先生、おしっこっ!帰り道編 中編

 車はやっと進みだしましたが、本当にじわじわとしか進みません。
 進んで、停まって、進んで、停まって。その数を数えていると、突然、体がぞくっとしました。それは先程まで嫌と言うほど感じたものです。
 どうして。さっき、その欲求を満たしたはずのに。考えている間にもお腹の下の方がぞくりぞくりとむず痒く切なく疼きます。

 太股を寄せると、足の先にビニール袋が当たりました。その隣にはこれでもかと膨らんだ携帯トイレが並んでいます。どちらも中には私のおしっこが入っています。
 こんなにたくさんおしっこを出したのに。唇を噛んでじっと耐えますが、ぞくぞくは収まらず、それどころかどんどん強く切なくなっていきます。
 ……おしっこ、したい。胸の中で言葉にした瞬間、一気に尿意が増した気がしました。お腹の下の方がぞくぞくします。
 どうして。コンビニでトイレに行かなかったから? だってあのときは本当にしたくなかった。では、紅茶を全部飲んでしまったから? だって喉が乾いていたんだもん。

 意識すればするほど、ぞわぞわする感じがが強くなります。でもここは道の真ん中で先生の車の中。トイレがあるはずがありません。先程の携帯トイレがイレギュラーだったのです。
 再び車が止まりました。顔を上げると、変わらず車の列が見えます。早く進んで。じっと見つめていると、少しだけ車が前に進み、また止まります。
 早く、早く、トイレ、おしっこ。まともな思考ができず、ただ頭にある単語を胸の中でなぞります。
 ゆるゆると車が進み、止まって、また進んで、止まって。顔を上げると相変わらず車の列。ああ、もう、早く。

 叫びたくなるような切ない尿意を必死に押さえ込み、前方を見つめると、車の列の向こうに看板が見えました。目を凝らしてみると、緑色の看板には白いイラスト。その瞬間、おしっこが一気に出口に押し寄せてきました。お尻を引いて、太股を寄せて、何とかその衝動を抑えます。
「せ、せんせ、」
 震える声で隣の先生に声を掛けました。先生は前を見たまま「なぁに?」と言いました。
「せんせ、お願い、あそこ、止まってください……」
 あそこまで我慢すればトイレに行ける。ぎゅっと力を入れますが、ぞくぞくとした衝動に力が抜けそうになります。だめ、だめ、だめ。もうちょっとだから我慢しないと。必死に自分に言い聞かせます。
「トイレ?」
 先生にずばりと言い当てられ、びくっとしました。自分の膝を見つめたまま、頷いて返事をします。
「もう携帯トイレもビニール袋もないけど、我慢できる?」
 先生の言葉が私に今の状況を再認識させます。
 今の状態で私がおしっこする方法はありません。あそこに見えるトイレまで我慢して、そこでおしっこをすませるしかないのです。
 決意も込めて頷くと、ばさっと頭に何かが掛けられました。顔を上げると、先生が自分のジャケットを私に被せていました。
「膝に掛けときなさい。もうちょっとだから頑張って」
 先生のジャケットを膝に掛けると、少しだけ尿意がましになった気がしました。でもおしっこがしたいことには変わりません。ジャケットの下で太股を擦り合わせますが、おしっこの出口がぞわぞわするのは落ち着きませんでした。

 車が動いて、止まって、動いて。看板はだんだんと近づいていますが、まだまだたどり着きません。もうじっとしていられず、ジャケットの下では足が勝手に震えていました。
 おしっこ、おしっこ、おしっこ。胸の中で唱えながら、必死に我慢します。もうちょっとだから。もうちょっとでおしっこができるから。
 また車が止まります。早く動いて。荒くなる息を必死に落ち着かせていると、じわっとおしっこの出口が熱くなりました。とっさに手をジャケットの中に差し入れ、ショートパンツの上からぎゅうっと押さえます。まだ駄目。頭ではそう思うのに、体は限界を訴え続けます。
 まだ看板までは距離があります。車は動きません。いっそのこと、車を飛び出して走っていきたい。その方が早くおしっこができる気がしました。

 動く、止まる、動く、止まる、動く、止まる。数えながら、ぎゅうぎゅうとおしっこの出口を押さえます。もうじっとしていられなくて、時々お尻を上げて座り直します。立ち上がって走り出したい。そう思うのに、ここではそういうわけにはいきません
 顔を上げると、看板まではもう少しになっていました。もうちょっとでおしっこができる。そう思った瞬間、じゅわっと出口が熱くなりました。
 ぎゅうぎゅうと手で押さえますが、止まりません。だめだめだめだめ。はっはっと息を吐いて、ぐうっと尿意を飲み込みます。
 もう座っていられなくて、お尻を浮かせた中腰の体勢で、ぎゅうぎゅうと出口を押さえます。じっとしていないといけないと思うのですが、もう駄目です。体が勝手に動き、お尻がふるふると揺れます。おしっこ、おしっこ、はやくおしっこっ。
「もうちょっと。頑張って」
 先生が言います。その言葉を頭の中で繰り返します。もうちょっと。じっと前方を見つめると、看板がだんだんと近づいてきます。もうちょっと。

 看板の下には左に曲がる道があります。その奥には駐車場が広がり、車が所狭しと並んでいました。車の向こう側には建物がいくつか。あの中にトイレがあるはずです。そう思うと、また出口が熱くなり、じゅわ、とおしっこが溢れました。
 だめ、だめ、でちゃだめ、もうちょっとだから、ちゃんと我慢しないと。必死に押しとどめますが、もう本当に限界です。おしっこしたい。それしか考えられません。
「トイレの前で下ろすから。もうちょっとだけ頑張って」
 もうちょっとしか我慢できない。もう出ちゃう。おしっこ出ちゃう。
 またおしっこが溢れます。駄目、もうちょっとだから。ぎゅうと押さえます。おしっこ、おしっこしたい、おしっこ。息が荒くなります。足が震えます。おしっこの出口が熱い。

「ついたっ。ほら、行っておいで」
 先生の声に顔を上げ、左側を見ると、すぐそこに建物がありました。
 二つの入り口、右側の入り口はピンク色で赤い女の人のマーク。
 理解するより早く、私は扉を押し開けて車の外へ飛び出しました。もう駄目。もつれる足でピンク色の入り口へ飛び込みます。

 タイルの貼られた床を走り、突き当たりまで進んだところで人の背中が見えました。そんな、嘘でしょ。信じられない光景に息を飲みました。
 ずらりと並んだ個室の扉はすべて閉められ、その前には何人もの女性が並んでいました。五人、六人、いやもっといます。おしっこをするにはこの後ろに並ばなければなりません。
 泣き出しそうになりながら、私は列の一番後ろに並びました。もうじっとしていられなくて、くねくねと体が動きます。
 先にさせてください。もう、おしっこ我慢できないんです。喉元までこみ上げた言葉を何とか飲み込みます。

 足踏みして、太股をさすって、足を交差させて、太股を掴んで。必死におしっこを抑えていると、ざあっと水の流れる音がして、扉が開き、一番前の人が個室に入っていきます。私もおしっこしたい。はやくあの中に入って、ズボンと下着を脱いで、おしっこしたい。
 一人分前に進んで、また足踏みして、お尻を揺らして、足を交差させて。両手は太股をぎゅっと掴んでいましたが、ざばーっと水音がした瞬間、手が勝手におしっこの出口を押さえていました。出ちゃう、出ちゃう、出ちゃう。
 水音に引き寄せられたおしっこが出口を内側から圧迫します。我慢、我慢、我慢。もうちょっとなんだから。もうちょっとだけ我慢したら、おしっこできるから。

 また一人分前に進んで。前には三人。もうちょっと。そう思った瞬間、ざばーっと水音がして、今までにない激しい衝動が押し寄せました。じゅわ、と出口が熱くなり、おしっこが溢れます。両手でぐいぐいと出口を押さえますが、じゅわ、じゅわとおしっこが零れてしまいます。
 あ、あ、だめ、もうだめ。トイレはまだ開きません。おしっこしたい。もう我慢できない。おしっこ、はやくおしっこ。
 また水音がして、誘われるように熱いおしっこが溢れます。押さえているのに、おしっこが溢れています。だめ、だめ、もうだめ、おしっこでる。

 私は逃げ出すように飛び出しました。
 タイルを踏みつけ、角を曲がって。待ち望んだはずのトイレなのに。また、溢れてしまいます。出口を押さえる手が熱い。もう駄目、出る、出ちゃう、おしっこ。

 トイレから飛び出し、すぐ隣の隙間へ滑り込みました。とにかく見つからない場所に。どこでもいいから、おしっこさせて。
 建物の裏に回りたくて足を踏み出すと、おしっこがまた溢れます。背中を丸めて、お尻を突き出して、太股を寄せて、両手で出口を押さえて。
 足に温かいものが伝っています。手がぐっしょりと濡れていて、すごく温かい。

 ひょこ、ひょこと一番奥まで進み、建物の裏に回ります。右を見て、左を見て。誰もいない。そう思った瞬間、おしっこはじゅおーっと音を立てて溢れだしました。
 下着を突き抜け、ショートパンツを突き抜け、押さえている手を濡らして、勢いよく放出されていきます。
 我慢してるのに、押さえてるのに、おしっこ、出てる。おしっこ、じゃーって、いっぱいでてる。温かい。気持ちいい。
 ぶしゅーっ、びちゃびちゃ、ばたばた。色々な音が聞こえます。全部私のおしっこの音です。
 たくさん我慢したからか、全然止まりません。熱い息が漏れます。建物の陰で私は、あらがうことのできない開放感と快感に酔いしれるしかありませんでした。

 どれだけ時間が経ったか。ちゃぷちゃぷと重かったお腹はすっきりとしていて、私の体は開放感に包まれていました。
 足下を見ると、茶色い地面が私を中心に黒く色を変えています。出口に添えられたままの手をゆっくり離すと、びっしょりと濡れていました。
 手だけではありません。ショートパンツも下着も足も靴も。全部がおしっこでぐっしょりと濡れてしまっていました。
 びしょびしょに濡れたズボンと下着が、嫌と言うほど事実を突きつけます。
 我慢できなかった。お漏らししちゃった。どうしよう。
 目頭がじんと熱くなりました。こんなことなら先生の言うとおり、コンビニでトイレに行っておくんだった。紅茶をあんなに飲むんじゃなかった。後悔しても、濡れたズボンと下着は乾きません。

 ざく、と後ろで足音が聞こえました。見られちゃうっ。とっさに後ずさりすると、優しい声が聞こえました。
「結子? そこにいる?」
 先生の声が聞こえた瞬間、一気に涙が溢れました。色々なものがこみ上げて、上手く話せません。
 先生は先程貸してくれたジャケットを私の肩に掛けると、そのまま背中を撫でてくれました。涙がぼろぼろこぼれます。ぐしょぐしょになった私が落ち着くまで、先生は背中を撫でてくれたのでした。

+++

 ぐすぐす泣く結子を連れて車に戻る。後部座席に乗せ、腰に巻いたジャケットを外す。
 白いショートパンツはほんのり黄色に染まり、お尻を中心にぐっしょりと濡れている。伸びる太股にもおしっこが伝い、てらてらと光っていた。
 まさか下着とタオルまで使う羽目になるとは思わなかった。コンビニで買った下着とタオルを手渡すと、結子はひくひくとしゃくりあげながらズボンを脱いでいた。
 彼女の着替えを探して、トランクを開けると、昨日私が履いたスカートを見つける。無いよりはましだろう。ついでにビニール袋を引っ張り出して、トランクを閉めた。

 着替える結子を車に残し、トイレ横の売店を覗く。土産物のお菓子やらキーホルダーを通り抜け、行楽コーナーと称された場所を覗くと、コンビニと同じように酔い止めやら眠気覚ましやらが並んでいた。
 右から左へ視線を動かすが、携帯トイレと書かれた値札はあるものの商品はない。売り切れてしまったようだ。念のために買っておきたかったが仕方ない。
 諦めて売店を出ようとして、珍しいものが目に入り、もう一度行楽コーナーへ戻った。
 値札には『ペットボトル用携帯トイレ』と書かれていた。漏斗のような形をしていて、ペットボトルの口に差し込んで使うようだ。掌程の大きさの受け口は女性でも難なく使うことができそうだ。
 念のため、と言い訳をしながら手に取り、ついでに飲料水のコーナーを見る。先ほど、結子が買っていた紅茶が並んでいたのでそれも一本取って、私は会計を済ませた。

 車に戻ると、結子は助手席に座っていた。後部座席には堅く縛られたビニール袋が置かれている。
「スカート履けた? 大きくない?」
 声を掛けると、結子はぐすぐすと鼻を啜りながら頷いた。
「せ、せんせぇ、ごめんなさいっ……」
 やっと落ち着いていた様子だったのに、口を開いた瞬間ぼろぼろと泣き出した。鞄からハンカチを取り出して渡しながら、反対の手で頭を撫でる。
「もう泣かないの。大丈夫だから」
 結子にハンカチを握らせ、ビニール袋から先程買った紅茶を取り出した。
「ほら、紅茶好きでしょ? これ飲んで、落ち着いたら出発しようか」
 頷くが、彼女は泣きやむどころか、嗚咽と共に大粒の涙をこぼす。頭を撫でながら、彼女が落ち着くのを待つ。

 しばらくすると結子は顔を上げ、ぐすぐすと鼻を啜りながらハンカチで涙を拭った。
「落ち着いた?」
「はい……」
 声はまだ震えていたが、言葉通り落ち着いてはいるようだった。紅茶に口を付け、数度喉を鳴らして、はあと大きく息を吐く。
「せんせ、ほんとにごめんなさい……。あと、着替えとか、ありがとうございます……」
「どういたしまして。
 落ち着いたなら出発するけど、お腹空いてない? 何か食べていく?」
「大丈夫です。あ、でも、その、あの、」
「なあに?」
「と、トイレ行ってくるので、ちょっとだけ待ってください……」
 頬を赤く染め、小さな声で彼女は言う。行っておいでと送り出すと、私のハンカチを握りしめたまま、小走りに駐車場を駆け抜けていった。

 数分後、結子が隣に戻ってきたので今度こそ出発した。
 走り出してから、ドリンクホルダーに並んだ空のペットボトルに気付いた。携帯トイレやビニール袋を処分した時に一緒に捨てておけば良かった。そう思ったが、ふと先ほど買ったものが頭を過る。
 流石にもう携帯トイレは使わないとは思う。けれど、もしかしたらと言うこともある。
 ペットボトルはこのまま置いておいても別に邪魔にはならないし、良いか。心の中で呟く。隣の結子は赤い目で前をぼんやりと見ていた。

 先ほどまでの渋滞はどこへやら。すいすいと道路を走り抜け、次のパーキングの看板が見え始める。結子に声を掛けると大丈夫と返ってきた。一瞬、本当に大丈夫かと聞き直そうと思ったが止める。さっきの一件があった以上、流石に気をつけるだろう。
 順調に車を走らせ、幾つ目かの看板が見え始めた頃、結子が小さな声で言った。
「せんせ、次のパーキング止まってください」
 落ち着いた声だった。私の心配も杞憂に終わりそうだと思った。……この時は。

 サービスエリアで駐車スペースを探していると、びっしり並んだ車の向こう側に大型のバスが数台並んでいるのが見えた。遠足か何かか、それともツアー的なものか。大勢で出掛けるのは楽しそうだなと思いながら、私は空きスペースに車を止めた。

 結子と並んで建物の方へ歩き、二人並んで足を止めた。
 売店の隣にある建物は間違いなくトイレだ。付いている看板からすると、向かって左側が男性、右側が女性。
 右側の入り口からは信じがたい程の列が伸びていた。おしゃべりを楽しんでいる年輩の方から、結子と同じくらいの年頃の子、そしてそれよりもっと幼いの女の子。幅広い年代の様々な女性がトイレへ行列を作っている。
 あのバスだ、と思った。

 隣の結子を見ると、彼女も私の方を見ていた。呆気にとられた表情だった。きっと私も同じ顔をしているだろう。
 結子は私を見て、それからもう一度行列を見てから、私の方へ顔を寄せる。
「まだ大丈夫です。まだそんなに行きたくないんです。で、でも……」
 先ほどの一件があったから慎重になっているのだろう。ただ、これに並んでるくらいなら次のサービスエリアまで行った方が早いのではないかと思うほどの行列だ。その上、先ほどからあまり進んでいない。
 隣を見ると、同じタイミングで結子がこちらを見る。
「次のパーキング、行こうか」
 こくり、と彼女は大きく頷いた。その顔には少しだけ不安が覗いていた。
 慌てて車に戻り、止めたばかりの駐車場を出て、道へ戻る。ぶうん、とエンジンが鳴る中、結子が不安そうな顔をしていた。

 逸る気持ちに任せ、ぐんぐん飛ばす。しかし、次のサービスエリアの看板が見え始めたとき、私はブレーキを踏まざるを得なくなった。
 前方にはずらりと並ぶ車の先。遥か先に待ち望んでいるサービスエリアの入り口が見えた。
「な、なんで?」
 結子が声を上げた。私も同じことを思っていた。

 目を凝らすと、サービスエリアの入り口のあたりで、おかしな方向を向いているバスが見えた。そのせいで流れが止まってしまっているようだ。

 事故か、トラブルか。
 もう少しなのに。じれた思いで隣を見ると、結子は固まっていた。膝掛け代わりに乗せられたタオルの上で、白い手が飲みかけの紅茶をぎゅっと握っている。
「大丈夫?」
「ま、まだ、大丈夫です……でも、」
 言葉を区切り、結子は小さく息を飲んだ。半分残った紅茶が彼女の手元でちゃぷちゃぷと揺れている。
「でも、もう……もう、結構したいかも、です……」
 消え入りそうな声だった。辛い我慢を強いてしまった。
 罪悪感に襲われながら少し悩んで、私は先ほど買った品物を取り出した。
「なんですか、それ?」
 漏斗のような形をしたそれを結子は不思議そうに見ていた。
 敢えて彼女の質問には答えなかった。空の紅茶のペットボトルを手に取り、キャップを外す。その口に細くなった先を差し入れたところで、結子が息を飲んだ。
「せ、せんせ、それ、」
「我慢できなくなったらしちゃいなさい」
「やっ、いやです、そんなのっ……。だ、だいじょうぶです、ちゃんと、ちゃんと我慢しますからっ!」
 結子は目をそらし、そのまま窓の外を向いた。
 携帯トイレを差し込んだペットボトルをドリンクホルダーに戻す。前を見るが、車が動く気配はない。
 我慢できるならそれで良い。ただ、逃げ道を一つ用意してあげたかった。建物の陰で泣きじゃくっていた彼女の姿が目に浮かぶ。もう、あんな思いをさせたくない。

 車はまだ動かない。結子は相変わらず窓の外を見たままだが、飲みかけの紅茶を握る指先が小さく震えていた。
 先ほどのサービスエリアを出てから随分経った。最高尾だったこの車も、いつの間にか列の中程に位置している。
 結子は気丈な表情をしているが、ぴたりと揃えられた足が震えている。時折お尻を持ち上げて身を捩る。
 下手に声を掛けて頑なになられても困る。頑張れと内心応援する傍ら、もう良いんだよと降伏を促す。

 少しだけ車が前に進み、再び停車した時、結子が大きく身震いした。紅茶のペットボトルが彼女の足下に落ち、ざばっと水音がした。蓋が閉められているので、零れてはいない。零れそうなのは、違う方だった。
 結子は小さな悲鳴と共に体を丸める。お腹を庇うように丸められた体の中央で、両手がぎゅっと足の付け根に寄せられている。
 泣き出しそうな顔で結子はじっとドリンクホルダーを見ていた。太股を擦りあわせ、スカートの上からぐにぐにと出口を揉みながら、結子の視線は縫いつけられたように携帯トイレに向けられている。
「結子、」
 返事はない。
 何をどう言えば良いのか、言葉を選んでいると、再び、結子が大きく身震いする。
「……ぁ、あ、あ、あっ、だめ、だめ、」
 小さな声。それに反して手足の動きは大きくなる。寄せられた太股は大きく前後に動かされ、その中央で両の手が激しく出口を揉みしだく。
「だめ、だめ、だめ……」
 小さな声でそう唱え続ける。それは、まだ駄目と言い聞かせているのか、それとももう駄目だという思いが漏れ出ているのか。
 座ったまま足踏みをするように太股が上下に動き、すり合わせるように前後に動き、閉じたり開いたりするように左右に動く。その付け根では両手が痛いほど出口を押さえ、時折揉みしだく。
「だめ、だめだめだめ、だめっ、あ、あ、あ、だめ……もうっ……もうだめっ……!」
 うわ言の感覚が狭くなり、そして弾かれたように彼女は携帯トイレの差し込まれたペットボトルを手に取った。

 もじもじと体を捩りながら、椅子に浅く腰掛けてスカートの中に携帯トイレを差し入れる。
「ああ、あ、だめ、だめだめだめ、だめ、だめぇっ……!」
 狭い車内。動きずらそうにごそごそと身を捩る。膝下まである長いスカートの下で、両足が激しく動いているのがわかった。
「ああぁっ……!」
 悲鳴にも安堵にも聞こえる切なげな声と同時に、ぶしゅーっと激しい音がした。鋭い音が車内に響いた。
「はあ、あ、あ、ああ……」
 開かれた口から熱い吐息が溢れ出す。羞恥と快感が混ざった赤い顔は触れた瞬間に溶けてしまいそうだ。
 スカートの下では、勢いよくおしっこが溢れているのだろう。じょぼぼぼとおしっこが溜まっていく音が、なにより気持ちよさそうに聞こえた。

 少しすると水音が消え、結子が大きく息を吐いた。息を整えながら、落ち着きなく視線を彷徨わせる。手はスカートの中に差し入れられたままだ。
「持っててあげようか?」
「え、あ、でも、」
「持ったままじゃ履けないでしょ。蓋してあげるから」
 彼女はしばし葛藤した後、スカートの下に隠れていた手を露わにする。その手に握られているペットボトルは黄色い液体に満たされている。受け取ると、しっとりと温かく感じた。
 差し込んだ携帯トイレを抜いて、零れないようにキャップを閉める。並々と注がれたおしっこは日の光を浴びてきらきらと光る。綺麗な色だなあとしみじみ思った。
「あんまり見ないでください……」
 隣では彼女がもぞもぞとスカートを直していた。結子は足下に落ちた飲みかけの紅茶を拾いあげ、椅子に深く座り直す。伏し目がちにこちらを見る様子が恥ずかしそうで可愛らしく、つい意地悪がしたくなった。
「同じ色」
 彼女の手の中を見ながら言った。
 結子は私の言葉の意味が理解できず、飲みかけの紅茶を握ったまま、きょとんとする。そして私の視線の先を辿り、一気に顔を赤くした。
「ば、ばかぁっ! ばかばかばか、せんせぇのばか!」
「冗談だよ」
「冗談でも、言って良いことと悪いことがあるんです!」
 ぷりぷりと怒る結子に説教をされる。生徒に教師が説教されている光景が凄く滑稽で、つい笑ってしまった。
 結子は私が笑ったことに対して、更に怒りの声を上げるのだった。

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初出:2016年5月12日(pixiv) 掲載:2022年7月30日

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成人済の時々物書きです。 スカ、女攻め萌え。BLよりはNLやGLが好きです。
18歳以上ですか? ここから先は、成人向けの特殊な趣向の小説(女の子、男の子のおもらし等)を掲載しています。