いおしっこが上り詰めていくのがわかった。
「だめ、でる、でるっ……!」
 ベルトが外れて、ボタンも無理やり外して。チャックを下ろすと同時に、ズボンと下着を一気に引きずりおろした。シャツの裾を握って、露わになった下半身をトイレに向かってぐいいっと突き出した。

 ぶしゃあああぁぁ!

 瞬間、濡れたおちんちんの先端からおしっこが勢いよく噴き出した。じゅいいい、と鋭い水音に続いて、じょぼぼぼ、と注ぎ込む大きな音が響き渡った。
 あ、あ、おしっこ、おしっこ、できた、やっとできたぁ……! シャツを握りしめたまま、ぽかんと口が開いていた。全身にぞくぞくする快感が走り抜けて、頭の芯がじいんと揺れる。涙に滲む視界で、勢いよく噴き出すおしっこをただぼんやりと見つめていた。
 すごい、おしっこ、気持ち良いっ……。我慢に我慢を重ねたおしっこは本当に気持ちが良くて、かつて道路の隅でした時の快感が、色鮮やかになって戻ってくる。はあ、はあ、と胸の底まで息を吸い込んで、吐き出してを繰り返す。
 頭は真っ白で、体は気持ちよさでいっぱいだ。今自分がどこにいるのか、どういう状態なのか全くわからない。ただ、おしっこの気持ち良さだけがそこにはあった。

 たっぷり時間を掛けて、おしっこは勢いを弱める。大きく呼吸を繰り返しながらお腹に力を入れると、残っていたおしっこがぴゅっぴゅと出て、それでお腹は空っぽになった。
 おしっこ、でた、全部でた、きもちよかったぁ……! ぽかんと口を開けたまま、余韻に浸る。空っぽの体の中はこれ以上ない爽快感に満たされていて、このまま飛んでいけそうな程に体が軽かった。

 間に合ってよかった。息をついて視線を落とすと、洋式トイレの中には薄く色づいたおしっこが溜まっている。水を流そうと横のレバーに手を伸ばそうとしたところで、後ろからどんどんどん! と扉を叩かれて、驚いて動きが止まった。
 誰かが扉の外にいる。はやく出ないと。そう思いながら、ひとまず返事のノックをしようとすると、それより先にまた扉が叩かれた。そのまま貫いてしまうんじゃないかというほどの勢いでばんばん! と叩かれて、外で待っている人は余程焦っているのだと気付いた。
 慌てて水を流して、下着に手を掛ける。そこで初めて、自分が昔のようにお尻を全部出しておしっこをしていた事に気付いて、顔が熱くなった。それどころか下着も昔のようにじっとりと濡れてしまっている。

 着替えなんてあるわけもなく、仕方なくそのまま履く。そしてズボンも正して、ベルトを締めていると、再びばんばんばん! と激しく扉が叩かれる。
『ぁ、あっ、あっ……!』
 微かに聞こえる声と、タイルを踏む足音も聞こえる。慌てて鍵を開けて扉を引くと、扉を強く叩いていた人を直接見ることが出来た。
 真っ黒な学ランに、真っ黒な髪。長い前髪の下で、黒縁の眼鏡の向こうの目は泣き出しそうに細められていた。彼は僕が外へ出るのを待ちきれないように、隣をすり抜けて個室へ入る。

 僕が外に出ると、ばたん! と勢いよく扉が締められて、がちゃがちゃと慌ただしく鍵を閉める音が聞こえた。あの人も限界だったんだな、とすぐに分かった。閉じられた扉をつい見つめてしまう。
『あっ、あっ、あっ、あっ……!』
 短い声と、衣擦れの音。それから一拍置いて、ぶじゅううう、とおしっこの音が聞こえた。響き渡る水音はとても大きく激しくて、聞いているだけでも恥ずかしくなった。それと同時に、僕のおしっこの音もこれくらい響いていたのかと思うと、更に恥ずかしくなった。

 手を洗っている間も水音は聞こえ続けていた。よく出るな、と内心思う。あんまり長居するのも悪いだろうと、足早に外へ出る。体は火照っていて、店内の冷房がとても気持ちよく感じた。
 店の出入り口に向かう途中、レジの店員と目が合った。入る時と同じ、気怠げな男性の店員。軽く会釈したけれど、彼は何も言わない。そのまま足早に店の外に出た。

 店の横に乱暴に止めた自転車は何も変わらずそのままあった。ポケットから鍵を出そうとして、そういえば鍵を掛けていなかったことを思い出す。そんな余裕すらなかった。思い返すと、とても恥ずかしくなるけれど、それでも何とか間に合ってよかったと思う。
 自転車を道に出して、跨る。ペダルを踏んで走り出して、今自分がどこにいるのかよくわからないことに気付いた。まあでも、とにかく大通りに出れば何とかなるだろうと、道なりに走ることにした。
 天気が良くて、自転車で走るのも心地が良い。体も心もすっきりと気持ち良い状態で、よく知らない道を颯爽と走った。

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初出: 2022年5月8日(pixiv・サイト同時掲載) 掲載:2022年5月8日

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成人済の時々物書きです。 スカ、女攻め萌え。BLよりはNLやGLが好きです。
18歳以上ですか? ここから先は、成人向けの特殊な趣向の小説(女の子、男の子のおもらし等)を掲載しています。