Club Satisfy 4

 周りの話をぼんやり聞きながら、手元のグラスを傾ける。積極的に会話に入らずとも、久しぶりの飲み会はその雰囲気の中にいるだけでも楽しかった。
「先輩、空っすね。次、何飲みます?」
「あー、じゃあ同じので」
 最近入った大学生の後輩はこういう場に慣れているのか、ちゃきちゃきと俺の分まで注文してくれる。おかげでここに座ってから俺は一度も動いていないが、飲み物も食べ物も尽きることなく目の前に並んでいた。

 運ばれてきたグラスの中では炭酸が立ち上り、しゅわしゅわと音を立てている。それに口を付け、ぼやーっと周りの音を聞き流す。
『えー、また別れたの。こないだ付き合ったとこじゃない』
『だって仕方ないじゃないですか。ほんとわがままな奴でしたよ。女ってホント自分勝手』
『それをあたしの前で言うか』
 彼女。その言葉で思い出すのはあの人だ。長い黒髪を揺らして、楽しげに笑うあの人。
 俺は相変わらず呼ばれては、他人には言えない濃厚な時間を過ごしていた。もう何度も同じことを繰り返しているが、あの感覚には飽きそうにもない。我慢の限界まで押さえ込んで、それを一気に出し切る。体の中が空っぽになって、そしてあの人の言葉が俺の中身を柔らかく満たしていく。思い出すと、胸の奥に焼き付いた思いが火傷のようにひりひりと熱を持つ。

 つい昨日も会ったところなので、今の俺は体も心も、更に言うなら財布も満たされていた。また来週呼んでくれるかな。次はどれくらい頑張れるかな。そんなことをぼんやりと考えながら、ぽつりと一つ、それは単純な疑問が浮かぶ。
「あれ、先輩、もう飲んだんすか、それ」
 言われて手元を見ると、確かにグラスは空っぽになっていた。考え事をしていたせいで意識していなかったが、今日は何となくハイペースで飲んでいた。
「同じの、頼んどきますね」
「ああ、ありがと。……あのさ」
 後輩は店員との会話に移っていて、俺の言葉は聞こえていないようだった。聞こえていないならそれでいいかと思い、机に体を預ける。俺は誰に伝えるわけでもなく、言葉の続きを口にする。
「俺って、彼氏ではない、よなあ」
 目の前の景色がぼんやりしていく。後輩の声と、おかわりのグラス。それに手を伸ばして、また口を付ける。そうしていると、居酒屋内の喧噪もどこか靄が掛かったように遠くなっていった。

+++

 靄の中、あの人の声が聞こえた気がした。何か話しかけられている気がしたけれど、何を言っているかが理解できない。
 ふわふわと頭も体も浮き上がったようでとても心地かった。暖かいような、どこか寒いような不思議な感覚に、体がひとりでに身震いする。この感覚をどこかで味わった気がしたけれど、上手く思い出せない。
 籠ったような音の世界の中、その言葉だけははっきりと聞こえた。
『もう大丈夫だよ』
 それを合図に俺の意識は一気に沈んだ。
 深い海に落ちていくようだったけれど、息苦しさは全くない。むしろそこは暖かくて、全身包み込まれると全身の力が勝手に抜けていく。大きく息を吐くと、とても心地よくてすっきりした。
 ああ、気持ちいい。頭の中でぼんやりとそんなことを考えた気がした。

+++

 全身の温かさ、そして内側の不快さに沈んでいた意識が持ち上がる。真っ暗なのは目を閉じているからだと理解しながらも、微睡の心地よさにそのままでいた。
 布団は本当に温かい。寝返りを打ち、掛け布団に身を寄せる。ずっとこのままでいたいと思いながらも、じわじわと膨らんでいく不快感が心地よさを追いやっていく。
 トイレ、行きたい。そういえば飲み会が始まってから一度もトイレに行ってない。運ばれてくるに任せてどんどん飲んだから、結構溜まっている気がする。居酒屋のトイレは混みやすいから早めに行った方が良いかもしれない。

 そこまで考えて、揺らいでいた意識が覚醒した。目を開けると布団に包まれていて、慌てて上体を起こす。そこは見慣れた我が家で、俺は万年床の布団の上にいた。
 どうやって帰ってきたか、全く記憶になかった。それどころか居酒屋を出た記憶もない。記憶がなくなるまで飲んでしまったのだろうか。言われてみれば、気分の良さに任せて後先考えずにどんどん飲んでしまった。
 何とか昨日のことを思い出そうとするけれど、下腹部の不快感が邪魔をする。大きく膨らんだ腹の内側で嫌な波が広がり、全身がぶるっと震えた。波の出口が内側から突き刺すように圧迫されて、抉じ開けられそうになる。
 咄嗟に右手がそこに伸びて、出口を掴んだ。その触感は想像していたものとは違っていて、俺は驚いて布団を捲った。

 記憶が無いなりに寝巻には着替えていたようで、俺はいつものスウェットを着ていた。ゆったりしたズボンの下で、下腹部がいつもよりふっくら包まれている。いつもの下着より大きくて厚みがあって、身を捩ると紙の擦れるような音がした。ズボンのウエスト部分を引っ張りながら、そこがどういう状態なのかは何となく想像がついていた。
 光を遮られたズボンの中でも、真っ白なそれは異様に存在感があった。見慣れない、それでいて俺自身は見慣れてしまっていたその存在。あの日に貰って押入れにしまっていた紙おむつだ。
 なんで、どうして。理解が追いつかず、込み上げる不快感も相まって混乱する。着替えるときに自分で紙おむつを履いたのだろうか。けれど、いくら酔っていたとは言え、自分から紙おむつを履いただなんて信じられない。

 思い出そうにも靄掛かった記憶ははっきりしない。その上、膀胱を大きく膨らませた水分が出口を抉じ開けようとしていて、冷静さはあっという間に塵となって消える。
 スウェットの中に手を入れ、厚みのある紙おむつの上から出口をぎゅうぎゅうと握った。よく知った感覚が込み上げるのを誤魔化そうとするが、気休め程度にしかならない。

 とにかく、まずはトイレに行こうと立ち上がったところで、がちゃ、と玄関が開く音が聞こえた。その音に飛び上がりそうになり、驚きでじわりと熱い雫が零れ出す。
 どうやって帰ってきたのか、なんで紙おむつを履いているのか、そして、今扉を開けたのは誰なのか。ただでさえ訳が分からないのに、体の中で暴れまわる激しい波も相まって余計に頭が回らない。おしっこを我慢していると頭の回転が良くなる、なんて言うけれど、それにも限度があるようだ。
 そんな状態でも理解できたのは、早くトイレに行かないと、俺はこのおむつのお世話になってしまうということだ。こんなことなら飲みすぎるのではなかったと色々な意味で思った。自分一人だけならまだしも、誰かが訪ねてきたこの状況でそれだけは避けたかった。

 張り裂けそうな下腹部は真っすぐ立つ余裕すらもなく、前かがみになってそろそろと布団の上から移動した。出来るだけ刺激を与えないようにそろそろと歩き、トイレと玄関が見えたところで、俺は驚きで足を止めた。
 廊下の先の玄関で色々詰まったビニール袋を置いて、靴を脱いでいるのは紛れもないあの人だった。
「なぎさ、さんっ?」
「あ、ユウくん。起きたんだね。おはよう」
 なぎささんがいる。なんで、どうして。ここはホテルではない、俺の家なのに。困惑する俺とは裏腹に、彼女は何も気にした様子もなかった。
「朝ごはん作ろうと思って買い物に行ってたの。勝手に鍵とか借りてごめんね」
「え、あ、それは別に良いんですけどっ」
 机にビニールを置き、その中身を出していく彼女の背中を見て、ただ茫然としていた。

 聞きたいことはたくさんあった。けれど彼女がここにいることに驚き固まる俺を引き戻したのは激しい尿意だった。膨らみ切った膀胱が大きく収縮して、頭のてっぺんから足の先まで震えが走る。押し出された熱いおしっこが細い出口を押し広げて、じゅ、と噴き出して股間を濡らす。考えるより先に体が動いて、咄嗟に両手がぎゅううっと出口を握っていた。
 彼女がこちらを見たのはその瞬間だった。咄嗟に手を離したものの、俺が股間を押さえているところはしっかりと見られたに違いない。恥ずかしさと居た堪れなさに固まる俺を見て、彼女は何事もなかったかのようににこりと笑う。
「キッチン借りるね。大したものは作れないけど、我慢して待っててね」
 彼女はそう言うと、再び背中を向ける。気付かれなかったのかと思ったけれど、そんなはずはない。
 その背中を見て、彼女の言葉の意味を理解した。それを理解して、頭がかあっと熱くなるのを感じた。この人は、俺の状況だけでなく心の中までも本当に全部見透かしてしまう。
 “我慢して待っててね”なんて言われたって、もう本当に限界なのに。そんなことを思う傍らで、自分でも直視できぬ感情を抱いていることにも気付いている。ばくばくと心臓が鼓動を速めているのは、決して尿意のせいだけではないのだろう。

 込み上げる尿意に再び股間を握る。部屋はひんやりと肌寒くて、肌の表面が冷えていく。鳥肌が立つ冷たさとは裏腹に、体の中は火が付いたかのように熱い。その熱源は下腹部の中で、水風船をこれでもかというほど大きく膨らませている。
 おしっこは噴きこぼれる寸前まで温められている。膀胱はこれ以上ない程に押し広げられていて、あとほんの少しでも注がれたら破裂するのではないかと思うほどだ。
 早く出さないと。そう思うのに足が動かない。いや、先ほどから忙しなくその場で足踏みを繰り返してはいたけれど、前に進んではくれない。彼女の言葉が、それに答える自分の思いが、体に太い杭を突き刺したかのようにこの場に留めるのだ。

 彼女の背中を眺めながら、その場で足踏みを繰り返す。もう両手は出口から離せず、ぎゅうぎゅうと落ち着きなく握って離して、またすぐに握る。はしたないとわかっていたけれど、そうしていないともう我慢できなかった。
 むしろ、そうしていても我慢出来ているとは言えないかもしれない。うまく息が吸えず、短く浅い呼吸を繰り返す。時折、吸い込んだ僅かな空気に押し出されたかのようにおしっこが零れだした。そのたびに出口をしっかりと閉じて、指先でも強く塞ぐのだけれど、厚いおむつ越しでは上手く押さえられている気がしない。じわ、とおむつに熱いおしっこがまた滲む。

 足踏みの音と荒い呼吸の音。がさがさとビニールの擦れる音と楽し気な鼻歌。
 駆け出そうにも足が動かない。どう言われようと勝手にトイレに行けば良いのだとわかっていたけれど、俺は動けない。
 ああ、もう、もうっ。じわり、またおしっこが滲む。ああ、だめ、だめだ、トイレ、トイレに。じわり、またじわりと、出口から滲み出るおしっこが止まらない。膀胱はもう容量オーバーを何度も訴えていて、少しでもスペースを作ろうと中身を強く押し出す。我慢して、押さえているのに、それはもう抗えないほどの圧力を持っていた。
 ああ、あ、だめだ、もう、もう。喉の奥に言葉が張り付く。寒いのに熱い。喉がからからに乾いている。
 じわりとまたおしっこが滲む。ああもう、もう本当に、本当にっ。ごくりと唾を飲んで、口を開いた。
「な、なぎさ、さんっ、」
 震えた声で呼びかけると彼女はこちらを向いた。目が合うと、視界がぐにゃりと歪んだ。彼女は何も言わない。俺が何を言いたいかわかっているくせに。
 言葉が上手く出ない。はく、はくと口を開いたり閉じたり、必死に呼吸を繰り返すけれど、上手く息が出来ている気がしない。ああ、もう、ほんとに、ほんとにっ。じわりとまたおしっこが滲む。必死に押しとどめて、ぎゅううっと押さえて、そうしてなりふり構わず我慢しているのに、おしっこは止まらずじわりじわりと濡らしていく。

 これ以上ない程の強い尿意を感じているのに、それは寄せては引いてを繰り返すたびにどんどん強くなっていく。全身を巡った水分がおしっことなって、今もまだ注がれているのかもしれない。膨らんだ膀胱が更に押し広げられようとするが、もう僅かなスペースもないのはあきらかだ。
 極限まで薄くなった膀胱の壁はもう広がらず、壁の無いある一点が強い圧力を受け止めて逃がそうとする。きつく締められているはずの出口が、その圧力に耐えきれず口を開いた。
 ぶじゅっ、と鉄砲水のようにおしっこが噴き出した。慌てて両手で強く握る。体の中いっぱいにおしっこが詰め込まれ、余計なスペースが無くなっているかのように上手く息が吸えない。僅かでも体内の水分を出そうとしているのか、目に溜まっていた涙が一気に零れた。
「な、なぎささんっ……あ、あの、もう、もうっ……!」
 もう足踏みも出来なかった。全身がちがちに力が入っていて、もう僅かにも動けない。膨らんだお腹を抱え込むように上体を倒し、両手はきつくおしっこの出口を握りしめる。ほんの僅かにでも力が抜けたら、膨らみ切った水風船が一気に中身を吐き出してしまいそうだった。
 彼女は何も言わない。ただ見ているだけ。あ、ああ、もう、もう本当に。

「も、もうむり、むりっ……なぎささん、おしっこ、おしっこっ……!」
「おしっこ?」
 なぎささんはわざとらしく聞き返す。絶対に聞こえているはずなのに。彼女は俺の前にしゃがみ込み、伏せた俺と目を合わせて笑う。
「お、おしっこっ、も、むりっ、もうでるっ……!」
「あらら。じゃあ、おトイレ行かないとね。歩ける?」
 彼女は俺の背をそっと押して、トイレへと歩かせようとする。震える足はほとんど持ち上げられず、擦るように足を運ぶ。彼女の手に押され、一歩、また一歩と足を踏み出したが、もう本当に限界だった。

 あ、あ、だめ、もうだめ、もうむり、ほんとに、ああ、ああ、ほんとに、もう、もう。
 もう一歩も動けない、そう思ったのは間違いではなく、足をほんの僅かに動かすたびに、じわり、じわりとおしっこが先端に滲む。我慢しているのに、押さえているのに、おしっこが止まらない。ぐりぐりと刺激したせいで、厚みのあるおむつのその部分だけが薄くなっていた。
 じゅう、じゅ、じゅ。おしっこが溢れる。まだ駄目だと思うが、それはあっという間にかき消される。
 我慢しているのに、押さえているのに、ああ、でも、でも、もう。おしっこ、じゅ、じゅう、って出て、止まって、出て。
 我慢して、押さえて、握って。ああ、もう、もう、だめ、おしっこ、あ、あ、あ、あああ、あぁあぁぁっ……。

 心が折れるのが先か、体が限界を迎えたのが先か。
 全身から一気に力が抜け、廊下の真ん中でしゃがみ込んだ。お尻を浮かせたその体勢は、和式トイレで用を足すときのようで。
 立ち上がろうとも、前に進もうとも、我慢しようとも、もう何も考えられなかった。もう何も出来なかった。

 握りしめた両手の中、ぶじゅっと、おしっこが爆発したかのように噴き出す。まだ駄目だと思ったけれど、その思いもすぐにおしっこの濁流に流された。
 ぶじゅう、と物凄い音だった。水道を勢いよく捻ったときのような、ホースから勢いよく野太い水流が噴き出しているような激しい音だった。
 あ、あ、出た、おしっこ、でちゃった。熱いおしっこが手の平の中、おむつに当たって渦巻いている。足の間が見る見るうちに膨らんで重量を増していくのがわかった。

「あ、う、あ、ああ、あぁっ……」
 膨らみ切った膀胱はうまく萎まないようで、おしっこの勢いはすぐに弱まって、ひたひたと濡れたおむつを叩く。
「あらら、駄目だったか」
「ご、ごめんな、さ、あっ、あぁあ、」
「よしよし、よく頑張ったね」
 隣からなぎささんの声がする。何か言おうとしたけれど、息が上がって言葉が出ない。がちがちに固まった体はうまく動かず、俯いた俺の頭をなぎささんが撫でる。
 その手の感覚に全身からふっと力が抜けた。そうすると、今度はもうどこにも力が入らない。しゃがんでいることも出来なくて、崩れ落ちるように床にお尻を付いた。後ろに手をついて、崩れそうな体を支える。
 お尻にぐじゅ、と濡れたおむつを感じた。気持ち悪さもあったけれど、とても温かかった。はあ、と胸の奥に詰まっていた息が一気に漏れる。

 おしっこは全然止まらない。しゅー、じゅー、と静かな廊下に水音が響く。
「相変わらずすごい量だね。すごいすごい」
「うあ、あ、すみませ、」
「大丈夫だよ。ふふふ、昨日はちゃんと我慢できたのに、今日は駄目だったね」
「昨日……?」
 彼女の言葉に何かを思い出せそうな気がしたけれど、上手く思考が働かない。ひたひたと出続けるおしっこは全然止まらず、その快感に頭は真っ白でふわふわとする。
「その顔は覚えてなさそうだね」
「す、すみません」
「ふふ、良いよ。後で教えてあげよう。とりあえず今は全部出しちゃおうか」
 そう言って彼女は俺のお腹を撫でる。破裂する一歩手前まで膨らんだ膀胱はゆるゆると中身を吐き出し、少しずつ萎んでいく。余裕が出来たのか、やっと大きく息を吸うことが出来た。

 どれだけ溜まっていたのか、呆れるほど長くおしっこは続いた。腹に力を入れると、残っていたおしっこがじゅ、と噴き出す。激しい運動を終えた後のように息が上がっていた。
 昨日大量に摂取したアルコールは寝ている間にどれだけのおしっこを作ったのだろうか。自分でも驚くくらいの量だった。心の底からすっきりしたと感じた。
「やっちゃったねえ、ユウくん」
 平らになったお腹を撫でながら、彼女は言う。荒れ狂う尿意の波から解放され、落ち着きが少しずつ戻ってきた。廊下の真ん中で座り込み、全て排泄してしまったことをやっと実感し、羞恥で顔が熱くなった。

「ごめん、なさい」
「いえいえ。とりあえずお風呂場に行こうか。立てる?」
 彼女は笑いながら立ち上がり、手を差し出した。その手を取ってゆっくり立ち上がると、重くなったおむつがずり下がった。その不快さに動きを止めると、足の内側にじんわりと温かいものが伝う。足元を見ると、そこには大きな水たまりが広がっていて、ズボンはところどころが濡れて色を変えている。よく見るとスウェットのお尻の部分は特に濡れていた。
「溢れちゃったみたいだね」
「え、あ、うそだ、なんで……」
「いっぱい我慢してたんだね。すごいすごい」
「う、すごくないです……」
 最悪だ。間に合わなかっただけでなく、溢れるまで出すだなんて。こんなこと、今まで一度もなかったのに。

 水たまりの中心で呆然と立ち尽くしていると、なぎささんは俺のズボンに手を掛け、足首まで下ろしてしまった。露わになった白いおむつは微かに色を変え、足の間に重くぶら下がる。
「な、なにしてるんですかっ」
「ここで脱いじゃおう。はい、足上げて」
「ちょ、ちょっとっ、なぎささんっ」
「今まで何度も見てるから良いじゃない。ほら、風邪引いちゃうから早く早く」
 彼女の言葉に逆らえず、俺はしぶしぶ足を上げる。
 なぎささんは俺のズボンを脱がせると、今度は濡れて重くなったおむつに手を掛けた。隠すものが取り払われた股間をTシャツを引っ張って隠しながら、また足を上げて脱がせてもらう。子供の様に世話をされるのは恥ずかしかったけれど、どこか安心した。
「わあ、重い。いっぱい出したねえ」
「い、言わないでくださいっ。あの、自分でしますから」
 彼女の手の中にある物を取ろうとしたけれど、それは叶わない。
「良いから良いから。とりあえずお風呂入っておいで。その間に片付けて、朝ごはん用意しておくから」
「そんな、何から何までさせるなんて、申し訳ないです」
「私がしたいから良いの。ほら、早くお風呂行っておいで。ちゃんとお湯に浸かって、温まってくるんだよ」
 やはり彼女の言葉には色々な意味で逆らえない。俺は仕方なく廊下を歩いて、風呂場に向かった。

 トイレと風呂、そこまでは十歩も掛からなかった。たったこれだけの距離が我慢できなかったなんてありえないと思うけれど、それが出来なかったのは紛れもない事実だった。
 自分を洗い、溜まった湯に体を沈める。そういえば湯船に浸かるのは久しぶりで、その温かさにほっと息を吐いた。全身が温まっていくにつれ、体からも心からも力が抜け、目を閉じて暗闇の中をぼんやりと漂う。
 真っ暗な中でちゃぷちゃぷとお湯の揺れる音だけが聞こえる。ああ、気持ちいい。快感に蕩けていると、先ほどの快感が思い出されて、頭がぼおっとした。
 平らになったお腹を撫でながら、つい先ほどのことを思い出す。あんなに出たのは生まれて初めてかもしれない。おむつをしていなかったら、床が大洪水になっていただろう。

 呆けていると、扉の外から鼻歌が聞こえた。少し音の外れたそれをぼんやり聞いていると、それは洗濯機の動く音にかき消された。なぎささん、洗濯までしてくれているのか。朝ごはんまで用意してくれて、あの人はにこにこしている。何となくだが、昨夜、俺に紙おむつを履かせたのも彼女なのだろうと感じた。
 そういえば、どうしてなぎささんがここにいるのだろう。今さらながら当たり前の疑問が浮かんだが、答えは思い当たらない。俺が彼女の自宅を知らなければ、彼女も俺の自宅なんて知らないし、そんな話をしたこともない。
 それに、そもそも俺はどうやって帰ってきたんだろう。記憶が無いだけで、自分の足で帰ってきたのだろうか。どれだけ思い出そうとしても、思い当たることはない。

 次第に考えるのに疲れてしまい、思い出すのはやめた。
 疲れた頭を休ませるように目を閉じて、暗闇の中をぼんやりと漂う。頭も体も浮き上がるような心地は夢の中にいるようだ。暖かくて、どこか寒い。この感覚は何だったか。その正体を頭が理解するより先に、体が勝手にその感覚を追いかける。
 それに追いついたとき、体がひとりでに身震いした。温かい湯が更に温度を上げた気がして、全身から力が抜ける。体の中が空っぽになっていって、どこかで感じた快感が全身を満たしていく。
 その感覚に酔いしれるうちに、あることに思い当たる。そして、その正体を理解して一気に飛び起きた。

 慌てて目を開け、体を起こしたが遅かった。湯船の中、両足の間からお湯のように熱い液体が噴き出す。
 うあ、あ、うそだ、お、おしっこ、でて。体が緩んだのか、出始めたおしっこは止まらず、俺はただそのままじっとしていることしか出来なかった。
 あり得ない。こんなの、あり得ないと、頭でどれだけ否定しても、体は湯の中でひたひたと排泄を続ける。さっきあれだけ出したのに、おしっこは次から次へと溢れ出る。体の全てがおしっこを作るために使われているのではないかと思うくらい、おしっこは止まらない。

 お湯の中におしっこをするなんて初めてだ。それは不思議な感覚だったけれど、決して悪いとは思えない自分が恥ずかしい。これはこれで気持ちいいかもしれない、なんて考える自分が恥ずかしかった。
 あの人と出会ってから、俺はどんどん変になっていく。知らなかったことを知るにつれて、その深みに沈んでいく。嫌だと足掻こうと思っても、彼女にそっと包み込まれてしまうとどうでも良くなってしまう。
 彼女と一緒に沈むのなら、彼女が一緒に沈んでくれるのなら、それも良いんじゃないかと思ってしまうのはおかしいのだろうか。

 湯船の中で最後の一滴まで出し切ると、全身を快感が走り抜けてぶるっと身震いした。
 あ、あ、おしっこ、してしまった。お風呂の中で、しかも無意識に。身を浸す湯船は何も変わらないように見えるけれど、すっきりした体がそうではないことを証明していた。
 慌てて湯船から上がり、お湯を抜く。念入りに掃除しようと思った。

 濡れた髪を拭きながらキッチンに向かうと、机の上には美味しそうなおかずが並んでいた。卵焼き、焼き鮭、サラダ。なぎささんは鍋をかき混ぜていて、俺の足音に気付いてこちらを向いた。
「お、ちゃんと温まってきた?」
「はい、すみません。全部やってもらってしまって」
「良いの良いの。朝ごはんにしようか」
 机の上にご飯と味噌汁が加わり、立派な朝食が出来上がった。
 向かい合って座り、口を付ける。ほっと安心する味は家庭的で、何となく実家の母親を思い出した。
「美味しいです。なぎささん、料理上手ですね」
「そう? 簡単なものだけどお口に合って良かった」
 そういえば、この場所で誰かと食事を一緒にするのは初めてかもしれない。友人と外食することはあっても、誰かと手料理を食べるなんて本当に久しぶりで、こういうもの悪くはないなと頭の片隅で感じた。

「そういえば、なぎささんはどうしてここにいるのでしょうか」
 食事の片付けも終えたところで、気になっていたことを聞くと、彼女は苦笑いを漏らした。
「何となく感じてたけど、やっぱり覚えてないみたいだね」
「う、すみません……。もしかして、色々迷惑かけた、とか」
「あー、うー、まあ、色々あったけど、まあ大丈夫だよ。気にしないで」
「それは気にするというかなんというか」
 あはは、と彼女は笑いながら、ごみ袋の口を縛っていた。ビニール袋の擦れる音に、ある光景がふと過った。

 微かに揺れる空間、決して広くはなくて、俺は体を預けて座っている。隣になぎささんがいて、彼女は俺の方に体を寄せる。
 その先を思い出した瞬間、さっと血の気が引いた。ぼんやり浮かぶ光景は夢のようであり、でもその時の感覚は体に染み込んでいる気がして。
 まさかそんなこと、してない、よな? 夢だと言い切りたいのに、あの時のことを思い出せば出すほど、居た堪れない気持ちが強くなる。違うと否定しようとするたびに、その記憶はより強くあの時の感覚を蘇らせていった。

+++

 微かに体が揺れている。エンジンの音が微かに聞こえて、車の中にいるのだと知った。その揺れに合わせて、お腹の中でおしっこが揺れる。
 おしっこ、したい。そう言うと、隣から慌てた声が聞こえた。
『えっ、ちょ、ちょっと待ってね。車停めるから』
 なぎささんの声がした。もうちょっとなんて言われても、おしっこは待ってくれない。

 なぎささん、おしっこ、したい、おしっこ、でそう。
『わわ、ちょっと待って、もうちょっとだけ待ってねっ』
 体が揺れる。ぼんやりと目を開ける。もう揺れは収まっていた。
『お待たせっ。ユウくん、車、降りられるかな』
 体は全然動かない。ちゃぷん、お腹の中でおしっこが揺れる。じわ、とほんの少し出てしまう。

 も、むり、おしっこでる、でちゃう、もうむり、おしっこでる。
『ちょ、ちょっと待ってねっ。もうちょっとだけ待ってねっ』
 ごめんね、触るよ。そんな声がして、なぎささんがズボンに触れる。衣擦れの音、そしてビニール袋の擦れる音。
『なぎささん、おしっこ、おしっこでる、おしっこでちゃう』
『わーっ! ストップ、ストップっ、もうちょっとだけ待ってっ!』
 そんなこと言われたって、おしっこがしたくてしたくてたまらない。おしっこ、なぎささん、おしっこ。そう言っているのに、なぎささんはまだ駄目だと言う。
 なぎささんのいじわる、おしっこ、おしっこもうがまんできない。でちゃう、でる、おしっこ、おしっこでる、もうほんとに、おしっこ、おしっこが。
『もうちょっと、もうちょっとだけ我慢してね。まだ駄目だよ、駄目、もうちょっと』
 ビニールの擦れる音。なぎささんの慌てた声。
 そんなこと言われても、もうおしっこ、ああ、もう、もうほんとに、ほんとに。
『もうちょっとだけ、もうちょっと』
 おしっこ、もう、もうだめ、おしっこ、おしっこでる、でるでる、おしっこ、でる、あ、あ、あああ。

『ちょっと、もうちょっと…………はい、お待たせ、もう大丈夫だよ』
 もう大丈夫だよ。その言葉が聞こえるのと同時に、おしっこが出た。
 ぶじゅう、詰まっていたおしっこが噴き出して。がしゃがしゃ、ビニール袋の擦れる音。
 おしっこ、おしっこ、あ、ああ、気持ちいい。けど、すぐに止まってしまう。なんで、おしっこ、したいのに、もう良いのに、でない。出したいのに、おしっこが石みたいに固まっているみたいで。
『なぎささん、おしっこ、出ないっ……』
『ごめんね、我慢しすぎたね。大丈夫? 力抜けるかな』
 張り詰めたお腹が優しく撫でられる。かちかちのお腹は撫でられて、少しずつ柔らかくなっていく。
『深呼吸してみよう。大きく息を吸って、吐いて、吸って、吐いて』
 言葉に合わせて息を吸って、吐く。荒くなる呼吸が少しずつ落ち着いていく。
 呼吸に合わせてお腹を撫でられて、がちがちだった体からほんの少しずつ力が抜ける。しゅ、しゅう、とおしっこが少しずつ出て、止まって、出て。
『苦しかったね。もう大丈夫だよ。おしっこしてごらん』
 彼女の手がお腹をゆっくりと撫でる。その動きに合わせて、ちょろちょろと出ていたおしっこが少しずつ勢いを増す。

 あ、あ、あ、おしっこ、おしっこ、おしっこっ……。
 ぶじゅ、とおしっこの出口が爆発したかと思った。固まっていたものが飛び出したかのようにおしっこが噴き出す。さっきまでのことが嘘のようにおしっこが出て、全然止まらない。
 すっきりしていくお腹に息を吐き、目を開ける。心配そうになぎささんが顔を覗き込んでいて、目が合うと柔らかく微笑まれる。
 ぶじゅうと野太い音とがしゃがしゃとビニール袋の揺れる音。足の間を見ると、ズボンの前は寛げられていて、引っ張り出された性器の先がコンビニのビニール袋に包み込まれていた。なぎささんの手がビニールの上からそこを固定していて、反対の手は俺のお腹を撫でている。その光景に恥ずかしいとか申し訳ないとか、そういうことを感じる前に、何故か安心を覚えた。

 呆れるほどたっぷりおしっこは出た。すっきりすると、ぶるっと体が身震いをする。
『全部出た?』
 頷いて返事をすると、彼女は笑った。おしっこ、ものすごく出た、ものすごくすっきりした。体の中身が空っぽになったかのような心地よさに、大きく息をついた。
『よく頑張ったね。えらいえらい』
 お腹を撫でていた手が頭を撫でる。その心地よさに、彼女の細められた目をぼんやりと見つめていると、だんだんと瞼が重くなっていく。
 なぎささん。名を呼んだつもりだったけれど、呼べていたのかはわからない。
 重くなる瞼に逆らえず、目を閉じる。真っ暗な中、緩んだ体は深いところへ簡単に引きずり込まれていった。

+++

 この記憶は夢か現実か。答えはわかっていたけれど、認めたくない気持ちはあった。彼女に確認すればすぐにわかるのだけれど、とても聞くことは出来なかった。
 固まっていると、なぎささんがこちらを見る。目が合うと、今度は引いていた血が顔に一気に集められ、頭が熱くなった。
「ふふ、何か思い出した?」
「え、あ、いや、あの、」
「昨日はびっくりしたよ。車に戻ろうとした時、寝ているユウくんを担いだ男の子が出てきたんだ。その子に声を掛けて、ユウくんを私の車に乗せるのを手伝ってもらったんだよ。またお礼言っておいてね。
 それで、寝てるユウくんから何とか住所を聞き出して、ここまで送ってきたというわけです。勝手に鞄を開けたけど許してね」
「いえ、そんな、こちらこそすみません。迷惑かけました」
「ふふふ、ご機嫌に飲むのは良いことだよ。ただ帰れる程度には留めた方が良いかもね」
 すみませんとありがとうを繰り返すが、なぎささんは気にした様子もなく、にこにこと笑うだけだった。
 本当に懐が広い人だと改めて思った。酔っぱらいの相手なんて大変だろうし、先程のことが夢でないなら、とんでもない迷惑を掛けている。もしかしたら覚えていないだけで、それ以上に何かやらかしているかもしれない。思い出したいけれど思い出すのが怖い、そんな複雑な気持ちだった。

「さて、そろそろお暇しようかな」
「え、帰っちゃうんですか」
 咄嗟に口を付いた言葉に自分でも驚いた。
「いや、あの、俺、今日は予定もないし、色々迷惑掛けたから、何かお礼出来たらと思って」
 慌てて言葉を付け足したけれど、我ながら言い訳でしかなかった。なぎささんは俺の様子に笑う。
「ごめんね、今日はやることがあるんだ」
「そ、そうですよね、すみません」
「ふふ、また来週会おうね。……あ、そうだ」
 はい、と彼女はビニール袋を差し出した。見覚えのある光景に、袋の中身は予想がついた。中を覗くと、そこにあるのはやはり想像通りのもので。
「なっ、え、これ、なんでっ……!」
「ふふふ、ごめんね。昨日、お布団を汚しちゃ大変だから、念のために思って探したんだ。そうしたら結構減ってるなあと思って買っちゃった」
 色々言いたいことが思い浮かんだけれど、何も言葉が出てこない。固まったまま、口をパクパクさせていると、なぎささんはそれは楽しそうに笑った。
「あんまり遊ぶとおトイレ近くなっちゃうから程々にね」
「な、な、なぎささんっ……!」
 なぎささんは楽し気に笑いながら立ち上がる。呆気に取られ、渡されたビニール袋を手にしたまま、その背を追いかけて玄関に向かう。

 玄関で靴を履きながらも、なぎささんは変わらず笑っていた。彼女の笑顔は好きだけれど、それ以上に色々とばれてしまったことに内心穏やかではなかった。
「ほんと可愛いなあ、ユウくん」
「可愛くないですっ! それにその、誤解、というか、その、」
「良いじゃない。使ってくれてたから嬉しいよ」
 そう言われると何も言えない。立ち尽くしていると、なぎささんは慣れた様子で玄関の扉の鍵を開けた。
「送っていきましょうか」
「ううん、大丈夫。それじゃあ、またね」
 手を振りながら、彼女は部屋を出ていく。ぱたんと無機質な音を立てて扉が閉まり、俺はひとりになる。この場所にひとりでいるのは当たり前なのに、なんだかとても寂しく思えた。

 持ちっぱなしだったビニール袋の中身を覗く。そこにあるのは、見覚えのあるパッケージ、大人用の紙おむつだ。
 洋服の隙間に押し込まれたビニール袋を開けると、そこには同じ紙おむつが数枚入っている。今貰ったものをそこに入れたところで、悪寒を覚えて身震いした。昨日飲みすぎたせいか、今日はとてもトイレが近いようだ。ぞくぞく、込み上げる尿意に一瞬だけ迷ったけれど、甘い誘惑の手を取らずにはいられなかった。
 閉めかけた袋の口を開けて、中身をひとつ取り出す。そして、ズボンと下着を脱いで、それを履いた。厚みがあってごわごわしていて、でも肌触りが良い紙おむつ。その下に隠れた腹は幾分膨らんでいて、その中には熱いおしっこが溜まり始めていた。普段なら間違いなくトイレに行くくらいの尿意。でも、俺はトイレに行かず、万年床の布団に腰を下ろす。

 もじもじ、そわそわと身を捩りながら、込み上げる尿意を堪える。どれくらい我慢できるだろうか。あんまりいっぱい我慢したら、またさっきみたいに溢れてしまうだろうか。先程のことを思い出すと、それだけでぞわぞわと快感が込み上げてくる。
 ああ、トイレに行きたい、おしっこがしたい。でも、まだ駄目だ。そうやって焦らしながら、限界を待ち望む。早く来てほしい、でも出来るだけ長く頑張りたい。いっぱい我慢して、もう駄目だもう無理だと思っても我慢を続けて、本当の本当に限界だと思っても我慢して。もう何も考えられない、ほんとのほんとに限界だと思ったその瞬間こそ、最高の快感を味わえるのだから。

 なぎささん、なぎささん。もう良いよと、もう大丈夫だよと、その言葉が欲しくて、届かないと知っていながら呼びかける。じりじりと込み上げる尿意にふ、と息が漏れる。体を揺らすたびに、あの人のくれたご褒美の存在を感じる。
 なぎささん、おしっこしたい、おしっこ、でそう。
 まだ駄目だよ。そんな声が聞こえた気がした。

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初出:2018年12月2日(pixiv) 掲載:2019年12月19日

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成人済の時々物書きです。 スカ、女攻め萌え。BLよりはNLやGLが好きです。
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