約束だから

※大スカあります

 転がりこむようにエレベーターに乗り込み、見慣れた数字を押した後に間髪をいれず閉を押す。点滅する回数表示を穴が開くほど見つめたのは初めてかもしれない。エレベーターの速度はいつもと変わらないはずなのに、今日は壊れているのではないかというほど遅く感じる。壊れているのはきっと俺の感覚の方だ。
 左手で鞄を握り締め、右手は皺を作るのではないかというほどスーツの裾を力強く握り締める。ぐるぐると鳴っていた腹に強い腹圧を感じ、体温が一気に下がる。反射的に右手で出口を外側から強く押さえつけた。人目が無い場所でよかった。
「あっ……だめ……、だめ……。ふっ、あぁっ……」
 はっはっ、と荒い息を繰り返し、体の中の衝動を抑えようとするけれど、それは殆ど無意味で、内側の圧力はぐいぐいと塊を出口へ押しやってくる。ここ数日の間、腹の中に溜め込まれた塊は出口を求めて繰り返し繰り返し暴れたが、こんなに強い衝動は初めてだった。これ以上は溜め込めないという体のサインなのかもしれない。
 右手での押さえも空しく、出口はぱく、ぱくと収縮を繰り返し、その度に空気が漏れ出す。狭い個室に酷い臭気が漂う。この腹の中にはこの臭気を凝縮した酷い塊が詰まっているのだ。それは、こんなところでぶちまけて良いものではない。これをぶちまけるのは、あの人の前だけ。あの人に許しを貰わない限り、出してはいけない。だって約束だから。
 出口付近まで降りてきた塊が出口を圧迫する。苦しみで視界が歪んだ。大きな塊がじわじわと降りてきて、出口をゆっくりを押し広げていくのを感じた。我慢しようと右手で力いっぱい押さえつけているのに、肛門は徐々に押し広げられていく。
「だめ……、だめっ、あぁぁ……!」
 膝ががくがくと振るえ、思わず扉の前でしゃがみ込んだ。左足の踵でぐりぐりと出口を圧迫して塊を押し返す。ぷっ、ぶうぅっ、と短い屁が漏れ続ける。頭の中に過ぎった限界という言葉。嫌だ、嫌だ、漏れる、漏れる、……漏らしたくない! 歪んだ視界から溜まった涙が一筋流れた。

 ちん、と軽い音が鳴って、薄暗かった個室に光が差し込んだ。反射的に見上げた回数表示は俺が押したボタンと同じ。それを理解するのとほぼ同時に、俺は右手で尻を押さえたまま駆け出した。誰が見ても便意を我慢している、というよりは漏らす寸前とわかるような格好。今の今までは恥ずかしくて絶対にしないようにしていたのに、もう周りの目を気にする余裕もなかった。
 扉を一つ、二つ、三つ通り過ぎて、階段を通り過ぎて、その次の扉に手を掛ける。無用心にも鍵は掛かっていなかったが、それはきっとあの人の配慮なのだろう。あの人はきっと俺がこんな状態で帰ってくることを予測しているはずだから。

 勢いよく扉を引き、体を滑り込ませた。勢いのまま閉まった扉は予想以上に大きな音を立てたが、それどころではなかった。ぶっ、ぶっ、ぶぶっ、と屁の漏れる感覚が短くなる。もう本当に限界だった。ぐいぐいと圧迫する塊は右手で外から押さえつけているにも関わらず、肛門をじわじわと押し広げていく。思わず鞄を投げ捨てて、両手で肛門を押さえつける。
 足だけで革靴を脱ぎ捨てて、腰が引けた体制で廊下を真っ直ぐ進み、正面の扉を開いた。見慣れたリビングのソファに座ったその人は、読んでいた本をテーブルにおいてこちらを向く。
「お帰り、お仕事お疲れ様」
 涙で歪んだ視界に彼女の姿が浮かぶ。全てを見透かした視線を感じた瞬間、ぞくぞくと体に何かが走った。やっと、やっとたどり着いた。これで約束を守ることが出来る。
 待ち望んだ彼女の姿に体から一瞬力が抜ける。その隙を見逃すはずがなく、熱く硬い便塊は緩んだ出口からずるりと顔を出してしまった。
「あっ……、ああっ、で、出る……、出ちゃう、もっ、お願い……、我慢できなっ……」
 口から飛び出したのは、ただいまの挨拶ではなく限界を訴えかける言葉。我慢に我慢を重ねた塊はぐるぐると音を立てながら、既にゆっくりと出口から顔を出し始めている。もう、もう本当に限界だった。
「もう限界?」
「限界……! も、出……あ、だめ……、あぁあっ……!」
 ぶっ、と大きな音を立てて屁が漏れ出る。背中に悪寒が走り、がくっと膝が折れた。エレベーターでしていたように踵でぐりぐりと肛門を圧迫して、塊を押し戻す。はっ、はっと短く荒い息を繰り返しながら。体を丸めてぐるぐると疼き蠢く腹を両手で抱えた。
 しゃがみ込んだ俺に影がかかる。顔を上げると、先程までソファに座っていた彼女が子供と視線を合わせるように俺の前にしゃがみ込んでいた。
「冬ちゃんっ……」
 助けを求めて搾り出した声は泣き出す前のように震えた。もう本当に泣き出しそうだったし、泣き出したかった。子供のように泣きじゃくって、もう我慢できないと駄々を捏ねて、心も体もこの場で楽になってしまいたい。
 白い手が俺の方に伸びてきて、頭を優しく撫ぜてくれた。
「トイレ行こうか。もうちょっと頑張ってね」
 頭を撫ぜていた手が背中に添えられて、促されるがまま立ち上がる。踵が離れた瞬間、ぐぐぐ、と肛門が開き、塊が更に顔を出してくる。両手で肛門を押さえつけるが、もう本当に我慢の限界だった。
「ん……あっ、はぁっ……、あぁっ……!」
 リビングを出て、先程必死な思いで歩いた廊下を逆向きに歩く。引きずるような足取りとは裏腹に、肛門はぱくぱくと大きく収縮を繰り返し、塊を吐き出し始めた。硬く大きな塊が直腸を通り抜ける感触に、思わず声が漏れる。
 にち、にち、と嫌な音が耳に届く。彼女にも聞こえているのだろうか。
 彼女に体を支えられながら、肛門から大便をゆるゆると垂れ流しながら、普段生活している空間を歩くなんて。消えてしまいたい程の羞恥を感じているはずなのに、今頭の中にあるのは腹に溜まった塊を吐き出したいという欲求だけだった。

 玄関の直前、廊下を挟んで二枚の扉。左側が風呂場、右側がトイレ。二枚の扉に挟まれて、俺は足を止める。右側の扉に手を伸ばしたところで、もう俺の我慢は限界だった。ずっと頭を過ぎっていた限界という言葉がくっきりと色付いてしまったのを感じた。
「あぁっ……、あ、あっ……、あぁ、もっ……、だめ……っ……!」
 必死に必死に押しとどめていた塊がとうとう溢れ出た。肛門を通り過ぎる熱い塊は長い時間溜め込まれたせいか水分を失い、ごつごつとした硬さを持っていた。そのせいで、便塊が校門を通り過ぎる感覚をはっきりと感じてしまう。その感触に背中に続々とした悪寒が走る。
 硬い塊はずるずると長さを伸ばし、とぐろを巻いて下着の中にどさっと落ちる。下着の異物感に不快を覚える間もなく、次の便塊が排出された。

 ずるずると長い塊を立て続けに二つ吐き出したところで、俺の排泄はやっと治まった。
 彼女に背中を支えられて立ち尽くしたまま、俺は数日間溜め込まれたものを排泄してしまった。涙でぼやけていた視界がはっきりとする。俺の目がぼんやりと眺めていたのは、待ち望んでいたはずのトイレの扉だった。後もう少しだったのに。ほんの数歩歩いただけで俺はこんな罪悪感もなく、溜め込んだものを勢いよく排泄できたはずなのに。排泄の快感に素直に酔うことが出来たはずなのに。
「漏らしちゃったね。悪い子だなあ」
「あっ、ああ……、ごめんっ、ごめんなさいっ……」
 彼女はトイレの向かい側、脱衣所の扉を開ける。尻に感じる異物感にどうしたらいいのかわからずに立ち尽くす俺の手を引いて、彼女は俺を脱衣所に連れて行った。足を踏み出す度、硬い便塊が形を崩して肌に擦れ付着するのが気持ち悪い。早く脱ぎたくて仕方なかった。
 彼女が脱衣所の床の一部に新聞紙を広げていく。その間に俺はスーツの上着を脱いで、ワイシャツのボタンを外して上半身裸になった。
「脱がして欲しい?」
 言葉もなく頷き、気持ち悪さに耐えながら新聞紙の上に立つ。彼女は慣れた手つきで俺のベルトを外して、スーツのズボンを下ろしてくれた。便塊をいくつも溜め込んだ下着が外気に晒され、凝縮された臭気にむせ返りそうになりながら、スーツのズボンから足を片方ずつ抜いた。
「いっぱい出たね」
 彼女は子供に話しかけるように俺に言う。普段なら惨めに感じられるような扱いも、今の俺には羞恥によってついた傷跡を埋めてくれるように感じられて非常に心地よかった。もっともっと言って欲しい。幼子が失敗したときのように叱られて、世話をされて、甘やかされたい。
 彼女の手で下着をゆっくりと下ろされる。尻に張り付いた便がぼろぼろと新聞紙に落ちた。下着の中は数日間腹に溜め込まれていた便がたっぷりと溜まっていた。あの一瞬で吐き出されたとは思えないほどの量。あと少し我慢できていれば、これはトイレの便器の中に吐き出していたはずなのに。

 下着から完全に足を抜いて全裸になった途端、俺の腹は再びぐるぐると唸り始めた。よく考えれば数日溜め込んだものがこんな物で終わるはずがない。むしろ俺が先程耐え切れずに吐き出したのは大量の便塊を抑えていた栓のようなものだったのだろう。漏らしてしまったときとよく似た強さの便意に、俺は片手を腹に添えた。
「まだ出そう?」
 俺が訴えるよりも早く、彼女は俺の様子に気付いたようだった。必死に頷く俺の様子に慌てることもなく、彼女は落ち着いた様子で風呂場に向かった。ぶっ、ぶぶっ、と繰り返しへが漏れ、その度にまた塊が押し寄せてくる。急激な便意に思わず新聞紙の上にしゃがみ込んでしまう。向かいのトイレに駆け込みたいのに、足を踏み出した瞬間にまた便塊を漏らしてしまいそうで動くことが出来ない。
「ふ、冬ちゃんっ……」
 助けを求めるように彼女の名前を呼ぶ。いっぱいいっぱいの俺とは裏腹に、彼女は落ち着いた様子で新聞紙をかぶせた洗面器を持ってきて、俺の傍に置いてくれた。何とかその洗面器を自分の尻の下に持ってきて、彼女の顔を覗き見た。
 彼女は俺の向かいにしゃがみ込んで、そっと俺の背に手を回す。背中をぽんぽんと叩く掌が心地良い。もっとその体温を感じたくて、俺は彼女の肩に顔を埋めて小さな暖かい体を抱きしめた。
「よく頑張ったね。苦しかった?」
 言葉もなく、ただただ頷く。何とか我慢しようとしていた俺の意思に反して、肛門が腹に溜まった便塊を吐き出そうと大きく収縮を繰り返していた。
「我慢できない……、でる……も、でちゃう……」
「良いよ。全部出して良いよ」
 彼女の言葉を聞いた瞬間、体の力が一気に抜けた。ぶうぅぅぅ……!と大きな屁の音と共に、溜め込んだ便塊が洗面器に向かって一気に噴射された。先程下着に出してしまった硬いものとは違い、今度は柔らかくて先程より勢いよく吐き出されていく。
「いっぱい我慢してたんだね。凄いいっぱい出てる」
 全裸で、女の子に抱きしめられながら、トイレでもない場所で洗面器に排泄する男。はたから見るとどれだけ滑稽な姿なのだろうか。でも、そんなのどうだって良かった。彼女にならどんな姿だって見せられるし、彼女ならどんな姿でも受け止めてくれるから。
「ああ……、ふ、あっ、あああっ……っ……」
 大きな屁と共に一気に吐き出され、洗面器にべちゃりと音を立てて落ちた。一息つく間もなく、続けてまた柔らかい便が肛門を通り抜けていく。排泄がこんなに気持ち良いと思ったのは初めてかもしれない。
 腹の中の全てを吐き出し、はあはあと荒い息を繰り返す。力が抜けた俺の股間から今度は水音がした。垂れ下がった自身からしゅうしゅうと細い音を立てて、今度は小便が漏れ出した。意識した瞬間、細い水流は勢いを増してジョロジョロと大きな音と共に洗面器に落ちていく。小便を我慢していたつもりはなかったのに、放尿は随分長い間続いた。
「全部出た?」
 彼女の言葉に言葉もなく頷いて、尻の下の洗面器に目をやる。並々と溜まった小便の中に図太い便塊がいくつも横たわっている。あと少しで洗面器から溢れてしまうのではないかというほどの量。これが俺の腹に全て溜め込まれていたのだ。
「いっぱい出たね。気持ちよかった?」
 返事の変わりに彼女の肩にぐりぐりと額を押し付けると、彼女はくすりと笑いながら頭を優しく撫ぜてくれた。

 脱衣所の片付けを終えて、俺と彼女はそのまま風呂に入った。湯船で疲れた体を温めていると、俺に抱きしめられている彼女が突然くすくすと笑った。
「律儀だよね。駅なりどこかでトイレに寄ったら良かったのに」
「だって、約束だから」
「トイレを通り過ぎてわざわざリビングに来て、リビングからトイレに戻る最中にお漏らししちゃうんだもん。本当に律儀」
「『私が許可するまでうんちしちゃだめ』って言ったの誰だよ。……でもさ、次は交代だからね」
「そうだね」
「どうしようか。冬ちゃんもうんち我慢する?」
「我慢できなくてお漏らししても嫌わない?」
「冬ちゃんがお漏らししたら、服を脱がせて抱きしめてあげる。我慢できなかったねっていっぱい甘やかしてあげる」
「じゃあ、ちゃんとトイレまで我慢できたらいっぱい褒めてね。抱きしめて、頭撫ぜて、良い子だねって言ってね」
 それじゃあどっちでも同じじゃないか。そう言うと彼女はまた笑った。

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初出:2013年7月22日(pixiv) 掲載:2022年7月30日

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成人済の時々物書きです。 スカ、女攻め萌え。BLよりはNLやGLが好きです。
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