「着替えても良いですか?」
部屋に到着してそう言うと、なぎささんは軽い調子で返事をくれた。
持ってきた鞄をソファに置いて、中からルームウェアを取り出す。彼女は何故か楽しそうにこちらを見ていた。
「あ、それ、私も持ってる。楽で良いよね」
「なぎささんもこういうの着るんですね。意外」
「そう?」
「シルクのパジャマとか着てるのかと思ってました」
「そんなお上品な暮らししてないよ」
こんな良いホテルに毎週のように泊まれる時点で、お上品な暮らしに含まれると俺は思う。
「家だとそういうルームウェア着てるよ。お揃いだね」
「今日は持ってきてないんですか?」
「うん。ホテルに部屋着がついてるから。荷物は減らさないとね」
そういえば、以前一緒にファミレスに行った時、彼女は千円もしないハンバーグを美味しそうに食べていたのを思い出した。
俺が普段触れる物に彼女も触れて、同じように感じている。それを知る度に、彼女との距離は俺が思う程には離れていないんじゃないかと思ってしまう。
まあそれも、狭い自分の部屋に戻るとすぐ否定されるのだけれど、それでもすごく安心するのは事実だった。
ジャケットを脱いで、シャツのボタンを指で摘まむ。短時間とは言え、スーツはやっぱり肩が凝る。ボタンを一つ外すたびに、縮こまっていた体が伸びていく。
彼女は俺が脱いだジャケットをハンガーに掛けてくれた。帰りにもう一度着るので、適当に置いといて良いのに。そう思いながらもお礼を言って、シャツとインナーも脱ぐと、彼女はそれも拾い上げてハンガーへ掛けた。
その動きはとても自然で手際が良くて、さも当たり前かのように見えた。こういうことがすんなりできるから、仕事もできるんだろうなと内心思った。脱ぎ捨てたままで良いと思っていた自分が少し恥ずかしくなる。もう一度お礼を言うと、彼女は気にした様子もなく笑っていた。
「別にスーツじゃなくて良いんだよ? 楽な格好で全然構わないから」
一応、ここに来るときはスーツを着るようにしていた。彼女はそんなことを言うけれど、こんな高級そうなホテルには流石に普段着では来づらい。前に一度、勢い任せてTシャツにジーンズで来てしまったことがあるけれど、今思えばよくあんなことが出来たなと思う。
「スーツ、肩凝るよね。着替えたいのはわかる」
「うん、だからルームウェア持ってきたら楽かなと思ったんです。……あと、その」
恥ずかしさに段々と声が小さくなっていく。外したベルトがかちゃかちゃと手元で鳴った。足を抜いたズボンは、彼女が直接受け取った。
「……汚しても、洗いやすいんで」
「うん。確かに洗いやすい方が良いよね」
続けた言葉は小さな声になった。靴下を脱ぐために屈む。足元を見ていても、彼女の返事が笑っているのがわかった。
ちょっと含みがある言葉が何を意味しているのかはわかる。でも何も言わず、靴下を脱いで裸足で冷たい床を踏んだ。
彼女がハンガーに向かう間に、下着の上から柔らかいルームパンツを履いた。上は白いロングTシャツ、下はグレーのルームパンツ。どちらも柔らかい生地で、すごく動きやすい。
家にいる時と同じ格好になると、緊張が少しだけ和らいだ。ここには何度も来ていて、この遊びは何度もしてきたけれど、やっぱり緊張はする。けれど嫌な感じはしない。
少し怖くて、少し楽しみで、少しドキドキする。胸がむず痒くて、じっとしていられない。けれど、この場所から離れたくない。すごく不思議な感じだった。
ズボンをハンガーに掛けた彼女は俺をソファへと促した。柔らかいソファに座り込むと、彼女が冷蔵庫に寄るのが見えた。
扉を開けて中から色々と取り出す背中を、ぼんやりと眺める。俺の楽な格好と比べて、彼女は仕事終わりなのか、白いブラウスと黒いタイトスカートを着ていた。スカートから伸びる足は黒いストッキングが隠していて、その透け感がちょっと良いなと内心思った。
戻ってきた彼女の両手には缶ビール。差し出されたのを受け取るとよく冷えていて、手が少し濡れる。プルタブを起こすと、ぷしゅっと良い音がした。それからお互いに缶を差し出した。
「かんぱーい」
「お疲れ様です」
一口飲む。中のビール自体も冷たくてとても美味しい。勢いに任せて一気に半分程飲み干して、息をついた。
ふと隣を見ると、なぎささんは缶を両手で握って、にこにこしながらこちらを見ている。そうじっと見られると何だか恥ずかしくなる。羞恥を誤魔化す様に、もう一度缶に口を付けた。
「たくさん飲んでね。お代わりあるからね」
「あんまり飲むと、酔って寝るかもしれないですよ」
「じゃあドラッグストアでおむつ買ってこようか。それなら寝ても安心」
「……そういう問題じゃないです」
ふふふ、と楽しそうに笑って、彼女もビールに口を付ける。白い喉が上下する。ごくりと飲み込む音が聞こえて、何故か少しどきどきした。
+++
「ね、悪戯してもいい?」
彼女がそんなことを言ったのは、俺は四本目を開けたところ、彼女は二本目をある程度飲んだところだった。それだけ一気に飲むと、流石に下腹部がやや重くなっていて、じんわり生理現象も感じ始めていた。
いたずら。その言葉に胸の隅がきゅうと疼く。古傷をそっと撫でられているような感覚だった。
何をされるのか、何をしてくれるのか期待してしまう自分が恥ずかしくて、開けたばかりのビールに口を付けて幾分飲み込む。アルコールがすべて誤魔化してくれないかと思ったけれど、全然効果は無く、お腹の重みが増しただけだった。
鼓動がやや早くなる。ごくりと空気を飲み込んでから、頷いて返事をした。
半分ほど中身が入った缶を机に置いて、隣の彼女へと体を向ける。なぎささんはポケットから白いハンカチを出して、結露で濡れた手を拭った。ハンカチは畳んで机の隅に置いた後、その両手が俺の方へ伸ばされた。
白く細い指は、俺のお腹の辺りに触れる。柔らかいルームパンツ、そのウエスト部分から垂れ下がっていた二本の紐を両手でそれぞれ掴むと、俺を見て目を細めた。
俺の視線の先で白い指先が動いて、紐を交差させて、くるりと回して、それから左右に引っ張って。出来た結び目はお腹の方へと音も無く寄せられた。
「苦しくない?」
「はい」
紐の先はまだ彼女の手の中にあった。俺の返事の後、白い指は再び紐を交差させる。それから同じ動きを繰り返して、二つ目の結び目が重ねられた。
その手元をじっと見つめていると、彼女の指はもう一度同じことを行う。三つ目の結び目が出来ると、ようやく白い指は紐を離した。
「結んじゃった」
「こんなに結んだら、解くの大変じゃないですか」
「うん、大変だ。どうしよう?」
自分でやっておきながら、他人事みたいに彼女は言う。俺も口先では不満を漏らしたけれど、内心、期待と不安でどきどきしていた。
彼女の作った結び目を自分の指で撫でる。三つ重なった結び目は固くて、簡単には解けないだろう。
隣にいる彼女は目を細めて、机へと手を伸ばす。今まで悪戯をしていた手が缶を持ち上げて、緩く笑う口元へ運んでいく。その動きを、自分の鼓動を感じながらただ見つめていた。
俺は四本目を飲み干して、彼女は二本目を飲み干した。机の上には空き缶が六本と、畳まれた白いハンカチ。
「お代わり持ってくるね」
彼女はそう言って腰を上げる。咄嗟にその手を掴んだ。
「どうしたの?」
自分の膝を見つめたまま、彼女の方は見れなかった。けれど、彼女がソファに座ったままなのはわかった。
「ユウくん、どうしたの?」
その口調は拗ねた子どもに理由を聞くときみたいだった。
「もう、お代わり、いいです」
俯いたまま言う。やっぱり顔は上げられなかった。
「酔っちゃった? じゃあお茶にしようか。冷たいのが良いかな? 温かい方が良い?」
ズボンの裾が足首に触れる。裸足の爪先が冷たい。でも、掴んだ手首は温かい。
返事もせずにそのまま手を握っていると、彼女の反対の手が俺の手の甲を撫でる。
「ユウくん?」
「酔ってない、です」
「そっか。遠慮はしないでね。何か他のお酒を買ってこようか?」
遠慮なんてしてないし、他のお酒もいらない。やっぱり顔は上げられなくて、自分の膝を見つめたまま首を振る。
彼女が小さく息を吐く音が聞こえた。それは溜め息というよりは、少し笑っているようだった。
「ユウくん」
そうやって優しく名前を呼ばれて、手の甲を撫でられて、強張ったものが解されていく。そろそろと顔を上げると、柔らかい視線と目が合った。
包み込むように、すべてを見通す様に見つめられると、落ち着かないけれどちょっと安心する。ずっと掴んだままの手首を離すと、彼女の両手が俺の手を包み込んだ。
反対の手は自分の膝を握っていた。柔らかな生地に指先が皺を作る。
「……言わなくてもわかってるでしょ」
「可愛いから言わせたくなるんだよ」
「可愛くない、です」
どきどきと心臓が高鳴る。自分の体が冷たくなっていく。でも、彼女の両手で包み込まれた手だけは温かい。
彼女はお代わりを取りに立つこともなく、隣に座ったままだった。しんと部屋は静かだ。自分の鼓動が体の中でうるさく響いている。手は握られたままだった。
小さい缶が四つ。酔うまではいかないけれど、飲んだものは確かに体の中に溜まっていた。短時間で一気に飲んだから、お腹がちゃぷちゃぷしてる。
ビールは利尿作用が強い。時間はまだそんなに経ってないのに、ぞわぞわとした嫌な感覚が体の内側で疼いている。ソファに座っているけれど、内心全く落ち着かなかった。
「お腹は空いてない?」
頷いて返事をする。彼女は柔らかく笑って、俺の手を撫でる。握られた手に力を込めると、同じように力が籠もった。
「喉乾いちゃった。烏龍茶取ってきてもいいかな?」
もう一度頷くと、彼女は繋いだ手を離した。柔らかな笑みを残して立ち上がると、部屋の隅にある小さな冷蔵庫に向かった。
先程まで繋がれていた手が今は空っぽで、それがすごく寂しくて、自分の指を握り込む。彼女は冷蔵庫から大きなペットボトルと、カップを二つ持って戻ってきた。
「俺はいらないです」
そう言っても、彼女は気にした様子もなくカップへと烏龍茶を注いでいく。カップの一つが満水になると、隣のカップへ。両方を満たしてから、その片方を持ち上げてゆっくりと口を付けた。
「飲まない?」
「いらないって言いました」
「お酒だけだと喉が乾かない? ちょっとだけでも飲もうよ」
確かに喉は乾いていた。机の上に新しく仲間入りしたカップに目が引き寄せられる。その中では茶色い水面が静かに佇んでいて、とてもとても魅力的に見えた。
飲みたい、けど。ぞくりと体の芯が震える。お腹にはたっぷりと水分が溜まっている。これ以上飲んだら、大変なことになる。
「だって、飲んだら、その……行きたくなるじゃないですか」
もう既に行きたいとは言わない。でも彼女の視線はそんなことも見通しているような気がして、心臓の鼓動が徐々に早まっていく。
「行っちゃ駄目ってまだ言ってないよ」
「でも、言うんでしょう?」
返事はないけれど、その表情がイエスを言っていた。ぞわぞわする感覚は次第に強くなっていて、足の指に力が籠る。
飲んだら行きたくなるなんて言ったけれど、もうトイレに行きたくて仕方ない状態だった。他のことに集中しようにも、無視できない程には尿意は高まっていた。
じっとこちらを見つめる目を見つめ返す。彼女の口元は緩んでいて、そこに再びカップが寄せられる。こくり、と白い喉が上下する。乾いた喉を潤す感覚を想像してしまって、ごくりと唾を飲み込んだ。
「なぎささんだけ、ずるい」
「だから、飲んでいいのに」
「だってっ……!」
さりげなく両足を擦り合わせて、じわじわ込み上げる感覚を誤魔化す。
「じゃあ、今日はこうしよう。本当に我慢できなくなったら、トイレに行っていいよ」
「ほんとに?」
うん、と彼女は頷きながら言う。
「約束ですよ」
「うん。指切りする?」
流石にそこまでは求めてない。でもその代わりに、手を伸ばしてそっと彼女の手を握った。白い指はちゃんと俺の手を握り返してくれて、その感触にすごく安心した。
「飲む?」
「飲む」
机の上からカップを持ち上げて、口元に運ぶ。口の中に冷たくて形のない感触が広がって、乾いた喉に吸い込まれていく。
体が水分を求めて、ごくごくと喉が鳴った。あっという間に飲み干してしまって、カップは空になっていた。
全部、飲んじゃった。そこまで飲むつもりはなかったのに、カップいっぱいの烏龍茶は体の中に消えていた。乾いた体に水分が染み込んで満たされていく感覚に静かに息を吐いた。
「もうちょっと飲む?」
飲み切ったことに気付いたのか、彼女は自分のカップを机に置きながら言う。
「飲みたい、けど」
お腹がたぷんと揺れるのを感じる。ビールは既におしっこに変わり始めていて、鈍い尿意は思っていた以上の勢いで大きく膨らんでいく。
その上、また水分を取ってしまった。これもおしっこに変わってお腹へと流れていくのだと思うと、ぞわりと怖気が走る。腰の辺りに重い衝動が纏わりついていて、膝を擦り合わせた。
「なぎささんも飲むんですか?」
「うん、喉乾いちゃった」
「トイレ行きたくなりますよ?」
「そうかも。ユウくんより先にトイレ行ったらごめんね」
「だめ。なぎささんだけ行くの、ずるい」
「ユウくんの意地悪」
繋いでいた手は離されて、彼女の両手が大きなペットボトルを持つ。こぽこぽと子気味いい音がして、彼女は俺のカップに茶色い液体を注いだ。
水音がお腹の奥を鈍く刺して、じいんと響く。じんじんする尿意を少しでも外に逃したくて、はあ、と息を吐き出した。
彼女は何も言わないし、何もしない。でも何かに促されるように、俺はお茶の注がれたカップを手に取っていた。口を付けると、やや温くなった液体が口の中に広がる。
ごくりごくりと数度飲み込むと、やっと体の内側が潤ったように感じた。カップにはまだ半分程お茶が残っているけれど、流石にもう飲めなくて机に置いた。
「いっぱい飲んだね」
もう一つのカップも机に置かれていた。手を伸ばして、彼女の空っぽの手に触れる。白くて小さな手を確かめるようにやわやわと握る。彼女は何も抵抗しなくて、されるがままになっている。その口元は笑っていた。
+++
机の上には空き缶が六つ、畳まれたハンカチが一つ、カップが二つ。あと烏龍茶が半分程残ったペットボトルが一つ。それを視線で順番に辿って、最後に自分の膝を見つめる。
息を吐いてから、ソファの上でさり気なく足を動かした。もう喉の渇きは感じなかったけれど、今度は満たされ過ぎていた。
お腹の下の方が重い。柔らかいズボンの内側で、重く溜まっているものを感じる。ぞくぞくと鈍く刺すような欲求が体の内側で疼いている。そこから逃れたいと思うけれど、どうすることもできなかった。
大人しく座っていたいけれど、じっとしているとその衝動はどんどん高まっていく。意識もそこに向いてしまって、他のことが考えられなくなる。抗おうとして、自然と体が動いていた。膝を擦り合わせて、動かして、少しでも気を逸らす。
トイレ、行きたい。取った水分がどんどんお腹へと流れ込んでいる。出したい、出してすっきりしたい。考えないようにしても、嫌でも意識はそこに向いてしまう。
目は吸い込まれるように部屋の奥へ向かっていた。ぴたりと閉じた扉の向こう側に、今何よりも求めるものがあるとよく知っていた。
手は繋いだままだった。その手を辿ると、優しく見守るような目とぶつかった。ずっと見られていたのだと思うと、胸が跳ねた。
咄嗟に目を逸らそうとして、でもやっぱり見つめ返した。なぎささんは笑っていて、繋いだ手をちょっと力を入れて握り返してくれた。
片手は彼女の手の中に、そして反対の手は膝の上に。膝の上では、指先が柔らかい生地を強く握りしめる。足が微かに震えていた。
息を吐いて、吸って。息苦しさが増していく。形の無い鈍くて重い塊が自分の内側にずっしりと居座っていた。
ああ、トイレ、おしっこ。部屋の奥にある扉の向こう側。そこで静かに佇んでいるであろう物を思い浮かべた瞬間、体が震えた。ぶるりと全身に悪寒が走る。お腹の下で大きく膨らんだ水風船がたぷんと揺れた。
「……ぅあっ……」
息と共に声が漏れた。ぐっと奥歯を噛み締めて、両足をぎゅうと寄せて、込み上げる衝動に必死に抗う。繋いだ手も、膝に乗せた手も、強く握りしめていた。
水風船は限界まで膨らんでいて、中身を出すために縮もうとしている。中にたっぷり詰め込まれていた水分が一気に押し寄せて、固く閉ざした出口を抉じ開けようとする。
あ、あ、だめ、おしっこ、おしっこっ……! 抗っているのに、ぞわぞわとした衝動は全然落ち着かない。自然と体が前屈みになって、お腹を抱えるような体勢になっていた。
トイレ、トイレ行きたいっ、おしっこしたいっ……! 体の中に余分なスペースが無いようで、呼吸をするのも必死だった。ふう、ふう、と頑張って息を繰り返す。
膀胱はもういっぱいなのに、まだ水分が注がれているように感じる。尿意は落ち着くどころか、更に増していた。おしっこ、おしっこしたい、はやくしたい、出したい、楽になりたい。大きな波が押し寄せて、思考をどこかへと連れ去ってしまいそうだった。
必死に我慢して、逸らして、堪えて。そうやって何とか抗っていると、押し寄せた波は一旦引いていく。僅かにできた余裕に、胸の奥から息を吐き出した。
ほんのちょっとだけ落ち着いたけれど、居座る尿意は消えたわけではない。お腹はずっしりと重いままだ。
そろそろと顔を上げる。繋いだ手はじっとりと汗ばんでいたけれど、どちらからも離さなかった。
「なぎさ、さん」
「うん」
「……ト、イレ、行きたい」
「うん」
返事はとても優しい声だった。片手は繋いだまま、彼女の反対の手が俺の頭に触れる。穏やかに髪を梳かれて、引き寄せられるように頭を寄せた。
彼女の肩に額を乗せると、それが思いの外、楽な体勢だった。久しぶりに深く息が吸えた気がした。吐き出した息は彼女のブラウスに吸い込まれた。
髪を撫でた手は段々と下りてきて、今度は背中を撫でた。汗ばんだ背中に彼女の手を感じて、呼吸が更に深くなる。どくどくと鼓動が体の中で大きく響いていた。
「なぎささん、トイレ行きたい……」
「うん、えらいね。まだ我慢できる?」
無理、もう無理、今すぐにでもトイレに行きたい。強がる余裕もなくて、肩に額を当てたまま首を横に振る。すぐ傍で、彼女が小さく笑ったのがわかった。
背中を撫でる手が段々下に降りていく。腰のあたりに触れられるとむず痒いけれど、嫌な感じはしなかった。
「ね、お腹、触っても良い?」
その声は上擦っていた。俺も、胸の隅がぎゅうと苦しくなった。自分の内側で響く鼓動を幾つか数えてから、小さく頷いた。
丸めた体に小さな手が潜りこんで、ズボンの上から俺のお腹に触れた。ぴたりと当てられた手は形を確かめるようにゆっくりと動く。そうやって優しく撫でられると、ぞわぞわと尿意とは違う何かが込み上げる。
「すごい。いっぱい我慢してる」
形を確かめるように撫でる感触はむず痒くて、体の力が籠る。喉元で息が固まっていた。時折、その塊を吐き出すと、ほんの少しだけ楽になる。
そのうち満足して離してくれるのかと思ったら、彼女の指先はほんの少しだけお腹を押した。それは強張った体を解すかのようで、虫も潰さないくらい弱い力だったけれど、今の俺にとってはとんでもない衝撃だった。
「っそれだめ、でるっ……!」
ぞくっと悪寒が走って、咄嗟に口も手も動いていた。弾かれたように手が両足の間に潜りこんで、ひくひく疼く出口をズボンの上からぎゅうと摘まんで塞いでいた。
本当にぎりぎりの所で保っていた。満水を超えているのに、それでも中身が無理に無理に詰め込まれていた。これ以上なんて無いくらいに膨らんだ膀胱は、外からの衝撃で縮もうとする。
熱い液体が出口に向かって満たされていく。出口を内側からこじ開けようとしている。必死に我慢していたけれど、もう本当に限界で、今にも開いてしまいそうな出口を無理やり塞いだ。
はあはあと息を繰り返し、ぎゅうぎゅうと出口を握って、荒れ狂う尿意に必死に抗う。でる、おしっこでる、でちゃう、でるっ……! 膀胱はもう本当に破裂寸前まで膨らんでいる。おしっこがしたい、その感覚はどんどん強くなっている。
「なぎささん、もうむり、トイレっ……!」
もう無理、本当に無理。押さえる手は一瞬も離せない。物理的に塞いでいないと、出口が開いてしまいそうだった。
でる、おしっこでる、むり、本当にむり、おしっこ、おしっこっ……!
彼女の手はまだ張り詰めたお腹を宥めるように撫でているけれど、その感触すら今は邪魔で、身を捩ってそこから逃げた。
「トイレ、トイレ行きたい、もうむりっ、おねがい、トイレっ……!」
「もう我慢できない?」
何度も何度も頷いて返事をする。全身が震える。繋いだ手は汗でびっしょりと濡れて、小刻みに震えていた。
両足の間で手が落ち着きなくぎゅうぎゅうと出口を揉んで、荒れ狂う尿意を必死に誤魔化す。でもそれも気休めにもならない程度で、全然落ち着かない。駄々を捏ねる子供のように、両足がばたばたと動いて床を踏む。
お腹から離れた彼女の手が俺の髪を梳く。それから頬に触って、指先が目尻に触れた。
「なぎささん、おしっこっ……!」
手足が震える。もう一瞬たりとも手が離せない。上手に息が出来なくて、浅い息を必死に繰り返す。
ぶるりと体が震えた。一度は引いた波がまた押し寄せる。さっきよりも強く、大きく、全てを押し流そうとする。
無理、もう無理、本当にでる、おしっこ、おしっこでる、でるっ……! 必死に出口を塞ぎながら、そろそろと重い腰を持ち上げる。
繋いだ手が二人を繋いでぴんと張った。手を開くと、彼女の手も開かれた。じっとこちらを見る目は不安そうだった。でも、どこかうっとりしているようにも見えた。
震える足で何とか床を踏む。お腹が重く張り詰めていて、真っすぐには立てない。前屈みになってお尻を突き出した不格好になったけれど、今はそんなことどうでも良かった。
ぞわぞわと皮膚の内側で疼いている感覚が、破裂したように一気に大きくなる。頭のてっぺんから足の先まで大きな波が走り抜ける。膀胱がきゅうと縮んで、中身を無理にでも押し出そうとした。出口に熱いおしっこが押し寄せる。
「っぁ、あ、あぁっ……!」
反射的に、両手でズボンの前を強く握った。物理的に塞いだ出口から熱い雫が漏れ出して、先端でじゅわっと広がるのが分かった。下着が熱く濡れる。だめ、だめだめだめ、まだだめ、我慢、我慢しないと。そう思うのに、体は出そうとしている。
出したくて出したくてたまらない。もう限界だと全身が叫んでいる。お腹がはち切れそうで、ずきずきと痛む。それでも必死に我慢する。苦しくて、はくはくと浅い呼吸を繰り返す。
無理、でる、おしっこ、おしっこっ……! 子供みたいにぎゅうぎゅうと前を押さえて、前屈みになってお腹を抱える。お尻を突き出した格好で、両足は忙しなく床を踏む。手足ががくがく震えて、もう本当に限界だった。
また大きな波が押し寄せる。だめ、だめだめだめ、おしっこ、おしっこっ……! 熱いおしっこが上り詰めてくる。体を捩って必死に堪えるけれど、全然治まらない。
「ぁ、あ、あっ……だ、めっ、あぁっ……!」
おしっこおしっこおしっこっ……! でる、でちゃう、だめ、だめっ……! 強く塞いだ出口をそれ以上の強さで抉じ開けられる。ぶじゅっと水音がして、指先が熱くなる。
ぅあ、あ、あ、だめ、だめだめだめ、だめっ……! 吸い込んだ息すらおしっこの場所を取ってしまって、熱い雫が押し出される。浅い呼吸を繰り返して、それ以上溢れないように必死に堪える。
もう本当に限界で、お腹は破裂しそうに重くて苦しい。出したくて出したくてたまらない。おしっこ、おしっこおしっこおしっこ、おしっこしたい、出したいっ……! 他のことなんてもう考えられなかった。
「なぎささんお願い、トイレっ、もうむりっ、おしっこでる、もれるっ……!」
呼吸の合間に絞り出した言葉は震えていてぐちゃぐちゃだ。自分でも何を言っているかわからない。ただ、助けを求めて縋るように口を動かしていた。
彼女はソファに座ったまま、俺を見上げていた。そのままの体勢で白い手が伸びてきて、出口を強く握って震える俺の手に触れた。
手の甲を撫でて、その向こう側へ。固く握りしめた指を撫でて、皺になったズボンの布地をちょんとついて、下へと向かう。何かをなぞるような動きに、自然と目が追いかけていた。
「ここ、濡れちゃってる。我慢できなかった?」
彼女の言葉通り、白い指先ではグレーのズボンが色濃く変わっていた。水分を吸い込んでじっとりと湿った布地に、頭が熱くなった。
「ちがうっ、ちがう、ちゃんと我慢してるっ……!」
「我慢してるのに、出ちゃったんだ。いっぱい我慢してるもんね」
違う、出てない、出してない。ちゃんと我慢してる。否定したかったけれど、それを追いやるように大きな波がまた押し寄せた。
ぅあ、あっ、だめ、でる、でるでるでる、おしっこ、おしっこっ、あ、あ、ああっ……! がくがく体が震える。楽になろうと体はおしっこを出そうとする。駄目だと思うのに、その甘美な魅力に抗えない。出したい、おしっこ出したいっ。
また手の中でぶじゅと音がした。おしっこが溢れて、出口が熱く濡れる。ふたつの視線の先で、ズボンは更に色を変えた。彼女の指が新しく濡れた場所をそっと撫でた。
「また出ちゃった。えらいね、いっぱい我慢してる」
「あ、ぁ、っ、だめ、おねがいなぎささんっ、おしっこ、も、むりっ、でるっ……!」
両足が重い。床に張り付いてしまったかのように動かない。じんじん疼く膀胱を宥めようと、体を揺する。
「ん、く、ぁ、あ、だめ、おしっこ、おしっこ、おねがい、といれ、おしっこっ……!」
もう自分でも何を言っているかわからない。必死の懇願に彼女は優しく笑う。指先が手の甲を撫でて、ズボンのウエスト部分へ。そこから伸びる紐を摘まんで、指先で揺らした。
「うん、良いよ。トイレ、行っておいで」
それを聞くと同時に、両手がズボンの紐に飛びついていた。張り付いていた足を剥がして、泣き出しそうになりながら動かす。内股でひょこひょことトイレに向かいながら、固く結ばれた紐を震える手で掴んだ。
はやくはやくはやく、といれ、おしっこ、はやくっ……! 重ねた結び目を解こうとするけれど、固く強張っていて、全然解けない。
紐に両手を取られて押さえを無くした出口はひくひく疼く。足を動かす度、床を踏む度に、必死に引き締めている出口から、じゅわ、じゅ、じゅうと熱い雫が漏れ出るのを感じた。
あ、あ、あああ、だめ、でる、おしっこ、おしっこおしっこおしっこっ……! 出る、おしっこ出る、出る、出るっ! 限界で手が震えているのと慌てているのとで、結び目は固いまま。出したいのに、紐が解けない。ズボンが下ろせない。
腰が引けたまま、何とかトイレには辿り着く。扉を開けて、中に飛び込んで、白い便器の前に立つ。後は脱ぐだけ。おしっこが出来る。そう思った瞬間、全身にぶわっと波が広がる。
がくがくと体が震えて、膀胱がきゅうっと縮む。おしっこが押し出される。咄嗟に両足を交差させて、それでも足りなくて体を揺すって、必死に尿意に抗うけれど、暴れまわるおしっこは全然治まらない。
必死に両手を動かす。はやくはやくはやく、何でほどけない、何でっ……! 苦しい、出したい、おしっこしたい、おしっこ、おしっこっ……! 出口を押し広げて、おしっこがじゅわあっと噴き出す。太腿に熱い液体が伝う。咄嗟に両手で出口を押さえた。
手が離せない。こうやって塞いでいないと、本当に出てしまう。片手で押さえて、反対の手で紐を弄る。でも、両手で解けなかったのに、片手で何とかなるわけがない。
もういっそこのまま脱げないかとズボンを無理やり引っ張るけれど、腰のところで引っかかる。せめて性器だけでも出せたらおしっこできるのに、それすらできない。
じゅ、じゅううっ、とくぐもった水音が響く。我慢しているのに、熱いおしっこが足を伝って濡れていく。
顔を上げると、目の前に白い便器が大きく口を開けている。そこに吸い寄せられるように、おしっこが一気に込み上げた。出して良い場所だと体が勝手に緩んでしまう。待ち望んだ天国だったはずなのに、今の状態では辛すぎて地獄と変わらない。
目を逸らす。出口を両手で強く強く押さえたままトイレに背中を向けて、そこから飛び出した。
ソファの所まで向かおうとしたけれど、求める人はすぐそこにいた。がくがく全身が震える。両手で押さえた出口から、おしっこがじゅわっとまた噴き出す。
「なぎささん、これほどいてっ、おしっこでちゃうっ……!」
もう手は離せない。押さえているのに、出口は抉じ開けられて、おしっこが溢れて服を濡らす。両足が濡れて温かい。息が出来ない。
おしっこ、おしっこしたい、出したい、もう無理、でる、でるっ……!
「うん。ちょっとだけ待ってね」
無理、ちょっとなんて待てない、絶対待てない。塞いだ出口から、ぶじゅっと湿った音がする。体ががくがくと震える。息が出来ない。苦しさから逃れようと必死に息を吸うけれど、全然空気が入ってこない。
白い手が紐を掴む。固い結び目に指先が触れて、解こうとする。爪を立てて、紐の絡んだ中心を掴む。その動きがやけに遅く見えた。
「はやくっ、おしっこでる、おしっこでるからっ……!」
「うん、もうちょっとだけ待って」
「むりっ、むりっ、おしっこ、おしっこでる、おねがいっ、あぁっ、ん、んんっ……!」
じゅう、じゅ、じゅう。くぐもった水音と共におしっこが噴き出す。強く出口を押さえるけれど、止まらない。
ぶるりと体が震えて、出口が大きく抉じ開けられた。塞ごうとする意志も動きも全部振りほどいて、ただ一つの欲求だけが体のすべてを支配する。
「ぁっ、あっ、だめ、おしっこ、おしっこ、ん、く、ぁ、あ、あっ、あぁぁぁっ……!」
喉の奥で引き絞るように、声を出していた。固く強張った体の真ん中、出口は目いっぱいまで広げられる。そして、物凄い勢いで熱く煮えたおしっこが噴き出した。
ぶじぃいいいぃぃっ! 激しい水音が部屋中に響き渡る。堪えていたおしっこが一気に噴き出す。布越しでも押さえた手に熱い水流の勢いを感じた。
あ、あぁ、だめ、おしっこ、で、てるっ……、おしっこ、あっ、あぁっ……! 固く閉じていた通り道が、これ以上ない程に大きく押し広げられて、溜まりに溜まったおしっこが勢いよく駆け抜けていく。
強すぎる快感が全身を走り抜ける。背筋がぞくぞくして、肌が粟立った。足が震えて、崩れ落ちそうで、自分が今両足で立てているのが不思議だった。
頭が真っ白になる。息が止まる。視界がぼんやりして何も見えない。他の音は何も聞こえない。ただじゅうううと野太い水音が、びちゃびちゃと床を叩く激しい音が響き渡っていた。
張り詰めたお腹が少しずつ楽になっていく。我慢に我慢を重ねたおしっこは気持ちが良くて、ぽかんと口が開いていた。胸の底から熱い息が漏れ出す。強張っていた体から徐々に力が抜けていった。
足に熱いおしっこが伝って、どんどん熱く濡れていく。ズボンと下着がびたりと肌に張り付く。自分の両足が生温かい。足の裏がじっとり濡れていく。
「出ちゃった、ね」
すぐ目の前で聞こえた声は上擦っているように聞こえた。ぼんやりしたまま、視線がゆっくり引き寄せられていく。白い手は俺のズボンの紐を持ったままで固まっていた。
足元がびちゃびちゃに濡れている。そんなところにいたら彼女も濡らしてしまう。そう思ったけれど、ぽかんと開いた口はうまく動かなくて、何の音も無く、ただ空気を吸い込んでは吐き出すのを繰り返すだけ。
白い手が紐を手放す。だらりと垂れた紐は、濡れた部分に引っ付いて、同じように濡れていく。じゅうじゅうと噴き出すおしっこはまだ止まらない。これ以上なく濡れて、てかてかと光るズボンに彼女の手が触れた。
「おしっこ、出ちゃったね。……すごい」
その言葉は俺に言っているというよりは、ひとりごとのようだった。手はズボンの表面を何度か撫でてから離れる。それから彼女は自分の胸元で手を握った。
呼吸の合間に、ごくりと唾を飲んだ。おしっこ、出ちゃった。彼女の言葉を頭の中で繰り返す。全部の出来事がどこか遠くで起きているように感じた。
頭がぼんやりする。ただ気持ちよかった。水音だけが体の中で響き渡っていた。
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張り裂けそうに膨らんでいた膀胱は中身を出して、小さく縮む。あれだけ膨らんでいたお腹もへこんでいた。
立ち尽くしたまま、はー、はーと長い呼吸を繰り返す。体の中が空っぽになって、代わりに爽快感が満たしていた。ぶるりと体が震えた。
やって、しまった。おしっこ、でた、漏らした。濡れたズボンと下着が足に張り付いている。床を踏んだ足の裏がぐっしょりと濡れている。
体の中は空っぽで軽いのに、体の外は鉛が張り付いたかのように重い。全ての感覚が、自分のやってしまった失態を拾い上げる。
視線の先では床に大きな水たまりが広がっている。それは自分を中心として、彼女の足元もびっしょりと濡らしている。黒いストッキングは見た目ではわからないけれど、飛沫が掛かっているのは想像できた。
恐る恐る視線を下げると、こちらを見つめるなぎささんと目が合った。言葉もなく、惚けたような熱い目と見つめ合う。
「……ご、めんなさい、我慢、出来なかった」
やっと出した声は力なく、か細かった。居た堪れずに目を逸らすと、ぴちゃりと水音がした。彼女が水溜まりを踏んで、こちらに一歩近付いていた。
顔を上げると同時に、ぴたりと体が寄せられる。背中に手が回って、宥めるようにぽんぽんと優しく撫でられた。
「頑張ったね。えらい、えらい」
ソファで座っていた時みたいに、彼女の肩に額を寄せる。呼吸を静かに繰り返しながら、目を閉じた。
我慢に我慢を重ねたおしっこをしたときの爽快感と、濡れて張り付いた衣類の不快感。それから、背中の手の安心感。色んなものを感じながら、ただ呼吸を繰り返していた。
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二人で掃除を終えると、一緒に脱衣所に向かった。拭くのに使ったタオルを軽くすすいでから洗濯機へ入れる。それから濡れた自分のズボンも脱ごうとして、結び目のことを思い出した。
自分で解こうとしてみたけれど、体にうまく力が入らない。その上濡れてしまったせいで、結び目は更に固くなってしまっていた。
「なぎささん、これ、解いて」
早々に諦めて声を掛ける。彼女は隣でブラウスのボタンを外していて、ちょっとドキッとした。一緒にお風呂に入るのもいつもの事だけど、やっぱり多少緊張はする。
彼女も結び目のことを忘れていたのか、それともうっかりしていたのか、慌てたようにこちらに手を伸ばした。爪を立てて、固く強張った結び目を掴む。
「解けそうですか?」
「……頑張る」
手伝おうにも何もできることは無くて、ただ立っているだけだった。真剣に結び目と向かい合うなぎささんを見ていると、中途半端にボタンが外れたブラウスの間からインナーが見えた。
薄手の素材がぴたりと肌に張り付いていて、その柔らかい体つきを形どっている。その布が隠す裸体は見たことがあるのに、何故か見てはいけないものを見てしまった気がして、慌てて目を逸らした。
んー、と彼女は唸りながら紐を弄る。指先は紐を掴み切れずにずるりと滑っていた。その動きを何度見た時だったか、ぞわぞわと体の内側に込み上げるものを感じた。
さっき出しきれなかったのか、それともビールの利尿作用で再び催したのか、萎んだ膀胱がまた膨らみ始める。微かな重みだったけれど、疲れた体には充分すぎるほどに重荷だった。
出来るだけ彼女の邪魔にならないように、さり気なく足を動かす。動きに合わせてお腹の中でおしっこが揺れる。
ああ、どうしよう、おしっこしたい。考えないようにすればする程考えてしまう。そっと目を向けた先では、彼女の指先がまた結び目の上を滑っていた。
「ごめんね、もうちょっと待って」
「もう諦めて、はさみで切りましょうか」
「駄目だよ。このズボン使えなくなっちゃう」
「買いなおしますよ。高いものじゃないし」
紐を見つめていた彼女が顔を上げる。じーっと見つめられて、その目が何かを見透かすのがわかって、頬が熱くなるのを感じた。
「おしっこ?」
「……子どもに聞くみたいに言わないでください」
顔を逸らしたけれど、彼女が笑っているのはわかった。
「ごめんね、もう少しで解けそうだから」
「……うん」
「念のためお風呂場行こうか。我慢できなかったらそのまま出しちゃえ」
「我慢しますけど、あんまり長くは無理、かも」
「頑張る」
浴室の扉を開けて、服を着たまま中に入る。乾いたタイルを濡れた足で踏む。ここなら大丈夫だと思ったからか、ぞくりと尿意が一段階増した気がした。
もう少しの言葉は本当だったようで、強張っていた結び目は少し緩んでいた。何度目に滑った後か、彼女の爪先は紐の隙間に入り込んむ。そして一つ目の結び目がやっと解けた。
その光景に安心していると、ぶるりと体が震えた。トイレっ、おしっこっ……! 濡れた足を持ち上げて、タイルを踏みなおす。一度じゃ落ち着かなくて、二度、三度。なぎささんの口元は緩んでいた。
二つ目の結び目もすんなりほどけた。そして最後のは言わずもがな。するりと解けて、やっと二本の紐が離れ離れになった。
「よし、解けた。遅くなってごめんね」
「……トイレ、に」
「間に合う? もう一回お掃除しても私は良いけれど」
そんな意地悪を言いながら、彼女は自分のブラウスのボタンを再び外し始める。わかってるくせに、本当にずるい。けれど、それには抗えない。
彼女に背中を受けて、ズボンの前を下着と一緒に下ろした。中から性器を取り出して、排水溝へと向ける。
お腹に力を入れると、出口を抉じ開けておしっこが噴き出した。静かな水音が浴室に響いて、それからぴちゃぴちゃと飛沫が跳ねる。
気持ち良さに息を吐くと、背中に温かい人がぴたりと引っ付いた。びっくりして体が跳ねると、後ろから回った二本の手が少し膨らんでいた俺のお腹に添えられた。
「何してるんですか」
「悪戯してごめんね、みたいな」
そう言いながらお腹が撫でられる。正直、その感触は心地よくて、体から力が抜けた。
「いっぱい出てるね」
「見ないでくださいよ」
謝っていると言いながら、彼女はそっと俺の手元を覗き見る。明かりのついた浴室でこうもまじまじと見られると流石に恥ずかしかった。
「いや?」
「いやというか、恥ずかしいじゃないですか」
「可愛い」
「なぎささんはおしっこしないんですか」
「ユウくんが帰ったらするよ」
「ずるい」
そんなことを言っているうちに、お腹は空っぽになる。最後の一滴を出し切って、はあ、と熱い息が漏れた。
ちょっとだけ、そのまま後ろから抱きしめられていた。彼女の体は温かくて、その体温に安心した。
お腹を撫でていた手が離れて、引っ付いていた体が距離を取る。濡れた下着とズボンを脱ごうとして、つんとおしっこのにおいを感じた。
扉を閉めた浴室はにおいが籠る。慌ててシャワーヘッドを取ってお湯を出す。床に残ったおしっこを流してから、そのまま自分の服にもお湯を掛けた。
すぐそこにいる彼女の黒い足もお湯に濡れる。浴室に湯気が満ちていく。なぎささんはまた笑って、ブラウスから腕を抜いた。
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いつものように一緒にお風呂に入る。湯船でまったりする時間は好きだった。
「そうだ、私が用意すればユウくん身軽に来れるね」
「用意って服ですか?」
「うん。そうしたら、帰る時も服が乾くのを待たなくて良いでしょ」
それは割と有難い提案ではある。
「でも、荷物になりません?」
「キャリーケースだから多少増えても大丈夫だよ。次は私が用意しても良い?」
「なぎささんが良いなら構いませんけど」
「ありがとう。どんなのにしようかな」
「安いので良いです。あと、変なのはやだ」
「メイド服とか着てみる?」
「俺の話聞いてください!」
メイド服ならなぎささんが着たら良いのに。きっと似合うし、可愛い。メイド服を着た彼女に色々お世話してもらえたら、すごくどきどきすると思う。
何を着せるつもりなんだろう。不安だけど、ちょっと楽しみでもあった。でも流石にメイド服は嫌だ。冗談だとは思うけれど、本気だったらどうしよう。そんなことをぼんやり考える俺の隣で、彼女は柔らかく笑っていた。
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初出: 2022年7月23日(pixiv・サイト同時掲載) 掲載:2022年7月23日